精霊と命の歌
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Disc1
不穏運ぶ黒きワルツ
前書き
うーん、思ったよりエミルの出番が無かったかも……
ラタトスク、活躍するなぁ……
では、最新話どうぞ。
箱に詰められ、さらに樽へと詰められた僕達。
先ほど見た光景がショックで動けない僕を見かねて体を入れ替わったラタトスクは箱詰めにイラつきつつも近くに人がいるうちは動かない。
それから少しして来たチャンスに暴れ始めて樽から出るとスタイナーさんがいた。
落ち着いてから僕とラタトスクは再び入れ替わる。
(ごめん、ラタトスク。ありがとう)
(……今回のはしかたねぇ、許してやるよ)
僕は心の中でもラタトスクに感謝しつつビビを見る。
明らかに落ち込んでいるビビ。
一番ショックが大きかったのはビビだ。
ダガーもジタンもかける言葉が見つからず、そばにいてやろうと言う事になった。
そして、スタイナーさんにジタンが飛空挺の行き先を聞いていると遠くから何かが飛んできた。
見覚えのある黒い羽に変わったとんがり帽子。
氷の洞窟にいた奴の仲間!?
「ガーネット姫、女王陛下が城でお待ちだ!」
羽の人、黒のワルツ2号と名乗った相手はダガーを見てそう言う。
ダガーを城へと連れて行こうとする2号にダガーは反発すると襲い掛かってきた。
相手はダガーを狙わず、僕達へと攻撃を仕掛ける。
まるで瞬間移動みたいな動きをしながら攻撃をしてくる2号。
「危ない! スタイナーさん!」
「かたじけない!」
いきなり横や後ろに現れる2号からスタイナーさんを助け、スタイナーさんはビビとの協力技、魔法剣を放つもかわされてしまう。
「動きが厄介だな!」
「皆! 避けて!」
ジタンも攻撃をするもののかわされ、ビビが魔法を放つ。しかし……
「ククク! ファイアとはこうやって使うのだ!!」
2号はそう言って広範囲にファイアを撃って来た。
「うわああああ!!」
僕達は巨大な炎に巻き込まれ大ダメージを負う。
幸いダガーには当たらなかったけど、まずい……
敵が瞬間移動で何処に出てくるかも分からない、攻撃は避けられる、ダガー以外重傷。
このままじゃ、確実にやられる……せめて敵の動きが分かれば……
そんな時、ラタトスクの声が響く。
(俺に変われ!)
(策が、あるの……?)
(ある! 早くしろ! このままじゃ全滅だ!)
僕はすぐラタトスクと入れ替わると同時に敵が瞬間移動した。
それにあわせるようにラタトスクは動き、何もない所を切りつけようとする。
「そこだぁ!!」
「ぐわぁ!?」
外れるかと思われた斬撃は瞬間移動で現れた2号に吸い込まれるかのように当たった。
切りつけられた2号は再び瞬間移動で遠くに離れる。
「な、何故移動する場所が分かった……!」
「さあな! おいお前等! 俺が引き付けているうちにこれで回復しろ!!」
ラタトスクはポーチからポーションを取り出して三人に投げ、敵に突っ込む。
三人はそんなラタトスクのようすを驚きながらも慌てて投げられたポーションを受け取る。
後はダガーの回復魔法があればそこそこ傷は塞がるだろう。
そして、ラタトスクは2号に連続で攻撃を当てていく。
「崩襲脚! 秋沙雨! おらおらどうした! そんなものか!!」
「っく! 気配がガラリと変わった途端に強くなった。なんだこいつは!」
敵はラタトスクを見て動揺からか余計に攻撃が当たるようになる。
そりゃ、戦闘中にいきなり性格が変われば驚く。
……戦えない自分が情けないけれど。
もっと、強くならなきゃ……
「エミル殿! 助太刀いたす!!」
スタイナーさんが魔法剣でラタトスクの攻撃でひるんでいる2号に攻撃する。
「ぐあああああ!」
2号は魔法剣を受けた後、すぐさま瞬間移動で逃げようとするがジタンに防がれる。
「させるかよ! 今だ! エミル!」
「言われなくとも分かっている! 遊びは……終わりだ。うおおおおおお! この一撃で……沈め!! 闇に飲まれろ! アイン・ソフ・アウル!!」
ラタトスクは秘奥義、魔王獄炎波の後に続けてアイン・ソフ・アウルを使って敵にトドメをさす。
倒れた2号は霧になり、散った。
戦闘が終わった後で皆は力が抜けたみたいでビビやダガーは座り込んでいる。
ラタトスクはそれを見ながら剣を肩に置きつつポーションを使って傷を癒す。
そんな中ジタンがラタトスクに近寄り、真剣な表情でラタトスクを見る。
「お前……氷の洞窟で出てきた奴だよな? お前は誰だ? エミルじゃないんだろう?」
「何を言っておるのだこやつは! 確かに普段のエミル殿とはかけ離れているが……エミル殿には変わりなかろう!」
ジタンがラタトスクに問い、スタイナーさんがジタンに何時ものように食って掛るけれど、ジタンはラタトスクから目をそらさずにじっと返答を待つ。
ジタンの言葉から気になる事はあるけれど僕はじっと聞く事にした。
「俺はエミルであってエミルでない」
「二重人格って事かい?」
「正確には違うがそう思ってもいい」
「どっちも……エミルなの?」
座り込んでいたビビとダガーもいつの間にか近くに来て、ビビはラタトスクに聞く。
「そうだ。しかし、名は違う。俺の名はラタトスクだ」
「ラタトスク……?」
「……話はここまでだ。そう時間はないようだしこれからエミルに変わる。あまり詳しい事は聞けないだろうが質問はエミルにするんだな」
そう言ってラタトスクは僕と入れ替わった。
「瞳が変わった……エミルだな?」
「……うん」
変わってからなんとも言えない雰囲気になってしまった僕達。
どうやって説明すればいいのかな?
そう思っているとラタトスクの声がする。
(飛空挺を見ろ、そろそろ出発しそうだ。話はあれに乗り込んでからでも遅くはないだろう)
(そうだね)
「話は後でするよ。もうそろそろ飛空挺が出発するみたい」
「そうだな。でも、ちゃんと聞かせてもらうからな」
「うん」
それからスタイナーさんが飛空挺に乗せて貰える様に交渉に行ったけど、飛空挺が動き出してしまい、僕達はとりあえず飛空挺に乗り込む。
アレクサンドリア行きの船みたいだけれど、ジタンには何か考えがあるみたい。
飛空挺内。
飛空挺に乗り込んだ僕達は再び衝撃で固まってしまった。
先ほど見た人形が動いて船を動かしているのだ。
ビビが必死に話しかけてもまるでビビが見えていないかのように行動する人達。
僕達は再びビビに対する言葉を失った。
ジタンはこのままだとアレクサンドリアに船が進んでしまうし、話している時間もない事から話はまた後でと言う事になり、僕はダガーと共にビビと一緒にいる事になった。
(ビビに、なんて言えば良いのかな? こんな時、ロイド達ならなんて言ったんだろう……)
(さあな。……だが、言葉をかけずとも一緒にいてやる事で変わる事もあるんじゃないか?)
(そう、なのかな……)
一緒にいる事で、変わる事……
僕は落ち込んで下を向いているビビを見続けた。
それから少しして、人形だと思っていた人達は先ほどまでの行動と違う事を始める。
皆一斉にジタンの向かった上へと向かい始めたのだ。
僕達はその人達を追って上へと向かうと操縦席のあたりに人形のような人達が集まっていて近くに行こうとした時、一番後ろを歩いていたビビが悲鳴を上げる。
「ビビ!?」
振り向くと黒のワルツと思われる人が浮いていて、ビビが少し怪我をしていた。
ダガーが急いで傷を治し、僕がビビの前に出る。
黒のワルツ3号を名乗った敵は僕達に攻撃しようとした時、人形のような人達が僕達の前に、まるでビビを庇うように出た。
「……気にいらん。何も考えられないただの作り物が一人前に小僧を守ろうと言うのか?」
僕とダガーは今にも一人で飛び出しそうなビビを後ろに下げると人形のような人達が魔法で3号を攻撃しようとしたけれど……
3号は広範囲にサンダーを放ち、人形のような人達は吹き飛ばされて落ちていく。
樽の中にいた人達も、皆……
操縦席にいた僕達は何とか助かったけれど、あの人達は皆落ちていった……
それを見て呆然とするビビ。
「……ゆるせない。こんなこと……!!」
僕は3号を睨み、飛び出していったビビをスタイナーさんと追った。
「どうして!? どうしてあんなひどい事を……仲間じゃないの!?」
怒りから弱気なビビが3号に向かって叫ぶ。
ビビの言葉に3号はあのような奴等と一緒にするなと怒って叫ぶ。
仲間じゃないにしてもあんなのひどい!
「あんなの……ひどすぎるよ!!」
僕達は後からジタンを加えて戦闘を開始する。
するとその瞬間、ビビが光を放ちトランスした。
銀色の光に普段曲がったとんがり帽子がまっすぐになっているビビは怒りで我を失っているようにもみえた。
後の事は考えずに魔法を放っている。トランスの影響か詠唱がとても早い。
「オレ達もビビに負けてらんないな!」
そう言ってジタンが3号に切りかかる。
「くっ!?」
すると3号は空へ逃げつつ降りてこなくなった。
「あれでは攻撃が当たらない! どうすればいいのだ!」
「あれじゃあ、ビビの魔法くらいしか当たりそうにないぞ」
ジタンとスタイナーさんが攻撃すると敵は空へと逃げる。
だけど、あのくらいの高さなら大丈夫。
(お前に空中戦を挑んだ事を後悔させてやれ!)
(うん!)
「いくよ! 空牙衝!」
普通はジャンプして地面の敵に向かって衝撃波を放つ技を上空の敵へと放つ。
「ぐわぁ!」
衝撃波が命中して落下する3号に追撃を仕掛ける。
「天衝裂空撃!」
切り上げるように3号を二回突き、その後に縦方向に回転切り。
「まだまだ! 魔神閃光断!」
下に落ちる3号を再び切り上げてから切り下ろし、さらに地面に叩きつける勢いで切り下ろす。
「かはっ!?」
3号は思いっきり船に叩きつけられ、少しだけ船が揺れたけれど大丈夫。
これで、ジタン達が攻撃できる。
「ナイス! エミル!」
「さすがエミル殿! 後は任せるのであります!」
今度は空へと逃げられないようにジタンとスタイナーさんが隙無く攻撃する。
そして、いままで魔法を溜めていたビビの詠唱が終わった。
「皆! 離れて!」
ビビの代わりに僕が叫び、皆が離れた所で今までで一番威力のあるファイアが炸裂した。
3号は防御したみたいだけれどぼろぼろだ。
「おのれ……おのれ、オのれ、おのレェッ!」
狂ったように叫びだした3号は再び空を飛び逃げる。
素早い動きで船を離れていった3号をこれ以上追う事はできない。
ジタンはこれで黒のワルツは最後だと思うと言っていたけれど……
とりあえず戦闘が終わった僕達は落ち着いた。
ビビは船の端に引っかかっていた人形のような人の帽子のそばにより、僕はなんだかそんなビビを見ていられなくて船から下の景色を眺めた。
(……この高さじゃ、助からないよね)
(そうだな……運良く助かったとしても、下にはモンスターがいる。生き残るのは難しい)
(そう、だよね……)
そう思いながら見ていると後ろから音がしてそっちを向くとさっきの黒のワルツ3号が小型船に乗って追ってくるのが見えた。
(あいつ……!)
「どうしたんだ? エミル。そんなに慌てて」
「ジタン! 黒のワルツが追ってきた!」
「なんだって!?」
ちょうど操縦室からやって来たジタンに黒のワルツの事を知らせ、ジタンは操縦室に急いで戻り、僕達は黒のワルツを見た。
(いざとなったら魔物を呼ぶからな)
(分かった)
僕達は気を引き締める。
猛スピードで追ってくる3号の船は僕達の船をあっという間に追い越し、3号は船に向けてサンダーを放とうとする。
(ラタトスク!)
(いや、待て、この魔力は……!)
僕はラタトスクに叫ぶが、ラタトスクは入れ替わらない。
慌てた僕の目の前でビビが3号へと手をむけ、ファイアを放つ。
ビビの魔法が当たった3号の船は後ろへと下がったが、ビビが気を失って倒れてしまう。
「ビビ!」
僕は倒れたビビに駆け寄るも、ゲートを無理やり潜った際に船が揺れて船の外に投げ出されそうになる。
ビビと一緒に落ちそうになった時ジタンがそれを止め、何とか落ちずにすんだけれど……3号が僕達を執拗に追いかける。
サンダーを放とうとする3号に僕達は魔物を呼ぼうとするけれど、3号の手から僅かに漏れた小さな雷が船に引火。
結果、3号の船は爆発した。
そして、無事に二つ目のゲートも潜り抜けた僕達。
自業自得とも言える3号の最後に複雑な気持ちになりつつも、僕達は進む。
多くの飛空挺が飛び交う国、リンドブルムへ。
後書き
黒のワルツ2号でラタトスクが攻撃を当てられた理由は次回にて。
わりとあっさりラタトスクの事がばれてしまった……もっと引き伸ばそうかと思ったのに。でも説明はまだ。
次はリンドブルムの話だけれど……ちょっと長くなりそうだから話を分かれるやもです。
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