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パンデミック

作者:マチェテ
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第四十九話「過去編・最後の任務」

「フィリップ!!」

ブランクが叫ぶ。フィリップは左脇腹から大量の血を流して倒れた。
突然変異種はトドメを刺すべく、爪をフィリップの頭に構えた。
その光景を見た瞬間、ブランクの中で怒り以上のどす黒い感情が溢れた。


殺意。



「フィリップから………離れやがれえぇぇぇぇ!!!」

殺意に突き動かされ、地面を踏み壊し駆け出した。
突然変異種の真横まで接近し、そのまま渾身の右ストレートを見舞う。

グチャッ

骨が砕けるような音がまるで聞こえなかった。あっという間に骨と肉が潰れ、頭が"消失"した。
適合者の全体重を乗せた右ストレートが、愚かな化け物の生を一瞬で終わらせた。




「フィリップ………しっかりしろ。我々は生きて帰る。そうだろう?」

ヴェールマンは左手でフィリップの傷口を塞ぎ、右手で頭を抱える。

「うぇっ、ゲブッ、ゴホッ………」

大量の血の混じった苦しげな咳を吐き出す。
早く地上に出て衛生兵を呼ばなければ………そう思っていた矢先だった。

フィリップが左脇腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
そして、どういうわけかヴェールマンやブランク、他の兵士達から離れていく。

「フィリップ?」

ヴェールマンがフィリップに近づく。しかし………



「来るなっ!!!」


大量出血にも構わず、大声を張って全員を遠ざけた。その場にいた全員が一瞬動きが固まった。

「すみません………司令、ブランク……皆…………」



「俺…………感染、したみたいだ………」


よく見ると、フィリップの傷口からは、大量の血に混じって黒い液体がドロドロと溢れ出ていた。
間違いなく"コープスウイルス"だった。


「フィリップ………なんでこんなことに………」

「畜生……畜生……っ!」

兵士達は暗い表情を浮かべ、涙を流す者までいた。
ブランクも、悔しげな悲しげな表情を浮かべて立ち尽くしていた。

しかし、ヴェールマンはフィリップの言葉を無視してフィリップに歩み寄る。

「司令………早く俺から離れるか………殺してください………」

フィリップの懇願すら無視して歩み寄る。
フィリップの目の前まで来ると、内ポケットから包帯を取り出した。
そのまま黙って左脇腹に包帯を巻き、簡単にほどけないように肩にも巻いた。

「フィリップ………これだけは忘れるな」








「部下を見捨てる上官など、私は認めない」


そう言うと、ヴェールマンはフィリップの肩を担ぐ。
ヴェールマンの言葉に、フィリップは涙を流し続けた………




「司令………フィリップを頼みます。血路は俺が開きます」

ブランクは両手の指をパキパキと鳴らし、身構えた。


「…………………ありがとうございます」









フィリップが負傷し、ヴェールマンの手を借りて移動するまでの間、周りの突然変異種は
ヴェールマン隊の兵士達が足止めしていた。

「なんとかフィリップは生きてるようだな」

「残る問題はこいつらだけか………」

ヴェールマン隊は冷静に突然変異種に対抗し、負傷した仲間を死守する。

メキッ ギギギギギギ…………どこからか、金属が軋むような音が鳴り響く。
その音が鳴った方へ視線を移すと………

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」

ブランクが周囲にあった装甲車両を一台持ち上げていた。そして……


「ぅおぉぉぉぉぉぉらあぁぁぁぁぁぁ!!!」


突然変異種目掛けてぶん投げた。
巨大な砲弾と化した装甲車両は、まっすぐ突然変異種に飛んでいった。

「伏せろ!!」

ヴェールマン隊の兵士が叫ぶと、その場の全員が一斉に防御体勢に入る。

ドガシャァァァン!!!


フロントガラスが全て割れ、ドアやボンネットが折れ曲がる。
大破した車体の下には、潰れた突然変異種の腕や頭が見えていた。
エンジンから黒煙が出始めた。

「炎上するのも時間の問題だな……司令、急ぎましょう」

「…………………」

「司令?」

ヴェールマンは何かを考え込んでいた。少し経って答えが出たようだ。


「………私の隊とブランク隊は、私とブランクを置いて地上に出ろ」

「どういうことですか?」

「お前達は日本支部の職員とフィリップを連れて地上の部隊と合流しろ。30分経過して私とブランクが
戻らない場合は、ここを完全に封鎖するんだ。そして、即刻本部に戻れ。いいな?」

「………納得が出来ません。司令はブランクと何をするつもりなんですか?」

ヴェールマンは自分の考えを兵士に説明した。


「地下のフロアを封鎖し、化け物共を閉じ込めておくんだ。ブランクが投げた装甲車両が炎上すれば、
確実にコープスウイルスは活性化する。お前達を巻き込むわけにはいかない。」

「我々もそれは同じです! 司令とブランクが残らなくてはならない理由にはなりません!」

「全員で逃げれば、地下フロアを封鎖する人間がいなくなる。ここからレッドゾーンが拡大する可能性
があるんだ。誰かがこのフロアを封鎖し、それを防がなければならない。分かるな?」

「っ! しかし!」

「………………分かりました」

「おい!?」

まだ納得が出来ない兵士はいたが、結局ヴェールマンの命令に従うことになった。


「………すまないな。ブランク、準備はいいな?」

「いつでも」

ブランクは兵士に肩を担がれたフィリップに歩み寄った。

「……………死ぬなよ。もう誰一人失いたくはないんだ」

その言葉に、フィリップは苦しげながらも返事を返した。

「…………俺もそうだ。…………生きて帰れよ……ブランク」






たった2人の、日本支部最後の任務が始まった。 
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