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パンデミック

作者:マチェテ
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第五十一話「過去編・僅かな希望」

―――【日本支部内・地下3階 非常用通路】


ブランクとヴェールマンは、地下3階まで上がって来た。
地下6階で起きた装甲車両の爆発で、コープスウイルスは活性化したものの、漏れ出すことはなかった。
しかし、万が一の場合を想定したヴェールマンの意向で、地下3階も封鎖することになった。

「しかし……この非常用通路を見つけたのは本当に幸運だったな」

「そうですね……感染者の襲撃を避けられる上に、封鎖用の制御盤までの近道になる」

ずっと張り詰めていた緊張の糸が少し緩み、ようやく気を休める余裕ができたようだ。
しかし、2人共警戒を完全に解いていない。
ブランクは正面こそ向いているが、周囲の気配を常に探っている。
ヴェールマンは、時折左右を向いて周囲の状況を見回している。

「…………ある程度安全な場所にいても、つい周囲を見回してしまう………これは職業病ですね」

「そうだな。本部にいても落ち着かないことがたまにある」

「……………………多分、この仕事を辞めてもこの職業病は………一生つきまとって来るんでしょうね」


会話が途切れた。しばらく沈黙が続く。ただ黙々と歩き続けた。

















しばらくして、封鎖用の制御盤が見えた。

「やっとか………しかし……」

「はい………彼らを殺さないと……」

制御盤を前に2人が止まった理由。


それは…………感染した同胞達が道を塞いでいたためだった。



元兵士達は、眼や口から尋常じゃないほどの血を垂れ流し、虚ろに2人を見つめていた。

「ブランク………悲しいが、彼らには退いてもらおう」

「……了解」


「ウガァァァァァ!!」

兵士がヴェールマンのもとに突っ込んできた。

「すまない」

ヴェールマンは兵士の顔を掴み、喉にコンバットナイフを刺した。
刺さったナイフをそのまま素早く引き抜き、首に正拳突きを浴びせた。
グキャリッ と、骨が血管と共に千切れ、兵士の首が勢いよく地面に落ちた。

「ギャガァァァァァ!!」

その直後、ヴェールマンの背後から兵士が飛びかかってきた。
しかし、兵士がヴェールマンに噛みつくことは出来なかった。
噛みつく寸前に、ヴェールマンの肘が兵士の顔面に直撃し、兵士の上顎と鼻が潰れ、砕けた。

「ゥゲェアァ!?」

兵士はバランスを崩し地面にまっすぐ倒れた。

「すまないな。私はまだ死ねないんだ」

ヴェールマンは倒れた兵士の頭にナイフを突き立て、トドメを刺した。


「司令! 無事ですか!?」

離れた場所で兵士と戦っているブランクが、ヴェールマンに声をかけた。

「私は大丈夫だ! ブランク、今手伝う!」

「俺は大丈夫です! 早く制御盤を!」

ブランクの言葉に、ヴェールマンは制御盤の方を見た。
感染した兵士の姿はない。制御盤を操作する絶好の機会だった。

「(急がなくては……!!)」

ヴェールマンは制御盤に向かって走り出した。

地下3階の制御盤も、地下6階と同様、強化ガラスで覆われていた。
それを破れるブランクは感染した兵士数人と交戦している。
しかし、ヴェールマンにとってそんなことはどうでもいいことだ。

「(できるかどうか分からんが………!)」

右の拳を構えた。ブランクのように、強化ガラスを叩き割るために。
一切走るスピードを緩めず、制御盤に向かう。
そして、スピードを殺さずに強化ガラスを勢いよく殴りつけた。

ガシャン!!

強化ガラスを破ると同時に、警報が鳴った。


『封鎖信号を確認しました。300秒後に地下3階全域を封鎖します。フロア内にいる職員は、速やかに
外に退避して下さい。繰り返します。………』

「ブランク!」

「了解!」

ブランクは周りに群がっていた兵士達を次々と殴り飛ばし、ヴェールマンと合流した。
ブランクが来たことを確認したヴェールマンは、急いで非常用通路のドアを蹴破り、通路へ走った。













「司令、手が………」

強化ガラスを叩き割った右の拳は、ガラス片によって無数の切り傷と刺し傷ができていた。
無数の傷からドクドクと血が溢れ、右手は真っ赤に染まっていた。

「この程度、怪我とも呼べん。それに、お前ほどの無茶はしてないさ」

「しかし……」

「気にするな」

「………地上に出たら、治療くらいは受けて下さいよ」

「あぁ、分かった」



走り出して少し経つと、ヴェールマンの無線に音声が入ってきた。

『司令! 連絡が遅れてすみません! ご無事ですか!?』

「あぁ、なんとかな。どうした?」

『日本支部の装甲壁の破損が広がって、感染者が大勢………それに、フィリップが………』

「? なんだ?」


『……………発症、しました……』



ヴェールマンは一瞬、無線機を落としそうになった。
恐れていた事態の一つが現実になってしまった。

この事実をブランクにどう伝えればいい?

この事実を知ったらブランクはどうなってしまうんだ?



『しかし……どうもフィリップの様子がおかしいんです』

「………? どういうことだ?」




『発症してはいるんですが…………感染者と、戦っています……』


「………………は?」

『と、とにかく地上に出て下さい! 急いで!』


無線が切られた。


「どうしたんですか?」

「ブランク……落ち着いて聞け…………フィリップが発症した」

「……………………そう……………ですか」

「だが、どうもおかしい。発症したにも関わらず、感染者と戦っている、と言うんだ」

「…………? それは、どういう………」

「私にも分からない。地上に出て確かめよう。急ぐぞ!」

「了解!」


フィリップが生きているかもしれない。
そんな希望を持って、2人は地上を目指した。 
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