フェアリーテイルの終わり方
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九章 湖畔のコントラスト
3幕
前書き
人形姫 の 死
一行はディール駅へ降り、ディールの町へとくり出した。
「源霊匣がイッパイ!」
「あ、お姉ちゃん」
走り出したエルとルルを、フェイは慌てて追いかけた。
広場の中心の木の前で、エルを後ろから抱き締めて止めた。エルはフェイの腕にもたれてハシャぐ様子を見せた。
「自然も回復してる――」
「ジュード」
どんな会話もなかったはずなのに、ジュードとミラは肯き合うだけで互いの心を分かり合ったようだった。
大人組は積もる話もあるようなので、フェイはエルと手を繋いで広場をぐるりと回ることにした。
大きな樹の広場。焼き立て出来立てのパンや菓子を売る屋台。フェイの脳裏には幼い頃がより鮮やかに投影されていた。
「なつかしいなあ……」
「何が?」
「ここのお店でおばあちゃんがよく買ってきてくれたの。どら焼き。いっつも楽しみだった。おじいちゃんとおばあちゃんと3人でどら焼き食べながら、『砂浜戦隊サンオイルスター』観てたなあ」
「おばあちゃん……って、ダレ?」
「え?」
「え?」
姉妹は顔を見合わせた。
「えっと、おばあちゃんはおばあちゃんだよ。おじいちゃんもおじいちゃん。ママのお父さんとお母さんだよ。わたし、ちっちゃい頃はディールのママの実家にいたんだよ」
「ウソ! エルたちにおじいちゃんとおばあちゃんがいるなんてハツミミ!」
「で、でも、そうなんだもん。二人とも死んじゃったから、パパとお姉ちゃんの家で暮らすことになったけど……しょ、しょうがないよっ。お姉ちゃんがすんごくちっちゃい頃だもん。覚えてなくてもフツーだって!」
するとエルは眉根をきゅっと寄せ、俯いて呟いた。
「……でも、エルより年下だったフェイが覚えてるんだから、お姉ちゃんも覚えてなきゃでしょ」
「お姉ちゃん――」
フェイはしゃがんでエルを抱き締めた。エルの両手はフェイの背をポンポンと叩いた。
“――ウプサーラ湖でまた妙なモノが揚がったんだって?”
風が耳に運んだ声に、フェイはエルの肩から顔を上げた。エルが首を傾げてフェイを見上げる。
“釣りに行ってたまたまな。もう何年も経つのに、今になって”
“これって、アレじゃないか? リーゼ・マクシアのカラハ・シャールの領主さんが探してくれって言ってたヌイグルミ”
“殺された女の子が大事にしてたっていう……”
音源を風から探り出す。ちょうど高原側の門の近くで、その噂話は囁かれていた。
「どしたの?」
「お姉ちゃん……あれって、エリーゼの?」
指を差した先。ぶらさげられる紫の汚れたヌイグルミは。
「ティポ!?」
ジュードたちも気づいた。あれはティポだ。
(じゃあ、殺された女の子って、エリーゼなの?)
また一つ、予感が胸に降り積もる。そのウプサーラ湖に近づくほどに、〈あの人〉の姿が鮮明に思い出せるようになっていく。もう10年も前の思い出なのに。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ」
ルドガーが顔を覗き込んできた。フェイは答えず、ルドガーの手を掴んだ。
「フェイ?」
「繋いでて。はなさないで。フェイが――オカシクならないように」
後書き
赤ん坊のオリ主を育てたのは実はラルさんの両親だったのです。パパさんにやらすと最悪育児放棄しかねないので。
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