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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えばこんな仲直りの仕方はズルイと思う

 
前書き
月一更新。 

 
9月21日 オウカのメモリーファイル

開いた扉の先に、私の一番会いたくて一番会いたくなかった人がいた。
感情のハレーションが乱れる。

また会えた嬉しさと拒絶される恐怖。
情けない姿を見られた恥ずかしさと本当は見て欲しい独占欲。
シャワーのように体の芯を暖める幸せと、その幸せを再会によって失ってしまうかもしれないという拒絶が(せめ)ぎ合い、逃避という逃げ場に殺到した。何に逃げているのかもわからないまま、私は逃げようとした。

でもゴエモンは逃げさせてくれなかった。

「離して!!」
「ちょ、待って!」
「嫌!聞きたくないの!!」
「お、落ち着いて・・・!」

分かっている。ゴエモンは私を怖がった。大切な終いを傷つけられて起きたコントロールシステムの暴走は、私に抱かれるゴエモンにとっては何よりも怖いことだった筈だ。護ってくれるはずの私が暴走したらニンゲンのゴエモンがどうにも出来ないって情報としてインプットしてあったはずなのに。

ゴエモンはきっと怖かったはずだ。一緒にいたくないと思ったはずだ。私を遠ざけて、別の子に護ってほしいと思ったはずだ。争いが嫌いだから、争いをした私は許されない。私はきっと―――嫌われた。一緒にいられない。

でも、私の体を掴まえるゴエモンの手を振りほどくことは出来ない。

ゴエモンは優しいとかそんな人間の言語で表現することが出来ない。いつまでの、この意志がある限り離れたくなどない。ゴエモンと一緒にいると高鳴る輝かしいまでの感情のハレーションが心地よいから。だからこんなダメダメで危険で言うこと聞けない私でも許してほしい。―――大好き。一緒にいて欲しい。

でもどちらも選べない。本気で逃げることが出来ない。許してと懇願する勇気もない。だからこうしてゴエモンに捕まって、でもゴエモンが強く握りしめる掌の熱が悦びを与えてくれるのだ。
ゴエモンが空気を吸い込み、空気の振動による意思伝達のコミュニケーションを行い前兆をとらえる。
やめて。もしも―――もしも今度こそ言葉で拒絶されたら、私はきっとこわれる。
でも―――言葉にされなければ私の希望的観測はなくならない。許されるかもしれないと思い続けられる。答えを聞くことが恐怖で、耳を塞ぎたくて、でも犬の数十倍以上の集音機能を持つ私の耳はマニュピレータで塞いで大声を上げた程度では聞こえなかったことにできない。

「オウカってデンキヒツジの夢見るの?」

私の夢?ユメ?メモリーにはそんなものは存在しない。しかし、時々オートシステムによる必要のない記憶整理が勝手に行われることが最近はある。それを夢と呼ぶのなら、私は夢を見る。
でも電気羊(デンキヒツジ)?電気と羊?羊は生物であるから膜電位を持ち、それは確かに微量の電力を発生させている。だが電気と名がつくほどの電圧を放つ生物はデンキウナギに代表されるごく一部の魚類しか存在しない。だからそんな名称の生物は存在しないはずだ。
でもゴエモンはそれがまるで存在するものであるかのように私に語りかけた。ならメモリーにないだけで存在するのだろうか?それとも生物ではない?わかんない。

「デンキヒツジってなぁに?」

その言葉を聞いたときには、私の躰はもうゴエモンに抱きしめられていた。何が起こっているのか分からなくて取るべき行動の算出にエラーが大量発生する。
けれど・・・数日ぶりのゴエモンの体温。ゴエモンの脳波。心拍数。体臭。視覚情報。健康状態。前回に観測したゴエモンとの差異。そして、ゴエモンと接触することで湧き上がる、人間でいう脳内麻薬のような解析不能の感情が胸を満たしていく。思考が真っ白になっているはずなのに、思考回路中枢の発熱は急激に増加し、今までの不安は何だったか分からなくなってゆく。

―――これが、幸せってことなのかな?ゴエモンと一緒にいていいのかな?そう聞きたくて声を出そうとする私の耳元にゴエモンが囁いた。

「俺から抱きしめたのは初めてかな?」

ゴエモンが私を、抱きしめた?私がではなくゴエモンが?人間にとって抱きしめるという行為は、対象に対する好意を表現するためであって、それがゴエモンが私を嫌いになっていないことの証明であって、それでそれで・・・・・・ゴエモンは、特別に好きな人にすることだって。

特別好き。
私のことが。
一緒にいていいんだ。
暖かくていいんだ。
ゴエモンに寄り添っていいんだ。
解析不能のバグがOverheatという文字を持って私の思考を埋め尽くした。

「ふみゅぅあぅ~・・・」

未だかつてない熱暴走と安堵と、機械が人に抱いてはいけないはずの欲求にコントロールを乱された私は、そこで一度機能保全のために意識を失った。


よくわからないけれど、電気羊は幸せの青い鳥の仲間だと思う。




9月23日 山田先生の教育日記

気のせいだと思いたい。思いたいんだけど・・・ゴエモン君の話を聞いてから、どうしても小村センパイが連れていた子供たちの事が頭を離れない。

名前までは聞かなかったけど、髪の色と瞳の色は私が見た子供たちのそれと一致している。特にあの特徴的な瞳の色。だとしたら、2人を迎えに来たのはセンパイかもう一人の女の人?だとしたらどうやってそこまで?いや、そもそもそうだとしたらセンパイたちは学園に侵入するという国際的な犯罪を犯していることにならないだろうか?

センパイが犯罪者だなんて、嘘ですよね?
もしもセンパイが私の前に立ちはだかったら、私・・・学園の教師として仕事を全う出来るの?

『真耶のセンパイですか・・・相手にとって不足在りませんね!』
「既に戦う気満々ですか!?」

マリアちゃんは既に戦う気満々のようです。ドMで戦闘狂って・・・どうなんでしょうか?
私には分かりません。先輩ならきっと答えを出してくれる筈と思う事にしました。




9月19日 アートマンの走り書き

素晴らしいじゃないか。

汐と焔。予想をはるかに上回る成果だ。この二人に比べれば企業の尖兵など塵のようなものだろう。遺伝子強化試験体のような出来損ないとも違う、より完全に近い存在。

流石ウールヴヘジン唯一の成功個体と”あれ”の同類を遺伝子提供者にしただけのことはある。

ジェーンは特別だ。本来後天的な遺伝子レベルの改造は細胞が耐え切れずに細胞分列機能に異常を来して死ぬ。事実、ジェーン以外の実験個体は救助から数日中に細胞分裂を行えなくなり死亡した。かつてあそこにいた個体もだ。あれは延命措置の必要ない、与えられた総てを受け入れてなお生きながらえる存在なのだ。

あらゆる薬品を浴び、あらゆる凌辱を受け、その記憶すら弄ばれ、既に体の何所からどこまでが自分の生まれ持ったものかもあやふやになってしまうほどの継接ぎにされ、それでも尚あれは美しい。
トラッシュがイカロスなどと呼んでいたがとんでもない、あれは聖母マリアなのだ。現代の聖人だ。

その母性あってこそニヒロは彼女を受け入れたし、真田ゴエモンという化物の遺伝子も受け入れる事が出来た。

兎と同じようにゴエモンもそうなのだ。そういった類の欠陥なのだ。神に近づいた罰なのだ。故に、焔と汐は原罪を赦されし現人神に他ならない。
嗚呼、素晴らしい。我が至高の脳髄をもこの子供たちは軽々と越えてゆくだろう。出来損ないでも欠陥もない、新しい人類の幕開けだ。二人がアダムとイブになるのだ。そうと決まれば早速用意をせねばな!


・・・おや?何か用かねヒポクリット?その手に持ったゴルフクラブは?何故に額の血管を浮き上がらせているのかね?崇高なる私の耳で聞き取り、素晴らしきわが英知で理解できるよう説明したまえ。

「酒飲んだ勢いで学習装置の履修内容をロリショタ近親相姦モノに書き換えるんじゃないよ、このド低能腐れ脳ミソがぁぁぁーーーーッッ!!」

・・・ごめんなさい調子に乗りました。顔は止めてください。親権はあくまでジェーンです、ハイ。反省してますからクラブで脛をスイングするのやめてくださいヒポクリット女王様。
 
 

 
後書き
ヒポクリット・・・初台詞。ゴルフ好き。女王様の名前の通りSM女王の格好が似合いそうな女性。これでもアートマンには甘いらしいが、二人の関係を知る者は誰もいない。

アクセス解析を見てみると、6月4日に2つの作品のぺージレビューが跳ねあがってた。この小説もちょっと異様な増え方を。おかしいな、4日は何も更新してない筈なのに・・・今回はどこかのサイトに書き込みがあった風でもない。いったいこの怪奇現象はなぜ起きたんだ? 
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