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真剣で英雄(えいゆう)と恋しなさい!

作者:deburu
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2・川神院(朝)


 第2話です、元の一寸した設定と武術解説、軽い組み手なんかを書いてみました。
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2・川神院(朝)

 売春組織摘発の翌日早朝、川神院…夜が明けた頃から動いているというか、準備運動をしている影が二つ、身長はほぼ同じだが片方は赤茶色の髪をポニーテールにまとめ赤い玉の付いた紐で縛った川神一子、ワン子…もう一人は黒に見える髪をショートにし無造作に撫で付けた中性的な小柄な少年、八坂元だ。
 ワン子は腰にタイヤを何本か巻きつけ、元は手首と足首につけた大き目のアンクレットとブレスレット…どちらも中に鉄よりも比重の重い鉛の板が20枚ずつ差し込まれている、1枚が大体500gなので1個につき10Kgになる計算…を、両手足首にしっかりと巻きつけている。

 「おしワン子、準備はいいぞ、そっちは?」

 「アタシもオッケーよ元、それじゃ町内一周勝負ね!」

 「オッケ、其れで良いぞ…川原はダッシュ区間な」

 「うんっ、それじゃよーい」

 「「どんっ!」」

 同時に駆け出す二人、タイヤを引きずった一子と両手足に合計40kgの重りを付けた元、2人ともそんなものは関係ないとばかりにかなりの速度で駆けて行く。
 速度はほぼ互角、川原では今までより速度を上げ後方に砂塵を巻き上げながら駆け抜けて行く。



 2人とも小さい頃から朝のランニングという基礎修行をサボった事はほぼない、子供の頃数回病気などで寝込んだ時以外は、そして子供の頃はタイヤやパワーアンクル、パワーリストなどはしていなかった、段々と負荷を増やす為にこうなって行ったのだ。
 役30分後、川神院の修行場に二人同時に戻ってくる…正確には一寸だけ元が早いがほぼ同着だ。

 「あー、また負けたわあと少しだったのに!」

 「最後の追い上げは惜しかったが、ぎりぎりでも一応勝ちだな、前より離せなくなってきたな」

 「当たり前よ、毎日ゆうおうまいしんしてるんだから」

 「追い抜かれないように頑張らないとだなぁ」

 修行場の隅にある水道であたまに水を被り、それをタオルで拭きながら呟く。
 その様子を見ながら一子が少し眩しそうに元を見て

 「元の髪って不思議よね、陽に透かしてみると濃い青なんだもの」

 「あー、なんでも家は昔からそうらしいからな、親父も爺さんもそうだったっし」

 「元のお父さんか…今何処にいるのかしら?」

 「しらん、人の事4歳の頃から此処に預けて好き勝手廻ってるんだろ、あの夫婦は」

 「まぁ、家の両親もだけどねそこは」

 ちなみにだが祖父は他県で隠居していて、年に数回川神院を訪れ、元の修行の成果を見たりしているのだが。



 元の家である八坂家は八坂流合気術という、柔術と合気術が混ざったようなある種独特の流派を使う。
 その基本は纏絲を咥えた化勁による『弾き』、純粋な体術である『捌き』、相手の重心を崩しこちらの利用しやすい体制に持っていく『崩し』の3種、そのほか打撃や脚撃、投げなど色々な技はあるが基本は最初の3つであり、その3つが重要視されている。
 そのほかに『凪』と呼ばれる技…これ自体は所謂制空圏と呼ばれるある程度の武術家なら持っている自分自身の間合いの事だが、八坂流はこの制空圏の範囲に入ったものに対して反応速度をかなり重視している、制空圏の範囲を超えた攻撃をほぼ無意識で『弾き』『裁き』『崩す』、どちらかと言えばカウンター系の武術といえるだろう。
 とはいえ、それだけではない奥義である『風貫き』、絶招といわれる『無風』、『木霊』…詳細は此処では伏せるが…などカウンターに頼らない戦い方も当然しっかりと修行している。

 ちなみに何故に4歳で川神院に預けられたかなのだが、先ほども言った様に両親は世界各地を飛び回り、強者を探している…何時までも新婚気分でいちゃこらもしているが。
 祖父に関しては一線を退いている為偶の稽古以外はあわないし、祖父曰く

 「色々な相手と戦った方が同じ相手と何度も組み手やら仕合いするよりよっぽど有意義だ」

 との事だ、そして川神院には弟子も含めて色々な相手がいる、八坂流では基礎の体力づくりも当然大事だが、それ以上に組み手や仕合いを重視している。
 組み手や仕合いを多くすることで必要な筋肉だけがしっかり付くからだ、それゆえ祖父の下ではなく川神院に預けられ修行させてもらっているのだ。

 「さて…そろそろ飲むか」

 「うぇ、あれ…又飲むの?」

 「これも修行の一環だからな、仕方ないんだ」

 どよんとした顔をする二人、出る前に水桶で冷やしておいたペットボトル…中身は緑のドロッとした液体…を手に取り、一気に飲み干す。

 「まじぃ……本気でまじぃ」

 「それだけは真似できないわ、アタシも」

 ちなみにこれ、数種類の漢方薬などを溶かした物で所謂内功…内蔵など身体内部…を整え鍛える為のものだ。

 「…うっぷ、さてどうするワン子?」

 「アタシはもう一回隣の県まで走ってくるわ、元は?」

 「そろそろルー師範代か百代姉が起きてくるだろうから組み手してもらう予定だな」

 「そっか、それじゃ後でね!」

 「あいよ、気をつけてな」

 そういって走り出す一子を見送り、暫く型を繰り返す元。



 暫く型などを行っていると、修行僧達が起きてくる、その中にはルー師範代…川神院の師範代であり川神学園の体育教師…の姿も見える。

 「おはようございます師範代」

 「おはようネー、元…すまないけど百代をおこしてきてくれないカ?」

 「またですか…良いんですけど、それじゃ行ってきますね」

 言われ、母屋へ入り、百代の部屋の前に立ち

 「百代姉、朝だよてか修練の時間だから起きてくれ」

 声を掛けるが反応はなし

 「はぁ…あけるよ」

 中に入ると、一寸色々とめくれている百代の寝姿、見慣れているとはいえ一応は男なので一寸困るが、揺さぶって起こしに掛かる。

 「百代姉、起きて、起きろ、起きろって!」

 だが、これで起きる相手ならそれほど苦労はしないだろう、仕方なく最後の手段を使うことを決める元。
 弱いながらも闘気を百代にぶつける…次の瞬間、それに反応するように百代の体が起き上がり、右正拳突き、予想していた元は左手でこれを『弾き』掴もうとするが既に百代は腕を引き戻し、構えている。

 「…なんだよ、元かよ、どうしたんだ?」

 「はぁ、百代姉が起きないから起こしたんだよ、意識は」

 「大丈夫だ、悪かったな起こしてもらって直ぐ行くから待っててくれ」

 そういうと寝巻き代わりのシャツを脱ごうとし始める

 「まて、せめて俺が出てからにしてくれ」

 「何言ってるんだ美少女のこんな所見たくてもみれないぞ、それに」

 出て行こうとする元を捕まえ

 「お互い裸を見せ合った中じゃないか、元」

 「あ、あれは小学校前だし風呂でだろ、いまとは違うってか、離せっ」

 「まったく、中身は生意気になって、外はまだ可愛いのになぁ」

 「それはコンプレックスの一個なんだけど、てか百代姉、今日は俺と組み手だから急いで欲しいんだけど」

 「む、そういえばそうか、それじゃ急ぐから修行場で待っててくれ」

 「あいあい」

 そういって、部屋を出て修行場へ向かう元。



 待つこと暫し、胴着を来た百代が修行場へ出てくる、軽く身体を動かしたあとに、型をしていた元に

 「よし元、始めるぞ」

 「あいよ百代姉、いつもどおりクリーンヒットが入るまでか時間切れで終了でいいかな?」

 「あぁ、オーケーだ」

 確認する二人にルー師範代が近づき

 「それじゃ、2人と…ハジメッ!」

 開始の宣言、同時に踏み込んでくる百代

 「川神流無双正拳突き!」

 そこらの武術家ならそれ一発で終わる剛拳がうなりを上げる、が

 「ふっ!」

 その拳を左手の『弾き』で外に流して、一方踏み込む元…ほぼ距離のない位置を取った元は

 「じゃっ!」

 素早くコンパクトに右肘をフック気味にたたきつける。
 が、その肘と百代の間に百代の左手が入り込み受け止め。

 「甘いな元っ、ほれっ」

 力任せに押し返してくる、のを

 「いや、此処までは予定どおりだから」

 いいながら、押された肘を伸ばし百代の左手首を取って、軽くしたにひき重心を崩そうとする、が

 「そうだな、此処らへんは得意だよな元はっ」

 ぐっと力を込め、元の動きを止め、百代も元の右手を掴むと

 「ほーら、とんでけっ!」

 力任せに元を投げ飛ばす。
 一瞬驚きながらも投げられる瞬間地面を蹴りそのまま一回転し体制を立て直す元。

 「でたらめなパワーは相変わらずだよな、百代姉」

 「はん、弟に負けてやる気は組み手でもないね」

 「なら…一寸だけ、ギア上げるよ」

 「あぁ来いよ元」

 相対する二人、百代は前傾で拳を引き無双正拳突きの構え、対して元は体から余計な力を抜き構えなおす。
 暫しの静寂、そして次の瞬間

 「川神流無双正拳突き!」

 再び剛拳を突き出す百代の拳を今度は皮一枚の見切りで『捌き』再び踏み込む、超接近距離に踏み込み、足元、腰、肩と力を伝わらせて、右の寸打を放つ…放つ瞬間の動きに前兆は無く所謂無拍子と呼ばれる技法、そして振り抜いた後で遅れて風が巻き起こる、八坂流絶招の一つ『無風』。
 だが、本来普通の武術家なら反応できないそれを百代は反応してみせ、正拳突きの勢いを利用し身体を横に回転させながらかわしてみせる。
 次の瞬間、元の腹の辺りと百代の腹の辺りの胴着が切り裂かれ、一筋の痕が浮かぶ、お互いがぎりぎりでかわした為に拳速で胴着が切れ、そこに痕を残したのだ。

 そして次の瞬間

 「はい、時間切れネー、そこまでヨ、2人とも」

 ルー師範代の声が掛かる。
 その声にお互い最初の位置に戻って一礼し

 「てか、人の絶招簡単に避けるとか酷くない?」

 「お前はなんでこんな朝の組み手で絶招つかってるんだよ」

 「いや、折角だしかちたいじゃん?」

 「それは同意だけどなまったく、まぁでも最後のは結構よかったぞ」

 「入ったと思ったんだけどな、あれ」

 「お姉ちゃんとして弟に負けるわけには行かないからな」

 「ちぇ、まぁいいや師範代組み手お願いします」

 「まてまて、此処はお姉ちゃんに譲る所だろ」

 「百代姉は、鉄爺とやればいいじゃんか」

 「ジジイとはめんどくさい」

 そんな事を言い合っていると

 「というか、もう食事の時間ダヨ、2人とも、その後は学校ダロ」

 ルー師範代がそういってくる、時間を見ると確かに食事をしたりシャワーを浴びたりしたら学校へ行く時間だ。

 「了解です師範代、今日もありがとうございました」

 「それじゃシャワーだな、一緒に入るか弟」

 「だが断る、ってか一応男女別だろって」

 「ちぇー、いいけどさ」

 ちなみにそういう百代の腹の痕は既に消えている、瞬間回復の成せる技だ。

 「はぁ、腹減ったし早く行こう、ワン子も戻ってるだろうし」

 「そうだな、飯食わないと力でないしな、よし急ぐぞ」

 川神院の、八坂元の朝は早く、騒がしいものだった。
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 元は絶招を使っても百代には届きません、打撃系の技ならぎりぎり捌けますが気での直接攻撃にはほぼ無力です、一応防御に無意識に気を使いはしますが威力が桁違いすぎるので。

 一応次回は川神学園2−Fでの話しになると思います。

 感想や指摘などいただけると喜んだり感謝したりします。
 
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