少年と女神の物語
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第三十一話
俺は大乱闘の後に説明された今回の旅行のことを、会長に話していた。
なんでも、インドのある神殿に急にトリシューラが現れたらしく、それを回収してきて欲しいそうだ。
「と、言うわけでちょっとインドに行ってきます」
「そうですか」
今、俺は生徒会の仕事で夏になって生えてきた雑草を抜いている。
毎年、生徒会総出でやっていて、今回は俺と会長のペア。その他の役員三人に分かれてやっている。
「まあ、さすがに外国に行ったら私のほうの仕事もしなくて済みますから、こちらとしては万々歳ですけど」
「まあ、俺の監視任務が増えましたからね、会長。なんか、そのあともどっかに旅行に行くみたいなんで、夏休み、楽しんでください」
「そうさせていただきます。噂では草薙護堂もルクレチア・ゾラのところに行ったみたいですし、当分日本は平和ですね」
「まあ、否定は出来ません」
カンピオーネが二人もいては、平和とはいいづらい。
原因の一端である俺が言えた事ではないが。
「ところで、今なら誰も見ていませんよ?」
「あ、本当ですね。じゃあ、やりますか」
先ほどまでは野球部が練習をしていたせいで普通に草を毟ったり刈り取ったりしか出来なかったが、もう昼だからかグラウンドから人が消えた。
見ている人がいないなら遠慮なく使える。
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ」
言霊を唱えると、近くにあった雑草が一気に枯れる。
他の植物には変化はないし・・・よし、成功だな。
「にしても・・・便利ですね、その権能。大口真神から簒奪したのでしたっけ?」
「まあ、便利なのは認めますよ。神様から奪ったにしては平和的な権能ですし」
そう、これが大口真神から簒奪した権能。
出来ることは、植物の成長、枯らすなど、植物そのものを操ることが出来る。
今回は、根まで全てからした形だ。
「平和的といっていますが、本当にそうでしょうか?カンピオーネの権能が、その程度で収まるとは思えませんが」
「でも、実際に平和的ですよ?」
少なくとも、俺はこの権能が世界を脅かすものだとは考えていない。
そりゃ、ゼウスから簒奪した権能は破壊をもたらすし、蚩尤についても材料なしに核爆弾を量産できる。
一見平和的に見えるダグザの権能も、やろうと思えば各国の政治について公開されていないことまで知ることが出来てしまうし、世界から見たらかなり危険なものだ。
でも、この程度の権能なら・・・
「例えば、そうですね・・・この雑草、これを頭の中にイメージしてください」
「はぁ・・・しましたけど」
会長が指差した雑草を、言われたとおり頭の中にイメージしてみる。
そうしたらなぜかその植物の種類や特徴、その他もろもろ学術的なものまで頭に浮かんできて・・・
「では、この植物を枯らせてみて下さい。学校のイメージを持ちながら」
「学校?なんでまた・・・」
文句を言いつつも目を瞑り、学校を上から見たような図を一緒にイメージしながら、植物が枯れるよう権能を操作する。
でも、近くにある植物が枯れるだけじゃあ・・・
「あ、もしもし書記さんですか?急に電話してくるなんて何が・・・え?目の前である一種類の雑草が全部枯れた?そんなはずないでしょう。ちょっと副会長に変わってもらえますか?」
思いっきり枯れまくってた。
しかも、ある一個の種類だけって・・・もしかしなくても、今イメージしてたヤツじゃあ・・・
「あ、もしもし副会長さんですか?スイマセンが、記憶を消しといてください。はい。会計さんの権能です。では、よろしくお願いします」
会長はそう言って電話を切った。
「分かりましたか?その大口真神から簒奪した権能は、この学校にある先ほどの雑草を、全て枯らしました。これはまだ推測の域を出ませんが、恐らく地球全体をイメージすれば、世界から完全に消し去ることも出来たでしょう」
「マジか・・・」
ってことは、俺が地球全体をイメージしながら全ての植物を枯らせたら・・・考えたくも無い。
「ついでに言っておきますと、もう既に抜いたものも枯れたそうですので、収穫した野菜などにも効果は出るかと」
「つまり・・・どういうことです?」
「この地球上の植物の命は、全て貴方の手の中です。生かすも殺すも、成長させるも貴方次第」
うっわー・・・確かにこれも、かなり危険な権能だ。世界を脅かせるわ。
いや、でも・・・成長させることも出来るんだし、そう見れば、きっと・・・
「そしてこれも推測でしかありませんが、もしその植物を成長させようと全力を出せば、あたり一帯の植物の栄養を奪って成長するでしょうね。あ、でも。加減さえ考えれば大丈夫そうです」
「そうですか・・・ありがとうございます」
会長は天啓をかなり低い確率ながら得られる。
可能性は・・・あるんだろうな・・・
「ま、今役立ってますし、気にしなくていいですよね」
「はい、大丈夫です。今なら副会長さんが記憶操作をしてくれていますし、一気に学校中の雑草を枯らしてしまいましょう」
と、そんな感じで学校中の雑草を枯らした。
さて、家に帰って旅行の準備をしないと。
◇◆◇◆◇
「ふぅ・・・ようやくインドに着いたな」
「もう飛行機とか時差ボケにもなれたよね~。マー姉はまだ慣れない?」
「うん。立夏や武双お兄様と違って、まだあんまり飛行機には乗ってないから」
そう言いながら、マリーは自分に治癒の術を少し変えたものをかけた。
リズ姉のおかげで、ウチの家族以外に知らない術は結構あったりする。
「じゃあ、件の神殿に行くか。道は・・・誰か覚えてる?」
「聞いてすらいない!」
「地図なら貰った」
「じゃあ、案内頼んだぞ、マリー」
「分かった、武双お兄様」
そして、マリーの案内で神殿へと向かった。
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