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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第69話 笑う棺桶

 
前書き

 

 

~第19層・十字の丘~

 この場所には、彼女の、ギルド《黄金林檎》のリーダー グリセルダの墓がある。
 生前……彼女が好きだった景色だったと夫であるグリムロックがそう言っていた。だからこそ、ギルドのメンバーはこの場所に彼女の墓を作ったのだ。

 だが、その大切な場所で、大切な人が眠っているその場所で、最悪の出来事が起こっている。その場所には倒れ付すシュミット……そして、突然の事で動けないカインズとヨルコ。

 その3人に迫る魔の手。

 有る意味……ボスモンスターよりも仇敵である存在。

 SAO最悪のギルド《殺人ギルド 笑う棺桶》

 その幹部達が何故かこの場所に現れたのだ。
 攻略組であり、DDAの守備隊リーダーのシュミットは勿論全プレイヤーの中でも、トップクラスの実力者の1人だ。
 その彼をを動けなくしたその武器の正体。それは、毒のダガーによる一撃だった。

 それを操る毒ダガー使い《ジョニー・ブラック》


 そして、動く事が出来ないヨルコとカインズ2人を牽制する男。

 針使い≪赤眼のザザ≫

 そして何よりも、最悪なプレイヤーがこの場に君臨していた。倒れ付すシュミット、横目で確認したその姿。
 麻痺で喋れないが内心の絶叫を裏切るように……≪それ≫は近づいてきた。膝上までをつつむ、艶消しの黒いポンチョ。目深に伏せられたフード。そして何よりも特徴なのが操る武器。まるでそれは中華包丁のように四角く血の様に赤黒い刃を持つ肉厚の大型ダガー。

(……PoH……!)

 シュミットは……その絶望的な名前を呟き……絶望に彩られた。殺人ギルド笑う棺桶の首領であり、その象徴。SAO全プレイヤーが畏怖するとも言われる男。

プレイヤー名《PoH》。


 この殺人ギルドが出来たのはSAOが開始したその1年後の事だった。
 それまではあるいは少人数のプレイヤーを大人数で取り込みコルやアイテムを強奪するだけだった。犯罪者プレイヤーの一部がより過激な思想の元に先鋭化した集団。それが、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》へと派生していったのだ。

 その危険な思想。
 それは《デスゲームならば殺して当然》と言うものだった。

 この平和な現代日本では許されるはずも無い《合法的殺人》それが、このSAO、アインクラッドでなら可能となる。ならあらゆるプレイヤーの体は現実世界では完全ダイブ中、無意識状態。本人の意思では指一本すら動かせない。そして……直接手を下すのは自分達じゃない。

――……ナーヴギアが、《茅場晶彦》が、殺すのだ。

『――ならば、殺そう。ゲームを愉しもう。それは全プレイヤーに与えられた権利だ』

 そういった、劇毒じみたアジテーションによって少なからぬ数のオレンジを誘惑、さらには洗脳し狂気的なPKに走らせたのがこの《PoH》だった。



「WoW………。確かに、こいつはでっかい獲物だな。DDAのリーダー様じゃないか」

 PoHの表情はフードに隠れて見えない。それが一段と不気味にさせられる。

「さぁて、イッツ・ショウ・タイムっと言いたいことだが……どうやって遊ぼうか?」
「へへっあれ! あれやろうよヘッド!」

 即座にジョニー・ブラックが甲高い声で陽気に叫んだ。

「《殺しあって生き残った奴だけ助けてやるぜ》ゲーム。まあ、この三人だとちょっとハンデつけなきゃっすけどね~」
「おいおい、ンな事言って、お前この間結局残った奴も殺したろうがよ」
「あ、あーっ!それ言っちゃゲームにならないっすよ!ヘッドぉぉ……」

 それはまるで緊張感がないやり取り。だが、その内容はおぞましいものだった……。
動けないシュミット。その鎧は確かに現時点で高レベルの《フルプレートアーマー》だ、生半可な攻撃は一切通用しない。

……だが、PoHの装備しているそれは現時点での最高レベルの鍛冶職人が作成できる最高級の武器を上回る性能を持つモンスタードロップによる武器。そう……《魔剣》と呼ばれるものだ。

 その魔剣と呼ばれる武器ならば、そのシュミットのアーマーを容易く貫くことができるのだ。
そして、何よりも動けない以上、抗う術が全く無いのだ。

 その凶刃を手に持ち近づくPoH。それに続いて……ザザ・ジョニーが続く。

 シュミットは、死が近づいてきたのを感じた。

 だが、その時だった。

 主街区の方向から一直線に近づいてくる白い燐光だった。小刻みに上下する光が闇夜に溶ける様な漆黒の馬の蹄をつつむ冷たい炎であると見て取れたのは数秒後だ。
 馬の背には、これも黒一色の騎手の姿がある。その姿を見た笑う棺桶のメンバーは皆、数歩下がる。
その直後、いっぱいに手綱を引いていた騎手。その後は格好良く、着地するものと思われていたのだが……。

 馬から飛び降りるのを失敗して、思いっきり尻餅をついていた。

 それと同時に、「いてっ!」っと毒づいていた。何とも格好のつかない姿だが、とりあえず、彼は腰を摩りながら立ち上がった。次いでヨルコとカインズを見て緊張感の無い声を出した。

「ぎりぎりセーフかな。ここまでのタクシー代はDDAの経費にしてくれよな。あの馬は馬鹿高いんだ」

 この世界アインクラッドには所持アイテムとしての騎乗動物は存在しないが、一部の町や村にはNPCの経営する厩舎があり、そこで荷物を運搬する為の牛などが借りる事ができる。だが……乗りこなすのにはかなりの高度なテクニック要する上にその使用料金は馬鹿高い。だから、使おうとする者はそうそうはいない。
 シュミットは、つめていた息をゆっくりと吐き出す。そして、この場に現れた、闖入者――攻略組ソロプレイヤー《黒の剣士》キリトの顔を見上げた。

 キリトは馬を回頭させるとその尻をぽんと叩いた。それがレンタルを解除させる操作だ。その瞬間、忽ち馬は主街区方向へと立ち去っていった。

「……よう、PoH。久しぶりだな。まだその趣味悪い格好してんのか?」
「……貴様にだけは言われたくねえな」

 答えたPoHは隠し切れない殺意を孕んでいる。

「ンの野郎……! 余裕かましてんじゃねーぞ! 状況解ってんのか! テメー1人でオレ達3人を相手にできると思ってんのか!?」

ぶん!っと毒ナイフを振り回す配下を左手で制し、PoHは右手の肉切り包丁の背で肩を、とん と叩いた。

「こいつの言うとおりだぜ? キリトよ。変に格好良く登場したのは良いけどな、いくら貴様でのオレ達3人を1人で相手できると思っているのか?」

 そして、ザザもジョニーブラックに続いて威嚇をしていた。シュミットは辛うじて動く左手を握り締める。状況はまさにPoHの言うとおりだ。
 如何に、攻略組でもトップクラスの戦闘力を誇るキリトと言えども、殺人に特化したメンバーが揃っている笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の幹部3人を纏めて倒せるわけが無いのだ。
 
 だが……、必ずしもそうではない。

「きりと……なぜ、白銀を……つれッ……てッ……!?」

 シュミットは、麻痺で動けない身体を必死に動かし、口元さえ動き辛い為、必死にそう言っていた。あの時、確かにあの2人は一緒にいた。

 何故、あの男を連れてこなかったのだろうかと。

 連れてこなかった訳はわからないが、それは致命的だと思えていた。

 あの2人が強力をすれば、単純なプレイヤー1+1じゃない。その戦闘能力は2倍とも言えない。

 5~10倍、否それ以上に膨れ上がると言われている。事、BOSS攻略戦の間でもそれは有名な話だったからだ。

「まぁ、確かに無理だな。解毒ポーションも飲んできたけど。確かに≪1人≫なら……な」

 キリトはにやりと笑った。明らかにその表情には余裕が見られた。絶望的な状況にも関わらずだ。

「何ィ?」

 PoHはその言葉に不快感を覚えていた。

(――……この顔、ハッタリじゃない。)

 そして、そう直感した。

「……それにさ、前ばかり気にしちゃ駄目だな? ラフコフの皆さん。……もっと怖いモノが、直ぐそこまで迫ってるんだぜ? ……そう、すぐ後ろにな」

 キリトがそう言った瞬間だった。
 なぜ、今の今まで判らなかったのだろうかとも思える様な感覚に襲われた。そう、全身を貫かれるような感覚に3人は襲われたのだ。

「「「ッッ!!」」」

 3人……そう、それはBOSSであるPoHも例外じゃなかった。反射作用。体の反応に任せて振り返った。

 そこには、倒れ付すシュミットに解毒結晶を掲げて、使用する者がいた。。
 その男は、あたりはまだ闇に近しい薄暗さだと言うのに、はっきりとその輪郭が解る。突出しながら現れたキリトとはまるで 対照的なその姿。
 闇夜を照らすかのような、その姿だったが、それこそがPoH達には死神に見えていた。白い……死神に見えたのだ。

 自身のギルドの名前は≪笑う棺桶≫。
 どちらかと言えば、死神の名に相応しいのは自分達だ。何よりも、その名を関するプレイヤーもいる。……だと言うのに、それでも、死神を彷彿させるその姿をしていたのだ。
 


「てめぇは……白銀……ッ!!」

 そう、それは笑う棺桶のメンバーにとっては忌々しい存在だった。
 あの攻略組との初めての戦いの時……笑う棺桶の攻撃部隊のメンバー壊滅の一手をしたのは正に目の前のこの男の所業だったのだ。

 その男。そう、《白銀の剣士》リュウキだったからだ。

「……あれだけは、オレのミスだ。……あの時、迷わず真っ先にお前を始末しておくべきだったな。PoH……」

 リュウキは、シュミットに解毒を施した後。徐に立ち上がった。


 対照的な色の異名を持つ2人。そして 殺人ギルド 笑う棺桶の3人。彼らの因縁、その始まりはあの大規模戦闘からだった。

 
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