久遠の神話
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第九十一話 戦いでも得られないものその四
「戦い、それをする理由がないことがわかりました」
「だからこそ」
「そうです、しかし」
「しかしとは」
「僕は戦いは好みません」
温厚で平和を愛する性格だ、本来のコズイレフは。だからこそここで暗い顔になり後悔の感情を出して言ったのだ。
「それでも選んでしまっていました」
「迷った末ですね」
「僕にとって家族は絶対のものです」
「だからですね」
「そうです、考えたのですが」
戦いを選んだというのだ。
「剣を手にしました」
「何があってもこのまま永遠でありたい為に」
「人は死にます」
ここでこうも言ったコズイレフだった。
「そのことはわかっています」
「はい、生あるならば」
「そうですね、誰もが死にますね」
「僕の家族もです」
このことは彼もわかっているのだ、それは絶対のものではあっても永遠のものではないということがだ。
「祖父母も両親も」
「そうですね」
「若しかしたら弟や妹達も」
彼等もだというのだ。
「僕よりも先に死ぬかも知れません」
「それでもですね」
「はい、家族の絆は死んでも残ります」
そういうものだとだ、コズイレフは語った。
「何があっても」
「死が分かつものではない」
「そう考えています」
強い言葉だった、このことは大石の目を見て語る。コズイレフは大石の部屋、教会の奥にあるその部屋において彼と向かい合って話していた、そのうえでの言葉だ。
「そうした意味で絶対です」
「後はそれが壊れないことをですね」
「望んでいました、しかし僕達の絆は」
「剣士の戦いに勝ち残り願わずとも」
「そうです、そんなことに頼らずとも」
それでもだというのだ。
「絶対のものだと、決して壊れないものだと」
「わかったからこそですか」
「僕は戦う必要がないとわかりました」
そう思ったというのだ。
「だからこそです」
「戦いから降りられますか」
「そう決意しました」
「そうですか」
「僕は間違っていたのでしょうか」
戦いを選んだこと、それはだとだ。コズイレフは大石のその目を見てそのうえで彼に問うた。
「戦いを選んだことは」
「確かに。人を傷付けることは」
「如何なる理由があろうともですね」
「例えどうした相手であっても」
大石は神父としてコズイレフに話した、カトリックとロシア正教の違いはある。だがそれでもだった。
「それはしてはなりません」
「では僕は間違えていたのですね」
「そうなります」
とはいってもだった、大石の声は温かい。コズイレフを見るその目も温かくそこには包み込むものがあった。
「戦いは神の望まれることではありません」
「それはわかっていましたが」
「わかっていてもだったのですね」
「どうしても。家族が」
「人は弱いものです」
神父、まさにその立場からの言葉だった。
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