不老不死の暴君
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第四十・五話 ケルオン派遣軍
アルケイディア帝国旧ディール王国領新都イスタナにて。
かつてケルオン大陸東端の肥沃な大地にディール王国という国が栄えていた。
そして216年前にアルケイディア帝国に占領された国の名前である。
当時のアルケイディア帝国は帝政に移行して4年であり、ケルオン大陸進出を計画していた。
まず飛空挺艦隊を飛ばすことが出来るヤクトに無い国で、海岸と接してなくてはいけない。
となると山岳地帯に存在する武装中立国の聖ヲルバ騎士団国か、肥沃な大地を持っているディール王国か、それともディールの3倍の領土を持っていて南部の亜人と戦争を繰り返しているアルス共和国か。
聖ヲルバ騎士団は精強であることで知られ、国土は小さいながらもキルティア教会とかなり強い縁がある。
更に山岳地帯で国土の4割がヤクトと地理的条件が最悪だったので真っ先にこの国に攻め込む事は断念した。
アルス共和国は南部のヤクトに住んでいるバクナムス族の対処とディールとの貿易摩擦に頭を悩まされ、西方の国々相手に侵略戦争を繰り返し、領土が東西に長く伸びてしまっている。
もし徹底抗戦されれば戦争は長期化するとしてアルスに攻め込むことは保留された。
ディール王国はガルテア連邦成立以前から聖ヲルバ騎士団国と領土問題から小競り合いを繰り返していたがアルス共和国との関係も良好であった為に国権の発動による全面戦争というものをここ700年は経験しておらず、軍事力も低かった。
その為にアルケイディア帝国から目をつけられ、攻め込まれた。
ディール王国は2週間程でアルケイディア帝国に降伏し、占領下におかれることとなった。
占領後はディール地方執政官が政治を行っており、現在のダルマスカ地方のように運営されている。
その後もアルケイディア帝国はケルオン大陸の諸国を占領し、ケルオン大陸総督が皇帝の代理人としてケルオン大陸各地の執政官を監視するようになった。
そんな歴史を持つ新都イスタナの総督府で現ケルオン大陸総督ピクシウス卿は本国からの命令を伝えていた。
「・・・ということで第12艦隊に同乗し、ラバナスタを経由して一度帝都に戻れということだ」
「はぁ、しかし遂に宿敵ロザリアとの戦争ですか」
やる気がなさそうに答えるのは第7局ジャッジマスター・グレイスである。
「いや、国境付近に軍を貼り付けているロザリアへの警戒だが、何故戦争になると考える?」
ピクシウス卿が微笑みながらグレイスに問いかける。
グレイスは内心ため息をつき、呆れたような目線をピクシウス卿にむける。
「総督閣下ならわかっているでしょう。最近の奇妙な事態に・・・」
「奇妙な事態?さて何のことかな?」
「あくまで私に説明させる気ですか」
「その通りだ」
グレイスは内心でこのおっさんは絶対に俺の言葉を理解してるだろ。
じゃなきゃこんなに面白そうな笑みを浮かべてるはずがねぇと言いたかった。
しかし仮にも上官が説明しろと言っているので仕方なしに説明する。
「最近、やけに暴動の数が減っていることです」
「それは喜ばしい事態だろ。卿達の努力の賜物ではないか」
「そうですか。ここ最近で潰した反乱組織はあまり無いはずですがね」
「では、どうなっていると卿は考えるのだ?」
「ロザリアからの支援が途絶えた。もしくは反乱組織が結集して大規模な反乱を画策している。私は後者の可能性が高いと踏んでいます」
「何故だ?」
「閣下はご存知ですかビュエルバの侯爵のことを・・・」
「ああ、確か病にかかり療養の為にビュエルバを離れているらしいな。早く病を治してビュエルバに戻りたいことだろうな」
「心にもないことを言わないでください。先日捕らえた反乱兵達から侯爵の名前が出ているんですよ!」
「なんと!恐れ多くも一国の主の名前を出すとはなんと不届きな輩だ」
「あなた絶対にふざけているでしょう?」
「何を言っているのだね?グレイス君・・・・そんな分かりきっている事は聞くな」
「やっぱりですか!? いい加減にしてくださいよ!! 兵の一部が閣下を頼りないなどと言い出しているのですから!!!」
「なんと・・・ならば卿の時以外の時はふざけずに対応しよう」
「私の時もまともに対応しろ!このハゲ!!!」
「うん」
「え~と話を戻しますが・・・・何処まで話しましたっけ?」
「ああ、オンドール侯の話が反乱兵から聞けたところまでだな」
「そうでした。それで―――」
「反乱組織がオンドール侯の下、集結して我がアルケイディアに対して反乱を起こす。場所は恐らくだがダルマスカの何処かだろうな。亡きダルマスカ王ラミナスとオンドール候は盟友だ。ダルマスカ再興を望む者達にとっては頼りやすいし、我が国の弱体化を望む反乱組織も支援するだろう。そして我が国と反乱軍の戦いが始まれば、国境に軍を集結させているロザリアは美味しいところをつまみ食いしようとダルマスカ保護とか適当な名目を大儀に参戦してくるというわけか」
「・・・やっぱりわかってたんですね?」
「さっきも言ったがそんな分かりきっていることは聞くな。それにまともに対応しろと言ったのは卿ではないか」
「はぁ・・・。もういいです」
グレイスは満面の笑みを浮かべているピクシウス卿にそう言った。
グレイスはピクシウス卿と別れると自分が指揮する第2艦隊の旗艦ネメシスに乗り込んだ。
どういうわけか第12艦隊を歓迎する式典を開くとピクシウス卿が言い出したのだ。
第12艦隊はケルオン大陸に寄るだけでそのまま北西に進みラバナスタに向かう予定なのにだ。
ここにはピクシウス卿の思惑があり、しばらく最新の戦闘機ばかりの第12艦隊が停泊すると思わせれば反乱組織へのいいハッタリになるからという意図はある。
しばらくすると乗り込んでいる部下から報告が入る。
「北東に艦影! 第12艦隊です!!」
グレイスは北東の空をみる。
第12艦隊の陣容は以下の通りである。
アレキサンダー級大型空母×1隻
シヴァ級軽巡洋艦×1隻
イフリート級巡洋戦艦×2隻
カトブレパス級駆逐艦×3隻
カーバンクル級軽巡洋艦×1隻
その他小型飛空挺多数と第2艦隊の陣容とは比べ物にならない。
まずシヴァは先の事故で壊滅した第8艦隊に所属していた最新の軽巡洋艦で、防御力はカーバンクル級より劣るものの高い機動性がある。
そして新型空母のアレキサンダーは高い防御力を誇り、小型戦闘機のCB58ヴァルファーレ戦闘機専用空母なのだ。
CB58ヴァルファーレ戦闘機などグレイス率いる第2艦隊にはまったくないというのに。
まぁこの辺では空中戦なんてめったいおきないし、対地攻撃力の高いイフリートの方が需要があるのだが。
そして何より上からの報告によれば第12艦隊は最近ドラクロア研究所が開発したというヤクト対応型飛空石完備だという。
ヤクトの多いケルオン大陸が主な活動地域のケルオン派遣軍にこそ必要だ。
そうすればヤクトで燻っている反乱分子を根絶やしにできるというのに。
いや、ロザリアとの開戦が近いこの状況ではヤクト・エンサを飛び越えて直接ロザリアに攻め込めることの方が重要か。
そんなことを考えていると機械を弄っている部下から報告が入る。
「アレキサンダーより入電!」
「繋げ」
「はっ!」
『西方総軍所属第12艦隊、旗艦アレキサンダー。艦長のザルガバースだ。貴艦隊の指揮官に応答願う』
『ケルオン派遣軍所属第2艦隊、旗艦ネメシス。艦長のグレイスだ。ピクシウス総督閣下直々に貴艦隊を歓迎したいとのお考えである。出来れば新都イスタナまでご同行願いたい』
『総督閣下のご好意感謝するが、我が艦隊はヴェイン・カルダス・ソリドール臨時独裁官閣下の命を受けている。よってピクシウス閣下に密命ゆえ、イスタナに行けぬとお伝え願う』
グレイスはザルガバースの返答を聞き、この前の政変の事を思い出した。
元老院議長グレゴロスによるグラミス皇帝暗殺。それに伴うヴェインの臨時独裁官就任。
第8艦隊壊滅の件で失脚寸前だったヴェインが臨時とはいえ一気に国家元首になった。
この政変のせいで帝国は行政に混乱をきたし、一部では暗殺の真犯人がヴェインではという噂もある。
だが、帝都の市民や軍部はヴェインの独裁を歓迎した。
それもその筈、ヴェインによって積み重ねられた戦勝や業績の高さから帝都の市民にとっては文字通り英雄なのだから。
そして軍部はロザリアの脅威が迫っている今、【戦争の天才】と称されるヴェインが国家元首に立つのは喜ばしい事態であった。
その影響はケルオン派遣軍にも届いており、兵の士気は高まり続ける一方だ。
『了解。部下に伝えさせよう。それで私は貴艦隊に同乗し、帝都へ帰還せよとの命令が下されている。受け入れを頼む』
『・・・了解した。シヴァで受け入れる。パンデモニウムに乗り込め』
『了解』
そう言ってグレイスは腹心の第7局のジャッジ数名と共にパンデモニウムに乗り込んだ。
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