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フェアリーテイルの終わり方

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八幕 Sister Paranoia
  11幕

 
前書き
 妖精 と 精霊の主 

 
「――どうして?」

 押し倒されたフェイの顔のすぐ横。ミラが石畳に剣を刺して、フェイをまっすぐ見下ろしている。

 ミラはフェイを斬らなかった。フェイが雷を消すと同時に、ミラもまた剣の軌道を逸らしたのだ。

「最後の一撃。戦いを放棄しただろう。気づかなければ私は君を殺していた。何故だ?」
「殺して、ほしいの」

 声に出すと、涙まで一緒に零れた。

「わたし、ミラを、殺した。生きてる資格なんか、ない」

 ミラには何の罪もなかった。フェイが勝手にミラに嫉妬し、ミラを嫌っただけ。
 フェイが吐いた言葉は呪詛になり、昏い奈落へミラを突き落とした。

「殺して。ミラさまの精霊の力で、フェイをズタズタにして。ミラを傷つけた分だけ苦しめて、殺して」

 涙が次々に落ちてくる。世界が常よりさらに濡れてもう何も見えない。

「甘えるな」
「……ぇ……?」
「ミラがあそこで命を擲ったのは他ならぬミラの意思だ。ミラを殺したのは誰でもない。そもそもミラは誰にも殺されてない。ミラは成すべきことを成した。消滅はその結果に過ぎない」
「でも…っ、でもフェイ、ペリューンに行く前に、ミラが消えればいいって、死ねばいいって思ったの! だから、心のどこかで本気になりきれなくて。あんなチャチな武器で動けなくなって。本当ならきっと立ち上がれたはずなのに。ミラもお姉ちゃんも助けられたのに! わたし、わたしが……!」
「それ以上の言葉は、ミラの誇りを穢す」

 ひくっ、とフェイは息を呑んだ。
 今の告解は、死んだミラをさらに損ねる行為だと、精霊の女主人は厳然と告げた。
 そんなことを言われては、フェイは口を閉ざして泣くしかないではないか。

 フェイを押し倒していたミラが上からどいた。それでもフェイは起き上がる気になれなかった。

「…じゃあ…どうすればよかったの…?」

 胸も頭もカラッポだ。フェイの中にはその答えはもちろん、イタイという以外の全ての感覚がなかった。

「どうすればいいか。その答えは他でもない君の中にしかない」

 ミラがフェイの両手を掴み、思いきり引っ張って立ち上がらせた。

 見回す。エリーゼ、ローエン、ガイアス、アルヴィン、レイア、ミュゼ、ジュード。彼らの誰も答えを持っていないとミラは言った。

「――わたし、ずっとイヤだった。お姉ちゃんとルドガーがミラに優しくして、笑いかけるのが。わたしのお姉ちゃんなのに、わたしのパパになってくれたルドガーなのに。ぜんぶミラに()られちゃうと思ったから。わたし、わたしだけに優しくして、笑ってくれるお姉ちゃんがよかった。ルドガーがよかった。でも、フェイがそんな欲張りだから、ミラは死んじゃった。ミラさまはフェイなんかのためじゃないって言ったけど、やっぱり、どこかがそういうことなんだと思う」

 フェイはまっすぐマクスウェルのミラを見返した。

「だからもうイラナイ。わたしには何もなくていい。だから、――ミラさま、お願いします。お姉ちゃんとパパ……ルドガーを守って。この先、どんなことがあっても、お姉ちゃんとルドガーが、ミラみたいに、死んだりしないように。それが叶うなら、わたしのマナを全部あげてもいいから。お願いします、ミラさま」

 フェイは深々と頭を下げた。

「ああ。彼女の剣に誓って。君の祈りは私が預かる」 
 

 
後書き
 ルドガーとエルのいない所で覚悟完了してしまったオリ主でした。
 前作が正史ミラを一切出さないスタンスでしたので、正史ミラの勝手が分からず大変でした。どうすれば威厳が出せるかとかね……本作の正史ミラはシリアス一本で行きます。 
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