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少年少女の戦極時代Ⅱ

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オリジナル/未来パラレル編
  第26分節 クモンカイト


 かつて彼は力を求めていた。
 強く在ろうとし、戦い続け、そして敗れ続けた。

 彼は()えていた。(かつ)えていた。勝利に、力に、強さに。

 負けない者は、勝ちを望むことはない。
 勝利をがむしゃらに得ようとする者にしか、禁断の果実は応えない。

 だから、駆紋戒斗だった。幾度となく敗れ、苦汁を舐め、なお強さを渇望した戒斗だからこそ。
 ヘルヘイムの森はその主人たる資格と力を彼に贈った。

 こうして彼はヒトを捨て、絶対的強者へと変貌した。



……

………

「オーバーロード……」

 咲は呆然と、鎧武と対峙する金色の怪人の呼称を呟いた。
 光実から聞いたことだけはある。――オーバーロードインベス。ヘルヘイムの森の侵略に抗い、高い知能と人語を持ったまま“森”に適応した、インベスの超越種。

 それが、今の駆紋戒斗だというのか。


 金色のオーバーロードが杖剣を掲げた。すると、幾条にも空間が裂け、おびただしい数のインベスが飛び出してきた。

『戒――斗ぉ!!』

 鎧武は階段を強く蹴って飛び上がった。遮蔽物になる低級インベスは全て大橙丸と無双セイバーで斬り捨てている。頭上から一直線に赤い怪人に斬りつける――

 だが鎧武渾身の一刀は、杖のような剣によって受け止められた。

『何でだ! 何でインベスなんかになった! 戒斗ぉ!』

 剣で弾き飛ばされた鎧武は着地し、砂利の上を滑った。

 鎧武はすぐ無双セイバーを構え直す。襲い来たインベスを大橙丸の二太刀で斬り捨て、返す刀で無双セイバーから弾丸を放った。
 ――Aクラスのインベスもいるのに、鎧武はジンバーもカチドキアームズも使わないでそれらを退けた。

『少しはマシな戦いをするようになったか』
『インベスなんぞにならなくても、人は自力で強くなれるんだよ』

 鎧武が大橙丸を、赤いオーバーロードが杖剣を、それぞれ構え――

「待ってよ!!」

 鎧武と金色のオーバーロードが同時に咲を見上げてきた。

「わけわかんないよ……何で戒斗くんがインベスなの? 何で二人、戦うの? あたしにもっ、あたしに分かるようにセツメーしてよ!!」

 両の握り拳をぶんぶん振った。きっとガキっぽい咲に二人とも呆れている。それでも叫ばずにはおれなかった。

 ヘキサの死を知らされた今でも、全ての記憶が戻ったわけではない。今の咲の中には21歳の咲と12歳の咲が混在しているのだ。
 だからよけいに不安になる。中途半端に思い出してしまった分だけ、自分のキオクが最も疑わしくなってしまっていた。

『俺はただ強さを極めただけだ。脆弱なヒトの肉体など、俺には必要ない』

 声は戒斗のままなのに、外見はバケモノ。出来の悪いスプラッタ映画を観た気分だ。

 すると、オーバーロードの姿が粒子と散り、戒斗がそこに立っていた。ほっとする反面、戒斗が着ている祭服の白が、妙に胸をざわつかせる。

「紘汰くんは知ってたの? 戒斗くんが、こう、なったこと」

 紘汰はあまりにためらいなく変身し、戒斗に斬りかかった。戒斗が敵だと事前に認識していなければできない行為だ。

 鎧武は咲から顔を逸らした。イエス、だ。

『――。俺も、10日くらい前に、知ったばっかりだ。それまでは俺だって、戒斗は行方晦ました、くらいにしか思ってなかった』

 10日くらい前。咲は精一杯に記憶をたぐり、気づいた。その時期は21歳の室井咲が記憶を失う直前だ。

「何が、あったの。そこにあたしは、いたの?」
「いたな。そしてこう言っていた」
『っ、戒斗!?』


「呉島碧沙が死んだのにシアワセになった自分が許せない、と」 
 

 
後書き
 餓える。かつえる。勝つ、得る。そんな下手くその言葉遊びで生まれた展開。

 記憶喪失といってもそう何でもかんでも一気に都合よくポンポン思い出せるものではないのが本作。今の咲にある記憶は、ヘキサの死という真相、そして「紘汰と咲(1)~(3)」辺りの内容だけなのです。
 ただ、最後に戒斗が告げた一言こそが、咲にまつわるお話の核心なのは確かです。

 2014/3/31 改題しました 
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