久遠の神話
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第八十六話 運という実力その十三
「戦わないとならない時があるが」
「俺がそうだったな」
中田は家族のことを思いながら言う、三人共笑顔だ。しかしその笑顔は今は。
「今も夢に見るんだよ、家族のことをな」
「君のご両親か」
「妹もな、三人共事故でずっと寝てるんだよ」
昏睡状態になっている、中田は権藤にそのことを話した。
「その家族に起きて欲しくてな」
「戦っているのか」
「これあんたには話したことがあったかな」
「いや、初耳だ」
権藤は自分の席から話した。
「そういう事情だったか」
「あんたにははじめて話したか」
「人はそれぞれ事情があるがな」
「俺の場合は家族なんだよ」
彼等にもう一度笑顔になって欲しいからだというのだ、中田はこれまでの明るい顔から真剣なモノにさせて話す。
「家族の為に戦ってるんだよ」
「いいことだな」
「いいかね、それで人を傷つけて倒すんだぜ」
「自分の欲の為に戦っていない」
権藤が言うのはこのことだった。
「ご家族の為ならな」
「いいことか」
「確かに人を傷つけるがな」
そして倒す、このことは紛れもない事実だ。
しかしだ、それでもだというのだ。
「君は愛するご家族の為に戦っている、私なぞとは違うな」
「そう言ってくれると有り難いがね」
「必ずご家族を目覚めさせることだ」
権藤は中田に対して言った。
「いいな」
「ああ、そのつもりだよ」
「それが戦わずに行われるのなら」
「最高だな」
「全くだよ、けれど今実はな」
ここでだ、中田は権藤に彼が考えていることを話した。その話すこととは。
「一人戦いたい相手がいるんだよ」
「剣士か」
「ああ、そうだよ」
このことを話すのだった。
「実はな」
「そうなのか」
「剣士から降りるまでにな」
それまでにというのだ。
「ちょっと考えてるんだよ」
「そうか、それは誰だ。いや」
ここでだ、権藤は自分の言葉を打ち消してだ、こう言ったのだった。
「もう私は剣士ではない、聞いても意味がない」
「だからなんだ」
「今の言葉は取り消す」
自分で中田に告げる。
「忘れてくれ」
「ああ、わかったよ」
中田の方もそれをよしとした。
「それじゃあな」
「戦いたい相手か」
「戦ってそしてな」
そのうえでだというのだ。
「終わりたいな」
「君が負けるかも知れないが」
「それでもなんだよ」
戦いたいというのだ。
「戦いたいんだ」
「成程な」
「俺の我儘だけれどな」
だがそれでもだというのだ。
「戦いたいんだよ」
「そうなのか」
「まあ少なくとも俺もな」
戦いから降りられるというのだ。
「有り難いことだよ」
「こうして戦いが終わっていくか」
「そうなって欲しいな、けれどな」
ここでだ、中田はふと彼女のことを思った、それでこう言うのだった。
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