| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九十一話 戦いでも得られないものその十

「笑顔を永遠に覚えておきたいから」
「だからなのね」
「うん、僕は働くよ」
 そうするというのだ。
「幸いもう就職先も決まっているからね」
「ではそのお金で」
「家族に色々と買って」
 そしてだというのだ。
「それでも笑顔を見たいんだ」
「貴方にとってお金はそういうものなのね」
「そんなにいらないよ、僕自身はね」
 あくまでだ、彼に限ってはだった。
「けれどね」
「家族には使うのね」
「家族もささやかなだけしかいらないっていうけれどね」
「無欲なのね」
「そうなんだ、皆ね」 
 コズイレフに限らず彼の家族もだというのだ、彼等は無欲だというのだ。
「ロシア人らしくね」
「ロシア人は無欲なのね、聞いているわ」
「そうなんだ、家族も周りの人達もね」
 その彼等がだというのだ。
「皆無欲だよ」
「親切で素朴、そして無欲ね」
「ロシア人の美徳だよ」
 無論そうではないロシア人もいる、その辺りは人それぞれだ。この場合はロシア人の国民性としての話である。
「だから余計なお金は」
「どうするのかしら」
「寄付しようって思ってるよ」
「貴方と家族に必要なだけあれば」
「うん、いいから」
 余計な分はというのだ。
「孤児院やそうしたところにね」
「善行を積むというのね」
「そういうつもりもないよ。けれど余計なお金をそのままにしておくのもよくないから」
 そう思ってだというのだ。
「余計なお金は寄付するよ」
「いいわ、それならね」 
 スフィンクスもコズイレフの言葉に頷いた、そしてだった。
 コズイレフが金塊を収めたのを見届けてからだ、彼にあらためて告げた。
「次がね」
「最後の戦いだね」
「そう、だからね」
「生き残ってだね」
「家族の笑顔を見て生きるのよ」
 まさにだ、そうしてだというのだ。
「貴方の願い、幸せの中でね」
「そうさせてもらうよ。それにしても貴女は」
「私は?」
「怪物だよね」
 スフィンクスの女の顔と乳房、獅子の身体に鳥の翼を見ての言葉だ。紛うことなくギリシア神話におおける怪物の姿である。
「そうだね」
「その通りよ。オリジナルの私もまたエキドナの子よ」
 ギリシア神話における多くの怪物達と同じくだというのだ。
「だから私もね」
「セレネー女神によって生み出された」
「そう、怪物よ」
 自分で言うのだった、このことを。
「この戦いを最初から見ていたわ」
「剣士達とは戦わなかったのかな」
「最初に罪を犯した貴方達を見て思ったの」
 彼等の遥か前世、その時の剣士達をだというのだ。
「この戦いは間違っていると」
「僕達は罪を犯したんだよね」
「神話の時代はね」
 あくまでだ、その時代の彼等はだというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧