フェアリーテイルの終わり方
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幕間 マルシアと妖精
1幕
前書き
貴婦人 の ヤサシサ
エルはル・ロンドに向かう船便に乗っていた。
エルだけではなく、フェイと、ルドガー(とルル)、エリーゼ、ローエンも同伴している。
それというのも、今日、ル・ロンドにマルシア首相が訪問すると知ったフェイが、マルシアに会いたいと言い出したからだ。
あんな騒動があった後で、フェイを一人送り出す気はエルにはさらさらなかった。ルドガーも同じだ。エリーゼもローエンも心配して都合をつけてくれた。
姉妹は並んで甲板から海を見ていた。
「フェイ一人でもよかったのに……」
フェイが、潮風が白い髪に吹き荒んだからか、片手で髪を耳にかけた。そのしぐさが、どきっとするほど大人びて見えた。フェイは、エルの妹なのに。
「よく、ない。まだケガなおってないんだから。エルたちが付いてないお出かけはだめ」
「ナァ~ッ」
ルルもエルに賛成するように鳴いた。
(なんか最近、フェイに避けられてる気がする)
たった今話しておいておかしな感想だが。ペリューン号の一件から、エルにはフェイが遠くなった。フェイ本人は普通に話したり笑ったりしているが、どこか、掴みがたい。だから、避けられていると感じた。
「エル。フェイ。もうすぐ着きますよ」
エリーゼがやって来た。エルは海を見やる。島影が目で捉えられるほど近づいてきている。
「早くマルシア首相と会えるといいですね」
「うん。早く会いたい」
フェイは素直に肯いた。
エルは少しだけ驚いた。いつもぼやーっとしているフェイが、はっきり「会いたい」とする口にするマルシア首相――
「ね、フェイ。マルシア首相ってどんな人なの?」
「あ、それ、わたしも聞きたいです」『フェイの大事な人だもんねー』
「だいじな、ひと」
フェイは少し俯き、考え込むような仕草を置いてから、顔を上げた。
「〈温室〉にはね、機械人形しかいなかったの。わたしがヒトに興味を持たないように。お世話役の二本足のウサギと猫が一人ずつ。機械仕掛けの鳥とリスと、おしゃべりする造花がたくさん」
エルは想像してみた。動物類はともかく、花がしゃべるのはうるさそうだ、と思った。
「それ以外の生きてるモノは〈温室〉にはいなかった。フェイがヒトとお話できるのは、けんきゅーじょ側が決めた時間と相手だけ。おばちゃんはその一人だった。だから、おばちゃんと連絡が取れるの、ほんの少しだけだったの。わたしがマルシアのおばちゃんを〈特別〉にしちゃったら、みんながキケンだからって」
「ふうん」
エルはよく分からないが相槌を打っておいた。電話で話すだけの相手をどうして特別に想えるのか、さっぱり理解できなかった。
「わたしと関わりすぎたらおばちゃんだってキケンシされるのに、おばちゃんはずっとフェイに電話くれた。ずっとわたしをシンパイしてくれた」
「優しい人なんですね」
「うん。〈温室〉にいた頃は分かんなかったけど、今は、あれがヤサシサだったんだって、分かる」
――やがて船はル・ロンドに停泊した。
後書き
今回からちょこっと休憩回に入ります。本筋に影響が出る話ではありませんが、オリ主の変化を語る章でもあります。
マルシアさんは穏健派ですが決断力がある人みたいに原作では表現されていましたので、まだ首相じゃなかった頃からオリ主を心配して一個人として接してくれたんじゃないかなと作者は勝手に想像しております。
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