久遠の神話
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第八十五話 消える闇その四
「だからこそだ」
「これだけの気を放つ怪物を送り出してきましたか」
「ではだ」
それではとだ、また言う工藤だった。
「その怪物が何か」
「見せてもらいますか」
二人は権藤の向こう側、何処までも続く様に見える果てが消えている線路を見ながら話す。普段は日本が誇る新幹線が行き交う場所も今は寂しげだ。
しかしだ、その静寂は消えた。その怪物が来たのだ。
巨大な、新幹線程の大きさの猪が来る。その猪を見て聡美が言う。
「アーレス神が姿を変えていた猪ですね」
「そうね」
智子もその猪を見て言う。
「あの猪は」
「それを出してきましたか」
「神の力を持つ猪ですか」
「ギリシア十二神の一柱の」
そうした意味では智子達と同じだ、アーレスはゼウスとヘラの子即ちオリンポスの神々の中で嫡流にあるのだ。
ギリシアの神々の中で最も重要な神の一柱の力、それが備わっているからだというのだ。
「あの猪は強いわ」
「相当にですね」
「私達に匹敵するまでの」
その智子達と同じだけの力があるというのだ。
「それがあります」
「では」
「簡単には勝てないわ」
智子は冷静な目で怪物、権藤に突き進むそれを見つつ言った。
「彼を以てしても」
「それでは」
今度は豊香が智子に問うた。
「この戦いは」
「危ういわ」
真剣な顔でだ、智子は豊香にも答えた。
「彼は、けれど」
「それでもですか」
「あの人は」
「勝つわ」
智子は権藤を見据えながら聡美と豊香に答えた。
「安心していいわ」
「そうですか、それでは」
「また一人ですね」
「降りることになるわ」
剣士の戦いから、というのだ。
「そうなるわ」
「随分と楽観しているな」
「そうなれる状況とは思えないけれど」
工藤と高橋は冷静に見ている女神達にこう言った。
「アーレス神の力を備えた猪は」
「尋常な相手じゃないけれど」
「それでもか」
「権藤さんはかてるのかな」
「ええ、勝てるわ」
確実にだというのだ。
「彼はね」
「女神の言葉に嘘はない」
工藤は智子のその言葉を受けて言った。
「だからか」
「私達は確かなことしか言わないわ」
智子は工藤にこのことも断る。
「絶対にね」
「それなら権藤さんは」
「勝つわ」
間違いなく、というのだ。
「それは見ていていいわ」
「そうか、それならな」
「見せてもらおうかな」
高橋も応える、そうして権藤を見る。すると彼は剣を利き腕に持ったまま立っている、その構えを見てみると。
「闘牛士か」
「そうですね」
高橋は工藤のその言葉に答えた。
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