魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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十字架を背負いし神意の執行者~Predestination~
†††Sideレヴィヤタン†††
「なんでいるの?ですか・・・。まぁそれくらいなら話してもかまいませんね」
ベルゼブブの余裕。それも当然なこと。今のわたしは“力”の無いただの小娘に過ぎない。そんなわたしが、7体揃った“ペッカートゥム”相手に戦うなんて愚の骨頂だ。自殺行為の何物でもない。でも、だからと言って退くつもりはない。何故なら、そう、今のわたしには“ペッカートゥムの力”が無いだけだから。
(今こそルシリオンの言っていた使い時・・・なはず)
奥の手を使ってでも何とかして逃げる。もちろんルーテシアとアギトを連れて。でも姉妹たちには謝ることしか出来ない。さすがに全員連れて逃げることは不可能だ。
「あのとき、僕の中には六6つの“力”がありました」
救出と逃走の段取りを考えていると、ベルゼブブがそう語り始めた。
「6つの“力”・・・。そういうことか・・・!」
暴食の結界。色欲の操作。強欲の防衛。憤怒の拡散。怠惰の再生。傲慢の阻害。確かにそれだけあるなら大抵の事に対処できる。
「確かに僕は3rd・テスタメントの攻撃を受け、この体の9割を粉砕されました。実際、今こうして完全に復活するまでに、3ヵ月も掛かってしまいましたし。ですが、許されざる強欲たるマモンの“防衛”。許されざる怠惰たるべルフェゴールの“再生”。許されざる傲慢たるルシファーの“阻害”。そして、許されざる暴食たる僕の“結界”。それらのおかげで何とか生き残ることが出来たわけです」
「・・・そして、ずっと隠れていた、と・・・」
「あぁ、いいえ。あなたが破壊して回った界律干渉の紋様を復活させていました。実に大変でしたよ。ここミッドチルダ以外の世界に刻むのは。まったく、あなたが破壊してくれたおかげで、しわ寄せは全て僕に来たんです。あぁ、でも怒ってはいませんよ。確か結果オーライって言うのでしたか、こういうのは・・・?」
(ミッドチルダ以外に刻んだ!? だったらこの世界の界律はもう動いているはず・・・! ならシャルロッテとルシリオンも、守護神として動くはずだ!)
「さて。あぁ話もここまでですね」
「っ!」
(来る・・・!)
ルシリオンがわたしの核としてくれた“生定の宝玉”。その“生定の宝玉”へと送られて、貯蔵されたルーテシアの魔力を解放することで得られる戦闘能力。その“力”で、この場をどうにかして切り抜ける。
「・・・いきます!」
「むっ!?」
魔力を解放。体中を駆け廻る魔力と呼ばれる、わたしには縁遠かったモノ。そう長い時間は耐えられないし戦えない。それに魔力も有限。それに意識が飛びそうになるほどの痛みを感じる。だけど・・・
「ルーテシア・アルピーノが従者レヴィ・・・!」
その代償に戦える力を得ることが出来た。視線が一気にわたしに集まってきた。身構える。いつでも反応できるように。いつでも救い出せるように。
「・・・あははは。これはこれは。あぁ心配しないでください。あなたを消さないように気を付けるよう、終極様から指示ですので」
「な・・・に・・・?(どういうこと? わたしを生かしておく理由が解らない。裏切り者のわたしを、どうして・・・?)」
「不思議そうな顔しているな、先代嫉妬よ」
「・・・誰?」
わたしに声を掛けてきたのは、先代のアスモデウスと同じように赤一色の初老の男。どこかの王族が着ていそうな派手な服、そしてマントを纏っている。
「ふむ、我は許されざる傲慢。さて、先程の話だが、お前の消去は我らが任ではない」
「どういうこと・・・?」
シャルロッテとルシリオンが気付いて、助けに来てくれるまででいい。それまででいいから、何としても時間を稼がないと・・・。
「あんたを消すのは、そこの――あんたの大事な小娘が死んで、あんたに絶望を抱かせた後だってわけだ」
「っ!」
(なにそれ・・・。わたしを今生かす理由が、そんな馬鹿げた事だなんて・・・!)
わたしの逆鱗に触れた発言をした白い男。わたしは放てるだけの殺気を向けた。
「お前、必ず斃す。罪名は・・・?」
ルーテシアを死なせてから、それに絶望したわたしを消す。そんなふざけた事を口にした白い男の名前を聞く。
「許されざる憤怒だ」
「サタン・・・。真っ先に斃すから覚悟して」
そう挑発することで、わたしが真っ向から戦うと思わせる。
(まだ・・・? まだシャルロッテ達は気付かないの・・・!?)
もうそろそろ気付いてもいいはずなのに・・・。やっぱりこいつらも、わたし達の時と同じように神秘を隠匿している・・・? それとも、テルミナスとすでに事を起こしているのかもしれない。
「許されざる嫉妬。先にアギトを、終極様の御命令通りに機動六課先に連れて行きなさいな」
「なっ、待て!!」
深緑のレヴィヤタンに向けて、レヴィヤタンと瓜二つの群青の女がそう言った。明らかに双子。そして女ということは「アスモデウス・・・!」しかあり得ない。色欲の罪は、必ず女性型が務めているからだ。
「判ったわ、許されざる色欲」
「行かせない!」
背を向けたレヴィヤタンに追い縋ろうとしたけど・・・
「あぁ、いけませんねぇ。いけませんよ先代嫉妬」
「ベルゼブブ! 邪魔を・・・するなぁぁぁぁーーーーッ!」
もう待っていられない。ごめん、ルーテシア、みんな。わたし・・・・・ここで死ぬかも。
・―・―・―・―・―・
半年前にも一度襲撃を受け、破壊された機動六課の隊舎。そして今、その隊舎は半年前と同様に破壊されていた。機動六課の魔導師たちと“絶対殲滅対象アポリュオン”の一方的な戦いによって。
「――それで? まさか欠けていないでしょうね?」
瓦礫に腰かけて、空に視線を向けながら何者かと話をしている少女。少女の名はテルミナス。終極の意を持つ“アポリュオン”がナンバーⅩⅥにして、序列2位を誇る実力者。そして元“界律の守護神テスタメント”でもある。かつて最強の漆黒の第四の力として存在していた“儚き永遠を憂う者”の二つ名を持っていた守護神。現第四の力ルシリオンにとっては先輩となる。
『はい。先代のレヴィヤタンの思わぬ反撃を受けましたが、我々ペッカートゥムは誰一人として欠けてはいません』
終極と話すのは、海上隔離施設へ襲撃を仕掛け、標的であるアギトの捕獲、そして機動六課へと送る任を負っていた“ペッカートゥム”が1体、暴食の罪を背負いし許されざる暴食だ。
「当たり前でしょ。先代の、しかもペッカートゥムの“力”の無い残りカスに負けるなんて許さないから」
不機嫌そうに聞こえながらも、その声には喜悦の色が見られ、テルミナスも楽しそうに笑みを浮かべている。
「こちらはもう済んだから、私がそっちに行く。待機していなさい」
テルミナスがそう告げ、ベルゼブブは静かに『仰せのままに』と返す。2体の会話をそれで終わった。
「クスクス。それじゃあ機動六課、任務開始」
「「「「「了解しました。我らが主」」」」」
機動六課の隊長陣。はやて、なのは、フェイト、シグナム、ヴィータが静かに応えた。彼女たちの背後。そこにはスバル、ティアナ、エリオ、キャロが居り、さらに背後には他の隊員たちが待機していた。“機動六課”はテルミナスに敗れ、完全に操られた駒と化していた。
「クスクス。さぁ、早く来てルシリオン。早く踊りましょ♪」
心底楽しそうに、テルミナスは瓦礫の中心で空を見上げていた。
†††Sideシャルロッテ†††
あまりにも静かすぎるクラナガン。何故なら人っ子一人いないから。ミッドの“界律”が、自身に存在する生命を全て無時間空間に隔離したんだろう。護るべき対象を契約執行中の戦闘に下手に巻き込んで死なせないためにだ。
「・・・ふぅ」
いつか、こういう日が来ると思っていた。ううん。必ず訪れる最後の日。逃れられない別れの日。それが今日、私とルシルに与えられた誕生日だなんて・・・イジメ?
「・・・ルシル・・・」
声が震える。泣きそうだ。違う。もう泣いている。涙が止まらない。止めることが出来ない、出来ないんだもん・・・。
「ああ。いるな、絶対殲滅対象が・・・」
ミッドに着いてすぐ気が付いた。“界律の守護神”が斃すべき存在“絶対殲滅対象”が、間違いなくミッドに居る。
――ミッドチルダ界律より
剣戟の極致に至りし者 天秤の狭間で揺れし者に今、契約を
招かれざる破滅の使徒 終極と大罪来たる 各々が誇りし力にて彼の者らを討て
総ての制限今此処に解放し 己が存在を賭けて 討ち滅ぼすこと
是本契約とす――
“界律”からついに本契約の通達が来た。やっぱり界律干渉の紋様を破壊したくらいじゃ諦めないか。それにしても相手はあの序列2位の終極テルミナス。正直勝てる気がしない。ていうか、あいつを相手にするくらいなら、宇宙ウーニウェルスムや運命フォルトゥーナの方がマシだよ。
「ペッカートゥムだってさ、ルシル」
半年前に潰したのにもう湧いてきた。何でこんなに早く揃うのか、そこまで人間の罪は重いということなのだろうか・・・?
「もう次代が揃ったようだな。まったく、面倒事ばかり運んでくる連中だ」
ルシルは随分な落ち着きよう。まぁ確かに契約執行となれば、大罪くらい容易く斃せる。半年前は“干渉”が使えないからこそ苦戦したに過ぎないのだから。
「それにしてもやはり終極、か。なぁシャル、勝てないとか思っていないだろうな・・・?」
「・・・少し、だけ」
個人の実力じゃテルミナスの方がルシルよりずっと上。本当なら序列6位の私と序列1位のルシルの2人がかりでも勝てる相手じゃない。ルシルもそれくらい解っているはず。
「勝つんだ。絶対に。それがみんなを護る唯一の術だ」
「っ!?」
ルシルは私を抱きしめて、優しくそう言いながら頭を撫でた。そっか。ルシルに頭を撫でられるのってこんなに気持ち良いんだ。すごい落ち着く。ありがとう、ルシル。もう大丈夫だよ。戦えるよ。手言うかごめん、フェイト。浮気じゃないから許してよね。
「ありがと。私はもう大丈夫だから。行こうルシル。世界を護るために。・・・界律の守護神が白き第三の力、“剣戟の極致に至りし者”・・・」
「ああ。界律の守護神が黒き第四の力、“天秤の狭間で揺れし者”・・・」
人間としての肉体を完全に捨てる。ここからの闘いに、人の身体はただの枷でしかないから。それは日常からの完全なる決別。もう後戻りが出来ない一線。私とルシルはその一線を・・・
「「契約執行形態・・・顕現!」」
越えた。10年間という時間、私たちを縛っていたあらゆる制限から完全に解放される。“ジュエルシード”の時や2年間の契約執行ですら完全解放が許されなかった制限。それが今、解放された。それと同時に本来の姿を取り戻す。私は髪の長さと身長が元に。ルシルも髪の長さが元に戻った。次に私は白の外套と純白の“第三聖典”を。ルシルは黒の外套と漆黒の“第四聖典”を手にする。仮面は具現化させなかった。視界を狭める可能性があるから。
「さて。早々に終わらせ――ば、馬鹿な・・・!?」
「?? っ・・・うそ・・・なんで・・・!?」
戦闘を開始するために位相転移で移動しようとしたとき、私たちの視界にあってはならないモノが映った。
「くっそっ! やられた!」
私たちの上空に現れたのは「LS級艦船・・・・!」だった。時空管理局が有する次元航行艦の一種、大気圏内活動に優れた小型のLS級の戦艦5隻。そしてもう1隻。あの黒くて大型の艦船は確かXV級の次期主力艦のひとつ・・・。
『こちら時空管理局本局・次元航行部隊所属、クラウディア艦長クロノ・ハラオウン』
「「クロノ!?」」
クラウディアから聞こえてきたのはクロノの声。偽者かと思ってルシルに視線を向けると、本物で間違いないって、首を横に振って応えた。
『界律の守護神、4th・テスタメント及び3rd・テスタメント。テルミナス様が命により、この場で殲滅する』
テルミナスが時空管理局を掌握した。私たちにとって最悪過ぎる状況になった。
「・・・ルシル」
本局が落とされているなら、六課も落とされていると考えていい。なのは達が敵になる。しかも操られて。そんなの嫌だよ。
「仕方がない。シャル、君は六課にい――」
「えっ!? ルシル!? ルシル!!」
消えた。ルシルが一瞬でその姿を消した。今のは位相転移のようだけど、いきなり過ぎる。
「シャルロッテ、お久しぶりっス!」
「ウェンディ!? それに・・・・確かトーレ、クアットロ、セッテ・・・」
悲嘆に暮れる暇もなく、いつの間にか私の背後に居たウェンディら施設組の姉妹たち。それに軌道拘置所に容れられているはずの戦闘機人3体。ウーノとかいうのは居ないみたい。その身に纏っているのは、かつての事件で着ていたバトルスーツ。きっちり武装していて、いつでも戦えると言える格好。
「テルミナス様の御命令でぇ、あなたを殺しまぁす♪」
相変わらずムカつく喋り方のクアットロ。そう、私の相手は姉妹たちにさせるというわけ・・・。
「テルミナス・・・絶対に殺す・・・・!」
正直、トーレたち拘置所組はどうでもいい。けどチンクを始めとした施設組だけは殺したくない。この娘たちとはそれなりに交流も深めたし、特にウェンディとは仲が良い。
「ムリだね!」
「っ!?・・・へぇ、その姿、ひとつになったというわけ、大罪ペッカートゥム」
視線の先、7体の分裂体じゃなく、1つとなって本来の完全体になった“ペッカートゥム”が居た。艶のない漆黒の髪。見る者全てを呪うかのようなどす黒い切れ長の瞳。そして服装は真っ白な長衣の男性型概念存在。ナンバーEX、大罪の“ペッカートゥム”。
「久しぶりだねぇ、三番! 会いたかったぜぇ!」
「・・・私は会いたくなかったわ、大罪。その虫唾の走る顔を、何度も何度も何度も何度も潰すこちらの身にもなってみなさい」
口調を少しだけ昔に戻す。こいつの前で今の口調だとナメられる。
「釣れないね。まぁそこがいいんだけどさぁ。あー、まぁいいや。終極様の命令でね。三番、俺達としばらくダンシング!」
「・・・チッ」
“第三聖典”を剣のようにして構える。契約執行中においては、神器“断刀キルシュブリューテ”より、守護神専用の“聖典“の方が遥かに強いからだ。
「(ルシルはきっとなのは達のトコに強制転移されてるはず・・・。テルミナスの奴、ルシルをそっちに行かせるなんて・・・)ホント性質が悪い・・・!」
ルシルとフェイトを戦わせるつもりなんだ。クソ外道が。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「また・・・こんな光景を見るなんてな・・・」
強制転移を受けて着いた場所は“機動六課”の隊舎。だが、隊舎はほとんど半壊状態。戦いがあったと見ていい。
「・・・今なら簡単に直せるか」
実数干渉を使って現実に干渉し、半壊した隊舎を元通りに戻す。今まで世話になった愛おしい場所。それを直し終えて「・・・テルミナスっ!」こんなことを仕出かした敵の名を叫ぶ。実力は向こうが上。1対1で勝てる相手ではない。だからと言って退くつもりなど毛頭ない。そう、序列2位を斃せるチャンスが来たと思えば良いだけの事。
「ルシル」
突然名前を呼ばれても驚かない。この声の主は知っている。彼女の声で、私は名を何度も何度も呼ばれているから。振り返る。そこにはやはり彼女がいた。
「フェイト」
執務官としての黒い制服。手にしているのは起動した“バルディッシュ”。すでにテルミナスに操られていると見ていい。
(すまない。私たちの闘いに巻き込んでしまって・・・本当にすまない)
声には出さないが、心の底からの謝罪を告げる。
「・・・クスクス。ねぇルシリオン、踊りましょう♪」
「テルミナス!! 貴様・・・!」
クスクス。テルミナスの笑い方のクセ。間違いなくフェイトは、そしてなのは達も操られている。
――ディバインバスター・エクステンション――
「っく・・・!」
上空から襲い来る桜色の集束砲撃。
(ああ、知っているものだ。なのは・・・君なんだろう・・・)
干渉を使ってフェイトを巻き込まないように障壁を張り、難なくなのはのバスターを防ぎきった。干渉を超えるには干渉でなくてはならない。魔法で今の界律の守護神を斃すことは不可能だ。
(テルミナスにそれが解らないわけがない)
何か策があると見て間違いない。
「ルシル。さぁ、私と一緒に踊ろうよ。クスクスクスクス・・・」
「フェイトの声で・・・」
干渉を使って、フェイトを操っている終極の意思を引っぺがす。
「貴様の笑い方をするな!!」
右手を伸ばしてフェイトの体に触れようとしたとき・・・
――凍てつく足枷――
リインが使う氷結魔法の一種が私を捕えた。氷に閉じ込められるなんていつ以来の事だろうか。氷の檻の中から見えるのは、フェイトの隣に降り立ったユニゾンしたはやてとリイン。それに続き、背後になのはが降り立ったのが気配で判る。
「ルシル君・・・」
なのはとはやてが攻撃態勢に入ったのが判る。
――炎人招来――
炎熱系下級魔術を使って、私を閉じ込める凍てつく足枷フリーレン・フェッセルンを吹っ飛ばす。その衝撃で、フェイト達も後方に弾き飛ばされたのが見えた。
「もういい。彼女たちを解放してやってくれ・・・テルミナス」
どこかに居るであろう本体に向け、私は静かに告げた。
・―・―・―・―・―・
――ミッドチルダ北部廃棄都市区画
「なんで・・・!? なんで!?」
――レイストーム――
真紅の両翼ルビーン・フリューゲルを羽ばたかせ、地上すれすれを飛行するテスタメント・シャルロッテ。その彼女に追い縋るのは、オットーのISレイストーム。幾条もの緑色の光線が、テスタメント・シャルロッテを撃たんと空を走る。逃げの一手を取る彼女の表情には焦りと困惑が浮かんでいた。
「随分驚いているようだけどさぁ、どうしたんだぁ三番」
姉妹たちナンバーズとテスタメント・シャルロッテの戦いを観戦する“大罪ペッカートゥム”からの野次。テスタメント・シャルロッテは一睨みしつつ、連続ロールで光線を全弾回避。そして、急停止してのターン。
「IS発動ツインブレイズ」
「IS発動スローターアームズ」
「IS発動ライドインパルス」
そこにディード、セッテ、トーレが同時に失速したテスタメント・シャルロッテへと仕掛ける。それを迎撃するため、テスタメント・シャルロッテは“第三聖典”で3人の刃を受け止めた。
「やっぱり・・・っく、干渉能力・・・。どうして!?」
テスタメント・シャルロッテの表情が歪む。本来なら、契約執行中の彼女がここまで苦戦するようなことはない。そもそも戦いにすらならないのが当然で必然で絶対なのだ。しかし、今の彼女とナンバーズの戦況は拮抗していた。
「どうしてこの娘たちが干渉能力を使ってるの!?」
それが最大の原因。“界律の守護神テスタメント”と“絶対殲滅対象アポリュオン”のみが扱える絶対なる能力。その干渉能力を、下位存在たる人類の階位として定められているナンバーズに使えるわけがなかった。しかし現にナンバーズは干渉能力を使用し、テスタメント・シャルロッテを追い詰めていた。
「このぉぉぉっ!」
テスタメント・シャルロッテは、3人の干渉を上回る干渉を使って3人を弾き飛ばし、トーレとセッテを廃棄ビルに叩きつけ戦闘不能に追い込む。そしてディードはオットーの居る方へと弾き飛んで、オットーと激突。両者は沈黙した。
「は~、随分優しいじゃないの三番。普段なら木端微塵のバラバラにするのに。俺にもそれくらい優しくしてほしいもんだねぇ。いっつもバラッバラにしやがってよ」
「黙れ二級品。この娘たちを止めたら、次は――セインっ!?」
「ISディープダイバー」
テスタメント・シャルロッテの両足を掴んだ、地面より顔と両腕だけを出すセイン。
――イノーメスカノン――
――オーバーデトネイション――
――エリアルキャノン――
テスタメント・シャルロッテに向けて、遠距離攻撃が3方向から襲い掛かる。
「っ、真楯!」
干渉が上乗せされた防性術式が彼女の全方位に展開された。そして着弾。大爆発が起き、激しい爆風と砂煙によって視界が閉ざされる。
「どこに行った・・・?(なんだ? 私たちは何故シャルロッテと戦っている!?)」
チンクは砂煙によって対象であるテスタメント・シャルロッテを見失った。と同時に、自分の意識を取り戻した。意識を取り戻し、テスタメント・シャルロッテと戦っている自分にパニックを起こす。
「ディエチ、見えるっスか?(な、なんスかこれ!? どうしてあたしらシャルロッテと戦ってるっスか!?)」
「ノイズが酷くて確認できない(なんで!? どうしてこんな・・・!?)」
次々と自分を取り戻していくナンバーズはパニックを起こしていく。気が付けば友人とでも呼べるほどに親しくなっていたテスタメント・シャルロッテと戦っているのだから当然だった。
『クスクス。もう意識を取り戻したの? 人形のクセして結構魂が強い様ね』
(((((!!?)))))
突如、頭の中に響いた他人の声に、姉妹たちはさらに混乱しだす。
『クスクス。もうしばらく私の駒でいて』
「(冗談じゃ――)しまっ・・・!」
「ごめん、ディエチ・・・!」
――風牙烈風刃――
砂煙に紛れて突進してきたテスタメント・シャルロッテは、一番近くに居たディエチへと“第三聖典”を振るい、彼女の固有武装“イノーメスカノン”を木端微塵に粉砕し、彼女自身も吹き飛ばし気絶させた。
「おらああああああ!(なんなんだよこれ!? 体が勝手に動いちまう!)」
「っ、ノーヴェ・・・!」
「おおおおおお!!(避けてくれ、シャルロッテ!!)」
ノーヴェは自身の固有能力であるエアライナー上を疾走してテスタメント・シャルロッテへと奇襲。テスタメント・シャルロッテは“第三聖典”を盾にして、ノーヴェの“ジェットエッジ”の一撃を防ぐが・・・
「行くっスよ!(止まれ、止まれっス!)」
――フローターマイン――
ウェンディが展開した無数の反応弾がテスタメント・シャルロッテを包囲。当たらなければどうってことはない。しかし、ノーヴェの一撃を防いでしまったことで、その衝撃に耐えきれず弾き飛ばされてしまい、包囲網へと「しまった・・・!」突っ込んだ。約30発近い反応弾が一気にテスタメント・シャルロッテを襲い、彼女の干渉による防御を破った。何度も巻き起こる爆発と周囲へ拡大する砂煙。
「やったか!?(シャルロッテ!?)」
「直撃っス♪(なんなんスかこれ!・・・もうやめてくれっス!)」
「IS発動、ランブルデトネイター(やめろ! くっ、やめろっ!)」
必死に自らの動作を止めようとするチンク達だが、終極テルミナスの絶対操作という干渉能力に隙はなく、意識を取り戻していようが、ただ見ていることしか出来なかった。
「オーバーデトネイション(っ! 頼む、逃げてくれ!)」
砂煙の中に居るであろうテスタメント・シャルロッテを包囲するように、チンクの固有武装“スティンガー”が無数に現れる。チンクが指を鳴らし、全弾がテスタメント・シャルロッテを襲撃。さらに強大な大爆発を起こした。
「あー、これで決まったかぁ・・・。 やっぱり終極様の干渉は凄まじいねぇ。罪人にすら干渉を扱えるように操作するってんだから」
それこそがナンバーズが干渉能力を使用している理由だった。下位の存在である人間と位置づけされたナンバーズに、上位の“界律の守護神テスタメント”にダメージを負わせる方法、即ち干渉能力を持たせる。その策は上手くいき、テスタメント・シャルロッテに苦戦を強いていた。
「・・・あ~らら。そう簡単に落ちるわけないよなぁ三番。さっすがぁ!」
“大罪ペッカートゥム”の視線の先、砂煙が晴れたそこには両翼が吹き飛び、左腕が根元から消滅しているテスタメント・シャルロッテが佇んでいた。表情は俯いていて判らないが、明らかに怒りの雰囲気を醸し出している。次の瞬間にはすでに左腕は元通りに修復された。何事もなかったかのように。
「ごめん。巻き込んで・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ナンバーズに謝罪した。“第三聖典”を掲げ、一気に振り下ろし地面に突き刺した。
――遥かに遥か、白の真白の、高き夢々、汝よ祈れ――
テスタメント・シャルロッテの干渉が地面を伝わり、残りとすでに倒れているナンバーズを遥か上空に吹き飛ばして意識を刈り取り、強制転移で施設組は先端医療技術センターへ。拘置所組は本局へと送られた。
「第1ラウンドはガラクタ人形共の負けかぁ。ま、当然だよなぁ。それじゃあ三番。第2ラウンドだ」
「っ!・・・クズめが・・・!」
第2ラウンド。その相手を見て、テスタメント・シャルロッテの表情は今度こそ怒りに歪んだ。
「クロノ、ユーノ、アルフ、ギンガ・・・ルーテシア・・・」
テスタメント・シャルロッテの視線の先、彼女の友人たちの姿があった。
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