不老不死の暴君
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第三十五話 暗雲
ケルオン大陸ヤクト・ラムーダのパラミナ大峡谷にて。
ゴルモア大森林を抜けたセア達はヤクト・ラムーダに入った。
このパラミナ大峡谷は雪が年中積もっている極寒の地である。
かなり着込んでいるはずだが、寒さを感じる。
神都のある北東を目指して歩いていると南の方から人だかりがきた。
なにやら薄汚い人たちとそれを守るようにキルティア教の印がある服をきた人たちが囲んでいる。
薄汚いのは難民で難民を守っている兵は僧兵団の団員だろう。
難民。それは戦争や疫病で住処を失った人たちの総称である。
恐らく彼らはキルティア教会に保護を求めにいくのだろう。
キルティア教会は難民達に援助を行っているというのは有名な話だ。
だが、ダルマスカやナブラディアと言った資金援助をしてくれる国が滅び、財政難になっているらしい。
そして僧兵団とはキルティア教会が保有する軍隊のようなもので主な任務は神都の治安維持とパラミナ大渓谷にでる凶暴な魔物退治。
修行を終えた敬虔なキルティア教徒ばかりが所属していて、規模は数千名だという。
キルティア教の修行は大雑把に言えば以下の3つだ。
断食(1ヶ月何も食べてはいけない。水はOK)
荒行(ふんどしだけ着けた状態で燃え盛る炎の中に突っ込む)
仙修(パラミナ大峡谷を武器・防具禁止で十日間自給自足する)
と、まぁこんな修行を終えたキルティア教徒ばかりで編成されているため、たとえ素手の状態でも同じ数で白兵戦なら二大帝国の軍隊の精鋭にも劣らない。
「どこかの侵略国家のせいで、ああいう難民が増えてるのさ」
バルフレアが難民達を見ながらそう言った。
「どこかの侵略国家のせい」確かにその通りだ。
ロザリアとアルケイディアの二大帝国の覇権争いで多くの国が滅んでいる今、難民は増える一方である。
「これ以上増やさないために、友好を訴えて大戦を防ぐんです。父は必ず平和を選びます」
「必ず? たいした自信だな」
ラーサーの言葉にバルフレアはどこか馬鹿にしているような声で言った。
そして不機嫌そうな声で一言吐き捨てる。
「父親だろうが、結局他人だろ」
バルフレアはそう言うと再び歩き始めた。
ラーサーは言い返すことができず、そのまま立ち尽くしていた。
「あんまり気にすんなよな」
ヴァンはラーサーを心配して慰めの言葉をかけた。
するとセアに肩をたたかれ、ヴァンが振り返るとセアは首を振っていた。
ヴァンは首を傾げたが、セアに「逆効果だ」と耳元で呟かれ、黙り込んだ。
同時刻アルケイディア帝国本国領帝都アルケイディスにて。
帝都の中心にある皇帝宮の謁見の間である二人が密談をしていた。
グラミスは玉座に座り、密談相手のヴェインは机を挟んで立っている。
そしていつも皇帝宮の警備についている親衛軍の兵士は今の謁見の間にはいなかった。
「私ひとりが消えて済む問題ではありません。元老院はソリドール家の存在自体を憎んでいます」
ヴェインはここで一旦言葉を区切り、少し力をこめて続けた。
「奴らを抑える口実が必要です」
ヴェインの言葉を聞いて、グラミスは玉座から立ち上がった。
「必要だと? そうか、必要か―――。そちの決まり文句だな。血を流す決断に毛ほどのためらいもない」
どかか責めるような口調でそう言いながらグラミスは窓際へよった。
グラミスが責めているのはヴェインか、それともヴェインをそうしてしまった己自身にか・・・
そう言ったグラミス自身にもわっていなかった。
「ソリドールの剣つるぎに迷いは不要。その剣を鍛え上げたのは陛下ご自身です」
「復讐のつもりか」
グラミスはそう呟いた。
グラミスは11年前、ヴェインに兄二人を処断しろと命じたことを恨んでいるのではと思っていた。
あの日以来ヴェインが職務で私情をあらわにしたことが無い。
どのような凄惨な任務でも無表情で成し遂げてきた。
グラミスはいつかヴェインが自分を殺すかもしれないと心の奥底でずっと思っていたのだ。
だが、ヴェインは声を乱さずに話す。
「必要だと申し上げました」
ヴェインの言葉にグラミスは僅かに唸った。
「今やらねば、もうひとりの未来も奪われます」
ヴェインの言うことは常に理がある。
確かにこのままでは帝国はソリドール家という旗印を失う。
現皇帝であるグラミスは老い先短く、ヴェインは第8艦隊の件で失脚寸前。
ラーサーは元老院の傀儡として皇帝になるか・・・
否、ラーサーが傀儡で終わるような人物ではない。
だが、まだ幼いラーサーが元老院をどうにかできるとは思えない。
となれば元老院によって幽閉されるか殺されるかのどちらかだ。
「白い手の者に代わり、その手を汚すか」
「すでに血に染まっています。ならば最後まで私が」
ヴェインの返答を聞き、グラミスは窓から帝都を眺める。
己の一生を捧げ、栄えさせてきたアルケイディア帝国の首都。
この繁栄を手に入れる為に、いったいいくつの国々を滅ぼしてきたのだろう?
いったいどれだけ莫大な量の血を大地に流させたのだろう?
グラミスは少し目を瞑る。
「すべてはソリドールのために―――か」
グラミスはそう呟き、黙った。
なに、この国の為に血を流すことなどまだ自分が幼い時から覚悟していたことではないか。
そう、喩え血を流すのが自分であったとしても―――
「エイジスとラナード卿をここに呼べい。それとヴェイン、グレゴロス議長に明日の朝に謁見の間にくるよう伝えよ」
「ハッ」
グラミスの命令にヴェインは臣下の礼をとり、謁見の間から出て行った。
「―――死なば諸共か、誰が言い始めたのか知らぬがよく言ったものよ」
グラミスは目を閉じ、誰に言うでもなく呟いた。
後書き
原作でキルティア教のことが殆ど不明なのでオリ設定にオンパレードですw
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