とある星の力を使いし者
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第142話
美琴と操祈が麻生を放って言い合いをしている。
この現状をどう打破するかを考えようとした麻生だが、ポケットの携帯が鳴り響いた。
画面を見ると黄泉川愛穂という名前が表示されていた。
地下街だが、携帯ショップの近くからなのか特殊なアンテナが伸びていて電波が通っているのだろう。
「どうした。」
通話ボタンを押して、話しかける。
「待ち合わせとか言っていたけど、今は大丈夫?」
愛穂は認めたくないが麻生がデートか、それに準ずる何かに誘われたと思っているのだろう。
麻生は顔はイケメンと言えるくらいかっこいい部類に入る。
そういった付き合いがない方がおかしい。
それを考えると胸が苦しくなる愛穂だが、これは麻生のプライベートだ。
自分の子供のような我が儘で困らせるわけにはいかない。
取り込み中なら後で掛けなおすつもりで聞いた。
麻生は横で未だに美琴と操祈が口喧嘩をしている所を見て呆れながら言う。
「問題ない。
それでどんな用件で?」
「打ち止めが居なくなった。」
その言葉を聞いた瞬間、麻生はいつになく表情が真剣になる。
それもそうだ。
打ち止めはその存在だけで研究の対象になる存在だ。
少し眼を放した瞬間に、学園都市の暗部に拉致させる事もあるだろう。
麻生は捜索方法と一方通行とどう連携して、迅速に捜索するかを考えようとした時だった。
「つっても、何か下位個体?、と追い駆けっこするって留守番電話が入っていたじゃん。
だから、そんなに心配する必要もないけど一方通行が心配してそうだから、捜索する事にしたじゃん。」
愛穂の言葉を聞いた麻生は真剣に考えていたのに、一気に馬鹿らしく感じた。
さっきと比べ、明らかに気怠い声で言う。
「んで、俺もその捜索に手伝えと?」
「その通りじゃん。
屋外にいるのは間違いないじゃん。」
愛穂が断言するのは確かな理由があるからだ。
店内BGMなどには普通の耳では聞こえない音を混ぜて流している。
これを警備員が持っている特別な周波数をぶつける事で、きちんとした音になる。
その音でどこから電話を使ってるのかを判断するのだ。
何より、店内BGMが聞える時点で外にいるのは間違いないだろう。
「恭介は今からは無理でも出来れば後で捜索して欲しいじゃん。」
そう言われ、麻生はもう一度美琴達に視線を送る。
まだ言い合いをしているが、美琴の罰ゲームはおそらくあのストラップが欲しかったから、麻生を付き合せたのだろうと考える。
なら、もう用は済んだなと考え愛穂に言う。
「用事はもう終わったから、俺もその捜索を手伝うよ。」
「本当に?
それなら助かるけど・・・・」
「それで、どういった感じで捜索しているんだ?」
「ウチが周波数を解析しつつ、車で捜索。
桔梗が家で留守番。
一方通行が解析した場所の捜索ってことになっているじゃん。」
「それじゃ、俺は一方通行と合流してそこから捜索する。」
「了解じゃん。
じゃあ、また後で。」
通話を終え、ずっと言い合いをしている美琴達に話しかける。
「おい、お前ら。」
呼ばれた二人は一緒に麻生の方に振り向く。
案外、仲は良いのではと思った麻生だが口には出さない。
「美琴、用は済んだよな。
なら、俺は退散させてもらう。」
「い、いきなり何を言ってんのよ!」
美琴は驚きながら、少し怒鳴り声で言う。
操祈は麻生の言葉を聞いて、麻生がなぜ退散するのか分かったのか余裕に満ちた表情を浮かべる。
「恭介さんはこれから私とデートがあるからだぞぉ。
美琴さん何かにこれ以上、時間を割いている暇はないの♪」
「いや、違うけどな。」
「うっそ!!」
この世の終わりを迎えたと言わんばかりの絶望的な表情を浮かべる。
はぁ~、とため息を吐いて退散する理由を説明する。
「迷子の捜索だよ。
さっき知り合いから電話があってな。
迷子の捜索を手伝って欲しいんだとよ。
その迷子も俺の知り合いだから、断るに断れなかった。」
理由が結構まともな理由だってので美琴は口を閉ざす。
「お前の罰ゲームもあのストラップを手に入れれば終わりだろ。」
そう言ってデジカメを美琴に投げ渡す。
画面には美琴と麻生がにっこりと不自然さがないくらいの笑顔で映っていた。
こんなに上手く撮れていないはずなのに、どうしてこの画像があるのか美琴は首を傾げる。
「俺の能力で創った。
あの調子だと日が暮れそうだったからな。」
美琴は麻生の言葉を聞いて、ムッとした表情を作る。
これをあの店員さんに渡せば、滞りなく作業は終わるだろう。
それでも美琴は納得できなかった。
理由は分からない。
ただ、しっくりこないのだ。
「じゃあな。」
それだけ言って麻生はどこかへ行ってしまう。
美琴は何かを言うつもりだったが、既に麻生の姿はなかった。
「もう、また逃げられた。
次は絶対に逃がさないからねぇ!」
操祈はそう言っているが、隣にいる美琴はバチバチ、と小さい火花が散っている。
それを見た操祈はまずい、と思いゆっくりと美琴との距離を開けていく。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その怒りに満ちた叫び声と共に凄まじい電気が美琴から溢れだした。
しかし、それでも手に持っているデジカメを壊さない所を見ると、ゲコ太のストラップは彼女にとって魅力的なアイテムだというのが分かる。
道行く人々は美琴の叫び声と電気を見て、一目散に逃げて行く。
限界まで叫び終えた後、美琴は少しだけ冷静になり思った。
(帰ろう。)
胸の内には苛立ちと納得のいかない気持ちが混ざり合い、美琴自身でも何が何だかの状態だ。
手に持ったデジカメに麻生が能力で創った写真がある。
それを見て、美琴はため息を吐いた。
(私が撮りたかったのは・・・)
そう思うが、その先は何も出てこない。
もう一度ため息を吐いて、美琴は携帯ショップに向かう。
一方通行と連絡をとり、とりあえず合流する。
連絡先は愛穂から教えて貰った。
地下街を出て、合流場所に向かう。
朝は快晴だったにも拘らず、既に空一面に黒に近い雲が覆っていた。
これは降るな、と思いながら合流場所に向かう。
場所は地下街から少し離れたジュエリーショップだ。
第七学区では中々品揃えが良いなので有名なショップだ。
そこに向かうと、一方通行が現代的の杖をつきながら、壁に背中を預けて立っていた。
「待たせたな。」
麻生が声をかけるが一方通行は視線を向けるだけで、何も言ってこない。
それを気にすることなく、麻生は一方通行の隣に移動して同じように壁に背中を預ける。
二人は行き交う人通りを見つめている。
この中に打ち止めがいる可能性もある。
愛穂の解析が終わるまで、ここで待っているつもりだろう。
二人の間に無言の空気が流れていたが、意外にも沈黙を破ったのは一方通行の方だった。
「おい。」
「何だ。」
「黄泉川がガキに武器を向けない理由、知ってンのかァ?」
「・・・・・・」
麻生は人通りから視線を外し、一方通行の方に視線を向ける。
そんな一方通行は人通りに視線を向けたままだった。
「愛穂から聞いたんだな。」
「それ以外にねェだろうがよォ。」
「まぁ、別に口止めされている訳でもないしな。」
麻生は話し始める。
「昔、愛穂がまだ警備員に入ったばかりの時だよ。
能力者による事件が起こった。
能力を使い、銀行を襲って金を奪う。
別に珍しい事件でもない、この学園都市ならありえる事件だ。」
一方通行は黙って話を聞く。
「ただ、一つだけ違いがあったのがその能力者が人質を取ったと言う所だ。
警備員はその能力者を説得する事になった。
銀行強盗犯とはいえ、相手は学生。
狙撃する訳にもいかないからな。
その説得をすることになったのが・・・・」
「黄泉川になった、て所か。」
「もちろん、指名された訳でもなく自分からやると言い出したんだ。
あいつ、子供とか大好きだからな。
どうしても自分の手で止めたかったんだろうな。
そうして、説得するようにその能力者に近づいたんだが、能力者は興奮状態で話すら聞かない状態だった。
一旦、愛穂を呼び戻そうと他の警備員が動き出した瞬間だった。
能力者から見れば何かをしてくるのか?、と勘違いしてな。
完全にパニックになって人質に能力を向けようとしたんだ。
愛穂は持っている拳銃を手に取って、能力者に向けて発砲した。
威嚇射撃のつもりだった。
一瞬でも気を逸らして、自分が突撃するつもりだったらしい。
けど、拳銃を見た能力者は避けようとして動き、当たる筈のない銃弾が能力者の額に当たったんだ。」
「・・・・・・」
そこでようやく、一方通行は麻生の方に視線を向ける。
麻生は人通りを見ながら、表情を変えずに言葉を続ける。
「対能力者装備だったから、かなりのダメージだったらしくてな。
すぐに病院に運ばれた。
幸いにも死ぬようなことはなかったが、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
一命をとり止めたという知らせが来るまでの愛穂は酷い有様だった。
泣いて、祈るようにその知らせを待っていたよ。
それ以来、あいつは子供に武器を向けることはしなくなった。
自分が傷付くと分かっていも、向ける事はなかった。」
話は終わると二人は口を閉ざし、再び無言の空気が流れる。
その時、一方通行の電話が鳴り響く。
相手は黄泉川愛穂のようだ。
二、三会話をして、通話を終える。
「何て?」
「解析した結果、地下街にあのガキはいるンだとよ。
ただ、あのガキの事だ。
飽きて、外に出ている可能性もある。」
「んじゃあ、お前は地下街に行け。
俺は近くを捜索する。」
そう言って二人は分かれる。
「一方通行。」
後ろから麻生の呼ぶ声が聞こえ、一方通行は振り返る。
「愛穂をあまり苛めるなよ。」
それだけ言って、麻生が人混みの中に消えてしまう。
一方通行はその言葉を聞いて、軽く笑みを浮かべる。
彼らしからぬ笑みを浮かべて言う。
「保障ォはできねェな。」
聞える筈のない声でそう言う。
彼もそのまま地下街に向かうのだった。
後書き
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