八条学園怪異譚
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第五十七話 成長その十六
「二番目のお兄ちゃんは親戚のお店、海の近くのお店に働きに行くことが決まってますし」
「もうお二人は決まってるのね」
「お姉ちゃんは学校を卒業したら八条パンか何処かに就職したいみたいです」
これも八条グループの企業である、ヤマザキパンの様に昔からあるパンを作るメーカーの大手なのである。
「弟はどうかわからないですけれど」
「聖花ちゃんは司法試験に通って」
「お店のことも法律が関わりますから」
それもかなりだ。
「ですから」
「弁護士さんになって」
「それで家族を助けられたらって思います」
「じゃああえて聞くけれど」
愛子は聖花の言葉を受けてからあらためて彼女に問うた。
「どっちにするの?」
「どっちっていいますと」
「パンと司法試験どちらかしか駄目ってなったら」
その場合はというのだ。
「どっちにするの?」
「パンか弁護士さんか」
「そう、どっちにするのかしら聖花ちゃんは」
愛子は聖花の目、今は眼鏡の奥にあるその目を見つつ問うた。
「その時は」
「そうですね、その時は」
どちらか一方でしかないと求められた時はどちらを選ぶのか、聖花は考える顔になり慎重に言葉を選びつつ愛子に答えた。
「パンです」
「そちらなのね」
「弁護士さんにならなくても私は生きていけますけれど」
「パンがないとなのね」
「はい、やっぱり私はパン屋に生まれましたし」
そしてそこで育って生きてきているからだというのだ。
「パンがないと」
「駄目だからなのね」
「そうです、ですから」
それでだというのだ。
「私はパンです」
「わかったわ、じゃあ聖花ちゃんはパンで生きるのね」
「司法試験は難しいですよね」
「かなりね」
日本で最も難しい試験の一つと言われている、合格するまでに何年もかかっている人もざらにいる。そこまで難しいのだ。
「だからちょっとやそっとではね」
「通らないですよね」
「ええ、司法試験はね」
「そうですよね、それにパンも」
聖花がそれで生きると決めているこれもだった。
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