美しき異形達
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第一話 赤い転校生その四
「横須賀は案外坂が多くてそこを走るのも好きだったしね」
「それで棒もなの」
「やってたのね」
「そうなんだよ、しかも相手も豊富だったしさ」
このことも話すのだった。
「横須賀は自衛隊とかアメリカ軍いるだろ」
「ええ、あそこはね」
「もともと軍港だしね」
女の子達もこのことを知っていた、八条学園は経営一族である八条家が戦前から海軍、そして戦後は自衛隊と関係が深くその縁でそうしたことを教えられるからだ。
「それで自衛隊とかアメリカ軍に行ってなの」
「棒やってたのね」
「防大とかにもお邪魔してさ」
防衛大学である、他の国では士官学校にあたり幹部自衛官を育成する機関である。その場所は横須賀にあるのだ。
「それで棒術やってたんだよ」
「成程、そうなのね」
「何か横須賀じゃ色々あったのね」
「色々っていうかさ、ガキの頃から運動神経だけは凄くて」
それでだというのだ。
「そういうのばっかりやってたんだよ」
「じゃあスポーツ得意なの?」
「体育とか」
「まあ自信はあるさ」
こう笑って言うのだった。
「陸上とかもさ」
「だからこっちでもなの」
「身体動かしてくのね」
「そのつもりだよ」
「あとね。他にも聞きたいことあるんだけれど」
ここでだ、女子生徒の一人が薊にこれまでの質問とは別のことを尋ねた。その質問は一体何かというと。
「天枢さんって」
「薊でいいよ」
自分から名前で呼んでくれと返す。
「それでね」
「じゃあ薊さん」
「何だよ」
「寮に入るのよね」
「もう入ってるけれどな」
「そうよね、じゃあ実家は横須賀?」
「いや、あたしに実家はないんだよ」
実に素っ気なくだ、薊はその娘の問いに答えた。
「あたし家族とかいないんだよ」
「えっ、そうなの!?」
「八条グループの孤児院にさ、ガキの頃からいて」
孤児院で生まれ育ったというのだ。
「横須賀の方のさ。それでこっちだと棒術も部活で出来るし大学にもその技能で行けるからどうかって言われてたんだよ」
「ああ、八条大学に」
彼女達がいまいる高等部の上の学部である。日本はおろか世界でも屈指のマンモス大学でありその設備の充実で知られている。
「入るつもりなのね」
「それでなんだよ。まあ体育学科には入らなかったけれどさ」
スポーツ特待生にはならなかったというのだ。
「一つだけやってないと駄目だっていうしさ」
「棒術とモトクロス両方したいのね」
「それで普通科になったんだけれどさ」
「そうなのね」
「まあ孤児院じゃ皆と一緒で楽しかったよ」
所謂だ、不幸な生い立ちではなかったというのだ。
「飯もガバガバ食ってたしさ」
「そうなのね」
「ああ、本当にさ」
暗いものはなかったというのだ、それも全く。
「何も嫌なことはなかったよ、院長先生達もいい人だったしさ」
「院長先生さん達は今もご健在?」
「ぴんぴんしてるよ」
元気だというのだ、実に。
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