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宝物

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第三章


第三章

「その漫画だけれどね」
「そういえばどうなるのかしら」
 図書館を閉鎖するからだ。それでは残った漫画はどうなるか。問題はそれであった。
「漫画は。どうなるの?」
「譲ってくれるらしいよ」
 真次の目がさらに輝いた。
「漫画を好きな人にね」
「漫画を好きな人に」
「ほら、連絡先」
 ここでニュースに連絡先が出た。住所に電話番号、郵便番号までしっかりと出ている。そうして彼はそれをメモに書いているのだった。
「見てよ」
「それであんたその漫画を欲しいのね」
「そうだよ。譲ってくれるんだよ」
 また言う真次だった。
「だったらね。是非共」
「駄目よ」
 ところがお母さんはここで厳しい声を息子にかけたのだった。
「それは駄目よ」
「駄目って?」
「その漫画ってどういうものかわかってるの?」
 見れば表情も厳しいものになっていた。その厳しい顔で彼に言うのである。
「漫画は」
「だから。漫画でしょ?」
「ただの漫画じゃないのよ」
 今度はこう息子に告げた。
「それはね」
「ただの漫画じゃないって?」
「だから。この人が大切に集めた漫画よ」
 丁度テレビにその図書館の主のその人が出て来ていた。見ればその顔は本当に無念そうである。本当は図書館を閉じたくなかったのがよくわかる。
「その漫画を。捨てられるの?」
「捨てられるって」
「あんたいつも漫画を捨ててるわね」
 このことも真次に言った。
「いつも。今度もそうするのよね」
「多分」
 こう答えた真次だった。
「だって。いつもそうしてるから」
「だったら余計に駄目よ。あんたは今あの人から漫画を譲り受けてはいけないわ」
「どうしても?」
「そう、どうしてもよ」
 その言葉は全く動くところがなかった。
「あの人が大切に思っていた。宝物だから」
「宝物・・・・・・」
「宝物を捨てられて笑顔になる人がいるかしら」
 お母さんの言葉は続く。
「そうでしょ?わかったら」
「駄目なんだ」
「何があってもね」
「そうか。宝物なんだ」
 真次はここで遂にわかったのだった。今テレビで苦渋の顔をしているこの人は漫画を宝物として大切にしていた。けれどその宝物を手放さなくてはいけない。その辛く悲しい気持ちを理解したのだ。そうしてその気持ちがわかった彼は。メモを手にして破り捨てたのだった。
「じゃあ。僕が持ったら駄目だよね」
「そうよ。それはね」
「わかったよ。電話も何もしないよ」
「ええ。そうしなさい」
「宝物は大事にしないといけないんだ」
 そのことを心の中でも咀嚼する。
「そうだね」
 今そのことがわかってきたのだった。全部わかったわけではないけれど。それでも少しでもわかった。真次は一つ成長したのだった。
「じゃあ。漫画を少しは大事にできるわね」
「うん。これからはね」
 微笑んでお母さんの言葉に頷いた。彼にとってはずっと心に残ったことであった。ずっとずっと。


宝物   完


                 2009・1・5
 
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