SAO─戦士達の物語
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MR編
百三十三話 電話
前書き
はい!どうもです!
今回は少し短めになっています。
と言うのもちょっとした過程回でして……原作にはないですが、ちょっと今後を感じさせるお話です。
では、どうぞ!
埼玉県川越に有る桐ケ谷家の本日の夕食当番は、直葉と和人の二人であった。ちなみに夕飯は刺身だ。何の刺身かと言うと……
「お、鰤か」
「そうだよ~。リョウ兄ちゃん好きでしょ?」
「おう。大好物だ」
はっはっは。と笑って涼人はソファに座りこむと、煮物の食材を切る直葉の横で和人が味見をしながら味噌汁の具合を見ている。
「うーむ……」
「おいカズ、またやたら塩辛いのは勘弁だぞ」
「いやそれ何時の話だよ!?大丈夫だって。今回はなかなか自信が有る」
何故か胸を張って言う和人に、直葉がジトっとした視線を向けながら言う。
「そう言ってこの前味付け失敗したんだから、変なのやめてよ?」
「あ、あーいやアレは所謂不可抗力だよ。ウン。まさかあそこまで砂糖が利くなんてなぁ」
「分量で分かるでしょ!なんで醤油よりお砂糖多く入れるのよ!」
ハハハ。と乾いた笑いを漏らす和人に直葉が全力で突っ込むのを見ていると、そう言えば風呂の準備をしなければならなかったのだと思いだして、立ち上がる。と、
ピーンポーン♪
「ん、はいはい」
インターホンが鳴り、涼人は壁のコンパネから外を見る。と……其処に映って居たのはこの家の主……と言うか和人と直葉の母親である、桐ケ谷翠だ。
『ごめん!りょう君開けてくれる~?』
「ん、ういっす。お帰りなさい」
「お母さん?」
「おう」
コンパネからの声で理解したらしい直葉の言葉に頷いて返すと、少々寒い廊下に出て玄関を開ける。
「ただいま~、はー寒い寒い!」
「お帰りなさい。って、あぁ、ビールっすか」
「そ。昨日冷蔵庫見たら切れてたのよ」
ふふふ、と幸せそうな顔で家の奥に進んで行く翠を苦笑して眺めながら、涼人は風呂場へと向かった。
────
涼人が浴槽を軽く洗った後に自動給湯のスイッチを入れてタイマーをセットすると、浴槽は小さな機械音を立ててゆっくりと稼働し始める。
今では浴槽を自動洗浄する機能の付いたバスルームの家電パッケージとやらもあるそうだが、一体どうやってやるのやら……
「うっし」
軽く腰を捻ってからリビングに戻ると、翠は既に晩酌を始めていた。
「あ、りょう君。一緒に飲む?」
「だから飲まないですって。あと数カ月待って下さい」
「もー!お母さんりょう兄ちゃんに御酒勧めるのいい加減やめなよ?」
「えー?」
直葉に注意された翠は少し子供っぽい表情でカラカラと笑う。
どうでも良いがホントに歳と顔の若さが合ってない。
「良いじゃない?もうすぐ本当に飲めるようになるんだし、大丈夫よ」
「まだダメ!」
「だそうで」
苦笑しながら肩をすくめる涼人に苦笑して、あ、じゃあ。と翠は気を取り直したように言う。
「和人は?」
「俺はもっと駄目だろ!!」
味噌汁を終えて煮物の味付けをしていた和人が言った。中々反応が速い。
「どれ、つまみでも……あ、そういや……」
「ん?どうした?」
翠のおつまみ作りは、普段涼人の役目である。と言う訳で今日も適当に一品作るかと立ち上がり掛けた涼人が、不意に顎に手を当てて考えるように唸った。
様子に気が付いたらしく、首を傾げた和人に、涼人が言った。
「いや。こないだ美幸と明日奈に言いつまみのレシピねーかって聞いたらよ、明日奈がちょっと考えてみるとか何とか言ってたんだよな……あれできたんかな」
「へぇ。電話してみるか?」
「あ、いや。お前は味みとけ。自分でしてみるわ」
言いながら、涼人は携帯端末を操作しながら部屋を出て行く。現在時刻は午後六時四十分を過ぎた辺り。明日奈の家は六時ぴったりから夕飯が始まると言う話なので、普通に考えれば既に食事も終わって居るはずだ。
.
廊下に出るのと殆ど同時に、涼人は携帯端末を耳に押し当てていた。とりあえずてっとり速く連絡して、口頭で教えてもらえるならその方が速い。まぁつまみと言うよりは夕飯の追加の一品になりそうだが、それならそれで良いだろう。と、言う訳で……
「ふーむ……」
コールしながら涼人は唸る。三回コールしても出ない。まだ食事が終わって居なかったのかもしれないとリョウが思い始めたころ、留守番電話に切り替わる直前で、電話が通話状態に切り替わった。
「…………」
「?明日奈か?」
「……リョウ……?」
「……」
何時もならすぐに明るい返答が有る筈なのにも関わらず電話に出ても何も言わない事を訝しんで、電話口の向こうに声を駆ける。少し間をおいて返ってきたのは、まるで水に濡れたような声だった。
「……なんだお前。泣いてんのか?」
「な、泣いて、ないよ……」
そうは言っていても、どう聞いても声が湿っぽい。どう聞いても涙交じり、と言うか泣いて居た直後にしか聞こえない。
「……そうか?お前、そんな湿っぽい声だったか」
「…………」
「別段大した様じゃねェし、カズに変わろうか?」
「そ、それはダメッ!」
「?」
善意で言ったつもりだったのだが、意外にも強い拒絶の言葉が返って来て、涼人は少し驚く。正直な所、結城明日奈と言う少女はそれこそ滅多な事が無い限り泣くと言う事は無い。
その彼女が泣いて居る、あるいは泣く寸前のような声を出していると言う事は、これはもう彼女の支えともえいる存在である和人の出番かと思ったのだが……
「ごめん……キリト君には……話せない、から……」
「……ふーん。そりゃまた随分と深刻そうだ事で……」
和人に話せない事情と成ると……これはいよいよ尋常ではない。何しろ話せない。と言うのはつまりキリトに秘密にする。と言う事だ。
和人はちょくちょく明日奈に秘密にする事と言うのは有るが、アスナは逆にキリトに隠し事をするという事が少ない。
勿論全くない訳ではないが、其れをする場合大概は良い話か、よっぽど悪い話かのどちらかだ。
「少なくとも良い話……じゃなさそうだな。声聞いてるに」
「…………」
「なーにが有ったよ。親と喧嘩でもしたか?」
「えっ……」
どうやら当たったらしい。と言っても、まだ彼女と向こうで別れてから40分そこらしか経っていないのである。その間でこの少女に泣くほどの事が有ったとなると、まぁ家族関係。尚且つ厳しいと聞いて居る親とのトラブルくらいしか涼人には思いつかなかっただけなのだが……
「……正直、お前の家の事に俺が首突っ込んで良いもんかは分からん。話せないってんならそれでも一向に構わねぇけど。……どうする?」
こう言う事を言うのが果たして正しいのかは、涼人自身分からない。しかし彼女は和人の恋人であり、涼人にとっても大切な友人兼仲間である。彼女なりに和人には話せない事情が有るのは分かるが、ならば自分が例外であるなら、多少なり力になりたいとは思う。
「……ごめん、まだ少し、考えさせて」
「……ん!そうか!……しかし、こうなると聞いて良いもんか……」
「え……?」
唸りながら思わず呟いた涼人に、電話の向こうの明日奈が問う。
後ろ手に頭を掻きながら、涼人は言った。
「ん~、いや、お前に前に言ってた酒のつまみレシピ聞こうと思ったんだけどよ、どうもそう言う気分じゃねぇだろ?お前」
「あ、んー……ううん。良いよ、もう出来てるし」
「あ?」
少し悩むように言った後、不意に、明日奈は声を明るくして言った。
「なんだお前。おちこんでんじゃねぇの?」
「まぁ、沈んでたけど……でも、少し元気出て来たかなぁって」
「はぁ?お前ってそんな立ち直り速い奴だったか?なんつーか、昔何かもっとこうドヨーンと……」
「あ、アインクラッドの話時のは良いでしょ!?それより、レシピだっけ?この前のは確か……この辺だよね?」
「…………」
慌てて話題を切り替え、向こう側でがさがさと何かをあさる音がする。その音を聞きながら、涼人はやれやれと首を振った。
「(ま、切り替えが出来るようになったって事で、成長って奴かねェこれも)」
自分で思っていて爺臭いなと、涼人は若干苦笑する。まぁ、同じ人間を長い間見ていると、自然とそう思えてくるものなのかもしれない。特にこの二、三年は、自分達も、周囲の人間達の環境も、本当にめまぐるしく変わって居たのだから、ある意味では、他の人間より人生経験が豊富と言えなくもない。
リョウにしろアスナにしろキリトにしろサチにしろ、既にそれらの経験を高々ゲームと言えるレベルは、とっくの昔に過ぎてしまった。
「(これがホントの廃人プレイヤーかねぇ。ま、其れもまたよし、と)」
ゲームの中で描いてきた経験が、現実にも確実に蓄積されて行く。
バーチャルとリアルの境界線が、徐々に曖昧に成り、狭まる。そんな、二つの世界が分離した物ではなく、近づき、触れ合って行く感覚。其れはきっとこれから先の、リアルとバーチャルの一つの形だ、今は一つ先の次元に有る其れが、やがては自然と成り、また新しいステップへ踏み出す為の足場となるのだろう。
「もしもし?リョウ?見つけたけど、覚えられる?」
「ん、おう。さらっと言ってくれ。一発で覚えて見せるぜ」
「あのねぇ……その記憶力、古文の勉強にも使ったらサチの苦労も減るんじゃないかなぁ……」
呆れたように言う明日奈に、涼人は説教が始まっては不味いとばかりに若干慌てたように言う。
「ほっとけ!いいから頼む!」
「はいはい。それじゃあ……」
そう言って、明日奈がすらすらとレシピを読み上げて行くのを聞き、其れを記憶しながらも、涼人は何となく、さっきまでの明日奈の様子が気になって居たのである。
後書き
はい!いかがでしたか!?
今回は、最近にしてみるとかなり短かかったかなと自分で思っていたりします。
この展開がどうつながって行くかは……お楽しみと言う事でw
ではっ!
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