フェアリーテイルの終わり方
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
八幕 Sister Paranoia
5幕
前書き
生きる と 死ぬ の ハザマ
「けどさ……エレンピオスとリーゼ・マクシアの交流には問題が山ほどあるし。いっそ、もう一回お互い引き籠るってのもありなんじゃね?」
フェイからすると、アルヴィンの提案は決して悪くないものに思えた。仲良くできない者同士を無理に近づけるからどちらも傷つく。例えば、フェイと、エレンピオス側の大精霊のように。
しかしその考えを打ち破る声が下から上がった。
「もー! しっかりしてよ! そういうこと言うコドモをしかるのがオトナのシゴトでしょ!」
エルだった。また、だ。また胸がじくじくする。泣きたい気持ちが強くなる。
ガイアスにああ言われてから、どんな言葉もフェイを責めているように聞こえる。
「――エルの言う通りだな」
艀を調達してくる、と言い残してアルヴィンは先に場を離れた。
ジュードが埠頭で待とうと提案したので、皆で埠頭へ向かおうとした時だった。
「一つ言っておく」
最後尾でジュードたちに続こうとしたミラが立ち止まる。下らないことを言ったら斬り捨ててやる、とでも言いたげな表情。
「成すべきことのためなら、己の消滅にさえ立ち向かう。ミラとはそういう女だ」
「私には、成すべきことなんて……」
「ミラ~! フェイ~! 早くー!」
エルがこちらに手を振っていた。フェイはミラを見る。ミラは困った顔をしていた。ミラにそんな顔をされると、フェイもどうしていいか分からなかった。
結局、二人は会話もないまま、エルを追いかけるしかなかった。
フェイたちはペリューン号に乗り込み、適当な積荷の陰に隠れた。危ないから、という理由でフェイとエルはルドガーによって積荷の一段上に登らされて待機である。
船内への入口にはアルクノア兵が見張りに立っていた。
「始まってるな」
「時間がない。強行突破しよう。ジュード、アルヴィン」
「分かった」
「任せとけ」
「ミラも。いいな?」
「ええ――」
ルドガーたちはそれぞれの武器を構え、積荷の陰から飛び出した。
『侵入者だ!』
『止まれ!』
「誰が止まるか!」
ルドガーとジュードが見張りの兵の片方に、同時に蹴りを入れる。そしてアルクノア兵がよろめいたところで、ルドガーが双剣でトドメを刺した。
もう片方のアルクノア兵へと、ミラが勇ましく斬り込んだ。
「こいつは私が!」
だがミラが相手取ったアルクノアは、ミラを蹴り飛ばし、マシンガンを向けた。
尻餅をついたミラが細い悲鳴を上げる――が、ミラが撃たれることはなかった。アルヴィンが、ミラを撃とうとしたアルクノアを狙撃して倒したからだ。
「油断すんなって。死んじまうぜ」
ミラは立ち上がり、俯いた。いつものように右の二の腕を掴む左手は、震えていた。
「そのほうが、よかったんじゃないの」
ミラの言葉に、大きく鼓動が打った。
勝手に肩が、腕が震える。カチカチと歯が小刻みに打つ。フェイは自分の二の腕を強く抱いた。
喉からせり上がる声が、今にもミラの台詞を肯定しそうになって――
「そんなはずないでしょ!!」
ジュードの烈しい叱声に、心臓が停まりかけた。
「ミラさん自身は、そう思ってるんですか!?」
ミラは気まずげに頭を逸らした。イエスともノーとも答えられないのだと分かった。本当に、イタイほどに、彼女の心が伝わった。
(何でこわかったか、分かった。ジュードにああ言われたミラのキモチは、そのまんまわたしのキモチだからだ。死ななきゃいけない、でもこわくてできない。あの日パパのために湖に入ったフェイと、今のミラは、おんなじなんだ)
分かったとたんに、ぽろぽろと涙が流れて止まらなかった。
後書き
オリ主の中でミラに対する認識が180度変わりました。
理由は違えど、一度は「死ななくてはいけない」という過酷を突きつけられたオリ主だからこそ、そういう視点でミラを見直すことができた。入水した経験さえオリ主には必要な過程だったのです。
ページ上へ戻る