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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第26話「麻帆良祭~贈る言葉~①」



 学園地下。

 余りにも巨大なその地下故に冒険する必要があるといわれているその場所に、毛並みの違う一室が設けられていた。

 部屋を見渡す限り、機材、器材、機械、器械。ついでに言うならロボやら何やらまでおいてある。

 それほどまでに煩雑したこの一室が、それでも汚らしさを感じないのは単にだだっ広い部屋だからだろう。

 奥行きは視力が追いつかなくなるほどに広く、高さに関しても目をこらしてやっと天井らしきものが見える程度。

 大きなモーターと排熱の音が唸りをあげ、それでも部屋は静かに感じる。

 それほどの一室。

 だが、部屋に入ってすぐに目がいくのはそんな部屋の広さではない。

 部屋の最奥に存在する生体兵器。それらが6体もの数となり鎮座し並んでいる。その様はロボ好きの人間ならば一瞬でテンションが天井を突きつけそうなほどに壮観である。

「……」

 一人の中国ちっくな衣装に身を包んだ少女がそれらを見上げ、満足げに頷く。

「これならバッチリそうネ、ハカセ?」

 ハカセと呼ばれた―こちらも同じように少女―も自身に溢れた様子でドンと胸を叩く。

「ええ、調整はばっちりですー。後はあの子が学園結界を落としてくれれば問題なく稼動するはずよー」

 これらの巨大ロボは彼女達の計画に必要なものだった。

 だからこそ動けるように調整したのだが、ソレもつい今しがた無事終えることが出来た。

 あとは計画に移るのみ。

 お互いの顔を見合わせ、その部屋を後にする。

 室内の明かりが消え、あらゆる光がその部屋から消失していく。

 だが、一つ。

 科学を含んだあらゆる分野で天才と称される二人の少女達ですら気付かないようにひっそりと。

 それは目を光らせ始めていた。

 本来なら起こりうるはずのない単なるイレギュラー。

 いや、彼女達ほどの頭脳ならばそのイレギュラーにすら対処することが可能だったはずだ。それが出来なかったのは別に彼女達が手を抜いていたからでは決してない。それどころか完璧に計画実行のための準備を積んできたのだ。落ち度があったはずもない。

 ならば、なぜ彼女達はそれを見落とした?

 答えは簡単。

 この事件を起こそうとしている『未来』というイレギュラーにはもう一人。

『異世界』というイレギュラーが折り重なっていたのだから。

 綻びはひっそりと、だが確実に少しずつ。

 彼女達の背後に忍び寄っていた。
 



「第78回、麻帆良祭を開催します!!」

 アナウンスが学園の敷地全てに行き届き、一般入場者がぞくぞくと敷地内へと溢れかえる。

 誰もが笑顔で、まるでどこぞのテーマパークの如き様相を示している。

 そんな中、一人厳しい顔をしている人間がいた。

 大和猛、年齢的には高校生だが、実は麻帆良女子中等部の副担任として勤めている教師。

 本日の予定は一日中パトロール。

 パトロールと言っても単なる警備ではない。それこそ青少年の麗らかな想いを守るための大事な大事なパトロールなのだ。

 時刻はまだまだ午前の部。しかもまだまだ学園祭初日。

 厳しい顔をしていたのは他でもない、余裕がなかったからだ。

 まだまだ出番は少ないであろうとタカをくくっていた彼だったが、珍しくもその予想を外し慌てふためいていた。

 ピピピ

 告白しかけている生徒の位置を示してくれる、いうなれば告白生徒探知機が電子音を鳴らして其れを教えてくれる。

「あそこか」

 距離は約20M。男子生徒が女子生徒に告白しようとしている。

「ふっ」

 一息に彼の元へと跳ねた。

 普段のタケルなら人前では出来るだけ見せようとしないスーツの能力だが、今日は学園祭ということもがあるのだろうか。誰もが何かの催し物だと勘違いして笑うだけで、不思議がる様子もない。

「キミのことが……!」

 告白しようとしている生徒の脇に手をいれ「……へ?」男子生徒が間抜けな声を出した。告白が一度中断され、そして――

「――……っせい!!」

 掴んで上空にぶん投げる。

「ってうわわ~~~~」

 悲鳴を上げる男子生徒に次いで、今度は女性徒もぶん投げる。

「っきゃああああ~~~」
「位置、角度……よし」

 完全に狙い通りだったらしく、その表情には自信が見て取れる。

 二人の生徒が投げられた先にはいくつものマットやら弾力吸収剤などが敷き詰められ、例え頭から落ちても傷一つ負わないように配慮されている。

 そこは世界樹の効果が及ばない場所なので、いくら告白行為があっても問題はない、というわけだ。

「……疲れる」

 ――Xガンの威力を最小限にして彼等の頭をうったほうが早い気もするが。

 少し愚痴っぽい考えをこぼし、すぐさまそれを振り払うかのように首を振る。

 そうやって気絶させた場合、打ち所が悪ければ死んでしまったりする可能性もある。タケルにしては珍しく常識的な空気を読んだ結果だった。

「……ふぅ」

 だが、彼がフと息を落とした瞬間だった。ありえないものがその目に映った。

 宮崎のどか達と一緒にいるネギ。普段どおりのスーツ姿に身を包んでいる。どう見てもこれは大した問題ではない。ネギはさすがに人気人間なだけあって、学祭期間中にたくさんの約束を取り付けていた。

 タケルはこの風景も、その一種と考えたし、それに関してはたいしたことではない。大問題はその後ろ、彼らの約数M後ろにいた。ウサギの着ぐるみを着て、どう見てもネギにしか見えない人物がもう一人そこにいたのだ。隣にはこれまたセクシーなウサギの着ぐるみを着ている刹那までいる。

「……?」

 流石に信じられない様で、目をこすって再度確認する。

 だが、どう見ても何度見ても2人ともネギの姿をしている。しかもどちらにもオコジョのカモが肩から顔を覗かせているのがその異常な光景の信憑性を高める結果になっている。
 ――どういう?

とりあえず、無邪気に宮崎達と戯れているネギは無視することに決めたらしく、後ろでコソコソと隠れているネギ達のところへと向かう。

 ――誰も見ていないな。

「……」

 無言でステルスモードに入る。スーツのネギから離れようとしているウサギのネギの後ろに立ち、ステルスを解除。

「ネギ」

 そのまま彼等の後ろから声をかける。

「た……たた……タケルさん!?」
「うげ、タケルの旦那?」
「た、タケル先生!」

 上から順にネギ、カモ、刹那。3者3様の反応だが、どれも本物臭い反応だ。

 ――……本物なのか?

「とりあえず、説明してくれるか?」

 さっぱりわからず首を傾げるタケルだった。




 時刻はまだ午前の11時。

「なるほど。まさかタイムマシンとは」

 懐中時計のソレを見つめて感心しながら見つめる。

 ――にしても、まさか超さんがそんな技術まで持ってるとは。

 信じられないほどの科学技術である。

 タケルがいた世界ではタイムマシンによるタイムトラベルなるものはどれほどの技術力を備えようが不可能な到達点とされていた。

 それを、しかもこれほどのコンパクトサイズで用いることを可能としている辺り、タケルは驚きを通り越して呆れてしまっていた。

 ――この21世紀というご時勢にそんな技術が可能なのか?

 そこまで考えて

 ――……いや、待て。

 タケルの脳裏に新たな可能性が浮かぶ。

 ――そもそもタイムトラベル可能ということは超さんがもっと未来から来た人間だという可能性があるってことか? いや……というか、むしろその可能性の方が大きいのか。

 この世界はタケルが元いた世界と科学力も技術力も似ている。そんな世界でタイムマシンのような超技術の結晶が生まれる可能性などそれこそ限りになくゼロに近い……まぁ、ガンツ兵器のことや古代から騒がれているオーパーツの存在を考えれば頭ごなしの否定もできないのだが。

 ――未来人である可能性も頭に入れておいたほうが良さそうだな。

 可能性として頭の端っこに入れておくが、タケルにとってむしろ大事なのはそこではない。超鈴音が持つ技術力が未来兵器張りのものだと考えておかなければならないことだ。

 ガンツ兵器すら圧倒する兵器を持っている可能性もある。

 ――……下手をすれば喰われるな。

 タケルは冷静に、自分の身が危険であることも頭に叩き込んで静かに思考に身を委ねる。

「……」

 いつの間にか考えごとに没頭しまくっていたタケルにネギと刹那が遠慮がちに声をかけた

「タケルさんも、一緒にどうですか?」
「そうですよ。見回りは大変でしょうが、とりあえず今日は遊んで回られたらどうです?」

 2人の言葉に少し心が揺れるタケルだったが「いや、俺は明日に半日ほど空いているから」と首を振る。

「そうですか」

 残念そうな顔をする彼等の背中を押し出してこちらも背を向ける。

「……まあ、折角の機会だ。楽しんで来たらいい」
「はい!」

 本当に楽しそうに返事をするネギ。

 元々入りまくっていた予定のせいで遊べなかったはずがこのタイムマシンのおかげで満喫できそうなことが判明して喜んでいるのだ。

 それにつられて、タケルも少しだけ笑い、頷く。

 と、ピピと探知機が奏でる電子音が鳴り響いた。

「またか」

 呟き、そのまま走り出す。

「タケルさん、頑張ってください!」

 ネギの言葉に片手を挙げ、無言で答えるタケルはそのまま雑踏を飛び越え、紛れていった。



 
 昼の休憩を挟み、見回ること数時間。

 既に時刻は夕方を過ぎ、暗くなり始めている。

 今頃は格闘大会予選も終わりかけている頃だ。

 様々な人間が参加しており、タケルとしても見学する気満々だったが、それは叶わない。何せ今日は一日中、告白阻止にいそしんでいたからだ。

 加えて、格闘大会に関しては周囲から出た方がいいのではないかと何度も誘われていたことも彼が予選の見学に向かわなかった原因の一つだろう。

 ネギを筆頭に生徒で言えばアスナ、刹那、楓、龍宮、古菲、エヴァ。教師陣ならばタカミチや学園長。

 武器なしというルールでタケルに勝ち目があるはずもないのだが、相変わらず実力を誤解している彼等からすれば『もったいない』の一言に尽きるらしい。

 下手に予選見学に行けば、そのまま流れで強引に大会に参加させられそうだと、タケルの鈍い勘がはたらいたのだ。

 どちらにせよ本選が始まるのは明日のことなので、予選見学をしなかったこと自体をあまり気にしてはいないようだが。

 明日は見回りの仕事は入っていないので彼にも時間的な余裕がある。これまで2ヶ月ほどネギの修行を見てきたタケルとしては、どれほどの成長が見れるか楽しみでもあったりするのかもしれない。

 少しずつ暗くなってきているせいか、告白する人間も大方減ってきたこの時間、それでもいつでも動けるようにとベンチで休憩していたタケルの側を二人の女子生徒が少し不機嫌そうに通り過ぎた。

 自然と目がその二人へと注がれた。2人とも美人だが、それはあくまで一般的な範囲であって一目惚れする範囲ではない。ましてや、楓という想い人がいるタケルの目が奪われるはずもない。

 タケルの目が向かったのはただ単に知った顔だったからだ。

 片方は麻帆良学園の女子中等部の生徒で、2年生の佐倉 愛衣。何度か職員室で顔を見かけたことがある程度の関係だ。もう一人は麻帆良学園の女子高校生で名は高音・D・グッドマン。確か高校2年生でタケルと同い年だったはずだ。

 両者共に魔法生徒で、なかなか優秀らしい。彼女達もまた今日という日を見回りに費やしているのだろう。

 普段の学園生活では知りうることのないタケルと彼女達だが、お互いに見回り組みということで今日、初めて知り合うことになっていた。

 タケルの目が向かったのと同時、高音の目がこちらに向いてバッチリと視線がかみ合った。

「あ、大和……くん? それとも先生って呼んだほうがいいかしら?」

 先ほどまで機嫌が悪そうだった顔が一変。普通の知り合いと話すような表情になる。他人を不快にさせないためか、はたまた気持ちの切り替えが上手いのか。

 ――出来た娘だな。

 他人事のような感想を持ちつつも、彼女の問いに答える。

「……好きに呼んでくれたらいい」
「そう、じゃあ大和君は休憩?」
「少し疲れてきたからいつでも動けるように座っている。まぁ……休憩に近い……か?」
「え、私に聞かれても」

 困ったように呟く高音に「じゃあ休憩じゃないということで頼む」

 全く表情を変えずに呟くタケルに、高音が呆気にとられたような顔をして見せたのは一瞬。すぐに「クスクス」と笑い出す。
「?」

 なぜ、高音が笑い出したのかがわからずに隣の佐倉に顔を向けるが、彼女もまたよくわからないらしく、首をかしげている。

「あの、お姉様?」
「あ、ごめんなさい。大和君が噂以上に変わった人だったから」
「……俺が?」

 その噂が気になったタケルだったが、それを言及しても仕方ないのであえてそこはスルーした。

 それよりも本人を目の前にして変わった人間という発言をするのもなかなかにいい根性をしている。

 それを告げられると高音は自分でも不思議そうに首をかしげた。

「あら? それもそうね、ごめんなさい。私と同じ年齢で魔法を知っている人ってなかなかいないからかしら。ちょっと親近感があるのかもしれないわね」

 この高音の言葉に誰よりも驚いたのは普段から慕っている佐倉 愛衣。普段なら初対面の人間には出来るだけ丁寧な言葉に接しようとするのが彼女の流儀。それなのに初対面のタケルには既に普段どおりの砕けた言葉で話をしている。

「……まぁ、俺は気にしていないが」

 呟くタケルに「あら、じゃあいいじゃない」とまるで長年の友人であるかのような気さくな対応。

 ――悔しい。

 なぜか負けたような気になった佐倉は唇をかみ締める。

 高音を「お姉様」と呼び慕っている佐倉にしても高音が気さくに接してくれるようになったのはある程度の時間を要したのだ。

 別に高音を人間として尊敬しているだけでアブノーマルな恋愛感情などない彼女だが、それでもやはり悔しいものは悔しい。

 ――地味な先生と馬鹿にされてるくせに。ネギ先生よりも年上なのに彼の副担任でしかないくせに。

 そんな想いが彼女の胸を渦巻き、気付けばタケルをまるで敵視するかのように言葉を発していた。

「――大和先生!」
「?」

 高音と談笑していたタケルが会話を中断し、佐倉に目を向ける。

「そういえば、今日はネギ先生が告白指数が危険な生徒と一緒にデートしてましたよ!」
「……ああ」

 一瞬だけ考えるような素振りをみせ、すぐに思い当たったらしく頷いた。

「クラスでもネギはモテ男だから」

 別にうらやましくもなさそうに呟くタケルがさらに佐倉を苛立たせる。

「問題はそこじゃありません! 問題は世界樹の危険域でデートしていたことです!」
「……何?」

 さすがに驚いたらしい、声色が微妙に変わった。

「しかも、女性徒を捕まえようとした私達の制止を振り切って逃げたんです!」
「……あいつ」

 今度は身じろぎもせずに頭を抱える。急に疲れた様相を見せるタケルに、佐倉はまるでしてやったというような表情を浮かべ、さらに口を開こうとした時だった。

〈こちら世界樹観測班!発光量わずかに上昇!現在高度180CD!!〉

 最悪な通信が届いた。

「っ」

 即座にタケルが動き出す。

「え、嘘!?」
「告白したんですか!?」

 高音と佐倉が同時に狼狽し、その瞬間にはタケルが小さな声で「ガンツ、位置を教えてくれ」と誰にも聞こえないように呟き、駆け出していた。

「ちょ、猛君! 場所わかってるの!?」

 気付けば随分と親しくなった彼女の問いに、レーダーに目を向けつつも「ああ」

 その言葉に、タケルの後ろをついて走り出す彼女達だったが、それでも既に遅すぎた。
ここから十数Mはあるであろう高さの建物の屋根に一瞬で飛び移ったかと思えばすぐさま屋根から屋根へ。

 まるで弾丸の如き速さで遠のく彼の姿に

「嘘」
「すごい」

 先ほどまで敵意むき出しだった佐倉すらも感嘆の息を吐きだし、タケルの背を二人して見つめてしまうのだった。

「「――って、はっ!?」」

 もちろん、数秒後には慌てて追いかける彼女達だった。

 
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