八条学園怪異譚
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第六十話 時計塔その二
「ほら、炒飯を作る時も胡麻油とサラダ油じゃ味が違ってくるじゃない」
「うん、オリーブオイルでもね」
それぞれの油で味が変わる、炒飯にしてもそうだ。最近ではマヨネーズを使うというやり方もある。マヨネーズを使った炒飯は味にコクがある。
「違うわよね」
「それでなのよ。値段やメーカーは同じでもね」
「使う油ね」
「そう、食堂というか街のお店ってあまり高い素材使えないじゃない」
「素材第一だけれどね」
「何処かのグルメ漫画みたいにはいかないのよ」
オールバックで店の中で喚き散らす営業妨害を常としている新聞記者が主人公の漫画だ、何故か登場人物の殆どが異様に気が短くしかも野蛮人ばかりだ。原作者の日頃の行いが出ているかどうかはわからないが。
「あの漫画よりは料理を作るお父さんの漫画の方がね」
「お店のお料理にはいいわよね」
「そうなのよね、若し素材が高かったら」
「お料理の値段も高くなるからね」
さもなければ採算が取れないからだ、資本主義の中では採算が取れないとどうにもならない。新聞記者の世界は採算を無視しても平気だろうが。
「高いとね」
「食堂で高いってどうなのよ」
「パン屋でもよ、そこは」
「だから、素材は安くよ」
「安くてしかも味がいい」
「尚且つ早いね」
早い美味い、安いである。これが本当の庶民の味であり『庶民』、マスコミが言うものとはまた違うのである。少なくとも会社の金で食べ歩き営業妨害をしても結託している刑事が急に出て来て営業妨害を守ってもらえる特権階級とは違う。
「それが第一じゃない」
「だからよね」
「そうよ、若しそんな記者がうちのお店に来たら」
その時はとだ、愛実は目を怒らせて言った。
「即刻携帯で喚いている場面撮ってユーチューブとニコニコに流してやるわ」
「あと対立している新聞社や出版社にその動画メールで送ってね」
「倍返しよ」
まさにそうしてやるというのだ。
うちのお店でそんなことしたらね」
「そうした方がいいわね」
「私そういう時は泣き寝入りなんてしないから」
自分の家の店が関わっているとだ、愛実はそこまでするというのだ。
「倍返しじゃ済まないかもね」
「ははは、その意気だぞ」
「お店はそうして守るのよ」
愛実も両親も末娘の言葉に笑ってよしと言ってきた。
「やっぱりな、そんなことをする奴はな」
「頭使って仕留めないとね」
「どうやら愛実も強くなったな」
「これならお店を任せられる日も近いわね」
「だって、お店がうちのお仕事じゃない」
つまり生きる糧だ、だからだというのだ。
「そこでそんなことされたらたまったものじゃないから」
「倍返しだな」
「そうしてやるのね」
「そうよ、十倍でも百倍でもね」
営業妨害には返すというのだ、愛実は頭の中でそのオールバックのゴロツキの様な主人公の目に犯罪者に行う黒い目線を入れつつ話す。
「返すわよ」
「そうだぞ、その意気だ」
「タチの悪い人にどうするかもお店をやっていくことで大事だからね」
「愛実も強くなって何よりだ」
「頼もしくなってきたわね」
「そうですよね、愛実ちゃん凄く強くなりました」
聖花から見てもだった、愛実は強くなった。それでこう言うのだ。
「じゃあ私も法律のこと勉強して」
「そういう相手に勝つ様になるのね」
「うん、そうなるわ」
こう愛実に答える。
「それでお店やっていくから」
「頑張ってね、聖花ちゃん弁護士になるのよね」
「お店第一だけれどね」
それを目指しているというのだ。
「やっていくわ」
「法学部ね」
「そう、八条大学法学部受けるから」
そこで法律を学び弁護士になるというのだ。
「頑張るわ、お勉強もね」
「ううん、私は法律とか苦手だから」
愛実は店のことに関する法律は覚えようと思っている、しかしそこまではというのだ。話しながら様々な野菜をこれでもかと入れた鍋の中身の様な味噌汁を飲みつつ言う。
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