ストライク・ザ・ブラッド~魔界城の主~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
05:《番外真祖》の事件捜査
古城たちが学校に行った後。午前十時当たり。
先日までのやけに活性化した太陽はなりを潜め、今日の太陽は正常運転である。心地よい暖かさが《魔族特区》、絃神島を照らしている。魔城がやってきていたのは、昨夜爆破テロがあったという廃棄地区の工場だった。
「うわぁ……これは確かに騒ぎになるよね……」
工場は見るも無残に焼け焦げていた。骨組みが融解し、魔術強化されているはずの工場の壁は粉々になっていた。普通の人間には到底不可能だと思われるほどの破壊っぷりである。
「ふむ……吸血鬼の眷獣……?」
魔城は工場の残骸に手を当てて、その崩壊具合を確かめる。触れた瞬間に、ぼろり、と工場の壁は砕けてしまった。
「いや……違うか?」
「何だお前は!」
すると、いつの間にか魔城を取り囲んでいた人間たちが、銃を構えて迫ってきた。対魔族装備で身を固めた彼らは、人工島を守る特区警備隊だ。絃神島は魔族の存在が許される魔族特区。当然、魔導犯罪も起きやすい。それらを対策するために配備された警備兵が、彼ら特区警備隊なのだ。
もっとも、魔導重犯罪の類は獅子王機関が対応するので、彼らが警備するのは不審な侵入者や軽度の魔導犯罪、犯人の捕縛などだが……。
そして彼らの基準に照らしてみると、魔城は間違いなく「侵入者」だ。爆破テロが起こったと思しき場所にのこのことやってきて、現場を荒らす存在。おまけに右手には銀色のリング……つまりは《登録魔族》ときた。事件の関係性を疑われても問題なほど、十分に怪しい。
六人で構成された特区警備隊の小隊。その中の隊長と思われる男が口を開く。
「お前……何者だ!!何をしに来た!!」
「うわわ、違いますよ。犯人とかじゃないですって……あーもう、また借りができてしまうじゃないか……」
銃を構えて迫る特区警備隊。いつ撃たれてもおかしくない状態を打破するために、魔城は出来れば使いたくなかった手を使う。
ローブ風のコートのポケットから、一個の手帳を取り出す。青と黒、そして銀の三色で装飾されたそれは、警察手帳にもよく似たものだった。
「アルディギア王国王女、ラ・フォリア・リハヴァイン直轄の魔族の者です。氏名は暁魔城。種族は吸血鬼です。王女の勅令で事件を捜査しにきました。……お忍びのつもりだったので、公表とかはされてませんけどね」
魔城が提出したのは、「もしものときのために」とラ・フォリアに渡されていた、いわば《通行手形》である。この手帳と、「王女勅令」「お忍びのつもりだったので公表はされていない」のワードの三つがあれば、大体の場所は通してくれるし、こういった現場に悠々と入ることも可能である。ちなみにラ・フォリアに直々に問うなどといったことは恐らくできないが、それをしてもラ・フォリアは「魔城の言ったことは真実です」と言ってくれるに違いない。否、一度そう言うことがあったか……あれはいつだったか……。ちなみにデータベースなどを調べればわかるが、きちんと魔城の身分は『アルディギア王女直轄管理対象魔族』となっている。
だがしかし、この手はラ・フォリアに相当大きな借りを作ることになってしまう。返済するのが非常に難しいので、できれば使いたくなかった、いわば『禁じ手』なわけだが、背に腹は代えられない。
とりあえず効果はてきめんだったようだ。小隊長があわてた様に部下に確認をとる。
「な……あ、アルディギアの……!?おい、調べろ!」
「ら、了解!!」
あわてて隊員の一人が人工島管理公社に連絡を取る。数度の応答のあと、ひきつった表情をとる。隊員はそのひきつった表情のまま、隊長に報告。そして伝染したかのように隊長の表情もひきつる。
「し、失礼いたしました!!お入りください!!」
直後、打って変わって直立不動の姿勢で、小隊長が魔城の操作介入の許可を出す。「ありがとうございます」と笑顔で謝礼をしておきながら、魔城は心の中で呟いた。
――――何があったし、と。
「あれはラ・フォリアがなにか仕組んだな……」
もしかしたら魔城の登録情報に何か変更を加えたのかもしれない。特区警備隊の急変はそのせいだとしか思えない。そうでもなければ、王女直轄管理の魔族でしかない魔城があれほど急激な対応の変化を受けるわけがないのだ。
まぁ、ラ・フォリアの直轄管理魔族なんていうのは魔城しかいないし、そもそも直轄管理魔族なんていう存在自体恐らく全世界で魔城しかいない。あれはラ・フォリアが半ば無理やり作った称号だからだ。あの腹黒王女は、国家のことを考えているのか自分のことしか考えていないのかよくわからない行動をたまにとる。
「……確実にこれだけは彼女の我儘だけどね」
そうでなければ、別に国家の利益になるわけでもないこの称号をわざわざ魔城に送る必要性がない。魔城は、表向きには何の特徴も無いただの吸血鬼でしかないのだ。
兎にも角にも、ラ・フォリアのおかげで工場の捜査を行えるようになった。
魔城がこういったテロ系の犯罪に敏感なのは、アルディギアにいたころに何度か国家テロと争ったことがあるからだ。先日、日本に発つ前に空港で戦りあった《アルディギア解放軍》もテロ組織だ。あそこで打ち合わなくても、いつかは魔城と激突しただろう。
とりあえず、今は今回の爆発テロを捜査することが先決だ。
「ふむ……」
工場の中も、真っ黒に焦げていた。備品の多くが炭化し、原形をとどめていない。
ガチャリ、という音に振り向いてみると、先ほどの特区警備隊の小隊がいた。
「も、申し訳ありません。邪魔をしてしまったようです」
「いえ、大丈夫ですよ」
かしこまった様子で謝罪する小隊長。やはり違和感がある。それを笑顔で受け流して、魔城は彼らに質問をする。
「それより、皆さんはどう思っています?この事件。誰の犯行だと思っていますか?」
「は……?……我々はどこかのテロ組織による……」
「そうではありません。犯行を行った存在の種族です」
「種族ですか……」
小隊長は考え込むそぶりを見せ、数秒後、「吸血鬼ではないでしょうか」と答えた。
「これほどの大破壊をもたらすのですから、吸血鬼の眷獣あたりの仕業ではないかと……」
「なるほど……もしかしたら公社も同じ考えで?」
「は、はい、恐らくは」
「なるほど……」
再び頷き、魔城は周囲を見渡す。仕方がない。確かめるにはこの方法しかないだろう。
「え~っと、皆さん、少し下がっていてくれますか?」
「はい?り、了解しました……」
「おい、下がれ!」という小隊長の命令に従い、特区警備隊の小隊があわてて工場から出ていく。
「下手をすれば巻き込まれて吹き飛んでしまいますからね……『そびえたて、《九曜の世界樹》』」
瞬間――――周囲を、衝撃波が襲う。炭化した備品の一部がはじけ飛び、完全にその姿を消し去る。びりびりと大気が震える。そうして現れたのは――――
一本の、巨大な樹だった。その大きさは三メートルを優に超す。工場の天井から、その先端が見えてしまっているほどだ。驚くべきは、これが最大限にセーブした姿だという事だ。魔城が覚えている限りで、完全に解放したことは二回ほどしかないが、その時は優に一万メートルを超える巨大な樹木になったことを覚えている。
この眷獣の名は《九曜の世界樹》。暁魔城が保有する三体の眷獣のうちの一体にして、最重要の眷獣であった。この巨大なトネリコの木は、魔城の能力を決定づけていると言っても過言ではない存在なのだ。
だが、今魔城がこの眷獣を召喚したのは別にその真の能力を発揮させようと思っているからではない。
魔城は目を閉じる。風が《ユグドラシル》の葉を撫で、さわさわと涼やかな音がする。魔城は、《ユグドラシル》の心を読む。
そして――――
「公社にはこうお伝えください」
「は……?」
工場の入り口付近まで戻ってきていた小隊長に、魔城はそう告げる。
「これは吸血鬼の眷獣による犯行ではありません。別の存在……恐らくは人間が、小型核爆弾を暴発させて起こした事件です」
「な、なぜそんなことが……?」
「放射物質ですよ。僕の眷獣は大気に含まれた物質を調べることができます。植物ですから。で、それによると、この周辺だけは非常に放射能が濃い。吸血鬼の眷獣による爆発攻撃では放射線は出ません。ですから、人間、もしくは眷獣をもたない魔族の犯行とみてよいでしょう。まぁ……僕の直観が正しければ、多分人間ですけどね……」
そう言って、魔城は再び考え込むそぶりを見せる。
魔城には覚えがあった。かつて、同じような手を使って犯罪テロを引き起こした一団がいたことを。彼らの名は、そう、たしか――――
「――――《人類至上主義教団》……まだ活動していましたか」
魔城がそう呟いたその直後―――――
ドォン、と、彼方で爆発音が轟いた。
後書き
頑張りました;残念ながら文字数は少ないですけどね……。
ちなみに魔城が眷獣を使ってもリングが反応しなかったのは、これがただのアクセサリ的な状態になり下がっているからです。ほとんど意味はありません。
次の更新はまた遅くなると思います。それでは。
ページ上へ戻る