ゲルググSEED DESTINY
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第百二話 幻影と現実
予定調和――――目の前の状況を一言で言い合わらすならばそれが一番適当な表現だった。
「ここまで差があるなんてな……」
議長のナイチンゲール――――その前後には半身だけでなく、ビームランスを持っていた方の腕も撃ち抜かれたギャンクリーガーと正面から放たれた拡散ビーム砲によって損傷したRFゲルググが漂っていた。
『少々驚かされたが、結局は総て想定の範囲内だな。ドラグーンの数を見誤ったのが君たちの敗因だ』
そんなもの、事前に機体の詳細なデータでも知らない限り、予想する方が難しいだろう。議長はこれまでドラグーンを多用せず、しかも数基に絞って使っていた。使われずに空間に放置されていたナイチンゲールのドラグーンの数を把握することなど無理がある。
『だが、惜しかった。もし片方だけでもこれを突破できていたなら、私の喉元にその牙は突き刺さっていた事だろう』
これまでの動きを褒め称える議長。どれだけ言い繕おうとも、彼も一度はギリギリまで追い詰められたのだ。その事実は認めるべき事であり、敬意をもって接するべき相手だと言わしめた。
「ハハハハ……わかっちゃいねえぜ、ギルバート・デュランダル。この戦いは俺達の勝ちなんだよ」
『――――何?』
突如不可解な事を言い出すマーレ。その言葉に議長は眉を顰める。一体何を言っているのだと。
「確かに、俺達はテメエに届かなかった。そいつは認めざるえねえ。だが、言っただろう?テメエのその考え方――――後悔することになるぞって」
瞬間、メサイアの一角――――ネオ・ジェネシスが爆発を起こすのを議長は遠くから視認した。
『馬鹿な!?』
いつの間に防壁が突破されたというのか。クラウは任務を忠実にこなし、今頃ミネルバとアークエンジェルの首級を抑えている筈である。そして、議長はアストレイのメンバーを蹴散らし、目の前のラー・カイラムの主力部隊もたった今倒したのだ。
となれば趨勢はメサイア側に傾いていたはずである。だというのに、メサイアが突破された。一体誰が――――
「いるだろう、アンタが一人だけまだ戦える状態で見逃した相手が――――」
『アスラン・ザラか!?だとしても、あの損傷で突破など……』
セイバーは片翼片腕両足を失っていた状態だったはずだ。確かに戦闘を続けれる状態ではあったが、それで単機で突破するにはMA状態におけるセイバーの高い機動力であっても不可能だ。
「そりゃ、一人じゃ無理だろうが、あいつには心強い同僚がいるじゃねえか」
クラウが無視して吹き飛ばしただけの相手――――ジュール隊である。彼らがアスランと合流していたというのであればメサイア突破までの道筋を造る事ぐらいなら出来るかもしれない。
「立場が逆転してたんだよ。テメエが時間を稼いで俺らを落とす側じゃなくて、俺らが時間を稼ぐ側――――テメエはアスランの奴を見逃さないために一秒でも早く俺らを落とすべきだったんだよ」
まさにどんでん返し。たった今、戦略的な優位が崩れ去ったのだ。状況はこれで五分――――いや、ネオ・ジェネシスを破壊されたことによる部隊の動揺も考えれば若干不利だと言っていいだろう。
『なるほど、やってくれた。これは認めざる得ないな、私の敗北だという事を。しかし、戦略的にはまだ終わっていない。この戦局を覆す為に相応の被害を覚悟せねばならないだろうが、最後に勝つのはこの私だよ』
されど議長の目に諦めなどありはしない。寧ろ笑みを深めながら勝つために行動を開始する。
◇
メサイアから一つの光が射された――――だが、それを認識したという事は死を迎えたわけではないという事の証明でもあった。
『え……何故だ?』
この状況で最も動揺したのは当然、勝利を確信していたクラウだ。光が射された――――それは単純にネオ・ジェネシスが発射されたのではなく、爆発したのだ。何が起こったのか、この場にいる誰もその明確な答えを探すことは出来ない。
だが、それはチャンスであり、ほんの僅かに芽生えた逆転の光でもあった。
「今だ!!」
デスティニーの残った一本のビームブーメランが投げられる。動揺しつつもクラウは咄嗟に機体を動かして攻撃を躱した。だが、デスティニーがゲルググの懐にまで入り込み、パルマフィオキーナを放つ。
意外なことに、デスティニーより正確な動作が出来るゲルググにも関わらず、クラウはその追撃を躱すことが出来ずにパルマフィオキーナはシールドを破壊した。
『ツゥ……!馬鹿な!?』
AIの補助と神経を機械につなぐことによる思考と操縦を直結――――それは一見すれば機体の操縦をより人間らしく、より早く動かすことの出来る最上の操縦方法に思える。
しかし、思考を直接操縦に反映させることは決して利点のみではない。動揺も、焦りも、恐怖すらも機体に影響を及ぼすのだ。動揺が機体の動きを鈍らせた。操縦桿を握って動かしていたならば、本能が、反復した動作の経験が、そして何より本能と一重に存在する理性が機体を動かす。
機械と接続した前者は人として機敏な動きをし過ぎ、操縦桿を握る後者は機械的すぎるという事だろう。そして、その前者は感情に影響が及ぼされやすい分、斑が現れやすく、動揺したことによってそれが欠点として反映されてしまったという事だ。
『だが、まだ!?』
それでもクラウのゲルググはシールドを失っただけだ。クラウはそう自分に言い聞かせるように判断して反撃に移ろうとする。しかし、その思考は逆に彼が焦りを掻き消せていない証明だった。アラートが鳴り響き、後ろに注意するよう警告される。
『――――ブーメラン!?』
機械との接続によって視界も機体のカメラと繋がれ非常に広いモノとなっているが、人の元々の視野は左右120度程度でしかないのだ。本来見えない物を見るというのは空間認識などといった特別な才能のないクラウに上手く出来る事ではない(だからこそ、ドラグーン搭載機ではなく一般的な武装しか取り付けられていないのだが)。
「吹き飛べェ!」
後ろのブーメランと同時に突き出される左腕。クラウはAIによる思考の加速を強制的に行わせることで回避しきった。
『ハァハァ……少し焦ったが、メサイアが発射されないというのなら俺自身の手で斃すまでの事だ』
回避の際にかかった多大なGや、神経を繋げている事による弊害(多量の情報や頭の中で強制的に展開される数値等)のせいもあってか疲弊しつつも、己の意思を再決定させるクラウ。
『何だ簡単なことじゃないか。焦っていたのが馬鹿らしい……』
一旦落ち付けば思考によるデメリットなど簡単に打ち消される。クラウはこれまでと違い、時間を稼ぐための戦いではなく、落とすための戦い方に切り替えた。
『戦い方が変わった!?』
シールドを破壊された以上、長期的で防御主体の戦い方は不利。その上メサイアからネオ・ジェネシスが発射されることが無いのであれば速攻を仕掛けるのは当然の判断と言えるだろう。それにキラは翻弄される。
シンもビームライフルで攻撃を仕掛けるのだが、主力武装であるアロンダイトや収束ビーム砲が破壊されてしまった事で積極的な攻勢に回れずにいた。
「――――?」
しかし、戦闘を続けながらシンはふとした違和感を感じた。いや、違和感と呼べるほど大きなものではない。感じたのは感覚的なブレ。シンはそれが直感的に何なのかを察する。
「もしかしたら……」
今の状況を打破できるかもしれない。そう思わせる何かがシンにはあった。
「フリーダムのパイロット!アンタに合わせてやるから、そっちもタイミングを計って撃てよ!」
キラの返答などお構いなしにとばかりにビームブーメランをサーベル状に展開して構える。
『その程度で何を?』
クラウは単純に突撃してきたシンを見て訝しむ。とはいえ、対応しないわけにもいかない。攻撃を躱し、逆にナギナタで切り裂こうとした。だが、シンが後ろからキラの放った攻撃を予測して躱し、不意を突く様に攻撃を繋げた。
『チッ!今更連携に走るか!』
気に入らないな、と思いつつ即興で合わせた程度の連携など意味はないと反撃を仕掛ける。だが、そうやって複数方向に注意を向かせるのがシンの狙いだった。
「ここッ!」
光の翼によって幻影が生まれる。どころか高い熱力を排熱するために剥離装甲が外れ、センサーでは実態だと誤認する残像が生まれた。
『その技術を造ったのは俺だぞ!』
騙されるわけがないだろうと本体に狙いを定めてビームを放つ。だが、それを下に躱したデスティニーは残像に自ら飛び込む様に移動して掌を突き出した。
『ッ!?』
何重にも重なり合う残像。どれに注視すべきかを一瞬惑わされ、動きが鈍る。それを防ぐ為にAIが強制的に総てを注視することで脳に負担が掛かるものの対応した。
『そこだ!』
だが、デスティニーとその幻影に気を取られ過ぎたクラウはストライクフリーダムの放ったビームに直前まで気付くことが出来ず、左肩を穿たれる。攻撃を当てた油断からか動きの止まったストライクフリーダムにお返しとばかりに予備のサーベルを抜いてストライクフリーダムに貫くよう投げつけた。
『うッ!?』
投げつけたビームサーベルはストライクフリーダムの右腕と後ろの翼の一部を吹き飛ばした。戦果としてはこれまでの戦闘から考慮すれば決して見劣りするものではない。実質差引零以上のものだ。だが、今のは確実に落とせたはずだとクラウは思っていた。
『グッ、クソッ!どういうことだ!?』
キラの反撃とシンの追撃に四苦八苦するクラウ。思った以上に上手くいかない。先程まで圧倒していた筈の戦闘が急に尻すぼみするかのように押されている。
原因はシンによるものだとわかるのだが、シンが一体何をしてこうなっているのかがクラウに理解できない。
「クラウ、アンタはこれで!!」
思考による機体の操縦。それは過敏すぎるのだ。故に、小さな動作に対しても反応してしまう。それを補う為にAIによる補助を行っているのだが、所詮は操縦の補助として用意されたAI。
キラとシン、両方の攻撃によって思考を分割させられたクラウは、AIの補助に大きく頼る事になる。そして、AIは高次元的な思考判断を行う事が出来ない(それを可能にしてしまえば常に伴う機械の叛意を警戒しなくてはならないからだ)。
熱量を持って剥離した装甲と光の翼による幻影を、AIは総て本物だと認識し、その幻影は対応するためのキャパシティを上回ったのだ。
『こんな所で!俺は、何もなさないままに死ぬわけには!?』
死ぬのは世界の運命の中心となっている彼らを殺してでないと意味がないと必死に抗う。しかし、思考判断が限界を超えてしまっている今、シンのパルマフィオキーナを躱しきれず、頭部を掴まれ破壊された。だが、それで終わるわけにはいかないとクラウはナギナタを振りきる。
「死ぬとか殺すとか、いい加減にしろよ!クラウ、お前が居てくれたから俺は!」
ナギナタのビームが展開している柄の部分を左手のパルマフィオキーナで掴む。当然、エネルギーの差からデスティニーの左腕が吹き飛んだが、それと同時にパルマフィオキーナによってナギナタの片方の柄も破壊された。
(馬鹿な、ありえない!二機とも満身創痍の機体だぞ!なのに、なぜこんなに気圧される!?)
ドラグーン、右腕と翼、左足を失っているストライクフリーダム。またそれと同様に左腕、背面武装、片方のビームブーメランを失っているデスティニー。そのたった二機にクラウは自分の方が追い詰められている感覚に陥っていた。
『ふざけるな!何のためにこの機体を用意した。勝つためだろう!死をもって終えるためだろう!!い、今更、こんな所でェ――――!』
しかし、怯えを見せた時点で彼に勝利はなかった。彼の怯えが機体の操縦を後ろ向きなものとさせてしまったのだ。つまり、ほんの僅かなものに過ぎないが逃げを見せた。
それを逃すことなく、キラはビームで足を撃ち抜き、機動力を失ったゲルググはシンに迫られる。
『どうして……そんなにも力があるのなら!運命を変えれるのなら!何で、俺を、俺も救ってくれなかったんだ!!』
そう言って、自身の不幸を嘆く様に叫びながらクラウは片刃のナギナタで迫ってきたデスティニーを迎撃しようと振るった。
だがそれは、呆気なく幻影を切り裂いただけであり、本物のデスティニーは一瞬後ろに下がるというフェイントを仕掛けることで躱した。AIはそれをフェイントと見抜くことが出来ず、前に来た幻影を本物だと判断してしまったのだ。
そのままシンは再び懐に入って右掌のパルマフィオキーナでゲルググを破壊した。それは機械に頼りすぎたが故に、自身の目を信じ切れなかったクラウの完全な敗北だった。
「クラウ……アンタが自分の不幸を嘆いているなら、そう言ってくれないとわかるわけないだろ……人は言葉にしなくても分かり合える程、便利な生き物じゃないんだ……」
そう言って大破したゲルググに手を伸ばすデスティニー。シンはクラウを救う為に手を掴もうとしたのだが――――
『だからこそ、私を含め君達は分かり合う為の道を模索し続けるのだろう?』
ゲルググの腕を掴んだ瞬間、一筋のビームが上方からゲルググの胸部を貫いた。
「クラウ!!」
叫びつつも撃ってきたビームと今聞こえた通信の声を警戒してシンは下がらざる得ない。
『核融合炉の技術を外部に漏らすわけにはいくまい?その為に態々使用機体を二機までに絞り込んだんだ』
そういった現れたのは赤い機体――――ナイチンゲールだ。議長は勝つために首級を討ちに来たのだろう。そのついでに自分たちの切り札である核融合炉のデータを漏れないようゲルググを撃った。
「議長!そんな事の為にクラウを!アンタは、アンタって人はァァァ――――!!」
最後の戦いが、ここで始まろうとしていた。
後書き
クラウはハイボクした。所詮機械に頼ったオリ主(笑)=脇役風情では真の主人公には勝てないという事か……。
あ、メサイア侵入、ネオ・ジェネシス破壊というアスランの活躍は次話以降で。
まあ、最終決戦は大方予想通りの組み合わせ。議長VSシン+その他大勢の戦い。果たして勝者は!
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