燃えるガンダム
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燃え上がるガンダム
暗い宇宙を行く純白の戦艦。
上から見るとH字のような形をしたその艦は前足の片方の先端を開放する。
「RX78-x1、発艦準備完了」
『カタパルト異常なし、作業員は至急退避されたし』
左舷MSデッキでは慌ただしく作業員たちがカタパルト横の待機室に逃げ込み、誘導員が赤く光る誘導棒を両手に持って眼前に迫る鉄の巨人をカタパルトの射出装置に誘う。
そのMSが両足を射出装置に固定すると誘導員の安全ケーブルが巻き上げられMSの進路上には何もいなくなる。
『全作業員、退避完了』
『進路オールグリーン、射出カウントダウン開始。
10秒前、8、7、6、5、4、3、2、1。射出!』
オペレーターのカウントダウンが終了すると同時にMSパイロットに急激なGがかかり体中の筋骨が悲鳴を上げる。
MSは戦艦から約十キロのポイントに制止し通信回線を合わせる。
「RX78-x1、指定ポイントに到着。高度観測、地表より1203km」
『予定より早いが試験を開始する。本試験は事前に入力した機体制御データを基に大気圏突入を行う。本試験の目的は機体温度の上昇を抑える機体冷却フィルムの評価にある。そのため今回はシールドを装備させていない。』
通信回線の向こう側から壮年男性が顔をのぞかせて試験内容を通達する。作戦前にパイロットは研究員から試験内容は聞かされていたが、これから大気圏突入を行うことに恐怖を抱いている。
「了解。これより試験を開始する。」
スラスターを吹かせ予定侵入角度に体勢を立て直し股間部分から機体冷却フィルムを取り出し、腕を頭部の前で交差させ簡易のシールドにする。機体冷却フィルムを被せ機体全体を覆い突入する準備は整った。
『機体角度、正常。機体温度確認、異常なし。突入を開始してください』
突入角度を維持しながらスラスターを吹かせ低軌道から外れる。
青い地球が徐々に赤く染まりつつあるモニターの端の高度計は凄まじい勢いで回転し、どんどん高度を下げていることを示す。
「機体冷却正常。装甲表面温度、異常なし。……ん?」
機体の歪みを示す警報機が単滅している。急速に落下しているのだ。関節の歪みのひとつあるだろう。そもそもこの大気圏突入試験だって緊急時に対応するために行われているものだ。降下した直後に戦闘する予定にはなっていない。
機体情報を開くと両肩関節の歪みが報告されている。しかしこのまま降下しても問題はないだろうし、降下をやめることもできない。
警告灯の点滅は時間を経るごとに早くなっていく。さすがにパイロットも変だと思う。空気抵抗だけでこんなに軋むはずはない。さらに今のところもっとも丈夫な金属―ルナ・チタニウム合金―をふんだんに使用したこの機体がこの程度でやられるはずもない。
データ上、ザクのマシンガンを跳ね返すこともできるこの装甲が摩擦熱で歪むようなものでもない。どんなふうに生成されているのか全く分からないが。
「機体が、回転している…!?」
進入角度、機体姿勢ともに問題なかったはずだ。ならば、歪みで生じた後天的な事故か?このまま回転すると安全に着地することは叶わない。
空気の流れを修正するために腕をわずかに動かし姿勢を変え、しかし角度は変えずに。
だが、そう簡単に事は進まず新たな警報がコックピットに鳴り響く。
「Aパーツの駆動系が損傷した?」
上半身たるAパーツの肩部駆動系が異常を示す。それにモーターの冷却が追い付いていない。
先ほど動かしたときに何らかの故障が発生したのか。
「こちらRX-78-x1、問題発生。Aパーツの駆動系が損傷。降下に問題はなさそうだが報告まで。」
『―――――』
「……ちっ」
通信できないか。大気圏突入中なのだ、仕方ないことか。ただ一人、この状況に立ち向かわなければならないというのは予め想定されていたことだが、いざ自分がその状況に陥ると何もできなくなった。
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