魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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それは笑いじゃ済まされないエマージェンシー
†††Sideシャルロッテ†††
朝日が窓から入ってきて、その光が私の意識を覚醒させていく。
「う・・・ん・・・」
12月末の所為もあって少し冷えるから、この布団の温もりから出たくない。その上低血圧だから、朝は結構弱い部類に入る。だけど今日の朝練には、本局に行っているフェイトの代わりに私が参加することになっているし、起きないといけない。
(はふぅ・・・ねむい・・・)
ベッドから降りて、この階の女子共同洗面所へと向かう。洗面所に着くと、私の目の前に立ってた可愛らしいパジャマ姿のキャロに「・・・あ、キャロ、おはよう」って挨拶。・・・って、ちょっと待って。何で鏡を見ているのにキャロが映るの。
「っ!?」
寝ぼけていた頭が一気に覚醒。私は自分の顔やら髪やら身体に触れて、そして声を出す。
「うそ・・・」
いろいろと小さい上に声も幼い。ていうか完全にキャロだった。シャルロッテの身体じゃなく、それはもう完全にキャロの身体だ。
(何で何で何で何で何で何で何で?)
いやな汗が流れる。混乱の中でもすぐに答えが出る。たぶん私とキャロの精神が入れ替わっている。でも信じたくなくて、そんな事が現代の次元世界で起きるわけがないと否定。
「ゆ、夢だ。そうだよ、夢に決まって・・・痛い」
頬をつねると痛かった。
「・・・キ、キャロぉぉぉぉぉーーーーッ!」
すぐさま私の部屋へと全力ダッシュ。なのは達に鍛えられているおかげで、キャロの体でも疲労も大してない。
「キャロキャロキャロキャロキャロ!!」
何も知らない人が見たら、頭を疑われるような光景。ごめん、キャロ。でも今はそんなことや早朝だからとかは横に置いて、自室の扉を連続ノック。だって部屋に入ろうとしたけど、残念なことに扉がロックされているから。
(くっそぉ、ロックなんかしてどういうつもりだ!)
ロックしたのは自分だろ?というツッコミすら入れられない。んな余裕はない。自分の部屋に入るだけなのに何でこんな面倒な事をしなければならないの!?
「どないしたん、キャロ? シャルちゃんに何か用なんか・・・? そやけど早朝訓練組以外はまだ寝とるから、もう少し静かにな」
「っ! はやて! 実は・・っ!!」
口調ははやてだ。特徴的な話し方だから聞き間違えるわけもない。だけど、私の視界に映るのはどう見ても、
「えっと・・・」
「どないしたんや?」
ヴィータで間違いない。うん、やっぱりヴィータに見える。ちょーっと待って。はやて口調のヴィータ? いやいやいや。まさか、はやてとヴィータまでもが入れ替わってるってこと?
「?? よう判らんけど、出来るだけ静かにな~」
そう言って、さっきまで私が居た共同洗面所へと歩いて行った。というか、はやては寝惚けているんだろうか。普通、声とか視点の低さで気付くと思うんだけど。
(とは言っても、私も鏡見るまで気付かなかったわけだけど・・・)
いや、そんなことより早く私の体と会わないと。連続ノックを再開したところで、「なんやこれぇーーッ!」そんな悲鳴が。どうやら鏡を見たことで、はやてもやっと気付いたみたい。それにしてもすごい声量だったなぁ。よくあんな大きい声が出せるものだ。まあどうでもいいや。今は私の方が最優先。
「うっせぇぞぉ・・・」
「ちょっ・・・!」
いきなり扉が開いた。私の右拳は扉をノック(威力強)中。もちろん現在進行形。そんな時にいきなり扉が開くと、振り下ろされた右拳はどうなるか。それは当然・・・
「げふっ!?」
「ぎゃああああ!! 私ぃぃぃぃーーーー!」
思いっ切り私の腹部に入ることに。
「◇¥☆Ψ♂※§?????」
お腹を押さえながら崩れ落ちる私の体。最悪だ。まさか私が私自身を落とす日が来るなんて。
「ちょっとキャロ!? うわぁ、大丈夫!?」
体は私なのに、こんな・・・。っく、何かいろいろと悲しくなってくる。私の体を揺すりながら何度も名前を呼ぶ。
「どうなっとるんやこれぇぇぇッ!」
ヴィータが叫びながら私の体のところへとやって来て、そのまま体を揺すり始める。ちょい待ち。なんだか私が犯人にされているっぽい。そりゃいろいろとやってきたけど、さすがに今回は私じゃない。自分にまで被害及ぶことは絶対にしない。
「ちょっとはやて! 入れ替わりは私の所為じゃないって!」
「は!? なんでキャロが!?」
「私、シャルロッテ・・・」
一度私の体を指差して、キャロの体に指を差す。するとはやては目を点にして、「・・・キャロ・・・やのうて?」冷静とは少し違う落ち着きを取り戻した。
「うん。キャロの身体だけど、中身はシャルロッテです」
「「・・・」」
「痛ってー・・・」
2人して呆然としていると、私の体が目を覚ましたから、「大丈夫、キャロ? ごめんね」自分で落としておきながら謝る。
「あ? 何おかしなこと言ってんだ? キャロってお前のことだろ。つうかお前何か小さくなってねぇか?」
私の体に入っているのは明らかにキャロじゃない。それにこの口調、そういえばさっきも「うっせぇぞぉ」って、これはどう考えても・・・
「ヴィータ・・・?」
「あ? キャロ、上官にそれは・・・っておい! なんであたしがいるんだ!?」
今さら私の隣に居るヴィータに気付く私の体。ヴィータは自分の身体の襟首を掴んで思いっ切り揺すり始めた。
「ちょ、落ち着こなヴィータ・・・! 私や私、はやてや!」
「はっ!? え、はやて!? な、なんで!?」
慌てて手を離してパニくる私の体。こんな私見たくなかった(泣)。それから、この騒ぎを聞きつけて他の扉が次々と開いていく。
「っ!? わ、わたしがいます!」
「どうしたのぉ、ティアぁ?」
私を指差して驚いているのはティアナ。だけどさっきの言葉だとキャロを指差して「わたしがいます」なんだから、あのティアナの体に入っているのはきっとキャロなんだろう。やばい。ホントにややこしくなってきた。
「え!? 私がもう1人!?」
「わぁ!? リインの身体がシグナムになってるです!」
「一体どうなっている!?」
ザ・カオスな状況。一体私たちに何が起こってるんだろう・・・。
「・・・・・」
私じゃ解決できそうもない。仕方ない、ルシルに相談しよう。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
どういうわけか他の人との精神が入れ替わるという漫画みたいな状況に陥った。入れ替わりが起きているのは私、シャルちゃん、はやてちゃん、ヴィータちゃん、シグナムさん、リイン、ティアナ、キャロ。そして他の女性隊員の合わせて18人。ちなみに私ははやてちゃんの体になっている。
「正直、私にも何でこうなったか解らない。だからルシルを呼ぼうと思うんだけど」
キャロの中に入っているシャルちゃんの提案。私たちもこのままだと仕事が出来ないから、それに賛成することにした。
「ルシル、悪いんだけど、女子エリアまで来てくれる?」
六課の職員寮は、エントランスや各階共同ロビーを中央として、男女別に左右に伸びている構造だ。
「ルシル? ちょっと、寝てないで早く来てってば」
(うわぁ、ごめんルシル君)
サウンドオンリーと出ているモニターに向かって、シャルちゃんが何度もルシル君を起こそうとする。心の中でルシル君に謝りつつ、声が返って来るのを待っていると、『さっきから何すか・・・?』眠いのに無理やり起こされて不機嫌です的な声色がモニターから流れる。
(あれ? ルシル君ってこんな口調だったっけ?)
「なんや嫌な予感がするなぁ」
ヴィータちゃんが横でそう呟いた。それには私も同感。今の口調はルシル君じゃなくて、「・・・もしかして・・・ヴァイス?」そう、ヴァイス君だ。
『・・・おいおいキャロ、一応俺は上官だぜ? ちょっとそれはいただけね――』
「チッ」
あ、キャロちゃんが一方的に通信を切っちゃった。というか、キャロの体で舌打ちなんかしないでシャルちゃん。怖いから。
「・・・最悪。女子エリアだけじゃなくて男子エリアにも影響出てる」
頭を抱えて沈むキャロちゃん。普段のキャロとのギャップで違和感を感じる。さっきのルシル君もそう。だぜ、とか違和感があり過ぎる。
「セインテストの身体にヴァイスってことは、セインテストは誰になってんだ?」
「えっと、それはやっぱりヴァイス陸曹じゃないんですか?」
「いや、それは違うな。我々も誰一人として対が合っていない。ならばセインテストもまたヴァイスではなく、別の男と入れ替わっている可能性が高い」
私の外見と声でシグナムさん口調。もう違和感しかない。まさかこんな自分を見る日が来るなんて・・・。
『突然すまない。そこにシャルは居ないか?』
私たちの前にモニターが展開された。そこに映っているのは・・・
「エリオ君・・・?」
『ティアナ?・・・じゃないな、中身はキャロか。やはりそっちも入れ替わりが起きているのか?』
どこか男らしいエリオだった。それにしても1発でキャロと見分けるなんてさすがとしか言いようがない。
「まあね。で、ルシルでいいのよね」
『そういう君は・・・シャルだな。ああ、身体はエリオだが、中身は間違いなく私だ』
腕を組んで溜息ひとつな大人っぽいエリオ君。だから「今日のエリオはなんかカッコいいね」入れ替わりが起きていないスバルがなんとも気楽なことを言っている。でも確かに少し背伸びしたと言うよりは、どこか大人な雰囲気を感じる。
『うおおおおおおい、なんじゃこれぇぇぇぇぇぇぇッ!?』
モニター越しからルシル君の声で、でもルシル君では有り得ない叫びが・・・。エリオ君の表情もどこか引き攣ってるし。嫌だなぁ、私もああいうのは。
『・・・まぁ、なんだ。少し話が必要か。2階共同ロビーで待っている。あと、そうだな・・・そっちで入れ替わりが起きている人数を調べてくれ。こっちも調査に入る。それとはやて・・・はどれだ?』
「あー、私や、エリオ君」
『ヴィータの身体ではやて、か。女子は何とも面白い構図になっていそうだな』
「そんなことないですよー。こっちは本当に大変なんですー」
「「「「「「・・・・」」」」」」
『・・・プッ』
「みなさん、どうしたですかー?」
「もう喋るな、リイン!!」
あのシグナムさんの口からそれはもう可愛いらしい話し方が飛び出た。それを聞いた私の体さんの顔が真っ赤になってしまった。気持ちは、うん、解る。さすがに私も遠慮しておきたいから。リインが私の体に入って、リイン独特の間延びした口調で喋られたらかなり恥ずかしい。
「ぶはっ。あははははは! 有り得ねぇぇぇぇ! シ、シグナムが、ですー、とかって似合わな――プッ、あははは!!」
「ちょっとヴィータ! 私の身体でそんな、ちょっ、やめてよ!」
お腹を押さえて床に蹲っては転げ回る大爆笑のシャルちゃん。それを必死に止めようとするキャロちゃん。もうメチャクチャだよ・・・。
『その、なんだ。シグナムには同情しよう』
それからみんなと今日の仕事に関しての話し合いが始まって、最終的にはいつも通りに仕事するとなった。原因についてのことも話し合ったけど、結局は不明だった。
「だから私が犯人じゃないってば!!」
キャロちゃんの絶叫が寮に木霊した。
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
エリオの体とはいえ中身が私である以上、管理局員ではない私はデスクワークが出来ない。そのため、この入れ替わりの解決法に思案する時間を与えてもらった。
「それにしてもどうなっているんだ・・・?」
精神が入れ替わる。明らかに魔術に近い現象だ。転換術式、それも精神転換となるとスヴァルトアールヴヘイムの専売特許術式だ。そんなものが扱える人間なんてこの現代にいるわけもない。唯一の例外である私とシャル。“英知の書庫アルヴィト”に一応登録されているが、使用不可の術式のひとつだ。だからシャルが扱える術式じゃない。
「なら原因はなんだ・・・?」
「エリ・・・じゃなくて、ルシルさん!」
ティアナが慌てた様子で駆け寄ってくる。早速何かしらの問題が発生か、と身構える。
「どうかしたのかティアナ?」
思案に耽っていた顔を上げて見ると、「あぅ」彼女の顔が真っ赤になった。
(あー、そうだった。キャロはエリオのことを・・・)
何て微笑ましいことだろう。エリオとキャロにはこれからも仲良く、そして幸せになってほしいものだな。まぁ結構先な話だろうが。
「それで? 何かあったのか?」
「あ、はいっ。ヴァ、ヴァイス陸曹が・・・!」
(ヴァイス? ということは私の身体で何かやったな)
ティアナに案内され、たどり着いた場所で見たもののは・・・
「フェイト、これから俺――じゃなかった、私とデートでもどうだ?」
「え? ええっ!? あぅ・・・その・・・急にそんなこと・・・」
いつの間にか本局から帰って来ていたフェイトを口説くのは私の体だ。顔を近付けられている所為か、フェイトの顔がそれは真っ赤だ。っていうかよ、ヴァイス・・・
「何やっているんだお前はぁぁぁぁーーーーーッッ!!」
自分の体と言うのを度外視し、全力の飛び蹴りを食らわす。なのは達に鍛えられたエリオの一撃は、それはもう強力の一言だった。
「ぐほぉっ!?」
「きゃああああッ! ルシル! な、ななななな何するのエリオ!」
だがそこで倒れないのが私の体もといヴァイス。状況が解らないのかフェイトが悲鳴を上げる。なるほど、フェイトは今この六課で起きていることを知らないわけだ。そこを狙うとはヴァイス、お前ってやつは・・・。
「馬鹿か!? というか最悪だな! 同じ男として情けなさ過ぎて涙が出るぞっ」
自分の体に指差し怒鳴る。何なんだこの状況は・・・。くっそぉ、これはかなり泣きたくなってくる。
「エリオ!? ルシルにそんな・・・!」
俯いたまま立っている私の体に駆け寄って心配するフェイト。すると私の体は何を思ったか、いきなりフェイトに抱きつこうとしやがった。
「させるかぁぁぁぁーーーーッ!!」
当然阻止するに決まっている。私の体で好き勝手させるものか。今度はガラ空きの顔面に掌低一閃。さすがに蹴りは後の事を考えると自粛せざるを得ない。
「ぐはぁっ!」
「ルシル!? エリオ! いい加減に・・・!」
「今は大人しく見ていろフェイト!」
「ガーン!!」
フェイトがよろよろと下がっていき、両膝をつき両手を地面について項垂れ始めた。
「呼び捨て・・・反抗期・・・エリオが・・・反抗期・・・グスッ(泣)」
『・・・キャロ、フェイトに説明を。正直忍びない』
『あ、はい。お任せください』
ずーん、と背景に影を落としながらこの場から退場するフェイトとティアナ。フェイトにはあとで謝り倒そう。
「ってぇな。何しやがる」
「こっちのセリフだ、ヴァイス。さすがに今のは看過できないぞ!」
「ハッ! ルシル、お前の体に入っている今が良い機会だ。邪魔はさせねぇぜ!」
「ほう、邪魔はさせないとは大きく出たな」
「忘れちゃいねえか、ルシル。今の俺はお前の体ってことをよ。お前の魔法を扱えりゃ、どんな魔導師だろうと俺には勝てやしねぇ」
「・・・フッ」
大きく出た理由はそれか。だが残念だったな、ヴァイス。現代の人間が魔術師の力を扱うことは不可能だ。それ以前に私――ルシリオン・セインテストの意思がなければ、魔力すら発することは出来ない。こういう緊急時用の対処法くらいは持っている。
「俺のバラ色人生のために、ここで終わっとけぇぇぇぇーーーッ!」
「お前、妹と仲直りしてから性格が歪んだんじゃないか!?」
ヴァイスの妹ラグナ・グランセニック。彼女とヴァイスは、スカリエッティ事件ののち複雑だった関係が修復したらしい。その所為かヴァイスが吹っ切れたように馬鹿をするようになった。
「私の身体である以上、お前の計画は無駄だっ!」
「キエェェェェェェェェイッ!!」
(聞いちゃいない。というか私の顔と声でそんな変な叫びはやめてくれよ)
どうする。沈めるのは簡単だが、あれは私の体だ。これ以上の自傷行為など働きたくないしな。ならば・・・。
「はぁ、仕方ない。まずはお前のふざけた幻想をぶち殺すっ!!」
この後、バインドと当て身で私の体には気を失ってもらった。自分自身を相手にすることになるとは。本当に最悪だよ、まったく。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
ティアナの姿をしたキャロから全て聞いた。精神の入れ替わり。何故こうなったかの原因は未だに不明。
「じゃあさっきのルシルはヴァイス陸曹で、エリオがルシルだったってこと・・・か」
「はい、そうなんです」
それならさっきの2人のやり取りも理解できる。よかった。エリオが反抗期じゃなくて。いつかは来るんだろうけど、心の準備がほしいよ。
「それでみんなはどうしてるの?」
「えっと、精神が入れ替わってもデスクワークには影響が出ないので、解決するまではデスクワークになっています」
「そっか。それじゃあ私も仕事しないと・・・」
それから六課を見て回ってみると、確かに違和感がある。本来その席に座る隊員が別の隊員になっていたり。
「あ、フェイトさん。おかえりなさい!」
ヴァイス陸曹の外見と声でエリオ口調。正直少し引いたりもした。でも私的に一番すごかったことは・・・
「あ、フェイトさん。おかえりなさいですー!」
「っ!!」
シグナムのリイン口調だ。ティアナから事前に聞いていたけど、これは・・・。だってあのシグナムが、あのシグナムが・・・可愛い口調・・・ニッコニコ、プフッ。
「どうしたですかー?」
円いトレイを胸に抱えてニコニコしながらお茶くみするシグナム。
「・・・な、なんでもないよ」
もうやめてリイン。それ以上はさすがの私でも声に出して笑ってしまいそう。
「別に笑ってもいいんだぞ、テスタロッサ」
いきなり背後から声をかけられた。ティアナの話だと、シグナムはなのはの体に入ってるということだ。案の定、私の背後に立つのは、なのは――の体に入ったシグナムだ。ぶすっとして、かなり不機嫌かつ疲れ切った顔をしている。普段のなのはと比べるまでもなく違和感がある。
「いえ、可笑しなことなんて何もないですよ、なのは副隊長」
「ならば口元が笑みに歪んでいるのは何故だろうな?」
「あー・・・その・・・」
結局その日1日、恥じらうなのはと、シグナムの可愛らしい行動に笑いを抑えるのに精いっぱいだった。
†††Sideフェイト⇒はやて†††
さて、ここ機動六課で精神転換事故が起きて早3日。今日までいろんな体験をさせてもろたわ。どうやら精神転換言うんは私らが寝とる間に起こるみたいや。
朝起きたら、昨日とはまた違う人の身体に入っとるって感じやね。そんな私もヴィータに始まり、スバル、そして今日はシグナムや。私はこれで良かった。まだマシな方や。そやけど、恐れとった事がついに起きてしもうた。
「ああああああ!!」
シグナムの体の目の前で頭を抱えながらイっちゃってるんはヴィータ。もちろん中身は別の人。
「恐れていた事がぁぁぁぁーーーーッ!!」
恐れていた事。それは異性間での精神転換。昨日までは同性間での精神転換やったからそれほど深刻なものやなかった。そやけど、それも今日で終わりや。ルシル君がヴィータの体に入ってしもた。
「おいセインテスト! あたしの体に変なことしたらブッ血KILLからなっ!!」
私の体の口からぶっ血KILLって、物騒なセリフが飛び出た。けどなんやろ、違和感がないんがちょっと引くわぁ。
「ヴィータちゃん! はやてちゃんの体でそんな物騒なこと言わないでほしいです!」
「セインテストの外見と声で、んなこと言うじゃねぇよ! キモいだろうが!」
確かに。いくらルシル君でもリイン口調はキツイなぁ。
「頼むリイン! 口調を普段の私のようにしてくれ!」
「そんな急には無理ですー!」
「あああああああああ!」
ヴィータ君が哀れすぎる。シャルちゃんも同じ思いをした所為か、優しい眼差しでヴィータ君の肩を叩く。
「くそっ、こんな屈辱はいつ以来だ・・・orz」
屈辱ならそう昔でもないような気もするなぁ。
「あ~あ、とうとうルシルも本当の女の子になっちゃたかぁ」
ロビーにぞろぞろ集まってくる入れ替わり組の1人、フェイトちゃんがそう感慨深く頷く。そして悲しいことに恒例となってしまったロビー会議も今日で第3回。
「つまりや。今回の入れ替わり犠牲者は、私、なのはちゃん、フェイトちゃん、シャルちゃん、ルシル君、シグナムにヴィータ、そしてリインやね」
数は減った。そやけど異性間転換が起きた。状況的にはどちらかと言えば悪化や。
「これはいよいよ危なくなってきたね」
リインちゃんが深刻な表情で、右手を顎に当てながら呟いた。
「良かったぁ、ルシルが私の体にならなくて・・・」
なのはちゃんがそれはもう安堵の表情で胸を撫で下ろしとる。確かに私の体にルシル君が来たら、恥ずかしさのあまりに亜光速でDEATHれる。
「さぁてと。フォワードの子たちが入れ替わってない以上は訓練できるけど、教官組は綺麗に全滅」
「うん。あぁでも教えられないことはないよ」
「ああ、リインの言う通りだ。あたしらなら問題ねぇ」
「デスクワークも今まで通り出来るよ」
フェイトちゃんは腕を組んで入れ替わり組を見渡した後、「うん。そうすると最大の問題が残るわけだ。それは・・・」って、これから言うことを強調するかのように間を開けて、「それは、お手洗いとお風呂!!」って告げた。
「「「っ!!!」」」
フェイトちゃんが、私の体とルシル君とヴィータ君を順に指差して言い放った。3人の背景に雷が落ちとるように見えるわ。ショックやろね、やっぱり。
「セインテストォォォォォォッッ!!」
「ぐえっ!?」
私の体がヴィータ君を肩を鷲掴んで振り回す。あれは自分の体いうんを明らかに忘れとるなぁ。
「おま、おまおま、おま、お前、お前、お前! 今日はトイレとか風呂とか行くなぁぁぁぁッッ!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴りまくる私の体。けどな私の体・・・そんな姿を見る私にも精神的にダメージがあるんよ?
「わわわわわ、どどどどどどうすればいいですか!? お、おおおお男のひひひひひ人のはははは裸かかかか!!」
ルシル君も真っ赤。両手で顔を隠してモジモジしとる。ごめんなぁルシル君、正直気持ち悪い。
「やめてくれぇぇぇぇぇぇッ!!」
それを見たヴィータ君がマジ泣きしてもうた。今までの中で最高クラスの屈辱であることはきっと変わりないんやろね。このままやと治まり効かんし、どうすればええか聞こうとみんなを見回すてると、フェイトちゃんが「ニヤニヤ」面と白い事を思いついた時のイヤな笑顔を見せとった。
(アカン、あの笑顔は危険や。何か酷いことが起きる!)
イヤな笑みを浮かべたまま、ゆっくりとヴィータ君のところまで歩いていって思いっ切り抱きしめた。
「「ぎゃあああああ!」」
なのはちゃんとヴィータ君が真っ赤になりながら絶叫。なのはちゃんが残像を残すくらいの速さで、フェイトちゃんとヴィータ君を引き剥がしにかかる。
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!!」
羞恥で真っ赤になりながら号泣するなのはちゃん。確かにこれは恥ずかしいなぁ。いくらルシル君のことが好きやとしても、自分の意思でない以上は・・・。
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・ひどいよ、シャル」
「まったくだ。今のはやり過ぎだぞ!」
「って、うおおおおおい! 胡坐かくんじゃねぇよ、セインテスト! スカートの中が見えるだろうが!」
「そんなの今さらだと思うぞ、ヴィータ。昔、騎士甲冑での戦闘の時は結構見え――」
「~~~っ! この・・・どエロがっ!!」
「げふっ!」
「しまったぁぁぁっ! またやっちまった!」
†††Sideはやて⇒ルシリオン†††
「・・・あー、ここは・・・」
はやての一撃で少し気を失ってしまっていたようだ。
(まったく、酷い目に遭った)
異性間で精神転換が起きるだけで、これほどの精神的ダメージとは。
『すまなかった、フェイト。許してくれ』
周囲を見渡し、気を失っていた時間が数秒であることが判った。とりあえず、未だに羞恥で顔を赤くするなのはに謝罪すると、『うん・・・』目を逸らされた。無理もないか。これは少し距離を置くべきだな。
『シャル。君からもフェイトに謝っておくこと、いいな?』
『・・・はぁ、了解』
さて。残るのはさっきから解決していない問題。トイレと風呂の行きたくなった場合だが・・・。
「風呂のことなら何とか出来る」
たとえ服を着ていたとしても可能な身体浄化。複製術式の中に確かあったはずだ。だからそう告げると、「ホントか、セインテスト!」とヴィータが駆け寄って来た。
「本当だからもう殴らないでくれ」
しばらくの間、はやてとヴィータに苦手意識が生まれかもしれない。それはともかく、まぁ、物は試しだと『我が手に携えしは確かなる幻想』そう詠唱をする。
「「「「「「「・・・・?」」」」」」」
「しまったぁぁぁぁぁ!! ヴィータの体で使えるわけがなかったぁぁぁぁ!!」
何も起きず、俺は頭を抱えた。ヴィータの体という、私の体との繋がりがない以上、“アルヴィト”にアクセス出来ない。シャルも転換が起きてフェイトの体に入っているし、これはかなりピンチかもしれない。
「どうすんだよ! セインテストにあたしの裸見られんの嫌だぞ!」
「リ、リインも、その・・・あの・・・ルシルさんの・・・あぅ」
はやてと私の体が紅潮する。というか私の紅潮って、あまり良いものじゃないな。正直凹む。他のメンバーはほぼ諦観状態。まぁそっちは同性間の転換犠牲者だから貞操の危機は無いだろうが、こっちは現在進行形で危機だ。
「あのさ、ヴィータ。ルシルに許可出して使わせればいいんじゃないの?」
「・・・もうそれしかない、か」
フェイトからの提案。確かにそれしか方法はないだろう。だが正直気が乗らない。それはつまり、リインを魔術師の秘奥へと案内することになる、ということだからだ。
「???」
私の体がヴィータの視線に気付き首を傾げた。それだけで心に軋みが。女装も大概嫌だったが、口調ひとつで女装以上に傷つくのが判った。
「仕方ない。リイン、今から私の言う通りにしてくれ」
「あ、はいです」
私の真剣な表情からかメンバー全員が息を飲むのが判る。
「目を閉じ、そうだな・・・リンカーコアをイメージ」
「はいです」
「・・・すまん、これからは首肯で頼む。私の心が修復不可能にまで折られそうだ」
そうお願いするとリインは小さく首肯。それでも結構な精神的ダメージが。
「次に、そのリンカーコアに3つの円環をイメージ。次にその円環をゆっくり回し、次第に回転速度を上げていってくれ」
すると私の体の魔力炉が稼働し、魔力が生成され始める。これで第一段階。これで私の魔術や魔法の使用出来る一歩手前となる。だが今回は固有魔術ではなく複製術式の使用だ。ここからは魔術師たる私の秘奥、創世結界のひとつ“アルヴィト”の使用へと移る。
「大きな鉄扉をイメージ。リインの好きなイメージで良い。解錠してくれ」
「・・・・っ!?」
私の体のその表情から繋がったとみていいな。
「リイン、おそらく君の視界にはさらに4つの扉があるはずだ。その内のひとつに木製の扉がある。違うか?」
「ルシルさんの言う通り、木で出来た扉があるです」
頷くということを忘れてしまったのか、私の体が声に出して肯定した。もうどうでもいいか。そこはもう諦めよう。
「そこに入ってくれ」
「・・・わわっ、すごいですー!!」
リインの精神が“アルヴィト”に入った。ならばあとは、「よし。リイン、続唱してくれ。我が手に携えしは確かなる幻想」そう指示する。
「わ、我が手に携えしは確かなる幻想・・・っ!?」
「「「「「「っ!?」」」」」」
どういうわけか現実と“アルヴィト”が繋がってしまったようで、私を含めたメンバー全員の頭上からものすごい数の書物が落ちてきた。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「う・・・う~ん・・・痛ったぁ・・・」
いきなり影が差したと思ったら、頭上からとんでもない数の本が落ちてきた。そして気が付いたら本の山に生き埋め状態。もしかしてヴィータとルシルがミスった?そんなことを考えていると・・・
♫~♩~♬~♫~♬~♩~
(何この音・・・?)
どこからかオルゴールの音色が流れて来ていた。本の山から抜け出して、音の出所を探るために辺りを見回す。
「・・・うわ」
するとみんなが本に埋もれていることが判った。そしてもう1つ判った。判ってしまった。
「この音色が・・・精神転換の元凶・・・!」
みんなの体が微かに発光している。隊舎へと向かおうとしていたと思う他の隊員たちも倒れ伏して、発光している。
「寝ている間に起こる精神転換・・・。このオルゴールの音色によって眠らされて、その上で精神転換が行われる、ということか」
現状起きているのは私ただ1人。なら、私がこの状況を打破するしかない。
「よしっ、やりますかっ!」
今気付いたけど、体はいつの間にかルシルのものになっている。これなら契約してる私ならルシルの魔術や複製関連が扱えるはず。
「・・・よし、使える」
魔力と魔術が使用できるか試して、使用できることを確認した。というかルシルの魔術ってどれも複雑すぎだった。
(よくあんなデタラメな術式を扱えるなぁ)
そのままオルゴールの音色のする方へと全力疾走。
「ここって、なのは達の部屋・・・だよね」
辿り着いたのは、なのはとフェイトとヴィヴィオの部屋だった。音色は間違いなく室内から。
「お邪魔しま~すっと。・・・ヴィヴィオ・・・?」
ヴィヴィオがいない。アイナさんやザフィーラとどこか行ってるのかな。そういえばいつの間にやら時間は9時半を過ぎてる。本来なら私たちも隊舎で仕事をしている時間だ。
(今日も大遅刻ってわけねぇ)
鈍くなり始めた音色。部屋の中を探して、そして見つけた。
「・・・これが元凶のオルゴールか」
音色がすでに止んでいる、見た目は普通のオルゴール。けどこのオルゴールからは妙な力を感じる。
「この感じは・・・・うん、ジュエルシードとかレリックみたいな・・・。そう、ロストロギア系の・・・」
ロストロギア。古のテクノロジーの総称。もしこのオルゴールがロストロギアなら、こんなふざけた現象も納得・・・出来るような出来ないような。
「まぁ、いいや。とっとと封印させてもらおう」
魔力を右手に集中させて翳す。そして・・・
「っ!?」
封印と同時に意識が飛んだ。次に目を覚ました時、また本の山に生き埋め状態。でも元の体に戻っているのは間違いなかった。それにみんなも元に戻ったし、めでたしめでたし。とはいかない。あのオルゴールは、なのはとヴィヴィオが買い物先で見つけた骨董品店で買った物ということだ。
そして後日、その骨董店に調査員が行ったけど、そんな店は無かったということ。
「例の骨董品店があったっていうその区画って、出るんだって」
「何が?」
「決まってるじゃない。ゆうれ~い」
「・・・って、こんなオチでいいの!?」
――さぁ?――
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