少年と女神の物語
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第四十四話
三輪山にて、一柱の神が歩いていた。
その神は神獣を召喚し、山の中をくまなくまわり、誰かを捜しているようだった。
「ここにもいないか・・・我が友は」
だが、目的の者は見つからなかったようで、落胆しながらも、まだ望みをかけて捜し続ける。
◇◆◇◆◇
「はぁ・・・何で俺、一日で五十三もの山を登ってるんでしょうか・・・」
「それしか方法がないからですよ。それに、この情報は意外と信憑性が高いですし」
そう、今回の三輪山の情報は、かなり信憑性が高い。
近くに来た巫女が、少しばかり霊視したとか。
「船に乗って渡来した神、か。日本だけでもかなりの量がいますよね」
「はい、いますね。ですが、どんな神かは分からずとも、そこにいる、と言うことは分かりました」
「ですね。最悪、戦ってみればいつかは分かるでしょうし」
相手のことを何にも知らずに戦うなど愚の骨頂、そう考える人もいるかもしれないが、俺たちが戦うのは神。
前もって立てた作戦など、あってないようなものだ。むしろ、その時の勘に任せて戦うのが一番だったりもする。
「・・・梅先輩、俺の後ろに」
「・・・はい」
と、そこで俺の体に変化が生じた。
体が万全の状態になり、高ぶる。もう何度も感じてきた感覚だ。
「・・・ほう、この国の神殺しか」
「ああ。アンタは?」
「名乗る義理はあるまいて。それに、今は汝と戦うつもりはない」
遭遇した神は、俺を見てそんなことを言ってきた。
着物を着たその姿は凛々しくもあるのだが、着物そのものからは禍々しさを感じる。それに、背後には昆虫を模した神獣が。
「俺と戦うつもりがない?あんた、まつろわぬ神のくせに何言ってんだよ」
「確かに、我が身は汝との戦いを欲している。それでも、今はせねばならぬことがあるのだ。・・・それに、わが身も万全なものとしたい」
俺が警戒していると、その神は俺の目の前で船を呼び出し、それにのってどこかへと飛んでいった。
「変な神だな・・・何かを探してる、ってことか」
俺は神獣に雷をぶつけながら、そうつぶやいた。
「そのようですね。恐らくは、それが目当てで山を訪れていたのでしょう」
「ってことは、これまでに訪れた山は、あいつの正体と直接の関係はない、と考えるべきか」
結局、情報が減ったなぁ・・・
「恐らく確実だと考えていいものは、船に乗って渡来する神であることと、シヴァとの関わりのある神であることですね」
「ついでに、あの見た目なら日本の神だって考えてもいいでしょう」
と言っても、日本で船に乗ってくる神なんて、かなりの数がいる。
まだまだ、情報が足りない。
「それと、先ほどの発現から考えると向こうも武双君との戦いの準備をしてくると考えていいでしょう」
「となると、これから訪れるところはアイツにとっての土地だったり、アイツが探してるやつの土地だったりするわけですか・・・」
情報の選別が面倒くさそうだなぁ・・・
「はぁ・・・どうしますか、梅先輩?そう考えると、またどこかに行くでしょうし、何より日本全体に出没しかねませんが」
「そうなったらそうなったです。委員会には何があっても対応できるように言っておきますよ」
「よろしくお願いします」
一応、いつでも対応できるようにしてもらっておいた方がいいだろう。
日本に護堂がいるならともかく、アイツは今ミラノだし。まあ、俺の獲物をくれてやるつもりなんて毛頭ないけど。
「・・・武双君、今連絡ついでに情報が入りました。聞きますか?」
「聞きましょう」
また、早い段階で情報が入ったなぁ・・・
「大阪から人を強制的に避難させておいて正解でしたよ、全く」
「そんなことしてたんですか・・・」
結構な大都市のはずなんだけどなぁ・・・大阪。
「で、入った情報なのですが、道頓堀川で神獣が・・・鬼が現れたそうです」
「鬼、ですか・・・」
また、新しい情報だな・・・鬼、か。
「これで向こうが召喚した神獣は、鳥獣、昆虫、そして鬼ですね」
「はい・・・恐らくですが、あの昆虫は蛾と見て言いと思いますよ」
「蛾、ですか・・・」
と言っても、これでどこまで絞れるのかは分からないけど・・・
◇◆◇◆◇
「・・・ねえ、梅先輩。こんなに鬼がいるなんて聞いてないんですけど」
「私も聞いていませんよ」
そこでは、鬼が川にいた。
いや、そんな表現はおかしいか・・・鬼が、川辺を埋め尽くしていた。
川が何か特別なのかと思って見てみても、特に特別なところはない。
ゴミを誰かが流したのか、箸とか缶とかペットボトルとかお椀とかプリントとかetcetc・・・。川の汚染が進んでるって、本当なんだなぁ・・・
「・・・とりあえず、こっちを睨んできていますけど・・・」
「そうですね・・・この量を相手にするとなると、さすがに権能を使わないとなぁ・・・」
俺と梅先輩は橋の上にいるわけだけど、橋の下の前からも後ろからも鬼達がこっちをにらんでいて・・・橋の上まで跳んでくるやつもいる。
「はぁ・・・失礼します、梅先輩」
「え・・・きゃ、」
この場から動きながら戦ってもいいように、梅先輩を横抱きにしながら言霊を唱える
「わが内にありしは天空の雷撃。社会を守る、秩序の一撃である!今ここに、我が身に宿れ!」
肩当と杖が現れ、それを持ちながら跳んで上から鬼達に雷をぶつける。
「ちょ、武双君!?」
「スイマセンが、落ちないようにしっかり掴まっていてください!」
そう言いながら鬼がほとんど消えた橋に降りて、今まさに飛んできている鬼に雷をぶつけ、いったん掃除。
そのまま背後から上ってきていたやつらに向けても雷を放ち、そのまま走って橋から飛び降り、川の中に着地する。
「梅先輩、この辺りの店から服とか拝借してもいいですかね?」
「必要経費として、落としてくれると思いますよ」
よし、それなら気にせず続けよう。
俺はそのままこっちに向かってくる鬼に雷を撃ち、近づいてきたやつには杖を突き刺し、直接雷を流し込む。
「これは・・・神獣、でいいのだろうか・・・」
「確かに、これだけあっさりと倒されると考えたくなりますね・・・それでも、人間にはどうにもできないレベルですよ、これ」
「そうですかね・・・ウチの家族なら、普通に倒せそうですけど」
「あなたの家族を普通の人間扱いしないでください。各分野のトップクラスしかいないんですよ?」
あー・・・確かに、それはそうだ。
父さんと母さんなら、二人でこの鬼半分くらいなら片付けれそうだし。
「っと、これで終わりか・・・」
「ですね・・・あれだけいた鬼が消えると、かなりすっきりしますね」
「確かに。・・・さて、とりあえず」
「はい、とりあえず」
俺と梅先輩は避難のために送還しておいた携帯を召喚の術で手元に出して何か連絡がなかったか確認しつつ・・・
「「服と靴、代えに行きましょう」」
近くにある服屋に向かった。
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