フェアリーテイルの終わり方
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九章 湖畔のコントラスト
1幕
前書き
老紳士 の 死
ジュードが好きだった。
――会って間もないのに、危険なことにもどこまでも付き合ってくれて、親友だと笑ってくれた、お人好しの少年。
アルヴィンが好きだった。
――いつもさりげなく見守ってくれて、弱った時には励ましてくれる、もう一人の兄さんみたいだった男。
エリーゼとティポが好きだった。
――常に成長しようとする姿勢を崩さない女の子と、そんな彼女の無邪気な面を体現したヌイグルミ。
レイアが好きだった。
――事実をまっすぐ見据え、その事実が悲しみであっても笑みを絶やさず、何に対しても誠実だった少女。
ローエンが好きだった。
――茶目っ気たっぷりで、されど思慮と胆力を兼ね備えた老紳士。
ガイアスが好きだった。
――民の幸せを思いやる王と、ちょっと堅物だった無頼漢の、二つの顔を持っていた男。
皆、この手で殺した。剣で、銃で、鎚で、槍で。
その瞬間に、彼は「彼」自身をも殺し、湖に永遠に沈めたのだ。
…………
……
…
「すごい――」
「フェイ?」
「ジュード! この分史世界、精霊でイッパイだよ! しかもどの精霊も全然イタイとかクルシイとか言ってない!」
「ええ!? フェイ、それ本当!?」
ジュードも駆けてきて、フェイが踊っている辺りを見回す。もどかしげだ。見せてあげられたらいいのに。
――現在、フェイたちは、最後の〈道標〉があるという分史世界の、カラハ・シャールの市にいる。
この分史世界に進入して、〈妖精〉であるフェイにはすぐ分かった。この分史の精霊の在り方は、正史世界とは全く異なる、と。
潤沢なマナを糧に、空気中の微精霊は苦もなく漂っている。
精霊を好きではないフェイだが、これはジュードが理想とする世界観のはずだから、真っ先にジュードに知らせた。案の定、ジュードは喜んでくれた。
「驚いた。君は精霊と対話できるのか」
「? 霊力野があればできるんじゃないの?」
「まさか! 精霊と意思疎通ができるのは、精霊が現世に肉体を持って降臨した時ぐらいだ」
「後天的な霊力野開拓の影響でしょうか。フェイさんの持つ力は我々リーゼ・マクシア人とも少し異なる部分がありますね」
フェイは自分の頭を押さえた。そうしたところで脳内の霊力野に触れるわけでもないのだが。
コレがエレンピオス人にとってのみならず、リーゼ・マクシア人にとっても特異だと考えたことは一度もなかった。
「あ、キレーなカップ!」
「こら、エルっ。走ると転ぶぞ」
「ころばないもーん」
駆けて行った小さな姉は、売り場の一つから濃い橙模様のカップを取った。
「お目が高いね、お嬢ちゃん。そいつはイフリート紋が浮かぶ逸品だよ」
「いふりーともん?」
「炎の大精霊イフリートが熾した火の窯で焼いた陶器の模様をそう言うんだよ。これは、ホンモノね」
少し前のフェイならば、逸品どころか、頑として触れもしなかった類の品だ。それをこうして淡々と解説する自分に、フェイは新鮮ささえ感じた。
「思い出しますね。初めてお会いした時のことを」
「へえ。二人が会ったの、カラハ・シャールだったんだ」
「ええ。私がミラさんやジュードさんとお会いしたのはちょうどこの市場だったのですよ」
「アルヴィンとエリーゼも一緒でね。エリーゼとドロッセルさんが意気投合して――」
ふとフェイは、店主の目がフェイたちより後ろ、ローエンに向いているのに気づいて両者を見比べた。
「指揮者イルベルト――?」
「はい。シャール家で執事をしていたローエンです。お久しぶりです」
至ってなごやかな挨拶――ではすまなかった。
「この野郎! どうやって化けたか知らないが、指揮者イルベルトは8年も前に死んだ! いや、殺されたんだ!」
フェイは驚いてエルと顔を見合わせ、同時にローエンをふり返る。ローエン自身も自身の身に覚えのない訃報に目を白黒させていた。
後書き
冒頭のモノローグが誰のものかはもう皆様お分かりでしょうから明言は致しません。
分史カラハ・シャールからスタート。原作とは変わりない展開ですね。ただちょっとだけオリ主の霊力野が人と違うらしいということが書かれたのみです。
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