久遠の神話
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第九十一話 戦いでも得られないものその一
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第九十一話 戦いでも得られないもの
コズイレフは変わった、戦わなくなった。その日彼は怪物が出ても剣を出さなかった、その彼にセレネーの声は問うた。
「闘われないのですね」
「はい」
その通りだというのだ。
「僕はもう」
「では戦いからも」
「降りようと思っています」
剣は抜かないが顔は俯いてはいない、巨大な竜、カドモスの竜を見ても言う。
「これで」
「ではここで」
「この竜に倒されるというのですね」
「そうなってもいいのですね」
こうコズイレフに問う声だった。
「死んでも」
「死ぬつもりはありません」
コズイレフは声に対して毅然としてこう答えた。
「それは」
「しかしこのままでは」
「僕はこの怪物に倒されるというのですね」
「そうなってもいいのでしょうか」
「よくはありません、しかし」
「しかしですか」
「僕は戦いを降りようと考えています」
鋭い牙達から禍々しい濃紫の毒を滴らせて己の前にいるその竜を見てもだ、コズイレフは言うのだった。
「もうこれで」
「貴方の願いは」
「もうありますので」
だからだというのだ。
「戦う理由はなくなりました」
「だから戦いを降りられて」
「家族と共に生きます」
その願いと共にだというのだ。
「そうします」
「そうですか、では」
コズイレフの心の言葉を最後まで聞いた、それからだった。
そのうえでだ、声はこう彼に言った。
「私は止めません」
「戦いから降りることをですね」
「この戦いは降りることは止めません」
それが彼女が定めた戦いのルールの一つだ、それは定めた彼女が最も強く守っていることであるのだ。
だからだ、こう言うのだった。
「決して」
「では」
「しかしです、最後にです」
「降りる前にですか」
「戦ってもらいます」
これがコズイレフに告げた言葉だった。
「貴方に」
「そうですか、最後に」
「その覚悟は宜しいでしょうか」
「僕は降りると決めましたが剣士です」
それでだというのだ、コズイレフもまた。
「ですから」
「最後の戦いを受けられますか」
「そうさせてもらいます、そして」
「その戦いで、ですね」
「降りさせてもらいます」
そうするというのだ。
「それが僕の決意です」
「そうか、いいことを聞いた」
ここで後ろから三人目の声がした、そしてそこにいたのは。
加藤だった、加藤はその手に既に彼の剣を出している。そのうえで竜を見つつ振り向いてきたコズイレフに対して言った。
「ではこの竜は俺が闘わせてもらう」
「僕とは闘わないのですか」
「俺は闘いたい奴とだけ闘う」
これが加藤のモラルだ、彼はあくまで闘いたいのだ。
「その中で破壊する、それだけだ」
「だから今の僕とはですか」
「闘わない、そして闘わない奴はだ」
彼にとってはだ、何かというと。
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