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八条学園怪異譚

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第五十六話 鼠の穴その五

「それでなのね」
「夜は飲むのね」
「甘いものも食べるし」
「とにかく飲んで楽しむのね」
「そうだよ、それでお豆もね」
 そうしたものもだというのだ。
「欠かせないね」
「げっ歯類だからよね」
「そうしたかじるのが好きなのよね」
「そうだよ、かじらないとね」
 どうなのか、鉄鼠は二人にげっ歯類特有の先が出た二枚の前歯を見せてきた。彼にもそれが備わっているのだ。
「これが収まらないから」
「ああ、それね」
「前歯ね」
「僕達は常に何かをかじらないとね」
 前歯が出過ぎてしまうのだ、だからげっ歯類は常に何かをかじるのだ。
「駄目だからね」
「そうよね、まあお店にとっては厄介なお話だけれど」
「というか出て来ただけで」
 二人は店の娘としても話す。
「正直鼠さん達ってお店にとっては天敵だからね」
「ゴキブリと並んで」
「それはそうだけれどね」
 鉄鼠もこのことについては反論出来ない、鼠といえば不衛生の象徴であり飲食店にとって不衛生は決して容れられないものだからだ。
「それでも僕達は違うからね」
「鉄鼠さん達はよね」
「そうなのね」
「そうだよ、汚い場所にも出入りしないし」
 それにだった。
「毎日水浴びもしてるしね」
「それでなのね」
「清潔なのね」
「清潔も清潔だよ」
 太鼓判を押していい程だというのだ。
「というかげっ歯類も本来は綺麗好きなんだよ」
「ふうん、そうだったの」
「鼠さん達もなのね」
「そうだよ、他の動物と一緒だよ」
 そうしたところはというのだ。
「わしだってそうだしね」
「ううん、意外ね」
「そうだったのね」
 飲食店の娘である二人にとっては意外だ、それで驚いて言うのだった。
「常に何かをかじらないといけないのね」
「それも硬いものを」
「このことは仕方ないんだ」
 げっ歯類ならというのだ。
「まあそういうことでね」
「それでおからは兎さんの御飯ね」
「そうよね」
「そうそう、兎君達はね」
 おからを食べるというのだ、今では豆腐屋でもおからを置いていることは少なくなってきているという。
「あれを食べるんだ」
「そういえばおからってね」
「私達はね」 
 ここで愛実と聖花も気付いたことがあった、その気付いたことはというと。
「滅多に食べないわよね」
「そうよね」
「お豆腐はよく食べるけれど」
「納豆とかもね」
「大豆系も食べるけれど」
「おからは」
 それはというのだ。
「滅多に食べないわよね」
「これといってね」
「そこそこ美味しいんだけれどね、おからって」
 鉄鼠もおからについてこう言う。
「最近君達の御飯も色々あるから」
「おからだけじゃなくてね」
「ペットショップとかでも色々売ってるし」
 この辺りドッグフードやキャットフードでも一緒だ。
「お豆腐屋さんでもね」
「買わないわよね」
「あれ滅茶苦茶安いけれどね」
 ただかただ同然で豆腐屋の端に置かれている、豆腐の絞りかすなので値段的には価値があまりないものだからだ。
「西郷さんなんかそればかり食べてたし」
「おからばかりだったの、西郷さん」
「そうだったの」
「そうだよ、子供の頃はね」
 薩摩にいた頃だ、西郷の家はかなり貧しく豆腐の存在を知らなかったのだ。豆腐屋をおから屋と思っていたのだ。 
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