美しき異形達
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第一話 赤い転校生その十七
「あと少しであの娘も」
「来るね」
「そうだと思います」
「では待たせてもらおうかな」
極めて落ち着いた声でだ、智和は言った。
「ここで」
「そうされますか」
「僕がこのクラスにいたら迷惑かな」
「いえ、それは」
男子生徒は智和の今の言葉には首を慌てて横に振って答えた。
「とんでもないですよ」
「迷惑でないんだね」
「先輩が来られるなんて」
この場合は三年生全体ではなく智和個人をさしている言葉だ。
「嘘みたいですから」
「僕がこのクラスに来ることが」
「そうですよ、先輩は有名な方ですから」
世界屈指のマンモス高校である八条学園高等部の中においてもだ、智和は相当な有名人だというのだ。
「ですから恐縮します」
「恐縮することはないよ。僕もね」
「先輩もですか」
「君達と一緒じゃないか」
落ち着いた声のまま微笑んでの言葉だ。
「一緒のね」
「そんな、先輩と僕達は」
「一緒じゃないというのかな」
「そうです、とても」
そこは違うというのだ。
「だって先輩凄く頭いいじゃないですか。それに家はお金持ちで」
「ははは、そうでもないよ」
「いえ、それは謙遜ですよ」
「謙遜ではないよ。人間の力はね」
それはだ、どういったものかと話す智和だった。
「その差は大きい様でそうではないんだ」
「あまり差がないんですか」
「そうだよ、人間は誰でもね」
それこそだ、智和だけでなくこの男子生徒も他の者もだというのだ。
「同じ様なものだよ」
「先輩と僕達もですか」
「誰が親でも。どんな生まれでも」
智和は全てを理解している、そうした口調で話していく。
「同じだよ」
「本当にですか?」
「そう、誰でも人間ならね」
変わらないというのだ。
「多少の違いでしかないよ。大事なのは心だよ」
「心が、ですか」
「若し心がおかしいとそれでよくないから」
「そこには差があるんですか」
「あるよ。けれど生まれや育ち、そして資質の差はね」
そういったものはというと。
「どうということはないんだよ」
「どうにでもなるんですか」
「僕はそう思っているよ。ではね」
「はい、あの娘ですね」
「会わせてもらうよ」
「わかりました、それじゃあ」
どのみち断ることは出来なかった、相手が先輩でありしかも学園の有名人だからだ。それでクラスの誰も言わなかった。
そしてだ、ここでだった。
その薊がクラスに来た、男子生徒はその薊を見て智和に言った。
「あの娘です」
「あの娘がだね」
「はい、先輩がお会いしたいと仰っている」
「転校生の娘だね」
「そうです」
「んっ?何かあたしの話してないか?」
ここ薊の方から言って来た。
「ひょっとして」
「あっ、この方がね」
男子生徒は薊にも話した。
「薊ちゃんに会いたいんだって」
「何か随分背の高い人だね」
「はじめまして」
智和は知的かつ穏やかな微笑みを浮かべながら薊に軽く挨拶をした。
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