八条学園怪異譚
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第五十七話 成長その四
「昭和三十五年のシリーズはあの二人で勝てたところが大きかったのう」
「博士って野球のこともご存知なんですね」
「そうしたことも」
「うむ、健康管理や人体のことも学んでおってな」
そうしたことも学んでいる博士だった。
「それでじゃ」
「そうしたこともですか」
「学ばれてるんですか」
「そうじゃ、体育学の論文も書いておる」
そうだというのだ。
「ああした学問も面白い」
「ですか、それにしてもそのバッテリーの名前は」
愛実は秋山と土井のバッテリーについては首を傾げさせつつ言う。
「わからないですよ」
「まあ関東の球団でしかも君達が生まれる前じゃからな」
「阪神のことならわかります」
実際に小山や村山は知っている、愛実も。
「村山さんの女房役は辻さんですよね」
「うむ、ヒゲ辻じゃ」
残念ながら二人共鬼籍に入ってしまっている、その魂は今も甲子園で猛虎を見守っているのであろうか。
「お互いに認め合っていたよいバッテリーじゃった」
「ですよね」
「まあとにかく君達はじゃ」
愛実と聖花はというのだ。
「よくパートナー同士、バッテリーじゃ」
「つまりどちらが欠けてもですね」
「駄目なんですね」
「そうじゃ」
そうした二人だというのだ。
「そのこともわかったな」
「はい、とても」
「二人じゃないと」
ここまで来れなかったとだ、二人は博士に答えた。
「私一人だと」
「最初は夜も怖かったですし」
「横に聖花ちゃんがいてくれるだけで」
「愛実ちゃんが一緒だったから」
「そういうことじゃ、そのことがわかったこともじゃ」
人が一人ではないこともだというのだ。
「君達にとって成長なのじゃ」
「そうなんですね」
「そのこともですね」
「そうじゃ、そしてその成長の結果としてじゃ」
その成果としてだというのだ。
「ここまで来てじゃ」
「泉をですね」
「いよいよ」
「しかしここが泉かどうかはじゃ」
それはというと。
「わしも知らん」
「えっ、博士もですか」
「ご存知ないんですか」
「うむ、知らぬ」
そうだというのだ。
「実はな」
「そういえば博士もですね」
「泉の場所はご存知なかったんですね」
「そうじゃ、わしも知らぬことがある」
学問の万能選手だの仙人だのと言われている博士でもだというのだ。
「この学園のこともな」
「それでこの研究室の泉も」
「泉かどうか」
「地下迷宮の一室じゃ」
そこが泉だというのだ。
「正確に言うとこの研究室ではない」
「研究室から地下迷宮に入ってですか」
「そこの一室ですか」
「学園全ての下にある迷宮じゃから広いぞ」
それがその地下迷宮だというのだ。
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