| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

路地裏の魔法少年

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第1部その3:友達思いなのはお互い様じゃね?

 
前書き
時折出て来るネタが古すぎて分からない所がある方は質問して下さるとありがたいです、と露骨なコメ稼ぎをしてみる……。 

 
 週の真ん中水曜日の出来事である。

 その日もいつもの様に学校に向かい、いつもの様に授業を受け、いつもの様に啓太の際どいボケに突っ込みを入れる作業を淡々とこなしつつ、俺は『マルチタスク』っつー自分でもビックリするくらい器用な芸当でもって対魔導師戦の『イメージトレーニング』を行っていた。

 啓太発案の謎のトレーニングによって一応の成果が出始めていたのか、俺はアイアン・ウィルを使った戦い方、つまり、槍での戦い方ってのが何となくだが分かり始めていた。
 アイツがやらせた、頭にジャン○を乗っけたすり足の練習は、どうやら俺に『重心の位置を変える事無く移動させる事』を覚えさせる為に行っていたみたいで、そのお蔭でウィルを構えた時に杭の先端をずーっと相手に向けたまま移動する事が出来るようになった。
 構えた自分の姿を鏡で見たんだが、何だか達人ぽくなった気がして気分が良い。
 啓太様々である、悔しい事に……。

 昨日はそれと一緒に『突き方』についても教えてもらったが、これもまた面白いもんで、槍ってのは「腕で突く」んじゃなくて「全身を使って突く」物であるとの事だ。
 実際にやってみて分かったのは、両手の力だけで突こうとすると真っ直ぐ突くのが非常に難しばかりでなく、大した威力を得られないという事。
 真っ直ぐ強力な突きを放つのに腕の力は必要ない、右手は腰骨から胸の高さまでコンパクトに上げるだけ、左手は追従するだけ。
 放つ瞬間までに必要なのは素早い動作と重心移動だけだ、そして突いてからの「()め」を確実に行う事。
 剣道の突きの要領に近い物があるかも知れない、門外漢だから分からんが……。

 兎も角、これだけを守って突くだけでも大分違った。
 もし、持っている得物に刃が付いていたらガキの俺の力でも大人の身体を貫く事が出来るかも知れない。
 そう思えるくらいに……。
 いよいよ俺は物騒なスキルを身に着けたものである。

 しかしまぁ、俺が突く物は敵の心臓ではないので良しとしよう。
 俺がぶち壊すのは敵の魔導師の発しているバリアやシールドといった分厚い魔力の壁だ、それに都合の良い事に魔法には『非殺傷設定』つう便利な機能がある、万が一ウィルのごんぶとな銀の杭が刺さったとしても肉をすりぬけてリンカーコアをぶち抜く程度で済まされるとの事だ。
 でも、リンカーコアをぶち壊したら確実に病院送りとの事なので、やはり注意するに越したことは無いようだな……。


 そんなこんなで俺は特訓開始3日目にして槍の使い方の基礎を覚えるに至った訳で、今後暫く放課後の練習は基礎練習をやりつつウィルを長時間保持出来るよう腕力を鍛える事が目標となる。
 なので、他の要素は授業中の『イメージトレーニング』によって補完となるのだが、これもこれで中々難しい。

 前までは「ターゲットを壊せばいい」とだけ思っていたが、あの子と戦ってからはターゲットに対して「どう避けてどう近付くか」とか「どのタイミングで攻撃を仕掛けるか」といった駆け引きを考え始め、頭の悪い俺はその都度頭痛に苛まれた。
 だが、俺の心の何処かでは「それはそれで面白い」と思っている部分もあった。


 ≪オッケー、そんじゃまぁトrrルェーニングプrrルォーグラムを始めましぉうか≫
 相変わらずウィルは「ら行」が巻き舌である、そして超絶濃ゆい。

 「ああ、いつでも行けるぜ」
 だが、人間何にでも慣れちまうもんだ。
 俺はいつもの如くネットリとしたオッサンヴォイスであるウィルに準備完了の旨を伝えると削岩機のような槍型デバイスをゆっくりと持ち上げた。

 左足を半歩前に出し、腰を落とす。
 膝と足首はバネのようにしなやかにし、ウィルのグリップはしっかりと握りつつなるべく腰の近くに据え、銀色の魔力で編まれた杭の先と目線の先とを合わせる。

 ≪訓練開始5秒前≫

 ウィルのアナウンスを聞いて俺は一旦目を閉じて深呼吸。
 肩は張らずに力を抜いて、それでも背筋はピンと伸ばし、胸を張る。

 さぁ……行くぞ俺!

 ≪3、2、1、始めぇぇ!!≫

 張り上げたウィルの声を合図に俺は「カッ!」と両目を開き、背中の魔力スラスタに魔力を送り込んだ。
 背中から魔力の塊をロケットの様に吹き出し、俺の身体が宙を舞う。
 直線だけは速い俺が仮想空間内の青空をグングン進んで行くと、目の前に幾つもの標的が出現した。

 人の形を模った黒い板は、射撃訓練などで使いそうなそれその物。
 しかしながら、魔法の世界の標的は俺達の世界の標的のさらに上を行っており、攻撃も出来ちゃう優れものだった。

 その数およそ20。
 空に浮かぶ黒い標的達は、一斉に俺の方を向くとマシンガンの様に魔弾を放ってきた。

 「複合装甲(コンポジットアーマー)展開!!」
 ≪ガッテン!≫

 俺がウィルに命令すると、左肩のアーマーから幾重もの魔法陣が出現。
 その魔法陣が変形を始めて小さな6角形のガラスのタイルの様に変化すると、合体して大きな球体を構築した。

 魔法と物理両方から俺を護るそのバリアは「ヘキサゴンプレート状に変異させた防壁を球状に組む事によって物理的剛性を高めた上で、プレート一枚単位に施した硬化術式を励起させ、共振を図る事によって見た目以上の防御力を誇る鉄壁と化す」…ってウィルが言ってたが、何を言ってるのか全く分からん。
 とりあえず、アホみたいに固いって事は分かったので良しとする。

 そんなアホみたいに固いバリアを展開した俺は、標的から放たれた数えるのも馬鹿らしく思えるような魔弾の弾幕に(おとこ)らしく真正面から突っ込んで行った。

 その瞬間、俺の目の前は嵐の中をドライブしたかのように魔弾が弾かれる光景が広り、耳には叩くべき物を間違えた鼓笛隊の如き耳障りなドラムロールが鳴り響いた。
 だが、俺の身体には一発の被弾も無い。
 全てはデッカいガラスの工芸品の如きバリアによって防がれている。

 ≪最初の犠牲者(ターゲット)まで距離20≫

 最初の弾幕を突っ切ると、目の前に前衛の標的群が立ち並んでいた。
 俺はウィルが視界に直接照射したマーキングを頼りに一番近いヤツを見極めると腰を据えて一直線。
 銀の杭を標的のど真中に向け、グリップに備え付けられたスロットルバーを思い切り握った。
 ブオオオオオンと咆哮を上げる魔導エンジンが極太の銀杭を荒々しく震わせる。

 「せいっ!!」

 俺は腹に力を入れて、最初の標的を一突き。

 向こうが展開していた防御魔法など何のその。
 杭が触れた瞬間、まるで薄氷を叩き割ったかのように粉々になった魔力の欠片が吹き飛ぶと、標的も同じ末路を辿った。

 「まずは一つ」
 標的が消滅したのを確認すると、俺は続けて奥に並ぶ標的の軍団に向かって突っ込んで行った。

 魔弾が効かないと判断した標的達の戦術AIは掃射を止め、一斉に散らばり始める。
 俺は対応の遅かった一つに目標を絞り、肉薄して一突き。
 上下真っ二つに割かれた標的がクルクルと回りながら吹っ飛んで消滅した。

 ≪気ぃ付けろぉ、rrロックオンされてんぞ≫

 ウィルが俺にそう告げると、アラートが鳴り響く。
 標的は威力の弱い速射魔法による攻撃を諦め、威力の強い誘導式の射撃魔法へと攻撃を変更していた。
 高町さんが使うディバインシューターと同じような誘導魔弾は、まるでミサイルのようだ。

 ≪防ぐか?≫
 「いいや、見てろよウィル!」
 防御魔法を再展開するか聞いてきたウィルにNOと答えると、俺は背中の魔力スラスタを吹かして更に加速した。

 目の前にグングンと迫る魔弾を良く見て…………今だ!
 俺はスラスタを急停止させ身体を捻ると再び魔力スラスタを最大出力で再点火した。
 急激な方向変換によって全身にGが加わる。
 俺は気合でそれに耐えて見せると、後方で目標を見失った魔弾が自爆していた。

 続いて3発、たて続けに放たれた誘導魔弾が迫るのを確認し、俺は同じように急激な方向変換による回避を連続で行った。
 点火、停止、再点火、停止、再点火、停止、再点火。
 右左に流れる横Gに耐えながら魔弾を全て(かわ)すと、すぐ前には魔弾を撃っていた標的が居る。

 「3つ目!」
 俺はすぐさま突きをぶっこみ、そいつを破壊した。

 ≪おいおい、今のはおじさん流石に驚いたぜ、いつ覚えたんだ?≫
 「どうだウィル、俺が夜も寝ないで昼寝して編み出したカッコいい避け方その1『ジグザグノコギリ』は!?」
 ≪お前さんネーミングセンス無ぇなぁ≫

 そうして俺は標的を破壊して行く。
 魔弾を弾き返し、躱し、肉薄し、突いて壊す、繰り返し何度も何度も…………。

 俺は段々自分が強くなっている様な気がした。
 仮想世界の中のトレーニングがリアルの世界でどれくらい通用するか分からんが、それでも俺の頭と身体には確かに『戦い方』が染み付き始めている。

 まるでスポンジが水を吸うかのように身体の中に入り込んで行く感覚(フィーリング)は、俺に興奮と喜びを与え、同時に少し不安にもさせた。

 いよいよ、俺達は人の範疇を越えつつある。
 魔法が使えるって時点で『この世界』では充分異質なんだが、問題は俺達がそれを使いこなしつつあるという事だ。
 魔法の力は絶大だ、俺達みたいなガキにアホみたいな破壊力を付与するんだから正直引くくらいスゲーと思う。

 だからこそ不安に思う。
 大人のように『自分の気持ちを我慢する事』が苦手な俺達が、本当にこんな力を持って良いのかと。
 段々魔法を使った『壊し方』ってのが分かって来て、その思いが強くなっているのだ。

 啓太や高町さんはどう思っているのだろうか。
 後で二人に聞いてみるか、多分俺がそんな事を言ったらまた「意外だな(なの)」と言ってくるに違いないが……。

 全ての標的を破壊した俺は、静かになった仮想空間のフィールド上でそんな事を考えながらトレーニングモードを終了させた。


 ◆◇◆


 それから暫く時間が経った頃である。
 授業を終えた俺と啓太は、いつも通り訓練を行う為にいつも通り人の来ない神社に向かっていた。

 俺達の家から神社までは「近くも無く遠くも無く」といった微妙な距離で、例の高級住宅街を突っ切るのが最短ルートである。
 そんな訳で、俺達は現在その高級住宅街の中をチャリで進んでいる訳なのだが、本当に高そうな家ばっかりだ……。
 ここに住んでいる人間達は一体なにをやってこんな高い家を建てられるだけ儲けたんだろうか。
 ここを通る度にそんなどうでも良い疑問が頭を過る俺は、多分一生こういった家とは無縁の生活を送るんだろうな。

 だが、悲しくなんかないもん……。
 ビバ小市民!テーブルマナーを気にしながら高級料理をチマチマ食べるよりも、ネコまんまを豪快にかっ喰らう生活の方が俺には性に合っている。
 だが、たまにはステーキとか食ってみたい。
 めちゃんこサシの入りまくった等級A5の極上霜降りとかってどんな味がすんだろう……。

 「畜生、ブルジョアどもめ」
 「何か言ったか槍一?」
 「い、いや別に、何でも無いし、別に僻んでなんかいねーし」
 「は?」

 いかんいかん、危うく思っていた事が口から出ていた。
 なるべく別の事を考えよう。
 例えば……そうだな………………そう言えばこの周りって良い車走ってるよな……。
 ベ○ツとかポ○シェとかB○Wとかゲルマンな高級車がいーっぱい駐車場に停まっている。
 親父の車なんて軽トラだぜ、ス○キのキャ○ーだぜ、ぱみゅぱみゅだぜ、仕事で使ってんだぜ、そのくせ自家用車なんだぜ。

 「あー畜生、この辺りに不発弾とか埋まってねーかな?」
 「お前さっきから何なんだ?大丈夫か頭?」
 「大丈夫だし、全然ッ!俺は至って冷静だし」
 「お、おう…」

 いかん危ない危ない危ない……。
 危うくダークサイドに堕ちる所だった。
 今度こそ別の事考えよう…………。

 と、思っていたらキングオブKYの啓太がとんでもない事を口走ってきやがった…。

 「しかしここ凄ぇーよな、ここに停まってるベ○ツ全部Sクラスだし、ベン○レーもあったし、アレは……すっげー!本物のラン○ルギーニかよ、して、こっちはラン○ア・ストラトスもあるし、モーターミュージアムかこの町は!?」

 「畜ッ生ーーーー!!!」

 世界とは往々にして不公平である。
 俺は埋まる事の無い格差って奴に溢れ出んとする己が感情を抑えきれず思わず大声で叫んだ。


 と、貧乏人の息子であるこの俺がこの世の不条理さに嘆いていると、俺達の進行方向約50メートル先に二人の女の子の姿が現れた。

 片方は見た事のある子だった。
 腕を組んで仁王立ちなんかされているその人物は、暫く前に啓太の金の珠をお蹴り上げになられた事で「俺達の中で一躍有名となった人物」で知られる『アリサ・バニングス』さん。

 そして、その隣にいらっしゃるのは…どちら様だろうか?
 紫色がかった長髪に白いリボン。
 バニングスさんとはまるで対照的な、どこかお淑やかそうなオーラを遺憾なく放射されているその人物は間違(まご)う事無きお嬢様である。
 つーか、聖祥大付属小の制服着て、この近くに住んでいて、おまけにバニングスさんと一緒にいるって時点で只者じゃ無ぇのは分かる。
 多分この子が高町さんの言っていた『月村すずか』さんなのかな?

 兎も角、進路上を通せんぼしている彼女達によって俺達はチャリを止める事を余儀なくされた訳である。
 激しく嫌な予感しかしない。

 「……待ってたわよ、アンタ達」
 第7ハッチから出現しそうな程の見事なガイナ立ちでもって俺達にそう言ったのはバニングさん。
 鋭い瞳と口角を釣り上げた彼女の表情は絵に描いた様な不敵な笑みってヤツで、俺の不安を一層引き立てる。
 スーパーイナズマキックを喰らう前の宇宙怪獣ってもしかしたらこんな心境なのかしらん?
 つーか俺としては、貴女に待たれたく無いってか出来れば会いたくも無いんですが……。

 そう思いながら俺は隣に居た啓太の方をチラリと見る。

 「ななななななななんの用でありますかな、おじょじょじょじょお嬢様がた……」
 ヤバいトラウマがプレイバックしやがってんぞコイツ。
 金的OKのムエタイの試合みたいに見事なへっぴり腰でもって、カミカミになりながら、それでも紳士的対応を持って接せんとするお前の気持ちは汲むが、それにしたってキモイを通り越して怖いぞ今のお前。

 「お嬢様じゃ無くアリサで良いわよ、アリサ・バニングス、なのはからも聞いているでしょう?」
 何故か「なのは」を強調して俺を睨み付けるバニングス改めアリサさん。
 まぁ名前は聞いてるよ、名前は……後の事は貴女がアメリカの実業家の娘さんでめちゃんこ金持ちって事くらいしか知らんけど。

 「始めまして、私は月村すずかと言います、すずかと呼んで下さい」
 「ああ、こりゃどうもご丁寧に……俺は日野槍一って言います、で、隣の過呼吸になってんのが五十鈴啓太です」
 アリサさんとは全く対照的な態度でもって自己紹介し始めるすずかさんに、俺は思わずペコペコと頭を下げながら答えた。
 何つーか本当真逆だなこの人達、と俺は思った。
 あと啓太お前ビビり過ぎ、自律神経に異常を来すなよ、まぁお前が静かな方がこの世の為ではあるが。

 「……それで、アリサさんとすずかさんは俺達に一体何用でせうか?」

 とりあえず俺はそう言って彼女達の出方を窺うことにする。
 つっても、まぁ何となく彼女達が俺達の行く手阻んできた理由に察しは付くが……。

 「それはアンタ達が良く分かってるんじゃないかしら?」
 「あー、何となくだが……高町さん関係?」
 「その通りよ」

 あ、やっぱり。
 そう言や、この子達高町さんの親友だもんね、粗方最近付き合いの悪い高町さんを怪しく思っての事なんだろうけど、一体どこから情報が漏れ出たのか……。
 俺は今日までの行動を(かえり)みて、情報漏洩に繋がりそうな事柄をピックアップしてみる。
 だが、集合場所はチョクチョク変化するし、現地集合現地解散だし、そもそも練習中はいつもユーノが対人センサーみたいに魔法を使って監視しているのに一体全体どうして彼女は俺達と高町さんに接点がある事が分かったんだ?

 「何で分かったの?」
 なので俺は正直に聞いてみる事にした。

 「簡単よ、何となくそうじゃないかと思って聞いてみたらアンタが正直になのはの名前を出しただけ。まさかこんな簡単な手に引っ掛かるなんて思ってもみなかったけど」
 自慢げな表情でそう語るアリサさん、畜生俺の墓穴じゃねぇか。
 やっぱ聖祥大付属小の子って頭良いんだな。

 「さいですか…」
 「裏が取れた所で聞くわ、アンタ達は一体なのはとどういう関係なワケ?」

 ビシッと指を俺に差してアリサさんは尋ねる。
 どうでも良いが人に指を差すのはいけない事だぞ、俺も偶にやるけど。

 「関係っつわれてもなぁ、普通に友達になったとしか言えんのだけど…」
 と、俺は平静を装って答えるが正直ヒヤヒヤもんである。

 高町さんは魔導師である事を彼女達にも隠しているとの事だし、俺達だってクラスの他の連中は然る事ながら親父や啓太の婆ちゃんにだって正体を隠しているんだ。
 ユーノも「その方が良い」って言ってるし、余計な心配をかける必要も無い。
 俺なんか親父にバレた瞬間即『解体』される。
 「ガキのくせに何しとんじゃこのボケナスがッ!!」とか言いながらスレッジ並みの拳骨が容赦なく俺の頭に振り下ろされるであろう。
 そんなの死んでもゴメンである。

 「ふぅん、友達ねぇ……その友達が、なのはと一体何をしているのかしら?」
 更に口角を釣り上げて俺にそう尋ねるアリサさんは多分刑事ドラマや探偵ドラマの見過ぎだと思う。
 犯人の追い詰め方のドSっぷりが特に……。
 くぎゅうな声とかその目とか、人によってはアレなのかも知れないが、俺にはそんなレアスキルは無いからな言っておくけど。

 「何をって……普通に遊んでるだけだぞ?」
 「普通にね…どんな?」
 「どんなって言われても……」

 参ったぞ、どうやって誤魔化そう。
 この人勘も鋭そうだし、頭も良いだろうし、正直言って口先勝負で俺が勝つ見込みは共産主義国家の繁栄並みに有り得ない。
 ここは一つ啓太に助けを求めたい所だが、大丈夫なんかなコイツ、顔が青いが……。

 (おい啓太、大丈夫か?)
 俺はとりあえず念話を送ってみる事にした。

 (……おおきなほしがついたりきえたり……すいせいかな?…いいやちがうな、すいせいはばーっとひかるもんな…)

 ……駄目だこりゃ。
 完全にカミュっていやがる。

 「黙ってないで何とか言いなさい!」
 「い、いや……ちょ…ちょっと待ってくれ」

 さーて、久々の大チンピだぞ俺。
 一体どう切り抜けようか……。

 と、俺のテンパりメーターが京急のインバータ付きモーターの音みたいにテ~レレレレ~と上昇していると、突然ポケットに忍ばせておいた俺の相棒アイアン・ウィルから念話が送られてきた。

 ≪おぉうお困rrるぃのようだなぁボーズ≫
 そういえば居たなお前、そんな所じゃ無くてすっかり忘れていたよ。

 (何とかならんかウィル?)
 ≪おじさんに幾つかグッドゥアイディーアがあんぞ≫
 (マジで!?)
 藁にも(すが)り付く思いで俺はウィルの念話に耳(?)を傾けた。

 ≪アイディーアその1ッ!嬢ちゃんと関係をでっち上げる。「もう毎日(まいぬつ)毎日(まいぬつ)バッキンガム宮殿だでウェッヒッヒ」とか、男なら一回くらい言ってみてぇだろぉい?≫
 (ボツ!)
 俺は田舎のプレスリーじゃ無ぇし、それ以前に心理的被害の規模が次元震クラスだからなそれ!
 そもそも、9歳児に下ネタを言わせようとする辺りお前本当に碌でもないオッサンだなおい。

 ≪じゃぁアイディーアその2ッ!実は嬢ちゃんじゃなくてポンコツの御主人と関係がある、お前はホモだッ!!≫
 (死ね!氏ねじゃなくて死ね!!)
 高町さんは助かるが、俺の心理的被害がM(メガ)トンクラスからY(ヨタ)トンクラスに一気に増大してんぞそれ!
 M(メガ)→G(ギガ)→T(テラ)→P(ペタ)→E(エクサ)→Z(ゼタ)→Y(ヨタ)のY(ヨタ)だかんな、恐ろしいぞ!?
 つーかお前は幼気(いたいけ)なお嬢様「お二人」を「お()たり」にさせるつもりか、何気に俺今上手い言言ったな!

 ≪……わがままだなお前さん≫
 (これから今すぐ製鉄所にでも行くか?あぁん!?)
 ≪…仕方ねぇ、アイディーアその3ッ!お嬢二人をこっちに引き込むッ!≫
 (馬鹿かてめぇはッ!?そんな事したらそれこそ高町さんに俺達殺されるぞ!?)

 コイツも駄目だ、何をしても俺がディバインバスターを喰らう未来しか想像できない。
 それともアレを防ぎきる自信でもあるのか?
 仮にあったとしてもその後俺達と高町さんの関係が東西冷戦真っただ中のしかもキューバ危機もビックリな状況にしかならんぞ?

 ≪まぁ落ち着けや、私だって考えなしにこんな事言ってる訳じゃぁ無いんだぞ?≫

 俺のデフコンがレベル2でテンヤのワンヤになろうとしているこの時にテメェはよくもまぁそこまでノホホンとしかも上から目線で構えていられんなオイ。
 一応聞いてやるがこれ以上碌でもない事を抜かすようだら学校の理科室行ってビーカーの中に王酸作ってそん中にぶちこんだるからなオイ。
 王酸の作り方知らんがワシャ本気じゃぞ、シュワンシュワンに溶かしてやるからなオイ。
 覚悟しとけよオイ。

 (何だよ、何考えてんだよ?)

 ≪いーか良く聞け、今のこの状況を良く考えてみろ、まずお前さんは基本的に嘘を吐くのが苦手なお馬鹿さんだ≫

 (よーし、よく言った、やっぱお前溶かす…)

 ≪いいから聞けっつってんだろこのオタンコナス!要するにお前は馬鹿正直だっつってんの、お前さんだって嘘吐くのに抵抗なんかあるんじゃ無ぇのか?≫

 (……そりゃ、そうだが)

 ≪だろ?しかも相手はあの嬢ちゃん達だ、すこぶrrる頭の良いだろう嬢ちゃん達に納得のいく嘘を吐く自信がお前さんにあんのか?え?≫

 (……無いッ!)

 ≪…偉そうに言うなや、まぁいい、お前さんが力不足であるこの状況を打破するのは事実上不可能な訳だ、なら啓太の野郎に頑張ってもらうしか無いんだが……今のコイツはどうなってんだ?≫

 (パプテマス・シ○ッコに連れてかれた人みたいになってる)

 ≪だろ?お前さん完全に打つ手無ときたもんだ≫

 (じゃぁどうすんだよ?)

 ≪いいか良ぉーく考えろ?相手はあの嬢ちゃんのお友達なんだぞ?それこそお前さんと啓太の関係と同じモンと考えても良いんじゃ無いか?≫

 ウィルにそう言われて俺は考える。
 確かに高町さんと彼女達は俺と啓太と同じようなモンである。
 まぁ俺と啓太はしょっちゅう「殴りあい宇宙」みたいな事になっているが、そこは男子と女子の違いなだけであって根本的には変わらん。

 俺は啓太を信用しているし、啓太も恐らく俺の事を信用している。
 啓太の身にもし何かあったら俺は絶対助けてやろうと思うし、アイツが何か悩んでいるなら話も聞いてやれなくは無い。
 秘密にしたい事があって、俺がそれを知ったとしても、絶対に他人にバラす事なんてしない。
 例え拷問されようともそれだけは絶対に守る、つーか無理に聞き出そうとするヤツをシバキ倒す。

 それを彼女達に置き換えて考えてみよう。

 答えは……うん簡単だ。
 アリサさんはめちゃんこ心配してんだ。

 そりゃそうだよな、ポッと出の俺達が高町さんと仲良くなってアリサさん達と関わらなくなったらそりゃぁ面白くないし、不安にもなろう。
 しかも相手が異性ときたらそりゃまぁ穏やかな心境じゃ無いだろう、俺達に全くその気が無いとしてもだ……。
 まぁ高町さんは可愛いか可愛くないかと聞かれりゃ可愛いだろうが、正直言って俺達と住む世界が違う人間だし?そもそも俺は高町さんの家の方達と出来れば関わりたくない。
 この前翠屋に行ったら高町さんの兄さんにスッゲー怖い眼で睨まれた時は正直死ぬかと思ったし……。
 目から殺人光線出てたねアレ。

 まぁ話を戻すと、俺が啓太の事を心配するようにアリサさん達は高町さんを心配する。
 俺が啓太の秘密を守ろうと思うようにアリサさん達は高町さんの秘密を守ろうとする。
 そういう事だろう。

 ≪どうよ、お前さんも何となく「何をすべきか」分かってるんじゃ無いか?≫

 (だけどよ、バラしちまったらアリサさんとすずかさんを巻き込む事になるんじゃね?)

 それが心配である。
 俺達は皆なし崩し的に魔導師になった訳で、自分の意志でここに居る。
 自分で言うのも何だが、それをする為の力がある。
 だが彼女達はそうもいかない、もし俺が真実を告たとして、彼女達が俺達と同じように高町さんに協力する事は不可能でろう。
 つーかむしろ危険だ、巻き込まれたらそれこそアウツである。

 俺はそう思った。
 だが、ウィルはそうじゃなかった。

 ≪お前さん、何様のつもりだ?≫

 砕けた口調から一転、今まで聞いた事の無い程の真面目な口調でウィルは短く言い放つ。
 冷徹な雰囲気を醸し出すウィルの言葉に俺は思わず背筋を強張らせると、ウィルは少し間を置いて俺に語り始めた。

 ≪お前さんが一人で何でもやるとか考えてるならそれこそお笑い(ぐさ)だぜ、他人を巻き込みたくないっつーお前さんの気持ちも分からなくは無いがよ、だがな、お前さんは何でも出来る英雄(ヒーロー)なのか、違ぇだろうがよ、私に言わせりゃ単に魔法が使えるガキだ、一人じゃ何も出来ない一端(いっぱし)のガキが出来る事なんてタカが知れてる、もっと周りを頼れ、そしてもっと周りを信用しろ、それは逃げじゃなくて信頼ってヤツだ、巻き込むとかそんな下らねェ話で奴らのハートを踏みにじるな、『覚悟』ってのは人其々あるんだぜ?≫

 いつに無くコイツは饒舌で、それでいて熱かった。

 ≪ついでに言っておくがな……良く居るんだよ、自分から「協力する」っつってくたばったヤツを「自分の所為だ」つって逃げに走るヤツ…………俺に言わせりゃアホ臭ぇ話だと思うぜ。老若男女少なからず『覚悟』ってモンがあるんだからよ、それに従ったヤツに責任を感じる事も無けりゃ、ましてや守ろうとなんて思う事も無い、守るなんて考えるならその前に襲って来る敵をブッ飛ばす事だけ考えれや、少なくとも敵をブッ飛ばす事だけは得意だぜオジサンは≫

 (あ…ああ)

 ≪別にお前さんだけの話じゃ無ぇからな、よくある話だって事だ。ちょーっと力を持っただけで勘違いしちまうヤツのな。…………確かに闘いには力が必要だろうがよ、覚悟ってのはもっと重要なんだぜ、それで戦況が覆っちまうくらいにな。……で?……どうなんだお前さんの『覚悟』の方は?≫

 所々嫌味ったらしいのがムカつく所だが、ウィルの言う事、つーかウィルの気持ちってのが何だか分かった気がした。
 「守ろう」とする気持ちは大切だ、だが守ろうとする者にも「守りたい」ものがあるし、力になりたいと思う気持ちがある。
 要するにさっきの『俺と啓太』『高町さんと彼女二人』のちょっと規模がデカくなったバージョンだ。
 互いに思っている事は一緒なんだ、だったらその気持ちを尊重するのも決して悪い事では無い。

 確かに危険かも知れない。
 でもそんな事は重々承知なんだ、それに危険な事があるのならその前に俺達がその危険をぶっ潰せばいいだけの話。

 いかにも馬鹿っぽい考え方だが、何を隠そう俺は馬鹿だ。
 嫌いじゃないぜそんな考え方……。


 「ちょっと、いつまで待たせる気なのよ!?」

 ウィルとの念話を終えると目の前に居るアリサさんは「うがーっ」と両手を上げて呻っていらしてた。
 それを宥めるすずかさんはやっぱりいい人なんだろう、つーか高町さんとすずかさんがアリサさんのストッパーなんだろうな絶対。

 「ゴメン、少し覚悟を決めてた」
 俺はそう言うと顔をアリサさんの方へ向けて彼女の翡翠のような瞳を真っ直ぐ見つめた。

 「か…覚悟って何よ一体?」
 一歩後ずさりながらアリサさんは尋ねる。
 いや、別に俺は貴方をどうこうするつもりは無いんですが……。
 そういう反応されると少々傷つきますよ俺の心が。

 という冗談は置いといて、彼女達に話そう。
 本当の事を。

 「これから、本当の事を話そうと思う……信じてもらえるかどうかは分からないが、実は俺達……」


 と、俺がいつに無く真面目な顔をして口を開いていた時にそれは起こった。

 慣れない事をしたのが理由だったら、俺は神様のケツにウィルをねじ込んでやろうかなマジで……。


 俺達の前に現れたのは一台の白いワンボックスタイプのライトバン。
 親父の会社で見かけるハイ○ースの型が一個新しいヤツだった。
 いいなぁ新しいハ○エース、荷物いっぱい詰めるし……。

 ……じゃ、無くてよ。

 俺が大事な話をしようと思っていたのに何だこの野郎と思っているのも束の間、後部のドアが勢い良く開かれるとそこから割とガタイの良いオッサン達が4人飛出し俺達の型をガッシリ掴むとそのまま無理くり車内へと引き摺り込んで行った。

 「え!?ちょ!?な、何これ!?」
 「嫌ぁッ!!離しなさいよ!!」
 「ッ!!」
 「……ふぁ?ってオイコレ何すか!?え?一体何があったの!?」

 各々が言葉を発したり発せなかったり。
 つーかお前は今まで宇宙(そら)を旅していたんだね、どうりで静かだと思ったよ、お帰り啓太。

 なんて考えてる場合(ばやい)では無いぞ!
 一体全体これはどういう事だい!?
 つーか俺達が何したよ!?
 誰か出てきて説明してくれよ!?

 俺は必至で足をバタつかせて抵抗するが、そこは大人の力、全く歯が立たない。
 あれよあれよと言う間に俺達四人はライトバンの中にぶっこまれ、バタンとドアが閉められるとそのままエンジンを呻らせて車が走り出した。


 これアレですか?
 ひょっとして、ってか、ひょっとしなくてもアレですか?

 「こ……こ……」
 ガッシリと押さえつけられながら、それでもおれは叫んだ。


 「こりゃ拉致だよ!!」

 願わくば啓太の脳裏にモジャモジャ頭の道産子タレントが浮かびますよう。
 そして願わくば行先が国内でありますよう。
 そしてそしてこのオッサン達が何者なのか分かりますよう……。

 とりあえず俺はこの三つを願いながら、頭に袋を被せられ両手両足を縛られていた。

 マジで、これから俺ら、どーなっちゃうの!?

 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧