Transmigration Yuto
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陽だまりのダークナイト
Prologue
雪が、しんしんと降っている。
降り積もった白い雪の上に仰向けになり、僕は雲で薄暗くなった白い空を眺め続ける。
冷たい冬の空気と降り積もった雪によって、急速に僕の体から熱が奪われていく。
もう、この体には力が入らない。力も使えないほど、肉体は弱っている。
森の雪の中、僕は静かに終わりへと近付いていた。
被験者として、教会の計画に集められた子供達。聖剣エクスカリバーを人工的に使えるようにするための計画に、僕のように身よりもなく、けれど特異な能力を持った子供たちが集められた。
来る日も来る日も実験の毎日。辛いことばかりだったけれど、いつか神に選ばれて特別な存在になれるのだと教え込まれていたものだから、僕も同志達も一切恐怖を抱かなかった
僕は、他の同志達と比べれば元々特別な存在だった。いくつか理由があるが、元々僕自身の能力が幼いのに強大だったことが上げられるだろう。
だから、僕は集められた子供達の中で唯一、天使と会った。
数人の女性天使。天使たちは誰もが美しく、優しかった。
その中でも飛びっきり美しい女性天使がいた。優しい、慈母のような天使だった。
彼女は僕のことを覚えているだろうか?そんな場違いなことを考えてしまう。
天使たちと会いはしたものの、僕は僕の能力の特性ゆえに他の子供達、同志達と同じ扱いになることが決定した。
それ自体に文句はなかった。だが、ある日突然、教え込まれていた理が破られた。
突如として、研究者達は僕たちを処分にかかったのだ。
一箇所に集められ、毒ガスを撒かれた。手足が痺れ、動かなくなり、全身の神経がズタズタにされたかのような激痛が体を襲う。
涙も、血も、体中からあらゆる体液が溢れ出て、ただ苦しみが全身を支配する。
次第に意識は薄れ、死んでいった。
目の前で同志達が何人ももがき苦しみ、物言わぬ屍と成り果てていく。
最初は何が起こったのか、理解できなかった。何かの実験かとすら思ったほどだ。
同じ神を敬い、特別な存在にしてくれるはずだった研究者たちが、僕たちに牙を向くなんて、想像もしなかった。
一人死に、二人死に、同志達が次々と死んでいく。
順番が迫り、ようやく僕は理解した。
ああ、自分は殺されるのだ、と。
僕の番になり、部屋の中央に他の同志達と共に集められる。防護服を着た研究者が震える僕たちに向けて、毒ガスを散布し始めた。
息を止めようにも、限界はある。すぐに僕らは毒ガスを微量ながら吸い込み、そして呼吸のために徐々に体へと取り込んでしまう。
途端に全身を痛みと痙攣が襲い、視界がおぼろげになり始める。
床に膝を付いて、体中に走る痛みを少しでも緩和させようと手でさする中、一人の同志が激痛に耐えながら研究者を突き飛ばした。
扉を強引にあけた後、一番状態の軽かった僕にその同志は叫んだ。
「逃げて!あなただけでも!」
僕は、その声を聞いてすぐさま立ち上がり、部屋を脱出した。
死にたくない、生きたい。
ただ一心で僕は研究者達の隙を突いて、研究所からの脱走に成功した。
敬虔たる信者の僕たちに対し、彼らは「最後まで我々を信じて、逃げる者などいないだろう」と高を括っていたのだろう。
わずかな隙で僕は外に逃げ出ることに成功した。
「待て!」
「逃がすな!」
しかし、追っ手は僕を執拗に追い回す。
山の森、雪が降る中、僕はひたすら逃げ続けた。
逃亡しながら僕は心中で研究上で過ごした日々を思い返す。
共に特別な者になろうと誓った同志達。共に食事をし、共に歌い、共に遊び、共に笑った。
そんな彼らが―――死んだ。僕だけが、逃げ出せた。
……僕は逃げ切らなければならない。彼らがせっかく作ってくれた好機なのだから。
生きて、僕は……。
全身の激痛と共に意識も途絶え始める。しかし、僕は強烈な復讐心を宿し始めていた。
あの者達―――
あの計画を立てた者達―――
聖剣エクスカリバーを―――
僕は、許さないッ!
けれど、体力も意識も限界で、僕は森の中で静かに倒れ込んだ。何とか体を捻って仰向けに倒れたが、無駄なことだ。
もう、指先すら動かない。
……死は確実だろう。
彼らの、同志達の死を無駄にしたくない……。
僕は……僕は……ただ、生きたかった……。
教会の近くまでよく来ていて、僕によく懐いてくれていたあの黒猫は元気だろうか?初めて見付けた時は全身傷だらけで血を流していたけれど、もう大丈夫だろうか?
走馬灯のように、いやこれは走馬灯そのものだろう。僕の心の中を、今まで出会った者達の顔が通り過ぎる。
僕を養ってくれた孤児院の経営者、僕に優しくしてくれた美しい女性天使、僕と仲良くしてくれた歳の近い同志達、僕に懐いてくれた可愛い黒猫。
憎き研究者達の顔は、出なかった。顔は知っている、だが、心の中とは言え、彼らの、彼女達の笑顔と並べたくはなかった。
意識が消失していく中、僕の視界に紅が映り込む。
仰向けに倒れ、血を流す僕を見下ろす存在がいる。
ぼやける視界の中、そこには紅髪の少女が立っていた。
薄れていく視界に、彼女の微笑が映る。
「あなたは何を望むの?」
死に行く僕を抱きかかえた彼女はそう問うた。
その時、僕の頭の中に様々な記憶、いや、記録が、知識が流れ込んできた。
これが、僕と、彼女、リアス・グレモリーとの出会いだ。
……この日、僕は、前世の記憶を思い出した。
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