『八神はやて』は舞い降りた
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第3章 聖剣の影で蠢くもの
第24話 リアス・グレモリーの憂鬱
前書き
・第3章開始。この章から原作と徐々にかけ離れていきます。
リアス・グレモリーは、考える。
(先日のレーティングゲームは、私たちの圧勝だった)
レーティングゲームで勝利したことで、ライザーとの婚約は解消された。
グレモリー眷属の活躍も喧伝され、実力を示したリアスにちょっかいをかける悪魔は減るだろう。
自身の眷属たち――彼女は家族のように思っている――を思い出して、笑みがこぼれる。
『騎士』木場祐斗。剣の腕は一流で、既に下級悪魔の域を飛び出ている。シグナムとの密度の高い特訓によって、一段階上の実力をつけたようだ。
『戦車』塔城子猫。無手の格闘を得意とし、ヒットアンドアウェイ戦法でトリッキーな戦いを好む。彼女も、並の下級悪魔が束に掛ろうと負けはしないだろう。
『僧侶』アーシア・アルジェント。戦闘は不得意だが、希少な回復系統の神器『聖女の微笑』を持つ。戦略的な意味は計り知れない。
『女王』姫島朱乃。遠距離タイプで、抜群の攻撃力、せん滅力を誇る腹心。本気を出せば、雷に光の力を乗せて戦える堕天使のハーフ。『爆弾王妃』を相打ちにした実力は本物だ。堕天使の力を嫌悪している点が難点か。
そして――『兵士』兵藤一誠。彼は、二天龍の魂を宿す神器『赤龍帝の籠手』をもち既に禁手化に至る。潜在能力は一番かもしれない。
彼を含め、一人ひとりが高い実力をもつグレモリー眷属の評判は、うなぎのぼりだ。
(いまの状況――破談に持ちこめたのは、部室で啖呵をきってくれた一誠のおかげよね)
ライザーとの一騎打ちでは、準備万端の彼と戦い、善戦して見せた。
禁手化の時間が延びれば、おそらく勝つのは一誠だろう。
不死身を打ち破ることはできずとも、体力勝負になれば、一誠に分がある。
『赤龍帝の籠手』といった特に強力な神器は、神滅具と呼ばれる。
文字通り、神すら殺す性能をもった神器だ。
その使い手を眷属にもつ彼女は、高く評価されている。
「兵藤一誠、か。一騎打ちの姿は、かっこよかったわね」
自然と口がほころぶ。リアスの身を案じ、ライザーに啖呵をきり、正々堂々と戦って見せた。
『赤龍帝の籠手』の性能に甘んじることなく、短期間で禁手化を果たし、見事に扱いこなしている。
敗れたとはいえ、勇ましく戦う姿は、彼女の心を揺さぶっていた。
去り際には『部長を守れるくらい強くなってみせる』と、愛の告白まがいの台詞まで残した。
龍の因果は戦いを呼び寄せるという。そして、女も。
きっと、彼は望み通りハーレムを形成するだろう。赤龍帝にはそれだけの力がある。
(認めましょう。たしかに、私は、一誠に惹かれている)
彼の自宅に突撃して、両親に挨拶するくらいはしただろう――本来なら。
望まぬ婚約は解消された。実力も示した。
だが、現実として、彼女の燃え上がりかけた恋心は、沈静化している。
なぜなら、恋心を塗りつぶすだけの大問題が眼の前にあったからだ。
「『夜天の書』か。はやてとの付き合いも長いのよね。もう、7年は経ったかしら」
リアスとはやては、サーゼクスを通じて早くから出会っていた。
第一印象は、「普通の女の子」だった。
はぐれ悪魔に両親を殺され、たまたま宿していた神器に命を救われた少女。
ちょうど9歳の誕生日だったと聞いて、思わず同情したことを覚えている。
1つ年下の彼女を、リアスは出来る限り気にかけ、仲良くなろうとしていた。
しかし、はやてとの距離はなかなか埋まらず――いまだにどこか壁を感じさせる。
彼女がリアスを嫌悪して避けているわけではない。
いつもクールだが、礼儀正しく接していた。
恩義を感じ、あれこれと協力を申し出てもくれた。
(一見すると深い仲にみえる。でも――)
長いつきあいのリアスだからわかる。
はやては、気さくに付き合っているようで、一線を踏み越えることは決して許さない。
未だ、グレモリー家の「客人」という立場を崩していないことからも、その姿勢は明らかだ。
「今までなら、問題なかったのよね。けれど、レーティングゲームで注目を浴びてしまった。私でさえ、あそこまで強い力を持っているなんて知らなかった」
明確な所属を明らかにしていない強い力を持った存在――脅威を覚えても仕方がない。
仮に、天使や堕天使の陣営に組みすれば、大きな障害となるだろう。
だからこそ、彼女の兄サーゼクスは、魔王として庇護においたのだから。
決して善意のみからではない――悪意のみでもないが。
「実際、不死身であるはずのライザー・フェニックスを打ち破った」
彼女のオリジナル魔法だという闇の魔法。
攻撃魔法をその身に取り込むという狂気の魔法だが、その分性能も段違いだ。
レーティングゲームで見せた氷結魔法の連打は、上級悪魔でさえ再現不可能だろう。
ライザーは、以前とは見る影もなく意気消沈していると聞く。
不死性ゆえに、どのような攻撃をくらっても平然としていられた。
本物の「死」を体験したことで、自信を喪失したのだろう。
絶対の自信をもっていた「不死性」が破られたのだから、無理もない。
(いい薬になったでしょうね。慢心さえ捨てれば、彼の実力は本物よ)
観戦に来ていた他の上級悪魔たちも、多かれ少なかれ驚愕していた。
予想以上の力をもった『夜天の書』の存在が、公に曝されたのだ。
神滅具にも、匹敵する可能性のある新たな神器の登場。
その所持者である「八神はやて」を巡って議論は紛糾した。
『なぜ、彼女の力を隠していたのか』
争点は、その一点に尽きる。
矛先は、決定を下したサーゼクスに向けられた。
サーゼクスは――
『八神はやては、グレモリー家の客人として、長い間協力関係にある。他勢力への情報の漏えいを恐れて公にはしていなかった』
――と答え、弁護した。
結局は、客人という立場ながらも、取り込みに成功している(ようにみえる)ことで、リアスに任せることになった。
一番親しい仲にあるリアスが選ばれたのは、自然な流れと言える。
彼女が責任をもって監視・保護することで、とりあえずは様子見することになった――問題を保留にしたともいえよう。
――――謎の神器『夜天の書』
本型の神器で、持ち主に強大な魔法の力を与えるという。
その力の一端は、合宿とレーティングゲームでみせられた。
精神世界での修行を可能とする『幻想世界』や『闇の魔法(マギア・エレベア)』など、様々な魔法。
合宿で一度だけ放たれた『デアボリック・エミッション』という名の魔法もすごかった。
彼女を中心にすべてを破壊する黒球が広がる様は、恐怖とともに思いだせる。
本来はこういった広域殲滅魔法を得意としている、とは彼女の談である。
魔法の力だけでも驚異的だが、それだけではない。
夜天の書にはとんでもないおまけがある――それは、5人の騎士。
リインフォース、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。
リインフォースは、はやて同様後方からの援護を得意としており、はやての補佐としての役割をもつ。彼女から戦術面で多くのことを教わった。
シグナムは、悠斗を超える一級の剣士。
ヴィータは、小柄な身体に似合わず子猫以上のパワーをもつ。
シャマルは、アーシアのように治癒を得意とする。
ザフィーラは、リアスの消滅の魔力すら防いで見せた。
一人一人が超一級の実力者ぞろいの八神家のメンバーの行動は、否が応でも注目を浴びざるを得ないだろう。
今後この神器を巡って様々な出来事が起こるだろう。
それは福音であるかもしれないし、災禍であるかもしれない。
そもそもこれだけ強力な神器が、いままで見つからなかった方がおかしいのだ。
リアスなどは、神が新しく作った神器なのでは?と単純に思っていたが、兄のサーゼクスはその考えを一蹴した。
新しい神器ではありえない、と。
その態度に違和感を覚えて、理由を追及したものの、歯切れ悪くいなされただけだった。
懸念はある。
いままで、はやてたちは、つかず離れずの距離を保っていた。
そんな彼女たちが、積極的にリアスに協力――――介入している。
彼女たち八神家の面々が、何を考えて方針を変えたのか。
『アーハッハハハハハハ!ざまあないな焼き鳥!お前ごときがボクに相対するなんておこがましいんだよ!ククク、アハハハハハハハハッ!!!』
思い出すのはレーティンゲーム最後の光景。
ライザーを打倒したはやては哄笑していた。
勝ったのだから嬉しさを表して当然だが、その姿を見て悪寒を覚えた。
狂ったように笑い声をあげる姿は、普段のクールなはやてとはかけ離れている。
何より異様だったのはその目だ。
光を映さない目にはどす黒い感情が渦巻いていた。
(ライザーのことを嫌悪しているのは、わかるけれど……あそこまで豹変するほどかしら)
普段の凛々しい姿を捨てて、高笑いするはやてに、疑問を覚える。
レーティングゲームの前に、ライザーとはやてが会ったのは、部室での一度きり。
確かに、先に挑発したのはライザーだが、それとてありきたりなものだった。
彼の挑発のせいで、はやてはレーティングゲームに参加することになったが、リアスの目には、その状況さえも、楽しんでいるように見えた。
いや、実際楽しんでいただろう。
強化合宿でもノリノリでグレモリー眷属の訓練に参加していたのだから。
(いずれにせよ。はやてたちとは、今まで以上に親しくしないと駄目ね)
後書き
・狂喜する主人公。主人公的には、わーい勝ったぜ!くらいにしか思っていません。
・ベルカ式が全然活躍していない……だと!?これから活躍します。たぶん。
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