少年少女の戦極時代Ⅱ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
オリジナル/未来パラレル編
第1分節 衝撃の朝
目が覚めたら知らないベッドの中で、憧れの人の腕枕で寝ていた。
「~~~~っっ!?!?」
室井咲は飛び起きた。声にならない悲鳴を上げてベッドから飛び出す。
ベッドの下に隠れてこそーっと目から上だけを出し、腕枕の相手を観察する。
絶望的なことに、葛葉紘汰で間違いなかった。幸いなことに服は着ていた。
何がどうなって彼とこうなったのか。前夜の記憶が全くない。そもそもここはどこなのか。紘汰のマンションだろうか。
「ん~…あれ、さきぃ…?」
猫のように全身の毛という毛が立ち上がった気がした。猫耳と猫尻尾があればそれもびーんと立っていたに違いない。
(紘汰くんがあたしの名前呼んだ! てか呼び捨てにした! 何で!? もーわけわかんない~!)
紘汰が目元をこすりながら起き上がり、咲のほうを向いた。紘汰はそのままあぐらを掻き、一つあくびを零した。
「おはよ。どうしたんだよ、そんな貰われてきたばっかの猫みたいなとこにいて」
「あ、あ、あの、あの…っ」
「昨日のことなら俺気にしてないぞ。仕事の失敗なんて誰にでもあることだし。ザックはああ言ってたけど、いざとなればまた俺がフォローするからさ」
「え? え、へあ?」
咲を猫みたい、と表現した紘汰は、尻尾を振る犬のように四つん這いでベッドを進んで、咲の顔を「ん?」と至近距離で覗き込んだ。咲は仰天して後ずさった。
真っ赤になって口をぱくぱくさせていると、視界の端に光るものが映った。
反射的にふり返る。小さい姿見らしきものが壁に立てかけられている。
らしきもの、というのは、姿見に映った姿は室井咲とはかけ離れていたからだ。
動くたびに短い黒髪がさらさら揺れる。キャミソールとショートパンツ姿で姿見に映る自分は、咲の中では自分ではなかった。くびれた体。控えめながら膨らんだ乳房。長い腕足。大きな掌。何より、齢を重ねた顔立ち。
――全てが咲に、室井咲は自分で自覚する11歳のコドモではないと突きつけていた。
「これが……あたし?」
咲は喉を押さえた。声も幾分か低くなっている。
「なあ咲、さっきからどうしたんだよ」
紘汰が咲のすぐ横まで来た。紘汰を見上げる。さっきは気づかなかったが、所々が咲の知る葛葉紘汰と異なる。端的に言えば、歳を取っている。
咲は自分の頬を抓った。痛かった。
「――紘汰、くん」
「あのー、咲サン。さっきから付き合う前の呼び方してるの、地味にイヤガラセだったりする? 俺何かした?」
「今日、西暦何年何月何日?」
紘汰は首を傾げたが、ベッドからスマートホンを取り上げて見た。
「えーと、2023年の2月23日」
咲はへなへなとその場に座り込んだ。
ページ上へ戻る