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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その十二

「海のど真ん中とか」
「それはないわよ」
「ないのね」
「だってそれじゃあ妖怪さんの中にはね」
「お水の中で生きられない人がいるから」
「そう、それでね」
 海の真ん中に出ることはないというのだ。
「普通にどの妖怪さんや幽霊さん達が行き来出来る場所よ」
「そうした場所に出るのね」
「絶対にそうだから」
「そう、じゃあね」
 愛実は聖花のその言葉を聞いて幾分落ち着いた、それでこう言った。
「いいわ」
「それじゃあね」
「うん、今からね」
「三十秒切ったわ」
 十二時、まさにその時までだ。
「あと僅か」
「泉までね」
 この時も二人で言った、そして。
 二人はお互いの手を握り合った、その握る手の強さはこれまでより強かった。そしてその手を握り合う中で。
 十二時になった、すると。
 部屋の中、煉瓦で造られ部屋の端に時計を操縦したり調整をする機械が暗闇の中に見える部屋の中において。
 淡い青の光が輝いた、光は部屋の中全てを包み込み。
 それが消えた時だった、二人はある場所に出ていた。そこは。
 駅だった、学園の最寄りの駅である八条鉄道の八条駅だ。JRの京都駅、私鉄である近畿日本鉄道や地下鉄の駅等も合わせただけの巨大な駅の七番出口、そこからすぐに八条学園に行ける場所に二人はいた。今は十二時であり丁度駅も活動を終えたところだ。周りの人はかなり少なくなっていて駅前の店もコンビニや居酒屋、カラオケボックス以外は閉店している。
 その駅前に出てだ、愛実は言った。
「ここだったのね」
「そうね、ここだったのね」
 聖花も言う。
「何処かって思ったけれど」
「うちの学園のね」
「すぐ傍だったのね」 
 二人は後ろを振り向いた、そこにだった。
 八条学園の正門を見る、その門を見てだった。
 聖花はあらためてだ、愛実に言った。
「多分ね。学園は結界があるから」
「妖怪さんや幽霊さんは普通には学園には入られないから」
 ただ一度入れば学園の外にも出入り出来る、それが出来るのは結界にその心の善悪を認められるからであろうか。
「ここから入ってだったのね」
「そうみたいね」
「それでここから出ることも出来る」
「そういうことね」
「何かね」
 聖花はここでだ、愛実に微笑を向けてこう言った。
「わかればね」
「かなりね」
「うん、かなりね」
 まさにだというのだ。
「あっさりしてるっていうか」
「何でもないわよね」
「学校のすぐ傍に出るなんてね」
「もっと他の場所に出るかって思ったけれど」
 それがだったのだ。
「すぐ傍に出てね」
「歩いて行ける様な場所で」
「拍子抜けっていうか」
「そうなったわね」
 こう二人で話すのだった、そして。
 愛実は八条駅、コンクリートと鉄筋で造られた何処か新幹線の駅の外装を思わせるその駅を見上げてだ、聖花に言った。
「駅、いつも見ている駅だけれど」
「そうね」
 二人は電車通学ではないが駅の前の商店街にはよく行く、そして時にはこの駅から電車に乗るからだ。 
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