八条学園怪異譚
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第五十六話 鼠の穴その十一
「温泉の話みたいじゃない」
「いや、本当に冷えるとそうなるじゃない」
「そうよね」
愛実も真剣に返し聖花もその愛実の言葉に頷く。
「だから私冬はいつも冷えない様にしてるの」
「愛実ちゃん生姜湯とかも作って飲むしね」
「生姜はいいのよ、身体にね」
「愛実ちゃんのお姉さんも好きだしね」
「もう女子高生じゃないね」
これが鉄鼠の二人への評価になった。
「そこまでおばさんだと」
「おばさんってその言い方は」
「ちょっと」
NGワードだった、女子高生に対しては。だから愛実も聖花も鉄鼠のその言葉にむっとした顔で返したのだ。
「ないんじゃない?」
「訂正して欲しいけれど」
「えっ、駄目なんだおばさんは」
「お母さんって言われるのはいいけれど」
「お姉さんなら」
二人はそれぞれの普段の呼ばれ方から言った。
「おばさんだけは駄目なのよ」
「それだけはね」
「ううん、難しいね」
「難しいっていうかね、おばさんって言われるとね」
「何かそれだけで頭にくるのよ」
「私達まだ十六だし」
「せめて四十五になってからね」
その年齢になってやっと納得出来るというのだ。
「おばさんって言われるのはね」
「それ位になってからよ」
「そこまで嫌なんだ」
「滅茶苦茶嫌よ」
「機嫌悪い時に言われたら暴れる位にね」
そこまでだというのだ。
「試しにろく子さんや雪女さんに言ってみればいいわ」
「口裂け女さんとかね」
「ああ、鋏で切られそうだね」
鉄鼠は口裂け女から考えて答えた。
「それかナタでね」
「でしょ?レディーにおばさんは禁句よ」
「アフリカ系の人にニガーって言うのと一緒よ」
「それアメリカで言ったら殴られるんだよね」
会社で言えば解雇の要因になる、アメリカは様々な人種がいてそれだけに人種差別には敏感なのである。
「そうだよね」
「八条学園もアフリカ系の人多いからね」
「その辺り気をつけないとね」
「色々な国からの留学生が来てるからね」
これもまた八条学園の特色である、国際色豊かなのだ。
「中にはアフリカの何処かの国の王子様もいるし」
「イギリスから教授も来られてるわよね」
「医学部に」
二人はとあるイギリス人の学者の名前も出した。
「いつも動物さん達と一緒にいる」
「凄い人がいるわね」
「あの人だね、あの人獣医さんでもあるから」
診られるのは人間だけではないというのだ。
「わし等も診てもらってるよ」
「妖怪さんもなの」
「そうなの」
「気付かれてるけれどね、わし等のことは」
彼等が妖怪であることはというのだ。
「いい人だよ、それでね」
「ええ、今からね」
「泉を確かめるのよね」
「見えないのなら特に気にせずにね」
鉄鼠はとりあえずこのことはいいとした、そしてだった。
二人を急がせる訳ではないが脚立を昇らせた、まずは愛実が昇る。スカートの中から見える半ズボンの色は黒だった。
愛実は天井のその隅を押すとそこが開いた、そしてだった。
まずは彼女が入る、続いて聖花が。そうして二人で天井に入ると。
そこはただの天井だった、愛実は聖花の手を取って上がるのを手伝うとそこでだった、こう言ったのである。
「ここもだったね」
「そうね、ここもね」
聖花は天井の中を見回しつつ答える。そこはまさに何もなかった。
それでだ、愛実にこう言ったのだった。
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