問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
乙 ⑤
宿で一休みしてすぐに捜索を始め(一輝は一切休まず、徹夜で探していたが)、途中で白夜叉が飛鳥にセクハラするなどの事態もあったが、その後で白夜叉から説明された、“サーカスを見に行ったもの達が、帰ってこない”と言う話を聞き、事態がよりいっそう深刻なものになる。
「なあ、ちょっといいか。それについては、こいつからも話があるんだ。」
十六夜はそう言って、フェルナを指した。
それからフェルナが言ったのは、フェルナのコミュニティにも行方不明者がいる、という話だった。
「ええっ!?フェルナのコミュニティにも行方不明者がいるー!?」
「う、うん・・・実は私、サーカスに行ったのは昨日が初めてじゃないんだ。」
そこからのフェルナの話を要約すると、
①前に行った際にも黒ウサギのように一人帰ってこなくなり、聞いても『裏口から退場させた』の一点張り。
②サーカスが怪しいとは思ったが、フェルナたちでは打つ手が無い。
③そんなときに四人と出会い、何とかしてくれるんじゃないかと思った。
④そして、四人をサーカスに誘った。
の四点だ。
「危険だとは分かってたんだけど、そうするしかなかったの。それに、まさか黒ウサギさんが巻き込まれるなんて思ってなくって・・・」
「・・・・・・」
一輝たちはどう返したらよいか分からず、少し黙ってしまう。
そして、最初に動き出した一輝は、フェルナの頭に手を置き、
「中々見る目があるな、お前。依頼達成率百パーセントの俺に頼んだのは正解だぞ。」
「え・・・」
「ま、どうせ黒ウサギを取り戻さないといけないんだ。一緒にフェルナの仲間も助けてやるから、任せとけ」
「お兄さん・・・」
「皆も、そんな感じでいいか?」
一輝は四人のほうへ振り返りながらそう尋ねた。
「ええ、それでいいわよ。にしても一輝君、こういうことになれているのかしら?」
「まあ、慣れてるよ。こんな依頼も、たまにあったし。」
「達成率百パーセントっていうのは・・・?」
「事実。依頼のフリをしてだましてたのは除くと、だけどな。」
全体の方針が決まったところで、十六夜が白夜叉にたずねる。
「・・・つまり、黒幕はやっぱりサーカス団か。そこに魔王がいる可能性は?」
「そういえば、おんしらのコミュニティは打倒魔王を目標に掲げとるのだったな。」
「まあ、こんなに頻繁に行方不明者が出てるんだ。可能性はかなり高いだろ。」
「うむ!これ以上大事へ発展させんためにも、ひとまず様子を探りに行くぞおんしら!」
そして、全員でサーカスのテントまで行き、“契約書類”が出てきたことにより、各自行動となった。
==========
「さて、専門じゃないんだけど、そんなことも言ってられないよな・・・昨日ずっと探しても見つからなかったんだし。」
一輝はフェルナから話を聞いた場所まで戻り、倉庫から様々な道具を取り出して並べていく。
「ふぅ・・・霊脈干渉。範囲、町全体。捜索対象、黒ウサギ・・・」
そして地面に書いた紋章の中心に座り、呪術による捜索を始めた。
サーカスを出てすぐに行った簡易的なものではなく、本格的なものだ。
「範囲内に黒ウサギの反応なし。対象変更・・・特異点。レベル10以上。」
黒ウサギが見つからなかったため、対象を特異点へと変更する。
何かある場所なら、特異点となるだろう、という推測からだ。
が、それに該当するものが多数発見できたため、一輝はそれぞれがなんなのかを絞り込むのに時間を要した。
「この一番でかいのは・・・白夜叉か。対象から外して・・・」
一輝は目の前に広げた町の簡易的な地図の上に反応を起こし、まず一つ、外した。
「ってことは、一緒にいるこのでかい反応は十六夜だろうから外して・・・この噴水のは俺だろうから、これも外す。」
十六夜は“正体不明”なんてギフトを持っているし、一輝はその身の中に大量の妖怪、霊獣を封印している。
十分な危険物だ。
「で、この建物を気にせず移動してるのは耀だろうから除外して・・・確かここにあったのはサーカスのテントだから、招待状とは関係ないし、除外。ゆっくり動いてるこれは・・・ああ、ディーンと飛鳥か。これも除外。」
パッと判別できないものはもう少し詳しく調べ、その霊格から特定していく。
「となると・・・残ってるのはこの、町外れにある小さい丘、か・・・念のため、もう一回・・・」
一輝が確認のためにもう一度捜索をかけると、サーカスと一輝以外の反応全てがそこに集まっていた。
「間違いないな・・・少し急ぐか。」
一輝はペットボトルを取り出し、水に乗ってそこまで飛んでいった。
==========
「あれは・・・サーカスの入り口にいたピエロか?」
一輝が丘の上空にたどり着いたとき、そこには顔の一部がなくなって少しばかりスプラッタになったピエロがいた。
「多分、敵・・・だよな。えい。」
「こレは世界をバラ色に染めルモノ。真っ赤なバラ色ギャああああああっ」
ピエロはかっこつけた台詞とともに十六夜に襲い掛かろうとしたが、一輝が気まぐれに放った火の槍により、燃え尽きた。
「・・・あれ?いまの、何の工夫もないただの火の槍だったんだけど・・・」
「オイ一輝。後からきといて美味しいとこもってくんじゃねえよ。」
地面に降りてきた一輝に、十六夜はそういった。
一輝としては、そういわれても、何がなんだか・・・といった状況なのだが。
「・・・あれ?せっかく街灯持ってきたのに、道化師さんは・・・?」
「一輝君がぶつけた火の槍で燃え尽きたけど・・・どうして燃えたのかしら・・・?」
「ああ。それは、あの道化師さん、油絵具だったから。」
「それでか・・・」
「でも、いいの?まだ招待状貰ってなかったのに、道化師さん燃え尽きちゃったけど・・・」
「その心配には及ばぬよ。」
耀の心配は、白夜叉によって打ち破られた。
「ヤツが絵具だったのはこのためじゃろうのう・・・地面に魔法陣が描かれておる。」
白夜叉が見る先には、確かに魔法陣があった。
「この魔法陣に乗れば、やつらの本拠に飛ぶと見て間違いないじゃろうな。」
「・・・うん、正解。転移先は、あのテントのなかの座標になってる。」
「おおっ。だったらモタついてねーでさっさと行こうぜ!一輝のせいで中途半端にやる気な状態で止まってるしな!!」
「もうそれはいいだろ・・・」
一輝と十六夜がそんな会話をしているうちに、五人は魔法陣に乗った。
そして、転移した先のサーカスには、たくさんの観客がいた。
「これは・・・なんだか、俗物ばっかな感じがするな・・・それに、契約書類にあった闘技場ってのも引っかかるし・・・」
「おやおや皆さん、おそろいで一体どうされたのですか!?」
一輝が周りを見回していると、黒ウサギが声をかけてきた。
五人が声のした方に振り返ると、そこには、
「あっもしかして!黒ウサギの玉乗り芸を見に来てくれたのですねーっ!?」
玉乗りをする黒ウサギがいた。
ものっそい笑顔の。
《《《《この笑顔・・・殴りたい・・・》》》》
《人に徹夜で探させといて・・・とりあえず、エアショット》
問題児の思考が一致したところで一輝が空気の弾を発射し、黒ウサギの乗っていた玉を弾き、
「おわっ!?」
「揉みたかったぞ黒ウサギイイイーッ!!」
「ひゃああああ!?」
「もう貴女は引っ込んでなさい!!」
落ちてきた黒ウサギに白夜叉が抱きついた。
飛鳥の突込みには、聞く耳も持たず。
「で、だ。黒ウサギはこんなところで何をしていたのか、順を追って説明してもらうぞ。」
「あ・・・すみません。その、ですね・・・」
「何かしら?」
中々答えない黒ウサギに、飛鳥が若干キレた口調でたずねる。
「ア、アルバイトをしておりました・・・」
「アルバイト?」
「はい・・・あの公演の後、裏手で団長さんにスカウトされたのですよ。玉乗りショーに出てみないかって・・・!」
黒ウサギは、若干興奮した口調で語りだす。
「少し興味もありましたし、どうしてもと言うので引き受けてみたのですよ。皆さんにはその旨を伝えていただける、とのことでしたし・・・」
「むしろ、シラを切られたらしいぞ?」
「え?あれ?おかしいですねぇ・・・」
「はぁ・・・まあいいわ。」
飛鳥は若干呆れたように頭に手を当てながら、そういった。
「無事だったのだから、ひとまずよしとするわ。」
「早く帰ろ・・・」
「なんだかお騒がせしたみたいで・・・申し訳ありませんでした。」
「後で罰が待ってるからな、っと!」
一輝はそう言いながら、量産型妖刀で飛んできた刀を弾く。
「どういうことかな、団長さん?返答によっては、殺すぞ?」
「・・・あきまへんよ、お客様。まだギフトゲームは終わっとらんどす。」
「ギフトゲーム?」
「そうや。契約書類を見てごらんなし」
一輝はそういわれ、テントの前で現れ、ポケットにしまっていた契約書類を見る。
『ギフトゲーム名“Funny Circus Clowns”
・プレイヤー一覧
・現時刻、テント前に現れた者
・クリア条件
・円形闘技場にて五回試合での三勝以上。ただし、同じプレイヤーの二度以上の参加は不可。
なお、プレイヤー達は招待状を見つけなければ闘技場への入場を許可されない
・敗北条件
・上記の条件を日が昇るまでに満たせなかった場合
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します
“トリックスター”印』
「ふうん・・・試合、ね。」
「そうや。五回試合での三勝以上・・・それが始まってもおらへんのに、みすみす帰す訳にはいきまへんなあ。」
「え!?え!?いつの間に、」
「少し黙ってろ、黒ウサギ。」
驚きの声を上げる黒ウサギの口を一輝が塞いだ。
「ま、もう一遍サーカス仕込みの剣撃を食らいたいなら話は別ですけども・・・」
「それで済むなら、むしろ楽でいいんだけどな。」
一輝は刀を構えるが、それで済まないことなど分かっている。
「まあ、他のお客様もそろそろ退屈してるやろし、はよそちらのトップバッターを決めてくれますか?ちなみに、こちらのトップバッターは・・・」
団長はそう言いながら、一輝に口を塞がれている黒ウサギを指差す。
「この黒ウサギはんどす!」
「・・・ムグ?(え?)」
ページ上へ戻る