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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  12弾 強襲科とレオポン

 アリアに白旗を揚げた翌日の午後。

 俺は強襲科(アサルト)棟にいた。

 戻ってきて、しまった。

 強襲科(アサルト)――――通称、『明日無き学科』に。

 この学科の卒業時生存率は、97.1%。

 つまり100人に3人弱は、生きてこの学科を卒業できない。任務の遂行中、もしくは訓練中に死亡しているのだ。本当に。

 俺の親友も去年、任務の遂行中に死んでしまった。

 それが強襲科(アサルト)であり、武偵という仕事の暗部でもある。

 発砲(はっぽう)剣戟(けんげき)の音が響く専用施設の中で、だが今日の俺は――――とりあえず装備品の確認と自由履修の申請など、訓練以外のことで時間をほとんど使い切ってしまっていた。

 事件を1件解決するまでのこととはいえ、拳銃の練習ぐらいはしておきたかったところなんだが……そうもいかなかった。というのも、いつもパーティを組んで行動する強襲科(アサルト)では、生徒が自然と人懐っこくなるもので……

「おーうミズキぃ!おまえは絶対に帰ってくると信じてたぞ!さあここで1秒でも早く死んでくれ!」

「まだ死んでなかったか夏海(なつみ)。おまえこそ俺よりコンマ1秒でも早く死ね」

「ミズキぃー!やっと死にに帰ってきたか!おまえみたいなマヌケはすぐ死ねるぞ!武偵ってのはマヌケから死んでくもんだからな」

「じゃあなんでおまえが死んでないんだよ三上(みかみ)

「おかえりミズキ!ようやく私の代わりに死ぬ覚悟ができたのね!」

「そんな覚悟する日は一生こないから安心して死ね旗谷(はたや)

 郷に入りては郷に従え。

 死ね死ね言うのがここの挨拶なのだが、俺が帰ってきたことを喜んで死ね死ね言う1人1人に死ね死ね言い返していたら、それだけでかなり時間を食ってしまったのだ。

 火薬臭い奴らをなんとかいなして強襲科(アサルト)を出ると――――

 夕焼けの中、門のところに背中をついて俺を待っていたチビっこがいた。

 言うまでもなくアリアである。

 アリアは俺の姿を認識すると、とてて、と小走りにやってきた。

 そして、不機嫌に歩き始めた俺の横を、一緒に歩きはじめる。

「……あんた、人気者なんだね。ちょっとビックリしたよ」

「こんな奴らに好かれたくない」

 偽らざる本音である。

「あんたって人付き合い悪いし、ちょっとネクラ?って感じもするんだけどさ。ここのみんなは、あんたには……なんていうのかな、一目置いてる気がするんだよね」

「それは……別に、俺の功績じゃない」

 これは本当のことだ。強襲科(ここ)の奴らが俺に一目置いている理由はおそらく、俺が去年キンジと組んでいたからだろう。いつだって、すごいのは俺じゃなくてキンジなんだから。

 それなのにあの時の俺は、Genius(天才)なんて呼ばれていい気になって。その結果、大切なものを、キンジを――――

「どうしたのよ、急に黙りこくって」

 気が付くと、アリアが下から俺の顔を覗き込んでいた。

「具合でも悪いの?」

「い、いや大丈夫だ。問題ない。俺は全然元気だ」

「そう、ならいいけど」

 しばらく、お互いに無言の時間が続いた。

 この沈黙の時間を破ったのはアリアだった。

 アリアは少し視線を地面に落として呟いた。

「あのさミズキ」

「なんだ?」

「ありがとね」

「何を今更」

 小声ながらも心底嬉しそうなアリアに、俺は少し苛立った声で返す。

 そりゃ、おまえは嬉しいだろうさ。

 文字通り、自分のために戦う『ドレイ』を手に入れたんだから。

「勘違いしないでほしいんだが、俺は『仕方なく』強襲科(ここ)に戻ってきただけなんだからな。事件を1つ解決したらすぐに装備科(アムド)に戻る」

「分かってるわよ。でもさ」

「何だよ」



強襲科(アサルト)の中を歩いてるミズキ、みんなに囲まれててカッコよかったよ」



 アリアははにかんだような笑顔で言った。やめろ、照れるだろうが。

 まったく、なんでそういうことを言うんだよ。

 本人にそういうつもりは一切無いんだろうが、女子に――――それも、見た目だけならトップクラスに可愛い女子にそんなことを言われると、こっちは反応に困る。

「あたしになんか、強襲科(ここ)では誰も――――って訳でもないか。あの娘はあたしに結構懐いてきてくれてるみたいだし。でも、ほとんど誰も近づいてこないからさ。実力差がありすぎて、誰も、合わせられないのよ……まあ、あたしは基本的に『独唱曲(アリア)』だからそれでもいいんだけど」

独唱曲(アリア)……」

 独唱曲(アリア)とは、オペラの用語で、1人きりで歌うパートを意味する。ひとりぼっちで、孤独に歌うパート。

 自分をそう呼んだアリアの顔は、どこか(かげ)って見えて。

 どうしてだか俺は、アリアがそんな顔をしているのが許せなかったので。

「じゃあ、俺をドレイにしたのは『デュエット』になるためか?」

 つまらないギャグで、アリアを笑わせることにした。

 作戦は成功したようで、アリアはクスクスと笑った。

「あんたも面白いこと言えるじゃない」

「そんなに面白かったか?」

「面白かったよ?」

「おまえのツボはよく分からんな」

「やっぱりミズキ、強襲科(ここ)に戻ってきてちょっと活き活きしだした。昨日までのあんたは、なんか自分に嘘ついてるみたいで、どっか苦しそうだった。今の方が百万倍魅力的よ」

「そ、そんなことは、ないっ!」

 よくそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるな。これが外国人の血の成せる業か……

「お、俺はゲーセンに寄っていく!おまえは1人で帰れ。てゆーかそもそも今日から女子寮だろ。一緒に帰る必要がない。まさか、またカギを忘れたとか言い出すんじゃないだろうな!?」

「失礼ね。ちゃんと今日の朝に戦妹(アミカ)の子に取って来てもらったわよ。だいたい、バス停までは一緒でしょうが」

 アリアはやれやれと肩を竦めて呆れ、すぐに笑い出した。

 相変わらず憎まれ口を叩いてはいるが、俺を強襲科(アサルト)に連れ戻したのが本当に嬉しいらしい。表情でわかる。分かりやすい奴だな。絶対に探偵科(インケスタ)には向いてない。

「ねえ、『げーせん』って何?」

「ゲームセンターの略称。そんなことも知らないのかよ」

「帰国子女なんだから仕方ないじゃない。んー。じゃあ、あたしも行く。今日は特別に一緒に遊んであげるわ。ご褒美よ」

「いるかそんなもん。ご褒美じゃなくて罰ゲームだろ、それって」

 俺は少し足早に歩いて、アリアを引き離しにかかった。てくてくてく。

 するとアリアはニヤーと笑って、同じ速度でついてくる。てくてくてく。

 なんかムカッときたので、俺は走りはじめる。ダッダッダダダダッ。

 アリアもスカートをひらめかせてついてくる。タッタッタタタタッ。

「ついてくんな!今、おまえの顔なんか見たくないんだよ!

「あたしもあんたのバカ面なんか見たくない!」

 さっきと意見が真逆じゃねえか。

 『カッコよかった』とか『魅力的』とか言われて、不覚にも少しよろこんでしまった俺の純情を返せ。

「じゃあなおさらついてくんなよ!

「やだ!」

 ダッダッダッダダダダダダダ……

 タッタッタッタタタタタタタ……

 結局俺たちは真横に並びながら走ってゲーセンに着いてしまった。

 なんなんだコイツ。異様に足が速い。

「はぁ、はぁ、はぁ。何ここ?」

 ツインテールがくっつくぐらい俺の真横に立ちながら、アリアが聞いてきた。

 その紅い瞳は、店先のクレーンゲームを見つめている。

「はぁ、はぁ……ああ、これはUFOキャッチャーだろ」

「UFOキャッチ?なんか子供っぽい名前ね。ま、どうせあんたが来るような店のゲームなんだから、くだらないに決まってるけど」

 アリアはバカにするような表情でクレーンゲームの中を覗き込んだ。全国のクレーンゲーマーの方たちに謝れバカ。

 そのクレーンゲームのガラスケースの中には、ライオンなんだかヒョウなんだか分からない動物のぬいぐるみが大量に入っている。

「…………ぁー……!」

 べた。

 と、アリアはガラスケースにへばりついた。

 アリアの背の低さとぬいぐるみという背景が相まって、まるで本物の小学生みたいだ。

 この時間帯にこんな姿でゲーセンにいたら、警察に補導されんじゃないだろうか。その時は他人のフリをするとしよう。

「どうした。そんなに珍しいのか?」

「……」

「どうしたんだよ」

「…………」

「腹でも減ったのか?」

 この辺にももまんを売ってる店はないが。

「……………………かわいー……」

 なんだ。

 呟かれたアリアの言葉に、俺はちょっと脱力する。

 まあ、確かにケースの中のぬいぐるみは可愛いかもしれないが……鬼神の如き強さを誇る見敵必殺の武偵『双剣双銃(カドラ)のアリア』様のセリフじゃないだろ、それは。

 おいキャラが崩壊してるぞ、とツッコミを入れようと思って横からアリアの顔を覗き込むと、口を逆三角形にしてヨダレを垂らしかけている。やばいなこれは。放送禁止レベルの顔だぞ。

 そんなアリアの様子に苦笑してから、俺はアリアに問いかけた。

「やってみるか?」

「やり方がわかんない」

「幼稚園児でもできるぞこんなの」

「すぐにできる?」

「もちろん。じゃあやり方を教えてやろうか?」

 俺が言うと、アリアはこっちに向き直ってこくこくこくこくと首を縦に振った。

 なんなんだこのアリアは。調子が狂うにもほどがある。

 説明するほどのルールでもなかったが、縦ボタンと横ボタンを順番に押せと教えてやると、アリアはトランプ柄の財布を出して100円玉を取り出し、筐体の中へと入れた。

 そして筐体の前で姿勢を正し、狙撃の訓練でもやってるかのような真剣さでクレーンを操作し始める。

 うぃーん……

 ぽとっ。

 だが、狙いが悪い。ライオンなんだか以下略はアリアのクレーンで前足を少し上げただけで、持ち上がりすらしない。

「い、今のは練習っ!おかげでやり方が理解できたわ」

「そりゃ一回やればバカでも理解できるわな」

「もっぺんやる」

 アリアが財布からもう100円取り出し筐体に入れると、ばしっ!ばしっ!とボタンを押した。

 だが……ぽとっ。

 ぬいぐるみは今度はオシリとシッポを少し上げただけだ。こいつド下手だな。

「ちなみに500円入れると6回できるぞ」

 5回分の料金で6回プレイできるというクレーンゲームの唯一の良心的システムをアリアに教えてやる。

「うっさい!次こそ取れる!コツがわかった!」

 それ分かってない奴のセリフだぞ。絶対に分かってねえな、こいつ。

 うぃーん、ぽとっ。

 案の定、またクレーンがぬいぐるみを掠めただけだ。

「ぎー!」

「待てアリア!さすがに筐体を破壊するのはマズイ!」

「今度こそわかった!本気!」

 ちゃりん。ぽとっ。ちゃりん。ぽとっ。

 両替機で1000円札を崩してきて、ちゃりんぽとっ、ちゃりんぽとっ。

「今度こそ本気の本気!本気本気本気ほ――――ん――――きぃ――――!」

 ダメだこいつ早くなんとかしないと。

 見た目通りの小学生みたいな奴だ。

 ギャンブルとかに嵌ったら身を持ち崩すタイプだな。

「どけ」

 アリアが3000円ぐらい浪費したあたりで、俺はもう見ていられなくなり、仕方なく財布を取り出した。

 プライドの高い貴族様(アリア)は涙目になってボタンから手を放さなかったが、押しのける。

 どれどれ。

 ふむふむ。

 この、落とす穴に近いやつが狙い目だな。

 俺は一見取りづらそうな深いところにある謎のネコ科動物に狙いを定めた。ケースの中のぬいぐるみはどれも同じやつなので、どれを取っても文句は言われないだろう。たぶん。

 うぃーん、ぎゅっ。

 クレーンは見事、1頭の胴をがっしり掴むことに成功する。

「っ……!」

 ごくり。アリアが喉を鳴らすのが聞こえた。

「お?」

 見れば、ぬいぐるみのシッポにはそのさらに下にいたもう1頭のタグがからまっている。

 むむむむ……

 クレーンに持ち上げられた1匹のシッポにぶらさがって、もう1匹。

「ミズキ見て!2匹釣れてる!」

 言われなくても見りゃ わかる。

 てか、釣れてるって。

「ミズキ、放したら風穴よ!」

「もう俺にどうこうできる段階じゃないっての!」

「あ……あ、入る、入る、行け!」

 アリアほどじゃないが、俺もこれにはかなりドキドキしている。

 1匹は確実だが、もう1匹は……どうだ?

 どうだ……どうだ……どうなんだ?

 クレーンが……

 開く……!

 ぽとっ。

 っぽと。

 1匹目が穴に落ち、そのシッポに引っ張られるようにして、もう1匹も穴に落ちた。

「やった!」

「っしゃ!」

 これは結構嬉しくて。

 無意識に――――

 本当に無意識に。

 パチッ♪

 俺とアリアは満面の笑みで、ハイタッチなんぞをしてしまった。

「「あ」」

 目と目を、見開きあう

 そしてお互いに慌てて「「フンッ」」とそっぽを向き合った。

 ちっ。

 自分に少し腹が立つ。

 なんでこんな奴と息が合っちまったんだ?

 アリアは――――

「ま、まあバカミズキにしては上出来じゃない!」

 取り出し口に飛び込みかねない勢いで両手を突っ込むと、中からぬいぐるみを2匹鷲づかみにして取り出してきた。

 ちょっと見せてもらうと、タグには『レオポン』と書いてある。なんじゃそりゃ。

「かぁーわぁーいぃー!」

 ぎゅうううう。

 アリアはレオポンを思いっきり握りしめ、抱きついている。レオポン、破裂しそうだ。

 ……その姿が、あまりにも『普通』の女の子だったので……

 俺はちょっと、なんというかその、不思議な心地がした。

 アリアは、本当は、もしかしたら、ひょっとすると――――

 普通の、女の子なんじゃないだろうか。

 それこそ、さっきアリアが俺に対して言った言葉の逆で……

 アリアの方こそ、普段から自分に嘘をついて無理してるんじゃないだろうか。

 何かが、本当のアリアを歪めて変えてしまっているんじゃないだろうか。

 だとしたら、俺は――――

「ミズキ」

 ふと見ると……アリアは2匹のレオポンを、俺にぐいっと差し出してきていた。

「はい、これ。あんたのお金であんたが取ったんだから、これはあんたの物よ」

 んなこと言われても、なあ。

 そんな物欲しげな顔で見られたら、受け取りづらいっての。

 はあ。仕方がない。

 俺は受け取った2匹のレオポンのうち、1匹をアリアに突っ返した。

「やるよ、それ。欲しかったんだろ?」

「いいわよ、別に」

「いいから、受け取れよ。2匹あったって置き場所に困るだけだし。俺を助けると思って」

「そ、そこまで言うなら仕方がないわね。も、もらってあげるわよ」

 顔がニヤけるのを必死に堪えながら、アリアがレオポンを受け取る。

 しばらくはレオポンを眺めていたアリアだが、不意に俺に視線を移すと、

「ミズキ、ありがとっ」

 とても可愛い笑顔で、そう言った。

 こ、こいつ、こんな表情もできたのか。

 ちっくしょう。

 可愛い。可愛すぎる。

 俺は赤くなった顔を隠すように下を向き、そこでやっとレオポンが携帯のストラップだということに気が付いた。

 そういえば俺の携帯、今ストラップ付いてなかったっけ。

 ちょうどいい。付けるか。

 俺は携帯を取り出し、ストラップのヒモを携帯の穴にねじこむ。

 それを見たアリアは、パールピンクの携帯を取り出して、自分も見よう見まねでレオポンを付け始めた。たまたま偶然、こいつもストラップが無かったらしい。あくまでも偶然なので、俺とアリアが似た者同士という訳では決してない。。

 レオポンの尻から出ているヒモは中途半端に太く、なかなか携帯の穴に入らない。

 というかなんでこんな所にヒモを付けたんだこのぬいぐるみの設計者は。バカなのか?

「先に付けた方が勝ちよ、ミズキ」

「OK。装備科(アムド)所属生徒の本気を見せてやる」

 俺たちはその場で、うんうん唸りながらレオポンくっつけ合戦を繰り広げるのだった。

 我ながらスケール小さいな。

 ちなみに結果は俺の勝ちで終わった。

 装備科(アムド)の本気をもってすれば、この程度造作もなかった。

 ……我ながら本当にスケールが小さいな。 
 

 
後書き
どうもお久しぶり&初めまして!白崎黒絵です!
久しぶりの投稿です。テスト勉強の合間を使ってこつこつ書いた今回、お楽しみ頂けたでしょうか!
内容的にはあれですな、うん。おまえら(ミズキとアリア)カップルか!死ね!爆発しろ!
放課後のゲーセンデートって、いいですよね。
それでは今回も例のアレ(名前募集中!今から!)をやっちゃいましょうか!
今回はアリアです!

「このコーナー?の名前、たくさん送りなさいよね!」

それではまた次回。なるべく早めにお会いできることを祈っております。(おい)
疑問、質問、感想、誤字脱字の指摘など、ありましたら送ってください!
そういえば、つい先日初めてのコメントを頂きました!ありあがとうございます! 
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