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大義

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第二章


第二章

「そうしてどれだけの人を巻き込みやがるんだ」
 そんなことを二人で言っていた。すると部屋に彼等と同じく赤い肌をした若い男が部屋に入って来て二人に対して言うのだった。
「アンボン刑事」
「ああ」
 まずはその白髪の男が応えた。
「マナド刑事」
「どうした?」
 続いて皺の深い男が。これが二人の名前と職業らしい。
「署長が御呼びです」
「署長がか」
「はい、すぐに来て欲しいとのことです」
 若いその男はこうも二人に告げた。
「ですから。是非」
「ああ、わかったさ」
「今すぐ行くさ」
 二人はすぐに応えて部屋を出た。そうしてやや薄く風に揺れている窓のある廊下を進み署長室に入った。署長はその部屋の席に座り二人を待っているのだった。
 その二人が部屋に入るとすぐに。その黒々とした髪に恰幅のいい顔を二人に向けて言ってきた。
「よく来てくれたな」
「はい」
 二人はすぐに署長に対して敬礼をして応えすぐに名乗ってきた。
「アンボン、只今参りました」
「同じくマナド、こちらに」
「堅苦しい挨拶はいいさ」
 署長は二人のその生真面目な敬礼に対して鷹揚に返した。署長室は彼の席から見て左手に様々な記念品や何かの謝礼の文が飾られており右手には国旗がある。国旗は赤と白の奇麗な国旗である。
「今はな」
「左様ですか」
「うん。ところでニュースは聞いているな」
「あの事件ですか」
「そう、あの事件だ」
 署長はアンボンの言葉に応えてここで顔を険しく鋭いものにさせてきた。
「十人が死んだ」
「その中にはまだ小さな子供も」
「ですね」
 二人は署長の言葉に続けてきた。
「その通りだ。その子供だけでなく多くの市民達が犠牲になった」
「その通りです」
「それは」
「そしてだ」
 ここで署長は声もまた鋭いものにさせてきた。忌々しげなものを含みながら。
「これはまだ未確認の情報ですが」
「再度テロを行うというのですか」
「その通りだ」
 署長はマナドの問いに対して答えた。
「またな。しかも場所はここだ」
「ここ!?」
「そう、ここだ」
 その鋭い声で言ったのであった。
「我が国屈指の観光地であるこの島でな。テロを行おうと計画しているらしい」
「そうですか。ここでですか」
「テロリストの立場になって考えてみれば当然のことだな」
 署長は目までもが鋭くなっていた。
「ここでテロを行うのはな。格好の宣伝材料になる」
「そして国家の観光による収入を減らすこともできる」
 そうした狙いもあるのであった。
「それもですね」
「そうなれば我が国にとって大きな打撃だ」
 署長は言った。誰も危険な観光地に行ったりはしない。それだけ国家としては収入が減るしまた国際的な信頼も落ちる。テロリストの暗躍を許したとしてだ。狙われる方にとってはたまったものではないが狙う方にとっては格好の攻撃目標である。しかしであった。
「そしてまた多くの市民が犠牲になる」
 署長が最も言いたいのはこのことだった。
「またな」
「大義によりですか」
 アンボンの言葉はここではかなりシニカルなものになった。これは彼がマナドと一緒に観ていたテレビでのテロリストの声明を受けての言葉である。
「また多くの罪のない市民が」
「大義の前の些細な犠牲らしいな」
 署長もまたあえてシニカルに述べた。
「それはな」
「つまり連中にとっては市民の命なぞどうでもいいということなのですね」
「はっきり言ってしまえばそうだ」
 署長は今度はマナドの問いに答えた。
「そんなものより彼等の大義だ」
「面白い話ですな」
 マナドもまたシニカルになっていた。だがそのシニカルはアンボンや署長のそれと同じくテロリストに対する嫌悪と憎悪に満ちたものであった。
「それ程市民のことを顧みない連中が政権に就けばどういった政府になるか。見ものです」
「テロリストは政権に就けはしないさ」
 署長は吐き捨てるようにして述べた。
「決してな」
「決してですか」
「何故ならここに君達がいるからだ」
 ここで署長はあらためて二人を見た。
「君達がな」
「我々がですか」
「そう。何故君達をここに呼んだか」
 二人を見ながら言葉を続ける。
「それはな」
「そのテロを防げと仰るのですね」
「それだけではない」
 二人の問いにも答えたのだった。
「彼等は既にこの島に潜伏している」
「既にですか」
「一人残らず逮捕してくれ」
 言葉は厳格極まるものになっていた。
 
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