時と海と風と
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刻針海賊団とフーシャ村
前書き
【注意】
・主人公の船のクルーはオリキャラだらけです。原作キャラは最終的にも数人しか乗りません。
・今話から一人称です。
~七年後~
海一面の深い青と空一面の遠い青に挟まれて、一隻の大型船が海面を走っている。
風は弱く、雲は一つとしてない。穏やかで、実に気持ちの良い一日だった。
そんな昼寝日和と言うほかない陽気に満ちた真昼間。張られた帆に緩やかな風を受け進む船の甲板には、ビーチ用のリクライニングチェアの背もたれに体重をかけたまま瞼が落ちかけている男の姿があった。
「あー…………………………眠ぃ」
というか、俺こと“刻針”アルマ・クラストール様である。
しかし、さしもの世界最強も暖かな陽気とそれによって迫りくる眠気には敵わない。このままあと数分もすれば完全敗北を喫するであろうことは明白である。もとより戦う気がないのだが。
……と、背後に人の気配。
「随分眠そうね、アルマ」
「おう、ロビンか。いやぁ、朝日が出るまでずっと釣りしてたもんでなぁ。実は二時間も寝てねえんだ」
後ろから掛けられた若い女の声に、俺はひらひらと軽く手を振りながら答えた。こうでもして体を動かさにゃあ会話の途中で意識が落ちてしまいそうである。
声をかけてきたのは今年で二十歳になる黒髪の女、ニコ・ロビン。非常に頭がよく知識も豊富なため、この船における頭脳的役割を果たしている。
「寝不足になりすぎて脳溢血でいきなり死んだりしないかしら……」
「いきなり恐ろしい事言うんじゃねーよ」
突然俺の死を予言し始めるロビンに流石の世界最強もびっくりである。ちょっと目が覚めちまった。
「それで本題なのだけれど、そろそろ目的の島に着くわよ」
「あー、はいよ。やっとかい。そんじゃまあ、そろそろ俺も目ぇ覚ますとするかね」
背もたれから体を起こしグッと伸びをすると、背骨がポキポキと小気味よい音を奏でた。大分寝足りんが、まあ仕方ない。船長就寝中の島到着ほど締まらないものもないのである。
ここは最弱の海とも呼ばれる海域、東の海。
つい先日まで偉大なる航路にいた俺たち刻針海賊団は、現在その航路を外れてこの世界で一番優しい海へと来ていた。突発的に異常気象が起こったりもせず、海賊も少なく、その少ない海賊の質も極めて低い海。平和の象徴ともされるこの海域を俺たちが訪れたのは、俺がとある人物に会うためである。
「さてさて。シャンクスの言ってた面白いガキンチョってのは一体どんな奴かねぇ」
「知人との話題に上がった子供一人を見るためだけに偉大なる航路を出る人間なんて、世界中探してもきっとあなたくらいのものね」
俺の隣でロビンも朗らかに笑っている。船に乗ったばかりの頃は俺の言葉一つで右往左往していたくせに、今じゃ笑顔を浮かべる余裕すらあるくらいだ。俺の突拍子もない行動などもう慣れたものなのだろう。すでにこいつとは何年もの付き合いである。
「おいおい、そりゃただのガキなら俺もそこまではしねえさ。……多分だが」
「最期の一言で前半の言葉の信憑性がガタ落ちよ?」
「まー気にすんな。……でだ。あのシャンクスが片腕を捨ててまでも助けたガキだぞ? こりゃ気にするなって方が無理だろうよ」
「それは、たしかにそうね。赤髪は最近の勢いある若手海賊の代表格、おまけにあの海賊王の船に乗っていたのでしょう?」
「おう。つっても当時は見習いだったがな。それでもその頃からすでに中々面白いやつでよ、俺がロジャーの船に喧嘩売りにいった時とかは真っ先に突っ込んで来たりしやがるんだ、あいつ」
まあ毎回一発で吹き飛ばして終わりだったがな。わはは。そりゃ世界最強にたかだか十五歳程度の若造が挑んでもそうなるだろうよ。
だが、最近のあいつならもう一発KOじゃあ済まんだろうなぁ。どうやら順調に実力をつけてきているようだ。先日数年ぶりに再会した時には、纏う雰囲気がかなり洗練されてきてやがった。
「いつの間にやら覇王色にも覚醒してやがるし……今はまだ名を上げ始めたばかりだが、ありゃあっという間に上まで登ってくるな」
「ふふ、私はまだそれほど面識もないけれど、あなたが言うならきっとそうなのね」
覇王色の覇気――数百万人に一人の確率で身に付けられるという王者の力である。直接戦うまでもない格下はこの力を使って威圧するだけで意識を失うため、雑魚を間引くには非常に便利だ。名だたる海賊の多くはこの覇気を身に付けており、彼の有名な海賊王、ゴール・D・ロジャーもまた然り。
そしてその力を持っているということは、シャンクスもまた海賊の高みへと至るだけの資質を備えているということなのだろう。あいつが俺たちと同じ舞台まで登ってくる日が心底楽しみだ。
「それにしても、海賊王の船に一人で挑んだ人間も多分あなたくらいのものじゃないかしら」
「まあ流石に滅多に勝てなかったがな。ロジャーとレイリーが組むと流石の俺でもちときつかったもんで」
「……むしろたまに勝っていたことに驚いたわ」
「ふふん、どうでい。そら、褒めたくなったか? 称えたくなったか? んん?」
「それはそれとして……今日のお昼は何かしら」
こいつ、さらっと流しやがった。最近ロビンの俺に対する対応がおざなりになってきているような気がするんだが……ううむ、反抗期であろうか。まったく、困ったもんだぜ。
「どうせもうすぐ島に着くんだ。飯はそこで食おうや」
「あら、それじゃあエドックには昼食は作らなくていいと伝えておくわね」
「おう、任せたぜー」
エドックとはこの船のコックを務める男のことである。料理の腕は大したもので、この船の台所事情は奴に一任している。さらに非常時には戦力としても働けるなかなか有能な奴なのだが、万一相対した相手が幼女だった場合は一方的に敵の攻撃を受けるだけのゴミクズと化してしまう。つまるところ変態である。
そのためあいつが幼女と戦うことになったときは俺が問答無用でその幼女をぶっ飛ばすのだが、そうすると今度は船長である俺に攻撃を仕掛け始める始末。自分の船の船長に攻撃を仕掛けるとは何事だ、あのアホめ。
ロビンは船室の中へと入っていった。恐らく言葉通りエドックに昼食のことを言いに行ったのであろう。
「はて、さて……」
俺は立ち上がって船の遠く前方を見据えた。
「いざ、ドーン島フーシャ村へ」
船は風に押されて進む。
目的の島は肉眼でも小さく見えるところまで来ていた。
* * *
「いない?」
「ええ、そうなんです」
村から少し離れた所に船を停泊させて徒歩でフーシャ村へと入った俺たちは、それぞれ分かれて行動を開始した。買い出しやら何やらである。ちなみに俺は目的の少年、ルフィを探している。が、ためしに入った酒場で店主の嬢ちゃんに聞いてみたところ、どうやらルフィ少年は現在村を離れているんだそうだ。というのも、彼の祖父の意向でダダンという山賊の一味に預けられているかららしい。
ううむ、どうやらルフィ少年の祖父とやらは随分と破天荒な人物のようである。幼少期から山賊に育てさせるとは、自分の孫をそれほどまでに悪の道に引きずり込みたいのだろうか。祖父は滅多に島にいない人物らしいので、おそらくは海賊なのであろう。見上げた海賊魂である。
「それにしても、船長さん――あ、シャンクスさんですね――とお知り合いの方だとは思いませんでした」
「いやぁ、あいつが自分の腕をかけても惜しくないと言い切ったガキなんでな。どうにも会ってみたくなったのよ。それでわざわざ船走らせてきたってわけで」
例のガキンチョについて語るシャンクスの表情は、こいつもこんな顔できる歳になったんだなぁと時間の流れを俺に感じさせるものであった。
俺がそれまで知っていたシャンクスは、いつだって自分がひたすら前へと突き進むことだけに精一杯でそれ以外はほとんど見えていなかった。だというのに、今のあいつは自分の後ろに続く者の存在を認識し、さらに道を示すことまでやりとげている。まったく、あいつも大人になったものである。
「そんで、そのダダンとかいう山賊は一体どこにいるんだね?」
「村の裏にあるコルボ山というところなんですが……あの、明後日ルフィたちの様子を見に行こうと思ってますから、その時ご一緒しますか?」
「おお、そりゃあいい。別に急いでるわけでもないんで、しばらくはこの村に滞在させてもらおうかね。っつーわけで明後日は道案内頼まぁ」
と言っても見聞色を使えば一発で山賊のアジトを発見できるのだが、まあ嬢ちゃんがわざわざ案内してくれるというのであればその好意を無碍にすることもあるまい。
「もしなんかで都合悪くなったりしたら、俺かうちのクルーにでもそう伝えてくれや。うちの船は強面なやつもいねえから声掛けやすいであろ」
大型船を使っている割にうちの船の乗組員は総勢四人である。俺、ロビン、エドックと、もう一人子供と言える年齢の少女がいるだけ。エドックはごくごく一般的な成人男性程度の体格で、顔立ちもそこら辺にいそうな感じ。ロビンは言わずもがな。最期の一人などまだ子供であるため、まあこれほど親しみやすいメンツの揃った海賊団もなかなかないであろ。
俺の見た目も、ちょっとカッコいいだけの普通の青年である。うむうむ。
この人数だと船を動かすのが少々大変だが、そこら辺はなんとかやっている。ロビンが体の各部位を好きな場所に生えさせるハナハナの実の能力者であるため、物理的に手が足りなくなることはないのだ。
「ふふ、それじゃあ明後日はよろしくお願いしますね」
「おう、道中の護衛は任せとけい。ああそれと、あとでうちのクルーたち連れて飯食いに来ると思うんでそんときゃよろしく」
「ええ、お待ちしてます」
ようし、話はまとまった。っつーわけで村ん中に散らばってるクルーたちを集めねばならん。村はそう大きくないので探すにも苦労はしないであろ。最悪見聞色を使えば一発で居場所が分かるため、なんにせよ問題はない。そもそもロビンは船の番をしているので、村の中で探すのは二人だけである。
そう考えながら酒場の出口へ向かおうとしたところで、しかし店主の嬢ちゃんが喉の奥に小骨が引っかかった時のような面持ちで問うてきた。
「ところで、あなたの顔にちょっと見覚えがあるんですが……どこかでお会いしました?」
「うん? あーまあ、気になるんなら新聞見りゃ分かると思うぜー」
最期にそんなやり取りをして俺は酒場を後にした。それから数分後酒場内から歳若い女子の悲鳴ともつかぬ仰天の声が上がるのだが、それは余談である。最弱の海に俺みてえな大物がいるとは夢にも思わなかったのであろ。わはははは。
でだ。
「船長」
「おう、どうした」
酒場を出ると、両手に食材入りの買い物袋を下げたうちの料理担当が深刻そうな表情で声をかけてきた。どうやら酒場の前で俺のことを待っていたらしい。探す手間が省けたのはありがたいのだが、はて、何か問題でも起こったのであろうか。
「この村には――――――――幼女が一人もいないみたいだ」
「さっさとくたばれやてめー」
一瞬でも村になにか異変があったのかと警戒した俺が馬鹿だった。こいつはアホであるからして、真面目に相手にするだけ無駄なのである。ちなみに、こいつのストライクゾーンは大体八歳から十三歳付近。十五を超えると年増、二十を超えるとババァらしい。とんでもねえな。エドックは現在二十一歳である。海軍呼んだ方がいいのであろうか。
「死ぬなら、可愛い女の子の腕に抱かれてがいいな……。あ、歳は十一で」
「ようし、お前さんの望みは叶わねえ。今ここで果てやがれ」
――そーれいっ!
――あああああああぁぁぁぁ…………。
村に男の悲鳴が響き渡った。俺に蹴り飛ばされたエドックである。数回バウンドののち地面を二十メートルほど滑走して止まったが、やつご自慢の青髪は土だらけ。ふふん、ざまあみろ。
世のため人のため性犯罪者撲滅とは、うむうむ、海賊でありながら実に見事な善行である。正義は我にあり。俺は晴れ晴れしい顔で額の汗を拭った。別に汗は掻いていなかった。
念のため言っておくが、エドックが持っていた買い物袋は蹴り飛ばす寸前にぶんどっておいたので無事である。今後の俺たちの飯となるものをぐちゃぐちゃにするわけにもいかん。
地面に倒れ伏したエドックへと近づき、げしげしと蹴りつけながら話しかける。
「……で、酒場での聞き込みの結果ルフィ少年の居場所は分かったんだが、どうやら今は村にいないらしい」
「ごふっ、ちょ、船長……そろそろ蹴るのやめて……。僕には幼女以外に蹴られる趣味はないから……」
「なもんで、とりあえずこの酒場で昼飯食うぞ。ルティア回収すっからフラフラすんなよ」
「……うん、了解だよ。そもそも幼女のいない村に用なんかないさ。しっかりついていくから心配しないでほしい」
色んな意味でこいつはもう手遅れだと思った。
俺が蹴るのをやめたため土を払いながらのそのそと立ち上がるエドックに、俺は諦観と諦念と諦めが入り交じった目を向ける。うん、こいつはもうほっとこう。
さて。今名前が出たルティア、こいつが俺の船の最後のメンバーのことである。現在十四歳であるため辛うじてエドックのストライクゾーンからは外れている。といっても、エドックもルティアも数年前から俺の船に乗っているため、去年までの何年かはエドック節が猛威を振るっていたのだが。
心底困った様子で迫りくるエドックを押し留めるルティアの様子は、なんというか、見ているだけで涙を誘うものであった。ルティアよ、力ない俺をどうか許して欲しい。俺にはこの変態を止めることなど到底不可能だったのである。なんだか笑いながら眺めていただけで止めようとしたことなどなかったような気もしないでもないが、別にそんなことはなかったはずだ。うむうむ。
そんなことを考えながら歩いているうちに、俺は件の人物を発見した。
ルティアは先ほども言った通り十四歳。金髪を肩に掛からない程度で程度で切り揃えている。体格は同年代の少女と比べてもやや小柄で、その華奢な見た目は軽く小突いただけで折れてしまいそうなほどだ。まあ、実際貧弱なのだが。
戦闘能力で言えば、そこらの雑魚に負けることはないものの億クラスの海賊相手では逃げることも不可能。数千万クラスでもよほど上手く戦わない限りまず勝てないだろう。つっても、戦いには別に期待しちゃいないのでそこはどうでもいい。
「よう、首尾はどうだね? ……ってまあそんなもんか」
ルティアは買い物に行くと言っていたが、村の規模が小さいためそれほど買い物らしい買い物も出来なかったようだ。小さな買い物袋一つしか持っていない。まあ物足りなければあとで町に行けばよかろ。
「アルマさんがお探しのルフィ君ですが、今は裏山の山賊のところに預けられているそうですよ」
ルティアが苦笑しながら自分が集めた情報を伝えてくる。買い物がてらルフィ少年を探してみると言っていたので、情報を集めてくれたのだろう。相も変わらず真面目な奴である。俺だったらやらん。
「情報集めあんがとさん。そのルフィ少年に会う手段はなんとかなったんで、ひとまず酒場行くぞ。詳しい話はそこでなー」
「あら、そうでしたか。分かりました」
そのまま二人を引き連れて今来た道を引き返す。太陽の位置も軌道上の最頂部、今は丁度昼時だろう。
着いた酒場のウェスタンドアを押して中に入る。
「おーう店主の嬢ちゃん、メシ食いに来たぞー」
「あ、は、はい。ちょっと待って下さいね、今用意しますから」
何やら少々動揺しているが、多分新聞で俺たちのことを見たのであろ。俺も随分と悪名馳せてっからなぁ。むしろ、それでもある程度普通の対応を出来ている辺りにこの嬢ちゃんの店主根性が見える。見たところまだロビンと同い年か、それとも一つ二つ下程度。若いのに大したものである。
店主の嬢ちゃんに、俺、エドック、ルティア三人分の昼食に加えて船で番をしているロビンの分の弁当も頼む。ロビンだけ一人飯の少々味気ない昼食になるが、留守番係はいつもこうなので今さら気にすることでもない。
「で、例の少年のいる山賊一味のところだがな、明後日そこにいる店主の嬢ちゃんと一緒に行くことになった」
三人でカウンターテーブルに座りつつうちのクルーたちに今後の予定を話していく。
ひとまずルフィ少年と会ってみて、俺が彼を気に入ったならしばらくこの島にとどまるかもしれん。ルフィ少年はシャンクス曰く海賊王になると言い切ったらしいので、ちょちょいと鍛えてみるのも面白いであろうか。
まあ、ロジャーのやつと同じところまで上り詰めるだけの資質が少年にあるのかどうかをを見極めるだとか、そんなことをするつもりはないのだが。まったく面倒であるがゆえ。俺の興味が向かうのは、ルフィ少年がはたしてどこまで強くなるのかという、ただその一点のみである。
それにしてもこの店主の嬢ちゃん、山賊のところへ顔を出すと言っていたが、俺たちがいなかった場合護衛はどうするつもりだったのであろうか。山林に住む野獣はもちろん、向かう先は山賊のアジトである。まあその山賊たちも見知らぬガキンチョを預かるぐらいなのだからただの残虐非道な下種どもというわけでもないのだろうが、それにしたって山賊は山賊。そんな奴らのたむろする場所へ一人で足を運ぶつもりだったのだとしたら、この嬢ちゃんは穏やかげな見た目に反して大した肝っ玉である。
「はい、お待ちどうさま」
「あいよ」
「いただきます」
飯が出来俺たち三人の前に定食が並べられる。礼儀正しく食事を始める挨拶をしたルティアの分だけ器が小さいが、まあ体格に見合ったサイズであろう。たまに体の大きさと釣り合わぬ量を馬鹿食いする奴がいるが、ルティアは別にそんなこともない。見たまんまである。
「……ふむ、五十四点」
ルティアと反対側の俺の隣の席には、出された飯を一口食べて点数を付けるという失礼極まりないことをしている阿呆がいる。店主の嬢ちゃんは見た目十代後半から二十歳といったところであるため、この馬鹿のストライクゾーンからは完全に外れているのだ。ゆえに遠慮も何もなく料理人として味の評価を下したのだろう。誰もそんなことしてくれと頼んだ覚えはないのだが。
店主の嬢ちゃんも苦笑いしながら「あまり料理上手じゃなくてごめんなさいね」と謝っている。が、エドックが幼女の料理以外に五十点越えの評価を出すことは滅多にないので、まずもってこの嬢ちゃんは料理上手な方と言えるであろう。実際美味い。ちなみに、幼女が作った料理であればエドックは例外なく百点という評価を出す。贔屓目ならぬ贔屓舌もここに極まれり。なんともブレない奴である。
「嬢ちゃん、うちの阿呆がすまねえな。こいつの言うことは気にせんでくれや、十分美味い。……さて。それで明後日だが、お前さんらはルフィ少年に会うかね?」
店主の嬢ちゃんに軽く謝ってからエドックとルティアに顔を向ける。
「逆に聞くけど、僕が幼女以外に会いたいと思っていると思うかい?」
「うむ、ならお前さんは明後日船で留守番決定な」
「な、なんて巧妙な罠なんだ……」
船番決定に打ちひしがれる阿呆。どうやらこの展開は予想もしていなかったらしい。そして、その数秒後に「まあ、村に幼女もいないし船でもいいか」と開き直る辺りも流石である。
「んで、ルティア。お前さんはどうするね?」
「さて、どうしましょう? ……そういえば、アルマさんは先ほどルフィ君のことを鍛えるかもしれないと仰っていましたが、流石にまだ幼いルフィ君に無茶なことをしたりはしませんよね?」
「……ふむ。…………ふうむ」
「……はぁ、これはついていった方が良さそうですね。私も行きます」
なんだその「困った人ですね」みたいな呆れの入った目は。俺ぁちょっと目を逸らしながら唸っただけだってのに。ルティアよ、自分が乗る船の船長のことを少しくらい信頼しようとは思わねーのか。
というかお前さん、まだ十四歳のくせに俺の保護者みてーなその物言いはなんなんでい。俺ぁ泣く子も黙る世界最強なんだぞ。山だって斬れるぞ。超強いんだぞ。海軍三大将だってまとめてぶっ飛ばせるんだぞ。ええい、ちくしょうめ。
その後、言い知れない敗北感を感じつつ俺は黙々と食事を進めた。店主の嬢ちゃんから何故か見守るような生暖かい視線を向けられていたが、それは気のせいだったと思いたい。
ただ一つ言えることは、今日のアルマ・クラストールはいつもよりちょっと静かだった。
後書き
途中まで三人称で書いてたけど、主人公のキャラに合わない事に気づいて急遽一人称へ書き直し。今後は基本一人称で進行させるつもりです。
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