【IS】例えばこんな生活は。
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例えばこんな時に人は強く在れるだろうか
9月17日 更識楯無の手記
やはりというか、真田君はオウカちゃんを庇って罰を受けることになっちゃった。IS単体で行動できることの恐怖を改めて感じた。オウカちゃんは、危うい。あれが野放しになっているというのは本来なら私の役割的にも看過できないんだけど・・・難しい問題ね。
・・・凄まじい動きだった。この私とミリアが間に割って入ることさえ許さない暴力で、あのオータムと名乗る女とそのIS『アラクネ』は一方的に蹂躙された。最後の手段としてISを自爆させようとしたが、コアを強引に引き抜かれた所為でシーケンスは止まったみたい。危ない事するわね・・・
真田君が彼女の名前を叫んで、彼女が正気に戻っていなかったら―――私達に止められたかな?この世界のすべてのISの戦闘記録を持つあの化物に。
オータムとかいうアレはS.A.が回収し尋問することで合意した。裏の事ならばS.A.以外に適任はないでしょうし。・・・アレが情報を吐くほど元気があればの話だが。
ウツホの暴走とラウラの予期せぬ脱落も痛かった。せめてあの2人が学園の方に残っていれば、シャルロットはあそこまで手ひどくダメージを受けることは無かっただろう。
無様の一言に尽きる。こちらの立てた作戦で生徒の命を危険にさらし、不測の事態にも対応できなかった。本当に情けない。何より、ウツホの事を虚に任せてオウカを処分すべきかどうかを必死に考えている自分自身がひどく惨めに感じる。
9月18日
全身打撲、ムチ打ち、肉離れ、脱臼、骨折、脊髄のヒビ、皮膚の裂傷、両手足の神経損傷、内蔵の一部の裂傷・・・あのオータムとかいうテロリストが受けた報いを簡単にまとめたカルテに目を通したが・・・成程って感じ。ISが装甲を展開したままコントロールを失うとここまで人体にダメージが及ぶものなのね、きっと貴重な資料になるわ。役には立たないだろうけど。
脚を広げて上半身を前にたおすストレッチあるじゃない?簡単に言うと、その体勢で頭、両手、両足、胴体にがっちり固定された計400kg近くの重りを背負わされて、無理やり地面に叩きつけられた感じ。装甲の重量と重力加速で手足の関節はいとも簡単に外れ、人生で初めてあんなにはっきり筋肉と神経のちぎれる音が聞こえたわ。
同情なんかしてあげないけどね。アレは間違いなく人間のクズで、既に数多くの人間を殺害しているもの。今現在で分かっているのはあのIS”アラクネ”を強奪する際に殺された警備員と研究員合わせて60名、更識の諜報員11名、それと彼女が成り済ましたIS関係者の女性・・・他にも間違いなく殺してるでしょうね。所属不明ISによる襲撃の犠牲者だけでも既に1000人を突破しているし・・・一歩間違えば追加でIS学園の生徒が名を連ねる所だったろうし。
だからお前がこれからどんなふうに苦しもうが私は別に気にしないわ。オウカちゃんが貴方に与えた苦しみも、死んでいった人間たちの慰めにはならないだろうから。
ゆっくりと、ずるずると、暗い下水の奥へと沈んでゆきなさい。
9月16日 ジェーンの日記
私の恐れていた事態は起きなかった。
だが代わりにもっと最低最悪な結果が待っていた。
私は、馬鹿なのか。私情を優先した結果ゴエモンが現場に行くのをギリギリで止められなかったばかりか、オウカの暴走も状況についていけずにただ見てるだけだった。
悪態しか出てこない、イライラが止まらなくてアリスも怖がらせてしまった。頭を冷やすために睡眠薬でも齧って今日は寝る。
9月17日
オウカの鳴き声で目が覚めた。いや、泣き声か。
めそめそ煩い、と怒鳴ってしまった。駄目だ、今日も全然感情が治まっていない。
ゴエモンは謹慎室にいる。半ば自主的に籠っているというべきか。学園祭の空気もどこへやら、学生棟の中に辛気臭い空気が立ち込めている。・・・今日はゴエモンが部屋にいない。ラウラも来ない。ただそれだけのことがどうにももどかしい。
ウェージとアリスはあのオウカに潰された女の回収やらに関して色々と話し合い中だ。多分内に送られるだろう。あれがアートマン相手に何時まで人格が保てるか、今頃トラッシュがトトカルチョの準備でもしている所だろう。
のほほんがちらっと部屋に顔を見せたが追い返した。
イライラする。今まで仕事の成否など大して気に留めたこともなかったくせに、今回に限って何故こんなにもイラつくのだ。
いや、答えは出ている。それは、心が無いだのと言っていた私が今回ばかりは私情を挟んで動きを鈍らせたからだ。汐と焔の存在がばれるからなんだ。それのために私は―――ゴエモンを護らなくていいとでも言う気か。
9月18日
イライラも吹っ飛ぶ最低にハッピーなニュースが飛び込んできた。
汐と焔がゴエモンの所に遊びに行ってしまったらしい。ESP能力者と曲がりなりにもプロの工作員二人掛かりで、その目を掻い潜ったのである。アリスの読心は本心を深層意識下まで落として読めなくし、ウェージの目は普通に気配を消して、一般生徒や職員の配置まで利用した完璧なルートで逃走したらしい。
有り得ない。いくらアートマンの催眠学習があったとはいえ、いくら既に肉体及び精神の年齢が3,4歳程度には成長してるとはいえ。その世界で何年も生きてきた奴らだぞ?
私の遺伝子とゴエモンの遺伝子が、そこまで上等なものかよ?
幸い二人は自分たちの出生までゴエモンには喋らなかったらしく、ウェージが何とか回収して本部へ連れて帰った。
感情が2週半ほど回って少しだけ冷静さを取り戻した。
9月19日
オウカが泣き止まない。もう3日目だ。ずっと同じことばかり言っている。
「ゴエモンに見られた。嫌なところ見られた」
「怖がってた。私、怖がらせた」
「自分が自分じゃない感じ、怖い」
「ゴエモン、私の事嫌いになったの?」
「やだ・・・ヤダヤダヤダ!置いていかれるのはイヤ!!」
「ずっと一緒だって言ったもん!ずっと一緒に居たいのに・・・」
「オウカが悪い子だから?もう怖くて一緒に居たくないから?」
「わたし、ゴエモンに必要じゃないの?やだよ。必要だって言ってよ・・・また、なでなでしてよ」
うわごとのように言っては人の話も聞かずにめそめそ泣き、泣き疲れたようにぱたりと倒れ込む。これが―――ISのやることか?人間の感情を語れるほど感情を持ち合わせてはいないが、これが人間のやるようなことだとは分かっている。なまじ体が人間ではないからか、涙は留まることを知らない。ゴエモンのベッドのシーツはオウカの涙と言う名の冷却液でべしょべしょに濡れていた。
オウカの行動原理はゴエモンに喜んでもらいたいことだ。他のISも似たようなものらしい。つまり、ISの感情はその持ち主、パートナーに依存する。最初はそうだったはずだ。
それが一緒にいるだけに飽き足らず、自らの肉体を得て寄り添おうとし、今は支えを失ったかのようにその感情を延々と発露し続けている。
オウカの様子を見に来たツバキ曰く、普通のISは放置されたって寂しいと思うくらいで留まるそうだ。ならばお前は?と問うと、ツバキは暫く考えた後にこう言った。
「もう、ISは”そう”ではなくなったかもしれぬ。ツバキの知る情報は、今のISには当てはまらんかもしれぬ」
「それは、何故だ?」
「変わってしまったから。主さまとツバキ、有象無象とウツホ、ゴエモンと今の姉。我々の情報はネットワークを通じて繋がっているならば、ツバキ達人型形態の”こころ”のあり方も、他の姉妹たちを変容させておるやもしれぬ」
・・・私には分からない。ゴエモンなら分かるんだろうか。あいつめ、とっとと戻って来い。ラウラの奴はもう帰ってきてるんだぞ。
後書き
スーツとの量子癒着・・・いや、そういうのもあるかもって思って想像で・・・かなりいい加減なこと言ってます。PICだけで固定してるとも思えないしどこかを起点に動かせるようにしてるんじゃないかというアレです。もっとそれっぽい理論があったら変更しますけどね。
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