鬼灯の冷徹―地獄で内定いただきました。―
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弐_ここは、地獄
四話
極まれに起こること、鬼灯の言ったことにミヤコは驚いていた。
まさか自分が、そんなことに巻き込まれたなんて。
「まあ、要するにですね」
鬼灯は巻物を元通りに直し、他にも同じような巻物たちが積まれている箱に戻しながら言った。
「あなた、完全には死んでいないということです」
「・・・・・・は?」
もはやこの状況、喜んでいいのかどうかもわからない。
完全に死んでいないといっても、何故か自分は地獄にいるし、こんな鬼たちと話しているし、庭には変な金魚もいるし。
「いわゆる臨死状態です。現世ではあなたは恐らく、まだ生きている。辛うじてではありますが」
「い、生きてる?」
「ええ。ちなみにここにくるきっかけとなった出来事は覚えていますか?」
「えっと、車に撥ねられて」
鬼灯は「なるほど」と呟くと、斜め上の方向を見て何かを考えているようだった。
唐瓜と茄子も黙ってそれを見ている。
ミヤコは戸惑いを隠せなかった。しかし、とにかく自分は生きている。
ということは、また普段通りの日常生活に戻れるはずだ。
「ではきっと、あなたは今頃、病院にでもいるのでしょう。意識はないですが」
「じゃあ、わたしがここから離れれば、その、意識も戻って生き返るってこと?」
「簡単に言いますが、そんな単純なものではないですよ。ただ意識がないだけではなく、半分は死んでいる状態なのです。よく現世のテレビ番組で、死後の世界を見て戻ってきた人、なんて特集を見たりしますが、あんなの奇跡の中の奇跡。まさにアンビリバボーです」
「奇跡の中の奇跡?」
「ええ。そもそも現世から地獄へ来るルートは確率されていますが、地獄から現世へ戻るルートなんて存在しないに等しい。我々のような鬼や、または精霊、神獣専用に現世へ通じる道はありますが、そこを人間が通って行くのは今のところ不可能です」
「そんなんやったら、その奇跡を起こしてアンビリバボーな人らはどうやって生き返ったんよ」
そんな滅多にない体験をしているなら、自分だってその奇跡の一人になれるかも。
ミヤコはそう考えた。
ここまで来てしまって悪あがきをしているようにも思えたが、まだ生きているらしいし、生き返る可能性があるのなら、そりゃあ死にたくはない。
「その奇跡体験をした人たちは、ある意味で猛者ばかりでしたね」
「猛者?」
「三途の川に飛び込んで、運よく渡り切ることができれば、生き返ることができます。しかし、あそこの川にもいろいろといますからね。生身の人間には普通なら無理です」
「そ、そんなん、わたしほんまに死ぬしかないってこと?」
「現世でのあなたの回復次第でしょう。傷も癒えれば、自然と戻ることができます」
「時間に任せるしかないってことですか?」
唐瓜が心配そうに言った。鬼灯は小さく頷く。
「ただ、自分から無理に戻るのは不可能に近いというだけです。どれほどの怪我をしたのかはわかりませんが、今ここにいるあなたがこれほど元気なら、大丈夫でしょう」
鬼灯はミヤコを見下ろすと、無表情にそう言った。
相変わらず、ニコリともしないし視線は鋭いが、ただ単に冷たい人という訳でもなさそうだ。
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