魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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予言成就への序曲 ~Nightmare~
†††Sideルシリオン†††
朝食を摂るために食堂へとシャルと2人で歩く。
「いきなり休暇って、はやても何考えてるのかなぁ?」
朝早くにはやてに呼び出され、そして伝えられたのは突然の休暇要請。
「まぁ正直助かりもするが」
そう、休暇を貰えることに助かっているのは間違いない。機動六課が解散するのは4月28日だ。で、私とシャルは居候状態。六課解散後、住む場所がない。つまりは今後の事にためにも住居を探さないといけない。正直遅すぎる行動だとは思うが、ここの居心地があまりにも良くて忘れていたというのが本音だ。そんなときに休暇を貰える。タイミングは完璧に良いとは言えないが、助かることには変わりない。
「シャル、今日は1日住居探しだ。出来るだけ早めに決めておいた方がいいからな」
「ん、りょーかーい・・・あ、ごめん。行きたいトコあるから、家探しはまた今度ってことでお願い」
「行きたいところ? どこだ?」
「地球にね。一度帰ってみようかなって思うの。全然帰ってないし、久しぶりにアリサとすずかに逢いたいし」
「・・・まぁいいか。じゃあ今日はそれでいこう」
シャルの少しマジメな返答に、私もただ賛成した。偶にはそういうのもいいだろう。私はシャルとは違って半年前の出張任務には参加しなかったしな。だから地球に行くのは本当に久しぶりということになる。にしても・・・
「さっきから視線が・・・痛い」
「あははは。ごめんね、ホント」
同性異性問わず、六課の隊員から向けられる視線がかなり痛い。それもこれも昨日までに私自身に起きていた悲劇(みんなは喜劇と言う)の所為だ。子供化(加えて女子化)に記憶障害という最悪なものだった。その影響で女性からはすごく優しい視線を、男性からは背筋が凍る視線を感じる。朝の訓練でもみんな不自然なほどに優しく接してくれた。それが逆に辛い。辛いんだよ。
「君と契約した時、そして解呪しないことになった時、私の複製武装や術式など扱えることがバレた時・・・」
全ては決まっていたことだと諦めるしかない。シャルがバカ方面でその腕を上げた時、こうなる事こそ定められた運命・・・。
(嫌な運命だな。自分に同情したい・・・)
「えぇっ!? な、なに泣いてるの急に!?」
「自分の境遇に・・・同情を・・・」
あれ、おかしいな。何故か涙が止まらない。
「ゴメンて! ホントにごめんなさい!」
「?・・・おいおい、どうしたんだ、そこまで真摯に謝るなんて・・・?」
そこまで全力で謝るほどに反省しているということなのか。そうか、そうだよな。シャルとて別に悪気とかがあったわけじゃない。ならばここは、男として笑って許してやるのが良いだろう。
「シャル、もういい。許すよ」
「え? ホント? 良かったぁ。実は、ルシルの幼児化の画像を私のプログに載せたんだぁ。だってすごく可愛かったし、ロリロリなルシルってば最高だったんだよ?」
「・・・(シャルは今何て言った?)」
「見て見て! ゴスロリルシルを張ったら、アクセス件数がうなぎ登り! いやぁ、すごいねホント。ほらほら、お嫁さんにしたぁーいってスレが――」
「お前ぇぇぇぇぇーーーーッッ!」
「おおぅ!?」
ネットに一度流出したものは完全に削除できない。だというのにこの馬鹿、超絶ウルトラ級破滅的大馬鹿は堂々と張り出しやがった。
「ま、まさか本名とか出してないだろうな!?」
いくら本当の私とは全然違うとはいえ、私の名前を出されたら最悪だ。
「・・・」
「・・・何だその沈黙は?」
目を逸らしながら沈黙を貫くシャル。いやいやいやいや、頼むから出してないと言ってくれ。
「フフ、出っしてませぇ~ん☆」
「っ!」
ここまでシャルに殺意を持つのは・・・あぁいつものことか。
「フンッ!」
「あいたぁっ!?」
思いっ切りシャルの頭上に拳骨を落としてやった。
「痛っっっったぁぁぁぁーーーーい!! 何するの急に!? 許すって言ったじゃん!」
「ふざけるな! そこまで勝手されて許す人間がいれば是非会ってみたいわ!」
そこまでの聖人君子がいるなら是非にお会いして話し合ってみたい。
「いいじゃない、人気者としてなんだし」
「お前は全然懲りてないな! というかお前の辞書に反省って言葉はあるのか!?」
昨日は散々ゴスロリ着せて罰したというのに、この馬鹿は全く堪えた様子じゃない。
「あ・た・り・ま・え❤ 反省は大事だからね、人間にとってもさ」
「その割にお前が反省しているようには見えないんだが!?」
「あー、それはルシルの目が節穴とかガラス玉だからじゃないの?」
「意味判らん! というかかなり失礼だな!」
「ルシル、ちょっと最近怒りっぽいよ? ちゃんとカルシウム摂ってる?」
「私を怒らせる最大の原因が何を言う!?」
「はいはい。お姉ちゃんと後で一緒に牛乳飲もうねぇ」
「くああああああ!」
今日も今日とて私はシャルに遊ばれるのだ。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「――で、シャルちゃんとルシル君は、今日と明日の2日休暇だっけ?」
「そうだよ。今日1日と明日の午前中ってことだけど」
食堂でなのは達と合流。話題は私とルシルの休暇についてだ。
「シャルさんとルシルさんは、どう休日過ごすんですか?」
「ん? うん、ちょっと地球に里帰りにね。私はみんなとの出張で一度帰ってるけど、ルシルは全然帰ってないから」
地球でロストロギアが発見されたということで、ちょろっと海鳴市に戻ったことがある。その時は仕事でのんびりは出来なかったから、偶にはのんびりするために帰るのも悪くない。だからさっきルシルと決めた。
「じゃあ翠屋に寄ったりする?」
「当然! 桃子さんのデザート食べに行くに決まってるでしょ♪」
「そっかぁ。でもシャルちゃん。お母さん結構気にしてるんだけど、シャルちゃんがホームステイの時みたく桃子母さんって呼ばれたいって」
「あー、でも恥ずかしいんだよねぇ、今となったら」
確かになのはの家にホームステイとして住まわせてもらっていた時、私はなのはの御家族をそういう風に呼んでいた。けど、偽りの家族として連れてきたフライハイト家に戻った頃からさん付けに戻した。あのときの桃子さんのガッカリようはすごかったなぁ。
「それならついででもいいんだけど、エイミィ達にも会ってきて。ルシルとシャルって、カレルとリエラと直接会ったことないでしょ?」
「あー、うん。映像でしか観たことないね、確かに」
カレルとリエラ。あのクロノとエイミィの子供だ。うん、フェイトの言う通り少しエイミィのトコに顔を出そうかな。それからいつも通りの会話をしながら朝ご飯を済ませる。
「さて、ごちそうさまっと。じゃあシャルロッテ・フライハイトとルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイト、これより2日間の休暇に入ります」
「うん、いってらっしゃい」
「「「「いってらっしゃい!」」」」
「おみやげは翠屋の、ね」
「うん、了解♪」
こうして私とルシルは、始まりの世界・地球に帰ることになった。
†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††
「・・・了解です。報告ありがとうございますです。はやてちゃん、シャルさんとルシルさんが隊舎を後にしました」
「ん、了解や」
私はシャルちゃんとルシル君に休暇を出した。期間は今日1日と明日の午前中。なんでそんな半端な期間にしたんか、それにはもちろん理由がある。
「明日ですね。シャルさんとルシルさんのお誕生日は」
リインの言ったそれこそが最大の理由。4月12日はシャルちゃんとルシルの誕生日。主役の2人を六課から遠ざけて、その間に誕生日会の準備をしようという計画や。明日のお昼に帰ってきたところで2人を驚かせる。うん、ナイスアイデアや。
「そやなぁ。派手にお祝いしたいな」
「そうですねー。お2人にはお世話になりましたし」
ここ2年は2人ともおらんかった。その2年の内の私たちの誕生日会には連絡してくれるくせに、自分たちの事になると全然アカンかった。そこは2人らしいけど、やっぱりちゃんとお祝いしたい。
「ん。じゃあリイン。早速、明日のパーティに必要なもんの準備や」
「了解です♪」
シャルちゃんとルシル君の驚く顔が今からでも思い浮かぶなぁ。
「何を贈ろかなぁ・・・?」
†††Sideはやて⇒ルシリオン†††
「シャルちゃん! ルシル君!」
「久しぶり、すずか!」
「久しぶりだ。元気そうでなによりだよ、すずか」
「うん! ルシル君も随分逢ってないけど、元気そうで良かった!」
転移先として借りたのは月村家の庭。以前の出張任務でも借りたらしい。まぁ管理外世界である地球にトランスポーターがないのだから、事情を知る者の土地を借りるのが真っ当なことだろう。で、そんな私たちを迎えてくれたのがこの家の住人の1人、月村すずか。シャル達の大親友の1人で、その当時、関わり合う時間が少ない私ですらいつの間にか親友扱いしてくれた女の子。この子ほどの大物はなかなか見ない。
「ありがとね、すずか。庭を借してくれて」
「ううん、どういたしまして。そうだ、シャルちゃんとルシル君はこれからどうするの?」
「ある程度は決めてきたんだけど、周る順番とかは全然」
「あはは。シャルちゃんの計画性のなさは変わっていないんだね」
「あ、言ったなぁ。このぉ!」
「ひゃぁ!?」
シャルがはやてから学んだスキル・・・まぁ何というか、女性の胸部を・・・だ。まったく、くだらないスキルを身につけてどういうつもりだろうかと常に思う。
「って、なに黙ってすずかとシャルを見てんのよあんたは!?」
「ぐはぁっ!?」
いきなりの背後からの奇襲、飛び蹴りを受けた私は不覚にも前のめりに吹っ飛んだ。
「アリサ!」
「ぅあ・・・あ・・・アリサちゃ・・・ん・・・!」
「やっほー、久しぶりシャル! ていうか、いつまですずかの胸揉んでんのよ!」
「それより先に私に謝るべきだと思う。謝罪を要求するぞ、アリサ」
「フンッ、シャルを止めないばかりか黙って見ているあんたへの罰よ、今のは」
私を背後から蹴飛ばし、ふんぞり返っているのがもう1人の親友、アリサ・バニングス。初めて会った頃から気さくな態度をとる元気印の女の子だ。その2人は今では大学生。月日が流れるのは実に早い。それから私とシャルはテラスに案内され、本当に久しぶりな茶会が催された。ファリンさんのドジっぷリも健在だった。神がかり的なドジっぷリだ。
「にしても、すずかは兎も角として、アリサもやはりお嬢様だな。お茶を飲む仕草に隠れた優雅さがある。本当に信じられない」
「信じられないのは、堂々と本人の目の前でそんなことを言うあんたの頭の中よルシル!」
「あはは、確かにルシルの言う通りだ♪」
「ああもう、この馬鹿姉弟!」
「な、アリサ。シャルと同じにされるのは納得できいな。訂正求む」
「うっさい! これを見たらその軽口は二度と叩けないわよ!」
「ほう、どれを見たら私が二度と軽口を叩けなくなるって?」
アリサが取り出したのはケータイ。パカッと開いて少し操作。
「これよ!」
画面を私に向けて突き出してきた。画面に映る画像を見て、私は「ぶふぅーーーっ!?」口に含んでいたお茶を盛大に吹いた。吹く前に何とか顔を逸らしたことで、ケータイやアリサに吹きかけることはなかった。もし吹きかけていたら命はおそらくなかっただろう。
「ゲホッゲホッ・・・はぁはぁはぁ、何故アリサがその画像を!?」
アリサのケータイ画面に映るのは、間違いなく私。しかも普段の私ではなく、昨日まで子供化を果たしていたゴスロリを着た私だった。何故アリサのケータイにその画像があるのか、答えは実に簡単だ。
「シャルロッテぇぇぇーーーーッ!」
すずかとアリサの間で茶を飲んで、無視を決め込んでいる馬鹿しかいない。しかし、おもむろに顔を上げて「私じゃないけど」とそう言った。
「は!? だったら誰が――いやお前しか考えられないだろう!?」
シャルは無断で自分のプログにすら載せる馬鹿だ。そのシャル以外なんて考えられない。
「あの、ルシル君。これ・・・」
すずかも同様にケータイを取り出し、操作開始。画面を見せてきた。映っているのはやはり子供化した私。それだけじゃないかった。カシカシと操作して・・・
『すずかお姉ちゃん、アリサお姉ちゃん。元気?』
「っづあっ!」
単なる画像じゃなく動画だった。あー、胃が痛い。もしかしてこの短時間に穴が開いているんじゃないだろうか・・・?
「はぁ~、ルシルちゃんはこんなに可愛いのに。ねぇルシル?」
「くっ!」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるアリサ。まずい、こいつは強敵だ。これ以上アリサを刺激すればどうなることか。
「でね、ルシル君。送信者を見てほしいんだけど・・・」
「そ、送信者・・・?」
そうだ。私はこの画像と動画をすずかとアリサに送りつけたクソ野郎を知らなければならないんだった。覚悟しろよ、送信者。どんな手を使ってでも辱めを受けさせてやる。
「うん。どうぞ、ルシル君」
優しくケータイを手渡してくれたすずか。あぁ君には本当に癒される。
「あ、ああ。ありがとう」
すずかからケータイを受け取り、送信者の欄を見る。
「わ、私だと・・・?」
送信者の欄には、ルシル君、と出ていた。つまりは私自身が2人のケータイに送っていたことになる。
「そんな・・・馬鹿な。私自身が・・・」
「ていうかさ、ルシルってば幼児化してる時の記憶ないんでしょ」
確かにシャルの言う通りだ。幼児化している時の記憶なんてものはない。昨日、徴収されたデータディスク鑑賞会(私にとっては拷問)で初めて知ったのだ。記憶が飛んでいた幼児化期間で起きていた事を。だから私自身が送信していても何ら不思議は・・・。
「ん? いや、待て。記憶が飛んでいるのに何故すずかとアリサの名前を知っている?」
「ギクッ」
「ギクッてなんだ?」
シャルが一瞬だけフリーズ。なるほど、そういうことか。もう判っている。お前が全て仕組んだ事なんだろう。
「帰ったら速攻ゴスロリ」
「ごめんなさい!!」
もう許すものか。
「ちょっとルシル。あんた、シャルにそんなもの強制してるの・・・?」
「えっと、まぁ趣味は人それぞれだから・・・うん」
「おい! 私よりこの馬鹿への好感度を下げるべきだろう!?」
すずかとアリサからの好感度がダダ滑り。
「そうなの。ルシルってば私が可愛いからって、あんな恥ずかしい格好を・・・よよよ」
「あ、お前! なんだその三文芝居は!!」
ド下手にも程があるシャルのくっだらない演技。
「引くわ」
「ルシル君・・・」
「君たちもか、すずか! アリサ!」
アリサ、そしてすずかまでもがシャルの三文芝居に付き合い始めた。引くのはシャルの方だろう明らかに! 私がどれだけシャルに遊ばれたと思っているんだ。
「もう嫌だ、こんな生活・・・」
「冗談よ冗談。あんたがそういう趣味じゃないのは判ってるって」
「うん。私たちは判っているから」
「アリサ、すずか」
意外と早く止めてくれた。すずかは兎も角、アリサ、やはり君はシャルとは違い、それなりにまともな・・・
「あんたは女装趣味なのよね」
「そんなわけあるかぁぁぁぁーーー!」
やはりアリサは天敵の1人のようだ。
「お、落ち着いてルシル君。アリサちゃんは、ルシル君で遊ぶのが好きなだけだから」
「すずか・・・」
すずか。それにノッた君も何気にひどいな。あと、私と、ではなく、私で、と言ったことに対しても引いた。それからシャル達は買い物に行くと言いだし、私は男だということで荷物持ち係。女性の買い物の恐ろしさが再度身に沁みた。
行く先々で私は女性から声をかけられるわ、アリサが大学の付近にまで連れ出してくれたおかげで、アリサに気があると思われる男共に絡まれるわ。そして胃がキリキリする中、ゲームセンターに寄ることになり、某妨害あり系レースゲーム・マリ〇カートに4人で対戦をすることに。
「いっけぇぇぇ!! ルイ〇ジ!!」
1位ル〇ージ操るアリサが妨害アイテムを発動。
「くっ、やっぱりアリサ強い! ねぇ、ここはアリサを潰す同盟を組もう!」
3位クッ〇を操るシャルからの、アリサ本人の目の前での堂々宣言。
「あ、ずるい! あたし達も組むわよ!」
4位ピー〇姫操るすずかと結託するアリサ。
「いいだろう。アリサ、君の無敗神話はここで潰える・・・!」
2位ヨッ〇ーを操る私が、1位ル〇ージのアリサを追いあげる。後ろには同盟を組んだク〇パのシャルがいる。これはもうほとんど勝ったも同然の展開だ。
「よっし。ミドリこうら!」
「ふふん、こっちはパイよ!」
シャルとアリサが同時に妨害アイテムを手に入れた。あとは私が邪魔にならないように射線上から退避、シャルとアリサが共倒れした隙に抜いてゴール。完璧だ。シャルと同盟を組んでいて正解だった。2人が同時に発動した妨害アイテムは見事に・・・
「「よっしゃぁ!」」
「なにぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
前後から私のヨッシ〇にぶつけられた。
「「いえぇーい!!」」
パイで前が見えなくなり、しかもその直後に甲羅でスピンした私の〇ッシーを軽々抜いていく〇ッパと、すずかのピ〇チ姫。しかもシャルとアリサは、勝ちは決まったというようにハイタッチは決める。
「裏切ったな!」
堂々と同盟宣告したかと思えば堂々と裏切りやがった。
「え~? 裏切ってないよぉ。だってルシルと組むって一言も言ってないし」
「はぁ!? 明らかに私に視線を向けてただろ!?」
「それだけじゃん。ルシルって言ってないもん」
「あたしもすずかと組む、なんて言ってないわよ。ね、すずか?」
「う、うん」
「どっちにしてもアリサを潰す同盟だったろうが! 明らかに謀って、裏切ったんだ!」
「んー、じゃあ表切ったんだよ、私」
「意味不明!」
「えー、じゃあ横切った」
「言い方の問題じゃねぇぇぇぇぇ!」
この後いろいろと奢らされた。午前中はそんな散々な時間だった。一応楽しいとは思ったが。ま、口には出さないがな。
「じゃあ今度は翠屋ね」
ここでアリサからの提案。元から行く予定だったし、時間としても昼の13時少し過ぎとちょうどいい時間だ。
「いらっしゃ――シャルちゃん! ルシル君!」
「お久しぶりです、桃子さん! 士郎さん!」
いつ見ても若いなぁ、士郎さんと桃子さん。どんな遺伝子だ。
「お久しぶりです」
私もシャルに続いて挨拶をし、翠屋店内へと進む。アリサ、すずかも続いて入店。店の奥の4人掛けのテーブルへと向かう。すでに店内に居た客から視線が集中するがもう動じることはない。それだけの経験を積み重ねてきたのだから・・・。くっ、綺麗とか言わないでくれ。
「わぁ、本当に久しぶり♪ 元気にしてたシャルちゃん、ルシル君」
「はい! 桃子さんも相変わらず美人でお元気そうで♪」
「やだ、シャルちゃんったら♪ でも、もう桃子母さんって呼んではくれないのね・・・」
「おいおい桃子。シャルちゃんも困ってるだろ?」
「クスン」
「えーっと、美由紀さんは今日は・・・?」
無理やり話題を変えたな。
「今日は友達と出かけているのよ。もう、シャルちゃん達も連絡くらいしてほしかったなぁ」
「「す、すみません」」
咄嗟に謝ってしまった。桃子さん強し。それから少しずつ客足も増えてきたことで、士郎さんと桃子さんが離れていった。そして注文した料理を頂くがやはり美味しかった。母の手料理というのが世界で一番おいしいとよく聞くが、まさしく真理だ。それから随分と翠屋で話しこんで、気付けば16時を回っていた。これ以上はさすがにまずいと判断。なのは達へのお土産も買い、その帰り際に・・・
「ねぇシャルちゃん、ルシル君。写真いいかしら?」
そう桃子さんにお願いされ、もちろん快諾。翠屋の前で撮った、家族ではないのに家族写真のようなもの。なのは達がこれを見たらどう反応するだろうか。少し楽しみだ。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「おいしかったです。ごちそうさまでした、士郎父さん、桃子母さん」
「シャルちゃん・・・。ああ、お粗末さまでした」
「またいらっしゃいね、シャルちゃん。ルシル君も。愛情たっぷりの料理を振舞うから♪」
「「はいっ!」」
少し照れくさかったけど、やっぱり士郎さんと桃子さんは、私のもう1つの家族だから。私たちの姿が見えなくなるまで店の外で見送ってくれた士郎父さんと桃子母さん。今、すごく泣きたい。けど泣けない。だってルシル達の前だから。涙もろくなった私にはかなりの精神力が必要だったけど。
「今日はありがとう、アリサ、すずか。すごく楽しかった」
「ああ。充実した休日を過ごせた。すずか、アリサ、ありがとう」
「ちょ、何よ改まって2人とも。あたし達だって楽しめたんだから・・・だから、ありがとう。シャル、ルシル」
「私もありがとう。シャルちゃん、ルシル君。今度はなのはちゃん達と一緒に帰ってきてね。そうしたらもっと楽しい休暇になるよ♪」
「ああ。そうだな。その通りだ。今度は必ずみんなで来るよ」
「うん。きっとまた」
2人と別れる。とその前に「ねぇ、明日何時にミッドチルダに帰るの?」アリサが聞いてきた。
「時間? どうするルシル?」
「明日の午後には仕事があるからなぁ。朝の7時くらいか・・・」
「朝の7時。間違いないわね、ルシル」
「あ、ああ。朝の7時」
「ん。じゃあ見送りに行くから待ってなさいよ、いいわね」
「い、いいよ。見送りなんて。明日大学でしょ?」
「いいのいいの♪ じゃ、明日ね」
「う、うん。ありがとうアリサ」
「また明日な、アリサ」
「えっと、じゃあ朝の7時にまた。今日は本当に楽しかったよ」
「うん。ありがとうすずか。また明日」
「ああ。また明日。すずか」
アリサとすずかと今度こそ別れた。
「さて、今からエイミィのトコ行って、それからフライハイト家ね」
「・・・ああ・・・」
「なに? まだ慣れないわけ?」
ルシルは一応の家族であるフライハイト家が若干苦手。まぁ大戦時に命と魔道を懸けて死闘を繰り広げた敵が家族だって言うんだから当然な気もするけど。
「おお! やっと来たねシャルちゃん、ルシル君♪ いらっしゃーい、ささ、上がって上がって」
ハラオウン家に到着。出迎えてくれたのは、今では人妻なエイミィ。
「うん、おじゃましまーす!」
「お邪魔しますっと。本当に主婦をしているんだな、エイミィ」
「ん? それはどういうわけか教えてもらおうかな、ルシル君?」
夕飯の準備をしているのか、エイミィはエプロン姿だった。
「ルシル! シャル! 久しぶりだな!」
「「アルフ!!」」
部屋の奥からやってきたのはアルフだ。
「遅いぞ2人とも。あんまり遅いからカレルとリエラ、眠っちゃったじゃん」
アルフがすこ~し不満そうに呟いて、部屋の奥を見るように促してきた。私とルシルはそれに頷いて、ゆっくりと双子兄妹を起こさないように覗く。
「わぁ、可愛い♪」
「だろう?」
「でしょでしょ?」
「髪はエイミィで、瞳はクロノを継いでいるわけか・・・。やっぱり2人の子供なわけだ。へ~・・・可愛いなぁ」
もう私には子供を産むことの出来る体はないけど、やっぱり憧れだ。
「どしたの、シャルちゃん?」
「え? ううん。幸せにね、エイミィ」
「え? なに? 本当になんなの?」
「なんでも~い♪」
らしくないなぁ、今日の私は。
「?? ふ~ん。あーそうだ。夕ご飯はどうするの?」
「夕ご飯? えーっと、一応家に帰ってから、家族と食べるつもり」
「そっか。まぁそうだよね。ちょっと残念だね」
「ああ、本当に残念だ」
本気で残念そうにしないで、ルシル。
「じゃあもう帰るね。エイミィ、アルフ」
「ん。また遊びに来てねシャルちゃん、ルシル君」
「またな~♪」
「はぁ、帰りたくないなぁ」
「我・が・ま・ま・言・わ・な・い・の」
「あはは。またねルシル君、シャルちゃん」
「ああ。またエイミィ、アルフ」
「またねー」
「おー!」
エイミィとアルフに見送られながらハラオウン家を後にする。今度はカレルとリエラが起きている時に来てみたいなぁ。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「いやぁ、久しぶりだなぁルシル君」
「はぁ、すいません」
偽りの父親、オペル・フライハイトが屈託のない笑みを浮かべる。やはり違和感だけだ。イヴ義姉様と幾度と死闘を繰り広げたあの第一騎士・風の騎士公オペル・オメガ・シュプリンガー。それが今では私の目の前で、父親面して笑みを浮かべている。
「あらあら、ルシル君たら。うふふ」
違和感その2。かの鮮血姫シリア・ブラッディアが母親。今でもやはり慣れない。何せあの鮮血姫だぞ? 非情で冷酷、敵味方関係なく恐れられたあの・・・吸血鬼。それが目の前で、あらら、とか、うふふ、とか。
「もう10年になるんだからさ、ルシルもいい加減慣れたらぁ」
違和感その3。この家族でいえば長女となる義姉のチェルシー。最年少で最強の十騎士・“星騎士シュテルン・リッター”となり、騎士でありながら創世結界を作りだした大魔術師・花の姫君チェルシー・グリート・アルファリオ。そして大戦に参加した騎士の中で唯一生き残ったのも彼女だ。花の姫君。その彼女が義姉とは・・・。本当に世の中どうなるか判らない。
『ルシル。バレない芝居とか得意でしょ?』
『芝居って、人聞きの悪い』
シャルからの念話だ。実際そう言うしかないものだが。まぁストレートに騙すと言われないだけマシか。
『なのにどうして? やっぱり嫌・・・? 星騎士が家族って・・・』
『そういうわけじゃ・・・。いつまで経っても慣れないんだ。家族というものが・・・』
私にとっての家族は、姉のゼフィランサス姉様と妹のシエルの3人だけ。実の父と母は、私を大戦終結のためだけの生体兵器として調整する存在だったからだ。だから両親の愛情というのを知らない。だからこういう家族には違和感しか抱けない。それが初めから仮初の、偽物として用意されたなら尚更だ。
『・・・そっか。まぁ、私もよく知らないんだよねぇ家族って』
『似た者同士というわけか』
『変な共通点持ってるよね。私たちってさ』
『まったくだ』
妙なところで一緒とは。変なめぐり合わせだ。それから夕食を済ませ、私に用意されている自室で眠りについた。翌日。朝早く起きて、月村家へと向かうことになった。
「お、来た来た。おーい、シャルー! ルシルー!」
「朝から元気だな、アリサ」
「おはよう。シャルちゃん、ルシル君」
「おはよー、すずかー。あとアリサ」
「おはよう、すずか、アリサ」
月村家の門前で待っていてくれたすずかとアリサ。そのまま庭先の、転移場所にまで4人で歩く。
「んじゃ、もうそろそろ行くね」
「改めて昨日はありがとう、すずか、アリサ」
「こっちこそ。シャル、ルシル。あーそれとこれ、誕生日プレゼント」
「私からも。シャルちゃん、ルシル君。どうぞ」
「「あ、忘れてた。――え?」」
一語一句、タイミングも全て同じ。そんなシャルと顔を見合わせる。そうだった。今日4月12日は、この世界で用意された私とシャルの誕生日だ。
「あんた達、自分の誕生日忘れるって・・・」
「そう言えば、なのはちゃん達や私たちの誕生日にはちゃんと連絡くれたけど、2人の時は繋がらないよね? それってやっぱり忘れているから?」
「あー、うん。まさしくその通り」
過ぎた時に、メールが一斉に届いて思い出す、というのがここ2年の私たちだ。
「完全に忘れていたな」
だがこれで判った。どうしてはやてが私とシャルに休暇を与えたのか。それはこういうことだったんだ。まったく、はやての奴・・・。
「もう。あんまり自分を蔑ろにしない方がいいわよ、2人とも」
「まあまあアリサちゃん。それじゃあシャルちゃん、ルシル君」
「「誕生日おめでとう!!」」
綺麗に包装されたプレゼントを受け取る。
「あ、ありがとう! ありがとう、アリサ! すずか!」
「本当にありがとう。嬉しいよ、すずか、アリサ」
心の底からの感謝。
「ルシル、あんた幸せ者よ? こんな美少女2人から誕生日プレゼントを贈って貰えるなんて」
「アリサちゃん・・・」
「・・・はは、あははは! いや、まったくだ。確かに私は幸せ者だ。ありがとう、本当に。向こうに戻ってから開けさせてもらうよ」
アリサの言う通りだ。もういつ本契約を終えて玉座に還ることになっても悔いはない。それほどまでに今の私は満ち足りているから。
「じゃあ私も向こうで開けさせてもらうね。・・・じゃあ行くね。ってことで、次に会う時まで元気でね」
「シャルちゃんとルシル君も。元気でね」
「次に逢う時って、結構すぐじゃないの? えっと、今度ははやての6月だし」
確かにそうだな。はやての誕生日は6月だ。
「じゃあ2ヵ月後にまた逢おう」
「それまでバイバイ♪ アリサ、すずか」
「うん。バイバイ、シャルちゃん、ルシル君」
「じゃあね2人とも」
こうして私とシャルはミッドへと戻った。
†††Sideルシリオン⇒はやて†††
「さてと。そろそろ私も準備を手伝いに行かなアカンなぁ」
「リインもいっぱいいっぱいお手伝います♪」
「頑張ろうなぁ!」
「はいです!」
仕事を粗方片付けて、シャルちゃんとルシル君の誕生日パーティの準備の時間を作った。私の誕生日の時も、シャルちゃんとルシル君はちゃんとプレゼント贈ってきてくれたし。それやのに2人の時はおるトコが判らんくて、なのはちゃん達といろいろ作戦とか練っとったなぁ。無駄になったけど・・・。
「今日はホンマ楽しい日になるなぁ、きっと」
「そうですねー」
椅子から立ち上がって、食堂に行こうとした時、「通信・・・?」部隊長室にコールが鳴り響いた。
「あ、リンディさんや。・・・はい、八神はやてです」
『はやてさん? おはよう。朝早くにごめんなさいね』
「いえ。おはようございます、リンディさん」
『えっと、今お時間いいかしら?』
「あ、はい。かまいませんよ」
長くなりそうやからまた椅子に座り直す。リインに、先行っててもええよ、と目配せしたんやけど、首を小さく横に振って残るってことを示してくれた。ありがとうの意味を込めた笑みを返した。
「ありがとう。でね、今日、連絡した本題なんだけど・・・』
「はい。なんでしょうか?」
『実はね、機動六課に最後のお仕事を引き受けてもらいたいの』
「はい。あ、それって急ぎですか?」
『んー、急ぎというかあんまり時間は関係ないかしら』
「そうなんですか? それで、その仕事の内容は・・・」
『ええ、その仕事というのわね・・・』
すごく綺麗な笑みを浮かべたリンディさんは一拍置いた。
『ルシリオン君とシャルロッテさんの撃墜。つまり、殺してほしいのよ』
「「・・・え?」」
リンディさんは今、何て言ったん・・・?
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