少年と女神の物語
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ちょこっと日常 ①
第四十話
「やっほーい!海だー!!!」
「ま、待ってよビアンカちゃん」
そう言いながら海に向かって走っていくのはビアンカ。そして、その手に引っ張られていくのは桜。二人とも水着姿である。
「あ、先を越されたデス。行くデスよ、調!」
「うん、早く行こう」
先を越されたと嘆く切歌に、その切歌が慌てすぎないよう見張りつつ、楽しそうな表情をしている調。この二人も、先ほどの二人のように水着姿。
そして、我先に、と走っていった四人を追うようにリズ姉、アテ、そしてアテに支えられながらマリーが海に向かった。
当然、皆水着姿である。
「ほら、ナーちゃんも一緒に海に行こう?」
「そうだな。どうしても、と言うならついていってやらなくもないが?」
言ってからしまったと言う表情をしたが、
「うん、じゃあどうしても。早くいこ~」
「え、あ、ちょ!」
そんなことは一切気にしない林姉に、手を取られて走っていった。もちろん、林姉もナーシャ・・・シヴァの一件の後、新しく家族になった少女も、水着姿である。
「・・・ねえ、兄貴。本当にこのまま放置でいいの?」
「ああ・・・ま、どうしようもないからな。なるようになるまでは放置でいいだろ」
「でも、あの霊視は・・・」
「大丈夫大丈夫。ウチの家族のメンバーを考えてみろよ?カンピオーネにまつろわぬ神がいるんだぞ?」
心配そうにしている氷柱の頭を撫でてやると、顔を真っ赤にしながら俺の手から逃げた。
「な、何してるのよバカ兄貴!」
「それは酷くないか・・・?」
「氷柱ちゃんは相変わらずだなぁ」
そして、避けた氷柱を立夏が後ろから抱きしめ、逃げられないようにする。
「ちょ、立夏姉様!?」
「まあまあ、そんなことは気にしないで早く泳ぎに行こうよ~」
「え、ちょ、ちょっと!私泳げないんだから、ビニールプール取らせて!」
そう言っている氷柱の声を無視して、立夏は海の方へと引っ張っていく。
とりあえず、誰も浮き輪だのビニールプールだのの類を持っていかなかったため、俺はてきとうに見繕って投げる。
「ふぅ・・・ま、気にしてもしょうがないからな」
「・・・やっぱり、父さんもそう思う?」
休むための場所を確保していた父さんが、一息つきながら話しかけてくる。
まあ、この人は性格がまじめだから、気にしていたのだろう。
「『蛇』『人』『仏陀』。確か、立夏と氷柱が視た霊視をまとめると、こんな感じだったか?」
「ああ。でも、ルーがナーシャを物に変えたってことは、まつろわぬ神じゃないのも、間違いない」
「だが、ありえるのか?霊視が、神でもカンピオーネでもない相手との接触で降りる、と言うのは?」
「ありえるだろ。確かにカンピオーネ、神が近くにいると降りやすくはなるけど、何について降りるのかはその時次第なんだから」
霊視とは、本来そう言うものだ。
何について降りるのかは分からない上に、いつ降りてくるのかッまた、分からない。
だからこそ、祐理は日本の姫巫女の中でも重宝されているし、立夏や氷柱の存在は頼もしいのだ。
「じゃあ、何かあったら武双くんが何とかしてくれるのよね~?」
「何とか、の使い方がおかしいよ母さん。・・・まあ、そのつもりだけどさ」
せっかく新しく家族になったんだ。ナーシャに何か謎が隠されてて、それが原因で何かあったとしても、俺がどうにかしてやる。
人間相手ならカンピオーネの名前を使えばいいし、最悪そいつを殺せば問題ない。
神様関係なら、それは俺の専門分野だ。その神様を殺して、家族を守るための力を増やしてやる。
「だそうだから、隆哉さん。私達は、私達に出来ることだけをやりましょう?」
「・・・そうだな。情けないことだが、任せたぞ、武双」
「了解。任されました」
「じゃ、行きましょう、隆哉さん!」
「へ?ちょ、荷物番は」
「私有地でいるのかよ、それは」
そう、ここはあるビーチ・・・かなり有名なビーチの一部を買い取った、私有地なのだ。
この話を聞いたときは、またウチの両親は何をやってるんだ・・・と思ったものだ。まあ、男嫌いな氷柱を思ってのことだろうけど。
「何かあったらすぐに気付くだろうから、荷物番なんていらないよ。さっさと行ってきて、たまには自分の子供達と遊んでこいよ、親なんだからさ」
「だったら、武双くんも行くわよ~」
ですよね~・・・
「了解。すぐに行きますよ」
俺はそう言って、上に来ていたTシャツを脱いで、父さんたちを追って走り出した。
◇◆◇◆◇
「はぁ・・・疲れた・・・」
昼飯の買出しについてきた俺は、そう漏らした。
まったく・・・母さんは元気すぎるだろ・・・林姉もそれに付き合いだすし・・・
「もう、だったらわざわざついてこなくても良かったのに」
「そう言うわけにも行かないだろ。十五人分の昼食なんだからさ」
そして、すぐ横を歩いているのはマリー。じゃんけんの結果、マリーが買い出しに行くことになったのだ。
ついでに言っておくと、俺が行くのは確定、見たいな雰囲気があった。
「じゃあ、買ってくるから。武双お兄様はその辺りに座って休んでて」
「おー・・・じゃ、よろしく頼む」
マリーのお言葉に甘えて、俺は店の近くのベンチで休むことにした。
そして数分後。
「ねえ、俺たちと遊んでいかない?」
「お断りします。人を待たせていますので」
「いいじゃん、その子達も一緒にさ。それだけの人数、かわいい子がいるんでしょ?」
マリーは思いっきり、ナンパを受けていた。
それも、まだ店の中で。すごいな・・・日本人には到底無理だ。
「あー・・・スイマセン、そいつ、俺の連れなので」
とりあえず、呪術関係者でもないだろうから、出きる限り丁寧に割り込むことにした。
「あ、武双」
「兄妹、って事は隠して」
面倒にならないように、俺は小声でそういった。
勘違いされた方が、色々楽だろうし。
「あ・・・アンタ、その子の言ってた連れ?」
「その認識であってるよ。・・・ってか、アンタらよく見たら日本人か」
髪染めたりしてるが、少しちゃんと見てみれば分かることだった。
はぁ・・・なんだか、余計に面倒になったような気がする。
「全然お似合いじゃねえなぁ」
「ホント、男のほうが地味すぎる。こんな男でいいの?」
「この・・・」
「落ち着け、マリー」
「でも、」
「いいから。何もするな」
俺はそう言いながら男ども三人を軽く睨み、殺気を向ける。
これでも神様相手に殺しあってきた身だ。本気で睨まなくても、軽くで・・・
「「「・・・・・・」」」
・・・三人の足元に、小さな水溜りができていた。
いや・・・マリーの手を引っ張りながら、外に出てて良かった・・・さすがに、お店の中でやられるのは勘弁願いたいだろうし。
「じゃ、行くぞマリー」
「あ、うん」
そしてそのまま、十五人分の昼食を俺が持って、三人を放置したままみんなの元に向かって歩く。
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